動き出す歯車
館長の長話に解放されて少しの時間がたった頃。
生徒たちも博物館を楽しそうにしているなか、黒髪でショートボブ、小柄な体型に陶器のような白い肌。背中には淡いブルーの落ち着いた印象を受けるリュックを背負っていた。
その少女の周りには友達らしき人物はいなかった。その少女は“ぼっち”のようだった。その少女が目に入った館長は同情半分、話を聞いてほしいが半分でその少女に話しかけた。
「お嬢ちゃんは歴史が好きかい? 」
館長は穏やかな声で話しかけたつもりだったが少女はビックっと肩を震わせたのだった。
「驚かせてしまったかね? 」
少女はゆっくりと館長の方を向いた。
少女は少しタレ目だったが大きめの目をしていて、可愛らしい印象を受ける。
「いえ……」
小さく少女は返事をした。
「何を見ていたのかな? 」
少女が見ていたのは、日本刀だった。その日本刀は歴史が古く一流の鍛冶屋が作ったものだ。
「お目が高いね、お嬢ちゃん。刀とか興味があるなら触れる日本刀があるから体験してみるかい? 」
少女は明らかに困惑した顔をしたが間置きコクりと頷き承諾した。
館長は場所を移動し、入り口の近くに置いてあるショートケースの鍵を開けた。取り出したのは、先程よりも少し刃渡りが長く威圧感を感じた。
「はい、どうぞ」
館長がそう言って両手で丁寧に少女に渡した。本当にずっしりとした重量感があると思ったがそれほど重くもなく、しかし、オモチャの刀と当たり前だが全然違った。 それに、ちょっと驚きつつまじまじと観察した。そんな少女を見ていた館長は
「鞘を抜いてみなさい、本当は駄目だけど今回は特別だよ。その代わり、名前聞かせてくれるかい? 」
「宮倉小春です」
「小春ちゃんか……いい名前だ」
「ほれ、鞘を」
「あっはい」
少女はゆっくりと黒い鞘を抜く。鞘から現れた鈍く光る刃物。そんな刃に一瞬息を飲んだ。
「どうだい、すごいかい? 」
「……はい」
少女は鞘に刃を戻しかしゃんと音を立て
「……お返しします……」
館長はそれを受け取り
「もういいのかい?」
「十分です……ありがとうございました。」
「小春ちゃんがいいなら。小春ちゃんこちらの巻物は……で……かなり古く……」
と館長の話好きが始まる。それを愛想笑いでしか聞けない小春。居心地が悪いっと小春は思ったのだが、小春の気持ちも露知らず館長は流暢なしゃべりを続ける。
しかし、突然終わりを告げる。
激しい爆発音が聞こえた。なのが起こったのか理解する前に爆風と思われる風に横殴りされた。
「っ!」
ーーうっ!
飛ばされ受け止めたのはショートケース。小春に背中に激しい痛みはリュックを背負っていたのでそれほどではないが、背中の衝撃がお腹に来てお腹を支えながらあまりにも不快な痛みにうずくまる。手足にはショートケースの破片が刺さっていた。
目を開けると、爆発の影響で電灯が割れ薄暗い博物館。目の前に広がる血の海。入り口付近にはそれなりの人数がいたはずだが、立ってる人は誰一人としていない。
自分の髪の毛にはベッタリと黒髪が赤く染まっていることに気づき、原因は血であった。頭を打ったかと思ったがそれは違ったようだ。目線を上の方に向けると、先程まで自分と話していた館長が倒れていて、頭からは大量の血が流れ館長の頭周辺は館長の血で水溜まりなっていて、自分の紙を赤く染めていたのは間違いなく館長の血。
館長の頭の切り口からは白い物が見えた。頭蓋骨……そう認識した瞬間、酷い目眩と睡魔、倦怠感に襲われ意識を手放した。
(私の人生はこんなもの……)
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