種
小春の家にて。
「おばさん、おじさん……いつもありがとうございます」
小春がそう言って渡した薄ピンクとブルーの包み。小春のバレンタインはチョコだけではなかった。今日は感謝の日なのだ。おばさんには花の刺繍が綺麗なハンカチを、おじさんにはネクタイを選び最近人気のチョコ抹茶クッキーを包んだ。
「ありがとう、小春ちゃん」
「ありがとな、小春」
優しく微笑んだ二人に少し後ろめたい事があってか素直には喜べなかった。そんな自分に小春は幻滅しながら、二階へと上がる。
いつものドアノブを握り、大きく深呼吸をしながら扉を開けた。
「いつもありがとうございます、漸さん。」
「え、あ……ありがとうな。わざわざ」
漸は小春から渡されたクリーム色の紙袋をぎこちなく受け取った。
「食べてみてください、きっと……いえ、とっても美味しいですから」
漸が袋を開き出てきたのは持ち手が付いた箱。その箱を開けるとシュークリームが2つ入っていた。
「さぁ、どうぞどうぞ。ぜひ、感想をお聞かせください」
「……いただきます」
パクりと漸は食べ「……うまい」と一言。
小春は嬉しそうに笑顔になると
「でしょう? そこのケーキ屋さんシュークリームが評判良いですよ。……ケーキはそうですね、普通ですけど。シュークリームは絶品です‼」
「シュークリームは嬉しかったよ、ありがと。……っで何かあるんだろ?」
そう言って、漸はベッドの端に肘をつきながら不敵笑みを見せた。小春はピクリと肩を震わせ、
「見透かされ過ぎて、怖い」
「どれだけ、小春といると思ってんの?」
「三ヶ月……三ヶ月ですよ! そんな短期間でズバズバと心理当てられるほど単純な私でしたっけ?」
「まぁ、この俺だから?」
「うわっ、俺様キャラですかぁ。それ、二次元は良いんです。三次元がやるとウザいです、イタイです」
「イタイって言わないで、俺のがガラスのハートがくだけ散る。こう見えて俺繊細なんだよ」
「漸さんのハートはガラスじゃなくて、防弾ガラスですよ。初対面の時のクールさが無くなってるの自分で気づいてますか?」
「小春がいじめるぅぅ! ママー!」
「らちが明かないので、話を戻しますね」
「小春、ドライだな」
「今さらです。えっと、なんと言いますか……状況証拠は今日でほぼ揃いました」
漸から小春は視線を背け、気まずそうな顔をした。それを知ってか知らずか「へぇ、それで」と挑発的な返事をした。
小春は近くにあった黄緑色のクッションを抱き寄せ、顔を埋める。
「それでどうしたいか分からないです。同じ境遇同士仲良くしようとは思いません。なんせ、私コミ障なので……。城島さん……沢本さんの状況が何となく分かったのはいいのですがその後がですね、よく分かりません。……自分が何をしたいのか」
「自分を何をしたいのか……ねぇ。小春はさ、毎回毎回うじうじしてるけどなんか意味あるのか?」
漸のその答えにポカンとする小春。
「人間というのはな、最初から答えは決まってるんだよ。それを人に話すのはな誰かに背中を押してほしいからだけで、誰かに共感してほしいだけ。そういう風に俺は人じゃないけど、小春のさっきの質問はほぼ無意味だ」
と言葉を続けた。
そのように話す漸の瞳は小春には少し怖かった。
目を伏せ、小春はクッションを抱き寄せている腕の力が強くなった。
「私は……」
漸の言葉は小春の心に深く刺さる。
(漸さんの言う通りだ。いっつもうじうじして……。自分じゃ、なにも行動なんて出来ない。人は苦手なのに誰かに頼ってばかりだ。弱い……)
すると、頭にいつもの重みが降りてきた。それは、漸お大きな手が小春の頭に乗っていた。
「ごめん、泣かせるつもりなかった。きつく言い過ぎたな」
「えっ……」
小春は自分の頬に降れると確かに濡れていた。
「こ、コレは、その……泣くつもりはなかったんです。こちらこそごめんなさい。……自分が弱いのが悔しくて……」
そう、コレは自分自身が弱くて悔しかったから。漸の言葉で泣いたのかもしれないが、それは気づかせれただけで漸は何も悪くなかった。
「小春、そもそも人間は弱いから群れで生活してるようなもんだろ」
柔らかな笑みを浮かべた漸は、残っていたシュークリームを小春の口に入れた。
「!」
いきなり入れられたシュークリームに苦戦しつつ食べながら、甘さが全身に渡るのを感じた。それと同時に涙も引っ込んだのだった。
苦しむ小春を見ながら、ケラケラ笑う漸。
しかし、顔が良いからか下品に見えない。
「本当、無駄にイケメンですよね」
とポツリと呟いた。
その言葉をきっちり拾った漸がどや顔をしたのは言うまでもない。
「前言撤回。本当、ナルシストですね」
「ナルシストではない。本当にイケメンなのだ」




