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雪血

 何時もより騒がしく胸騒ぎがする町中にて。



 鈴音が町中へ外出した。もちろん漸も隣にいる。

 息を吐くと白い。雲行きも怪しく雪が降りそうだった。大人の一歩手前の年の鈴音は家の仕事も頻繁に手伝うようになった。親の仕事はこの仕事で、家業を将来継ぐことになる。当主になるのは自分の夫かもしれないが。結婚は近いうちにしないといけないが、今は考えてない。恐らく、お見合いと称した政略結婚となるのは致し方ないことで、もしそうなれば鈴音は受け入れるつもりだ。

 今は、この力を使い人々を平等にすることを考える。これと言って策というのは考えてない。まだ、力を使いこなし、完全勝利が出来ると断言出来るまで行動には移さないと以前に決めたのだった。


 人々は(せわ)しく足を動かし、帰りを急いでる様子だ。

 町中を歩くにつれ、道の真ん中が開けられていることに気づく。

 その疑問は直ぐに知ることになった。


 道の真ん中に町人とは明らかに違う豪奢な着物を着て、足まで届く髪をしたの方で揺っている女性とその護衛らしき武士がいた。

 なぜこんなところに貴族がいるんだと誰もが疑問を抱く。

 しかし、不穏な空気が立ち込めていた。理由はあまりにも残酷だとしか言えなかった。



 貴族と護衛武士数人の囲まれていた少女。その少女は酷く怯えていて頬が赤く腫れ上がっていた。

 見るところ少女は町人であった。そう、どこのでもいる娘であった。

 人々はというと静かにその光景を見ていた。その表情は同情も見られた。しかし、誰も助けよとはしてないようだ。それは、当然の反応であり決して可笑しいことでも冷たいことではない。

 身分制度というものが有る限り、逆らえば罰が待ち受けている。自分だけではなく、自分の家族までも罰を受けるのは分かっている。

 良心があってもそれが足枷になるのだから、致し方ないと言えるだろう。

 しかし、そんな中動き出す者がいた。


 それは、鈴音以外いないだろう。

「漸、力は貸さないで……何か見つけれる気がするから」




「それくらいにしておいて下さいませんか?」

 貴族たちの後ろから鈴音は呼び掛けた。すると、一斉に視線が鈴音に集まる。貴族はややつり上がった目で威圧的に睨んだ。暫くの沈黙もあと貴族が口を開く。

「一町人がわらわに意見を申すというの?」

 貴族らしい上から目線。それが当たり前だが。鈴音はにこやかに

「申し訳ありません。ご無礼をお許しください。ですが、まだ幼き少女です。それくらいにしておいて下さいませんか?」

 何時もより高い声で余裕を持つように話した。

「この小娘はわらわにぶつかり着物を汚したの。それなりの罰を与えなければならないの。お分かり?」

 口調からして少し苛立っているのが伺えた。

「そうでしたか。では、私からもお詫び申しあげます。どうやら、その少女にはもう罰は十分ではありませんか? 頬が腫れ上がっています。お召し物が汚れたのだったら呉服屋へ行って変えさせていただきます。目立つ汚れが見あたらないようですし、痛まないように洗って後日お返しいたします。それでは、ダメでしょうか?」

 貴族は眉が上がった。それもそのはずで、貴族の言う汚れは本当の汚れではなく町人に触れられ(けが)れたと言ってるのだ。

 そんなことは鈴音は分かっていたりする。

「貴方、お口が過ぎるわ。これ以上、わらわを侮辱したら反逆罪にかけてあげますわ」

 扇子を取りだし口に当てた。

「申し訳ありません。ですが、私は侮辱つもりなどありません。恐れ多いですしね。反逆罪にかけられるのは遠慮したいので少女を連れて今すぐに立ち去ります」

 そう言い、少女に駆け寄り手をとった。少女は今にも泣き出しそうである。

「もう大丈夫よ。よく頑張ったわね」

 少女はポタポタを泣き出した。

「うっ……」

 鈴音は貴族の方に向き直り

「では」

 そう言って、立ち去ろうとしたが

「お待ちなさい」

 先程より声色が低くなっていた。

「何でしょう?」

「貴方たち殺りなさい」

 周りにいた武士たちに言った。武士たちは一瞬狼狽えたが「御意」と承諾した。

「この場から急いで逃げて。そして、少しの間隠れていて」

 鈴音は少女にそれだけ言って、背中を押すと少女はこちらに心配の眼差しを向けたが大丈夫だと伝えた。「この公の場で血を流すなんて」

 という、人々の小さな声が聞こえた。



 ーーバンッ……バンッ



「えっ……」

 後ろからの衝撃で鈴音は前のめりに倒れた。

 視界は反転し、胸の辺りが苦しい。

「無様なお姿ね」

 口角をあげ、勝ち誇った顔をして扇子で口を隠しながらくくっと喉で笑ってもいた。

「何が起きたか分からないという顔をしてるわね。 いいわ、教えてあげる。貴方の冥土の土産はこれよ」 

 隣の武士から受け取ったのは、金属の黒い筒で拳二つ分ぐらいの大きさだった。

「これわね、詳しくは知らないけど銃っていうのよ。ここの筒の穴から飛び出す弾で撃ち殺すのよ。一発の殺傷能力は低いだけど、便利な代物よ」

 もちろん、鈴音は初めて見た物であった。

 痛みが激しく、意識も朦朧としていて貴族が何がまだ言ってるが見あたらないような耳には入らない。ただ、漸が必死に呼び掛ける声が聞こえた。

 血はどんどん絶え間なく流れていく。もう、死ぬんだと悟り始める鈴音。

 そんな中、久々に見る顔が映った。

「佐武郎くん……」

 すっかり青年になった佐武郎の姿があった。

「何やってるんだよ……」

「……ごめんね……たす……けて……あげたかったのにっ……何も……でき……なかった」

 途切れ途切れの声で、佐武郎に話した。

「もう、話すんじゃない……本当に死ぬぞ」

 鈴音の目からは涙が溢れていた。

「そうかも……ね。」


 ーー瞼が重い



 ーー私は何をしたかったの?

 貴族と言い争いで死ぬ?

 



 ーー分かった……これは“偽善”“自己満足”なのね。

 本当に私は

   

「バカね……」

 消え入る声で鈴音は呟く

「おいっ!」

 困惑の顔を浮かべている佐武郎を見ながら鈴音はゆっくりと瞼を落とした。

「……何やってるんだよ……あんたは昔から馬鹿だっ!」

 佐武郎も涙を流した。

 周りもどよめき、鈴音を殺した貴族はいつのまにか消えていた。


 鈴音の傍らには刀がいつの間にか現れたことなど誰も知るよしもない。


 鈴音の願いは住数年後の、明治時代になって『解放令』という形で叶ったのだった。

 しかし、長年の差別はそう簡単には消えない。この先何年、何十年、何百年と続くとはこの時は誰も思わない。



 刀は、民家にいったり、倉へ行ったりして最終的にはあの博物館へ展示され、孝文は後悔の念に押し潰された。

「っ……!」

 孝文がこれほどこの能力を恨むことは後にも先になかった。



 鈴音の遺体は、海が見える静かな場所へと埋められたのだった。


 過去編終了です。

 9話に渡って過去編を送りしました。

 次回から現代に戻ります。

 感想、誤字脱字を受け付けております。

 これからもよろしくお願いいたします!

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