赤い日
教室にて。
生徒はいつも以上に賑わっており、バレンタインの影響力が伺える。
小春はいつも通りに小林から挨拶をされ、ぎこちない笑顔で返す。相変わらず、コミュニケーション力の低さは通常運転。それから、話が盛り上がるわけがなく静かに席に着く。
チラリと窓側の一番前の席にいるターゲットーー城島に目を向けると、いつも通り優雅に取り巻きたちと談笑中。
(まだ……渡してないはず)
不穏になり響く心臓上当たりのセーラ服をぎゅっと握りしめた。
(大丈夫)
もしものことを考え、沢本が転校した日から三学期からは漸は学校に来ていないなかった。
少し、心細く感じた。
「あ……いた……!」
小春は人通りが激しい踊り場でポツリと小さな声をあげた。そんな小春を通りすがりの生徒は目を止めることはない。
午前の移動教室の途中、堂々と歩いている沢本の後ろにくっついていたあの男の子がいたのだ。後ろ姿だけだったがあの金髪、見間違うはずはない。このぺんぴな田舎の町で外国人などそういない。中国人などの出稼ぎの女性はたまにちらほら見かけるが、ザ·外国人は珍しい。そもそも、中学校に小学生ぐらいの年の子がいることもおかしいが、生徒は気にしていない……いや、見えてないようすであった。ほぼ間違いないだろう。
一瞬体が固まっていしまったが、再び足首動かした。
(あの男の子がいるってことはまた可能性が深まって……仮説が当たって嬉しいような悲しいような……)
頭を抱えたくなり衝動にかけられたが、次の瞬間それどころじゃなくなったのだった。
「あっ……」
思いっきり思考が男の子にとられたせいで足元が疎かになってた。
落ちそうになっていた。そう、階段からだ。意外にも頭は冷静に状況を把握し、きっちり頭の中は恐怖に支配された。
小春の髪がさらっと前に落ち、階段から落ちるモーションが本格的に始まった。
反射的に目を閉じる。
「っ!」
落ちるとそう確信した瞬間、右手を後ろに取られる。
「宮倉っ!」
「こばや……」
助けようとした小林だったが、殆ど小春は地に足がついてない状態だったからか支えきれなかった。それを悟ってか小林は小春を抱き寄せ、庇うような形で一緒に転げ落ちる。
周りは、悲鳴をあげているものや、その場で成り行きを固まって見ているものがいた。
何度か視界が反転して、背中に激痛が走る。その痛みで小林は我に返った。小林の胸のなかにはきゅっと目をつぶった小春がいた。
「大丈夫か? 宮倉」
「なっ! だっ大丈夫です。」
おそるおそる開けた目に小林が映ってテンパる小春。
(何でこんなことにぃ……階段……。私が悪いですね、はい)
周りも冷静さを取り戻したのか先程とは違う悲鳴が上がった。
「キャー! 私以外の女が小林くんの胸にぃ!」
(やめて……なんか誤解を生むような発言は……)
「どうして……どうして、その女なの?」
(何かこの人勘違いしてます……根本的に違うよ。ただの善意だから。この状況が悪いのか……)
「小林さん、ありがとうございます……えっと、腕をそろそろ」
小林の腕はがっちり小春の体を固定してるのだ。小林はみるみる赤面していき、
「えっあ、悪い」
「いえ、こちらこそごめんなさい」
(迷惑かけてスミマセン……ベタすぎて状況が恥ずかしい展開だったけど)
と言っても、小春は赤面はしておらず、申し訳なさで一杯であった。
何人か女子が卒倒してるのが目にはいる。
(どこの世界ですか……? 知らぬ間に乙女ゲーの世界に転移した?)
そのお約束の展開を目の辺りしながら、小林にもう一度謝った。
そのあと、数人の先生が来て、小春を庇って転げ落ちたことを知り小林の好感度がまたさらに上がったところで二人とも保健室に直行し、小春は殆外傷なし、小林は背中の打撲だった。
罪悪感で一杯であった。
(ごめんなさい……)
長かったような2月14日の学校は放課後を向かえようとしていた。
「えーっと、連絡事項は以上です。」
「起立、礼。ありがとうございました」
学級委員の号令で、放課後になった。
すると、何人かの女子は桜庭の元へ駆け寄り可愛らしく包装したものを渡しているのが見える。
「小林君、はいコレ。生チョコですわ」
「ありがとう、城島」
「ううん、いつもお世話になってますしね。これくらいさせてください」
(おっと……コレはビンゴ)
小春は城島が小林にチョコを渡しているのを見てるのだが、そこには確かに1つ違和感が存在した。それは、この学年全体共通認識である。
“城島は本命には手作りチョコクッキーを渡す”
「あいつ、透のこと諦めたのか?」
「そんなはずはないと思ったのだけど。でも、目の前であってるし……」
「いつの間の心変わりしたのか? 一体何が起きてるんだ」
「う、噂ではイルミネーションを一緒に見に行っていい雰囲気になった聞いたのに……デマだったのかな?」
「あの方がそんな簡単に諦めるとは思わないが……。あれほどの執着ぶりだったのに」
「まっまさか、桜庭にロックオンしたのか!」
「だっだとしたら、生徒とイケメン教師の禁断の恋が幕をあげるのね! はぁぁ……!」
「それだったらもう始まってんだろ? 一方通行だけどな」
教室の中では様々な意見が飛び交っている。
ほぼこれで証拠が揃ったかはさておき、城島は大きく見ても以前とは違う。クラスの反応を見ても明らかだ。
それで小春はどうするかと言えば、何をするつもりもない。いや、分かんない、出来ない、したくないというないの3連発で脳内の思考は絶賛停止中だった。
(城島さんが沢本さんって分かったところで私何したいんだろう……?)
教室の窓から見える町並みをぼんやりと小春は眺めた。




