始まる戦況曲
教室にて。
二学期が終わり冬休み、何事もないように懇願したお蔭が何もなく穏やかに進んだ時間はあっという間に過ぎるのだ。
1月初旬、三学期は幕を開ける。
今日は三学期の始業式だが、生憎の雨……どしゃ降りだ。
教室に小春が入るといつもと違う雰囲気に気づく。やけにハイテンションであった。しかし、小春は気にすることもなくいつもと同じように席に座る。
(平和……)
頬づえをつきながらクラス全体を傍観した。
小春が冬休みは冷や冷やしながら過ごした。襲撃されるのもしれないとも考えたものの、何も起こらない。事件も目立ったのもない。強いて言うなら横領などのお金のトラブルが多かったが。
少し伸びた髪は肩に付くかどうかという長さになり、時間の流れを教えてくれたものだった。
「おはよう、宮倉。明けましておめでとう」
いつもと変わらない鈍感野郎……小林であった。
「……おはようございます。……明けましておめでとうございます」
小春は目を合わせず挨拶をする。失礼と承知しているが小林の後ろにはクラスの雰囲気とは違い不機嫌そうであった。多分だが、何故最初に挨拶されたのが小春なのかが気にくわないのだろう。それを感受性豊かな小春は察したのだ。
(逃げよう……今すぐ)
そう、心に誓う小春だったが、
「おはようございます、小林くん!……それから宮倉さん」
取って付けたような言い方だったが気にしないことにした小春。いつものことなので気にしない、気にしたらきりがないともう分かりきっている。
そして、気づく。
(逃げるタイミング失った……)
自分のトロさを恨んだ。
「転校生なんてこの時期珍しいですわね。大衆劇団か何かしらの人なのかしら? 小林くん」
城島は恋の乙女らしく若干頬を染めつつ小林に問う。
「転校生なら、この間生徒会の集まりの時に先生に紹介されたよ。転校理由は父親の転勤らしいよ」
「そうなのですね」
と、二人の間で話が順調に進んでいるがついていけない者が一人。言わずとも小春である。
(転校生……なんだろう……嫌なフラグしか立たない気がする。……そして私は居てていいんだろうか?)
小春は元からの影の薄さに加え、話に着いていけないのが相まって完全に空気だ。空気になることは別段、嫌ではなく寧ろウェルカムだ。ただ、コミ力が低いせいでどんな表情をしてこの場にいればいいか分からないだけ。
しかし、これが予想以上に苦しい。ストレスである。
今日は、漸は来ていない。小春がどしゃ降りの中来てくれるのは心苦しいからだ。
数十分も経たない間に気づく。
自分が平和ボケしていたことに……。
(これは……詰んだ。もしかしないだろうなぁ)
小春は心は冷静を装っているが脳は逃げろっという危険信号をこれでもかというほどに指令を出している。
いっそのことショートしてくれないかと思ったりもした。その願いは叶わず、幾つもの修羅場、命の危機の晒された小春の脳は鍛えられている訳で、都合良く意識を失うこともなかった。
その代わり思考を停止させた。意図的に。
(私は知らない。何も……見てない……現実逃避する。誰が何言うおうとも)
「はい、皆さん。もう知ってると思いますがこのクラスに新しく仲間が増えます」
予め分かっていたことだが定番通りに少しざわつく教室。ある女子たちにうるさくウザイ男子に認定されている者がこれまた定番通りに「先生、男ですか、女ですかー?」と桜庭に聞く。
「女子生徒ですよ。男子生徒ではありませんよ?」
と意味ありげな視線を男子生徒に向けると、
「そっちの趣味はありませんっ! 先生、俺をそんな目でっ……」
「えっ、私は新しい友達が出来なくて残念ですねっという意味なんですが。誤解してしまったようですね……もしかして……」
男子生徒、もう涙目だ。そこに追い討ちをかけるように
「嘘だろっ、なんかやけに触られるなぁと思ってたんだよな」
「ち、違うよ! 俺を信じてくれぇ!」
桜庭はパンと手を叩き、
「そこまでにしましょうね。じゃぁ、入ってください」
何事もなかったように本題に戻った。
(絶対、腹黒い……)
生徒全員が思ったのだった。
しかし、入ってきた転校生によってその思考は茅の外になった。
「自己紹介をお願いします」
「はい、皆さんおはようございます。父親の転勤でこちらに来ることになりました沢本華です。よろしくお願いいたします」
沢本を一言で言うならおしとやかをそのまんま張り付けた感じだった。容姿はというと顔は中のちょい上と言った黒目黒髪だが腰まで伸びた艶やかな髪は沢本の品格を上げているように見えた。
しかし、クラスが沢本に好印象を抱き始めてる中気づく。できれば、気づかなかった方が良かったかも知れないが。
(あの男の子誰? 絶対おかしい。皆、気づかないのか。沢本さんって言う人の隣にしがみつかんばかりにいる男の子を……マジですかぁ)
小春は思わずマジマジと見そうになるのを耐えた。男の子の容姿は可笑しい。金髪はまだ許そう。問題は目であった。鮮血のように赤い。
小春は生きてて赤い目の持ち主は見たことない。いるはずがない。赤みが指すレベルではない。赤だレッドだ。
それに加え、ロリコンだったら連れ去りたいくらいに可愛い。身長的に小2ぐらいだろう。瞳は赤いが目が大きくたれ目が可愛さを倍増させていた。
これだけで小春と同じ境遇になっていてかつ敵になるとは断定しきれない。しかし、本能が言うのだ。
「詰んだ……」
小春の小さな声は誰の耳にも届かなかった。
沢本は桜庭に促され、転校生らしく窓側の一番席に着席するのだった。小春との距離は一列挟んでるので、たまたま目が合うことはないがまぁまぁ近いことに思わず顔が引きつったことはしょうがないだろう。
ーー逃げたい
学校のチャイムが授業の知らせを告げた。
もうしばらく、更新速度遅くなると思います。
すみません!




