接触
教室にて。
小春のクラスでは命とは何かという定番化しつつある道徳の授業が行われている。桜庭のイケメンボイスを教室中に響き渡せていた。
「島崎さん、命とは何だと思いますか?」
島崎と呼ばれた短い髪でポーニーテールもどきの髪型の女子生徒。島崎はイケメン先生に名前を呼ばれ嬉しいのか満面の笑みを浮かべる。
「えーっと、命ですか? 心だと思います。心がなきゃ、生きてるかどうか実感ないと思いますし、なければ命が大切だとか分かりませんと思いまーす」
若干どや顔をした島崎に桜庭はにっこりとし、「なるほど、良い考えですね」と褒め称える。すると、島崎は頬を赤く染める。
その瞬間、中二病である山田というごく平凡の容姿の男子生徒が声をあげた。
「おっと、コレはクリティカルかぁ! いや、コレは桜庭の必殺技イケメンフラッシュだぁ! プレイヤーの島崎のHPは赤い! 早く回復魔法を使え。回復魔法が使えない? そうか、島崎は火力プレイヤーだったな。ならば、この僕が手を貸そ……」
「うっさい黙れ!」
「今は、プライドより命だ。島崎、落ち着け。早くしないと攻撃が来るぞ!」
「中二病黙れ。口を閉じろ」
「中二病をバカにするのか? アニメ、ゲームは日本経済を支えてると言っても過言でもない存在だぞ!」
島崎VS中二病田中の口喧嘩が始まったところで、桜庭が黒い笑みを浮かべ「静かにしてね? 今授業中だから」と言うと二人は鬼を見たかのように押し黙った。
((怖ぇぇぇ……))
生徒の心は修学旅行ぶりに一つになった。
(あの人だけは敵にまわしたくないな……)
小春だけではなくクラス全員がそう思ったのだった。
「では、山田さん。貴方はどう考えましたか?」
さっきの怯えた表情は何処へ行ったのか誇らしげに答えた。
「戦士は体あってこそだ。命があっても腕一本無くしたら守れるものが守れないからだ。戦えなくなったら戦士として生きているのも無意味だからだ。戦士はこう言うだろう。もう、いっそのこと殺してくれ。戦士でもない俺は俺じゃない……とな」
島崎のどや顔が比でもないどや顔をし、キランという効果音が聞こえそうなほど白い歯を見せ、クラスは騒然とした。そして、
((コイツは本物の中二病だ))
クラスは本日二回目、心が一つになった。
「ありがとうございます、山田さん。次誰か発表してくれる人いますか?」
一人の男子生徒が名乗りをあげた。
「先生ー、命って単純に心臓でよくないですかぁ?」
「何故、そう思ったのです?」
コトンと桜庭が首を傾げると、何人か女子がノックダウン。男子はその光景にこう呟く。
「俺……女子にならなくて良かった」
「あぁ……同感だぜ。あれは、みっともねぇ……みっとも無さすぎだぜ。ぐすん」
「お、男で良かった」
「何を言ってる。お前はホモだろうが」
「ん? あ、まだそれ続いてる……そのネタまだもつん?」
「馬鹿げたことを。俺はいたって本気だ。ネタ等ではない」
「え……嘘。俺はホモじゃないよ! 女の子が大好きだぁ」
「う、嘘だったのか。くそ……将来のパートナーが見つかったと思ってたのに。また、俺は一人なのか」
「えっと……何から言っていいか分からないけど。うん、なんかごめん。……ドンマイ」
「……情けなんて……要らないもん」
「えっと、キャラが抱懐しちぁってますよ」
男子たちに繰り広げられた会話はさておいて。
「やっぱり、命の象徴と言ったら心臓だから。定番だよ」
その男子生徒の発言が終わると同時に授業の終わりを知らせるチャイムが学校中に鳴り響いた。
「皆さん、命は何がなんでも大切です。これで授業を終わります」
桜庭の言葉で命の授業は幕を閉じたのだった。
帰りの支度をしながら、小春は大きなため息をついた。
「はぁ……」
今回の道徳の授業は小春にとっては辛いものだった。計3人殺している身としては。
憂鬱な気分も次の瞬間忘れたのだった。
「宮倉さん、今日一緒に帰らない?」
「は?」
(何言ってるのかな。分からなかったな……うん。きっと聞き間違いだ。帰ろう)
「宮倉さん、帰りましょう?」
「え……と」
小春の聞き間違いではなく、確実に城島が小春を誘ったのだ。
以前の城島では見たことがなかった優しげの笑みで。
ーー嘘でしょ?




