真っ暗の中に
お待たせしました。
何卒、よろしくお願いいたします。
教室にて。
既に薄暗くなった教室に一人残っていた。
その正体は小春だった。小春は緊張の面持ちである。
教室は沈黙に包まれているが、外はまだ運動部による掛け声や吹奏楽部の賑やかな楽器の音が聞こえていた。
教室の中の沈黙は静かに開けられたドアによって破られる。それと同時にさらに緊張が張りつめる。
ゆっくりと振り向くと、今回の敵がいた。
「待ったかしら?」
「いえ、城島さん何かあったのですか?」
震えそうな声を必死に押さえながら答えた。
少し時間を遡る。
城島を観察するが、別段特に外見は変わった様子もない。いつも通り自信にみち溢れている。しかし、違和感はある。この間、桜庭の手伝いをしなかったというのは引いてだ。小春の記憶にある城島の姿とは違う。どこがどう違うのかと問われたら答えようがない些細な違和感だ。
沢本とはというとあれから来ておらず、クラスは少しざわつきだしたのはつい最近である。
「沢本さん、最近来ないね」
「心配だな。お前が何か変なことしたんじゃないか。女の嫉妬で」
「はぁ? 意味分からない。私がそんなことするわけないでしょ。沢本さんは確かに可愛いけど転校して間もない人に嫉妬しないと思う」
「どうだか」
「えっ、あんた死にたい?」
「……い、や……シニタクナイデス」
沢本が学校に来なくなって一週間と少し過ぎた朝のSHRでのこと。
「皆さん、急ですが沢本さんはお父さんの仕事の都合で急遽転校することになったそうです。お別れの挨拶ができなく申し訳ないとのことですが……」
クラスの反応はというと、
「えー! 嘘、急すぎだよー」
「友達になったばっかりなのにー」
「俺はまだ思いを告げてない‼」
「何を言ってる。お前はホモだろうが。血迷うな」
「そっちの方が血迷ってる気がするのは俺の気のせい? 違うよね? っていうかまだ俺誤解解けてないんかーい」
クラスが沢本の急すぎる転校に混乱してる中、小春はというと頭を抱えていた。
(えー、待て待て。急な転校? 嫌な予感しかしないのだけど。それより、こんなにも短い期間で転校するってどんな仕事か皆知りたくないのと言うより疑わないの……)
小春へのダメージは大きい。
この事で、もし城島にまた何か変わった様子もしくはあの幼児が近くにいれば一つの可能性が浮かび上がる。沢本が城島だと言うことだ。沢本が小春と同じ状況であれば固有スキルで十分にその可能性が大きく広がるのだ。
もっとも、沢本がただの人で偶然が偶然に重なったこともあり得る。小春のネガティブな考えだとも拭いきれないのも事実である。
「はぁ……」
深いため息を吐きながら、ぼんやりと窓からくすんだ空を見上げた。
もう既に2月に入っている。2月と言えば大イベントがあるのだが、それはリア充度の差が目に見えると言っても過言ではないだろう。そして、どこからともなく「リア充爆発しろ!」と風に乗って聞こえてくるのだ。
そのリア充に属してない小春はいつも通り登校する。チョコをあげるのは保護者のおばさんとおじさんのみであったが、今年は1名追加だ。
「漸さんって何か食べれるのですか?」
「食べれる。まぁ、食べなくても平気だからな」
と、小春は確認済みであった。
小春は漸という摩訶不思議な存在とで会っていつの間にか3ヶ月も経過した。その3ヶ月で漸にはかなりお世話になったと小春は思っていた。
バレンタインという日は、愛だの恋だのという日ではなく感謝の日だな……とタレントが言っていたことを何となく共感していた。
小春にとってのバレンタインはもう一つ例年と違うことがある。こちらの方は重要であった。
城島のことだ。
ーー今日は、小春の仮説が合っていることが分かる日でもある。
「はぁ、もうなんなの……」
いつもの小春だった。




