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白き夜

 外港にて。


 小春の住んでいる町の外港はクリスマスの一週間前から年末までイルミネーションのイベントを行う。かなりの好評価をしていいほどの完成度で規模もそこそこ大きい。

 学生の人気スポットであるのは必然的なのだ。

 

 あの城島に頼まれ、不運なことに来なくてはならない事件からあっという間に時間は早く数週間が経ち、今現在、煌めく光に包まれている。

 今この場にいるのは四人。小春、城島、唐木、小林である。小林の友達も来る予定だったが、今日直前にキャンセルが相次いだ。恐らく、城島が手を回したのだろう。小林以外のメンバー小春、唐木は気づいている。

(鈍感ってここまで来たら羨ましい……)

 小春の素直な感想だった。

「綺麗! ねぇ透くん!」

「小林くん、こちらも綺麗」

 はしゃぐ、城島、唐木。

「えっ、うん。そうだな」

 何時もより、ハイテンションの二人に戸惑う小林と居づらそうにしている小春。クリスマス前だというのにそれなり、人がいた。流石だなぁと脳裏の片隅で考える。




 漸はというと近くにベンチに腰を掛け、こちらを楽しそうに見ていた。たぶん、小春が巻き込まれているのが楽しいのだろう。

 三人が仲良く……小林を取り合いしている間に、漸の隣に座る。

「大変、いい趣味ですね」

 嫌み全開で話し出す小春。それをよそ目に

「いえいえ、そんな誉められたことは……」

「してませんよ。ったくまぁ。何時の漸さんのテンションで良かったです。あの三人……あの二人の雰囲気は少し苦しいですし。」

 漸は「ふぅん」と興味無さげな返事をする。

「ぶれないですね……」



 イルミネーションは小春が以前の夜空みたいとは思えなかった。色とりどりなのは綺麗と思うが、この間の夜空のように心は打たれない。

 やはり、これは人工であれは自然で感情など籠っていないから、素直に受けられるのだろうと勝手に納得することにした。

 やはり、あの三人を見ていると遠く感じてしまう。あんな暖かな感情はどこかへ置き忘れてしまった。

「……」

 あの三人には輝かしい未来が待ち受けているのだ。希望溢れる中にいたら苦しくなるのだ。





「どうしてっ! どうして、別れなきゃいけないの?」

 ヒステリックな声が小春の耳に届き、声が聞こえた方にチラリと視線を向ける。クリスマスツリーと一緒に立つ男女の姿。

 女は必死な形相で話しているが、男は頭を掻きながらめんどくさそうに聞いている。

「……修羅場」

 ポツリと小春は呟く。生まれてはじめて男女の修羅場をみたのだった。見ていると心配になるほど女はヒステリックな声をあげる。

 漸は手に顎を触りながら言ったのだった。

「あれは……危ないかもな」

「ですよね……復縁は難しそうですよね」

 男はやり直すつもりは更々なさそうである。

「いや、そうじゃない。あの女刺すかもしれない」

 と、珍しく真剣な声色であったのだった。

 小春が女を注意深く見ると、何故漸がそう思ったのかが理解出来た。女はバックに手を伸ばしている。

「えっ……まさか」

 しかし、次にみたのは灰色の刃をしたカッターナイフ。

「なっ!」

 小春は持ってきていたバック探り、銀行強盗の時に使った灰色のニット帽を乱暴に被る。

「漸さん!」

 すると、小春の手には刀が握られていた。

「行きます!」

 小春は駆け出した。女に向かって真っ直ぐに。そして、

「捕まえたっ! 漸さん、もう大丈夫」

 カッターナイフを持っている右手首を掴み、力は解除した。その瞬間、女は腕を振った。

「あっ」

 女は小さな声を上げた。小春を振りほどこうとしたら、刃が小春の手のひら切り、赤い鮮血が飛び散る。しかし、小春は気にする様子もなく被っていたニット帽を女が混乱している間にカッターナイフに被せ取り上げた。        

 



 三人の間に小さな沈黙は訪れずれる。そこに、

「宮倉! どうしたんだ!」

 小林がこちらに向かっていて、唐木、城島もその後ろから来ている。男女は放心状態である。

 小林は駆け寄るやいなや小春の手のひらの怪我に気づき、手に取る。

「これ……どうしたんだ? 宮倉」

 何時もより声のトーンが低い。

「えっと……大したことではないです……」

(なんか……怖いんですけど。えっ私悪くないよね……)

 小林は大きくため息をして、取り出したハンカチで応急処置を行う。

「ハンカチが汚れて……」

「いいんだよ。女の子が怪我してほっとく奴はいないだろ。」

 後ろ二人がキャーキャー言ってるが気にしないことにした小春は「洗って返します……」小さな声で言った。

 落ち着いた唐木が「っで、どうしたんですか? 見たところ……いえ、明らかに修羅場」と冷静に状況判断をした。



 原因とはーー?


 夜空から、空気を察したように雪が降り始めていた。


「雪……」


 誰がそう呟いた。










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