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強奪

 廃ビルにて。


 一体、今何時だろうと頭をよぎる。どのくらい気絶してたのかも検討もつかないのは致し方ないだろう。小春はおばさんとおじさん心配してるかな、と考えたりするが今はそれどころではない。


 小春の前に腕を組み立ち姿さえ優雅に見える城島の姿をした沢本は諭すように話始める。


「ねぇ、私思ったの。世の中何があるか分からないなぁって。ほんの数ヵ月前に。でも……私の今の生活とっても充実してるの」

「……」

 にこやかに話す姿はまるで恋の話をしてるかのようだ。

「前の私はこんな状況想像してないだろうな……」

 彷彿とした表情はこの状況には全くもって不似合いであった。小春の鼓動は収まるどころか早まるばかりで心身ともに疲れている。

「そうそう、手短にしなきゃね。小春ちゃんの両親じゃないか……保護者であるおばさんとおじさんが心配するよね」

「えっ……」

 小春は心底驚いた。以前の城島ならまだしもこの沢本とは目があったことさえ初めてなのだ。城島の取り巻きが言った可能性が大きいが。

「ははは……! ごめんね。前にね、職員室に忍び込んで個人情報ゲットーみたいな。あのクラスの皆の事なら頭にインプットー! 楽しかったー、ハラハラして……!」

 酷く興奮したような話し方は道端だったら完全にアウトだ。法に触れることしてるのではないかと事情を聞かれるだろう。「何か、やってるの?」と。

「っで、本題ねぇ。えっとねここにすこぶる可愛い男の子の若葉君っていうのがいるんだけど、分かる? 分かるはずないよね。そんで、この子の力借りたらね本当にビックリ仰天。あっという間に髪とかが色が変わるの! 不思議でしょう? 怖いよね! 結構気に入ってたり……くく……」

 小春は驚くことはなかった。そんなことは結論付けて既に分かってたことだ。自分もその境遇ならなおさら。

 沢本の右手にはしっかりと小刀が握られていた。

「私をどうしたいの……」

 小春は敬語を使わず迫り来る恐怖に打ち勝とうとしていた。こんなことでもしないと、恐怖に食われそうだ。

「やっぱー、冷静だね。そういうとこも魅力だよー。えっと……」

 沢本は背筋が思わずゾッとするくらい低いトーンで小春に言った。

「あなたの人生、そのものが欲しいの……」

「何を言って……」

 沢本は小春の目線に合わせ、目を細めながら楽しそうに話す。

「私は小春ちゃんになれるの。小春ちゃんって皆から哀れな目で見られてるでしょ? あのイケメン生徒会長だって小春ちゃんのこと気にかけてるじゃん。さながら」



 ーー悲劇のヒロインみたい。





 その言葉は小春に重くのし掛かる。

「そんなことないです!」

 思わず、素が出たが恐らく今年一の声が出た。

 沢本はなお嬉しそうに

「うん、分かった。でも、この城島ちゃんのいわゆる社長令嬢という人生も良かったのだけどやっぱり飽きちゃって……。私、飽き性でさ。小春ちゃんが知ってる過去の私の沢本華も私自身じゃないよ。私はね、本当冴えない子だったの。話すのが嫌になるくらいにね。っま、それはいいんだ。過去は過去。私が小春ちゃんになったらこの体死んじゃうんだ。私自身の魂が命なの」

 沢本は右手に持っていた小刀の刃を月の光でキラキラと光らせながら、小春の心臓へ伸びる。それと同時に口が塞がれる。

「ん! ううっ! んん!」

 必死に声をあげるが響くことない。

「大丈夫、小春ちゃんの人生は私が歩くわ。あともう1つ。私はね、“強奪”っていうスキルを持ってるの。痛みは無いわ。バイバイ……!」





 ーー殺される!

 


   漸さん!





  

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