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光を見る

 鈴音の家の前:青白く輝く満月にて。


 刀が出来上がる予定まであと一ヶ月を切った。鈴音は前にも後ろにも進めてなかった。

 ここ数ヵ月何をするべきか、どんな決断をしないといけないか悩み続けた。あの日助けてくれた人のことも分かってない。あれだけ強いのだからもしかすると孝文から刀を作ってもらったのではと思い一度、鍛冶屋を訪れたが答えはあっさり「知らん」という一言で鈴音の考えは恐らく違ったのだった。


 目を閉じると鈴虫がいることを知る。聞くだけで涼しくしてくれる音は心を洗ってくれるような気がした。

 考え事ばかりで、周りが見えてなかったことに気づく。


 ーーなんて馬鹿なんだ……。


 ーー私は神という崇高なものではない……人なんだ。


 鈴音は自分の腕を握り、悔しそうな表情をした。力が込もっているのか僅かに震えていた。


 鈴音は全知全能ではないのだ。鈴音は数ヵ月間まるで悲劇のヒロイン……そんな自己満足だけの考え方をしてた。

 目に見えない何かを見失っていたのだった。


 ーーなにがなんでもやり遂げる……。



 

 鍛冶屋にて。


 鈴音の瞳に映る、異様な雰囲気を醸し出すものは刃の黒光りが美しかった。見とれてしまうほどに。

 刃渡り1㍍程だろうか。柄の部分は深い緑色をしていた。

「腕を出してみろ……少し痛いが我慢しろ」

 鈴音が右腕を孝文に差し出す。孝文は鈴音の袖をまくると、細い小刀を鈴音の肌に向けた。

 思わず体が強張る。鈴音が震えた声で孝文に問いかける。

「なっ……何をする気ですか、孝文さん……」

 孝文はまさに、あっそうだったという顔をしていた。

「力を得るための代償だ。代償と言っても僅かな血だがな。怖いなら目で瞑っとけ」

 素直に孝文の言葉に従いぎゅっと目を瞑った。

 少しすると、右腕にチリっとした痛みが走る。生暖かいものが流れるのが直接見なくても分かる。

 すると孝文が「いつまで瞑ってる。もういいぞ」と呆れた声が聞こえた。

「えっ……」

 ……。

 辺りは沈黙に包まれた。鈴音の瞳に映るのは恩人であった月夜の人だった。少し長い沈黙を破ったのは鈴音であった。

「そっその節は大変お世話になりました! あの時、礼も言わず気を失ってしまい申し訳ありません‼」

 大声で叫ぶよう言ったあと深々と腰をきっちり折り曲げる。そのあと直ぐに孝文の声が頭から降る。

「何を勘違いをしてるか分からんが、間違いなく鈴音とこやつは初対面だ。まぁ、こやつは鈴音自身の正義の現れじゃが……」

 鈴音は孝文の話をポカンと聞いていた。その事に気づいた孝文は言葉を続けた。

「要するに、こやつは鈴音自身の無意識による正義であり、力自身だ」

 ……。

「えっと……刀が見当たりませんが……孝文さんの言葉はこの月夜の人そっくりな人は私の無意識の正義が形なったっということですかね?」

 孝文は頷く。

「全く理解できませんが。えっ、どいうことです?」

 孝文が言うには、目の前にいる男は刀自身で、その間は同じ力を持っているやつしか見えない。男が鈴音に力を与えるときに刀は具現化する。その存在はなんだと聞かれても孝文は分からないらしく、鍛冶屋として見習いのときにちょっとしたミスで出来上がった小刀に血をつけいてしまったら人形(ひとがた)の者が出てきて腰を抜かしたそうな。

 それから、信頼できる自分の弟に相談し、弟でも同じような条件で小刀に血を垂らすと用紙は違えど人形(ひとがた)の者が出てきた。他の者が作った小刀で試したがそのようなものは出現しない。

 そこでやっと、これは孝文が作り出したものしかこのようなことは起こらないと結論が出た。

 この事は、自分の弟以外話さず仕事も人を選ぶしかなく、仕事は万が一のことがない限り血が出ない刃を潰した練習用の刀や刃直し、逆刃刀しか作れなくなった。

 弟は病弱だったため、十五年ほど前この世を去った。弟の話し相手ともなった小刀から出てきた人形(ひとがた)はすっかり姿を現さなくなった。

 弟の髪、瞳は深い緑色に。孝文自体は、琥珀色の染まった髪。

 何故こんなことが起こるのか恐怖さえ感じた。

 孝文の仮説によると、血を刀に垂らす行為は契約な様なもので、契約者が死亡すると具現化で眠ってしまうような形になるだろうと。

 それ以上のことは分からないそうだ。

 だが、力を与えてくれるのは間違いなく、共通することは身体能力はかくだんに上がる。しかし、髪や瞳の色が変わり、刀にそれぞれで変わるのか個人で色が変わるのかは未だ確認したことないので分からないそうだ。


 そんな説明が孝文からなされたあと、

「名前をつけてやれ。何かと不便だろう。」

 月夜の人そっくりな人……正確には瞳の色が海を思わせる透き通るような藍色だということしか違わない恩人を見ながら

「そうですね……」

 鈴音は考える素振りを見せたあと「決めました」と言葉を置き、

「漸です。意味は数年間待ったので漸くということと、あとは時の見た目で今まで続いた“流れ”を“斬る”ですね」

 孝文は、今まで見せたことのないような柔らかな笑みを見せた。

「良い、名前じゃないか」

 思わず、鈴音の涙腺が緩む。数年間の願いの一歩目が漸く踏み出せる歓喜と未来への希望が胸に満ち溢れる。



「……っはい!」



 漸と向き合った鈴音。

「長い間か短い間か分かりませんがこれからよろしくお願いいたします、漸殿!」 

 鈴音は漸に握手を求め手を差し出すと、鈴音より一回り近く大きな手を漸も差し出す。

「あぁ」

 鈴音は契約して初めての短い言葉、漸の月夜の人と同じ声のだが初めて声を聞いた。








 それから、数週間がたった。鈴音と漸は大分打ち解け、髪、瞳色は桃色より濃い明度が高いものだった。

 友達と呼ぶくらいには仲良くなった二人であった。

 


 毎晩の練習の内容は変わり、初めて力を得た時にはこれこそ力がみなぎるという感想をもった。

 練習内容はこの格段に上がった身体能力に慣れること。その理由はあまりにも力がありすぎてコントロール出来なかった。その結果、刀を振ると自分の体の一部を勢いで掠めるという危なっかしい場面があったからだ。

「これは恐ろしい……」

 と自分の力に恐怖感を持った。

「練習が必須だな」

 漸の声が頭のなかで響くと、

「えぇ、そうします。漸」

 いつしか、鈴音は漸殿から漸と呼ぶようになった。






 

  ーーその非日常なものが日常化してきた平穏な日々は長くは続かなかった。






 

 

皆さま長い過去編になりましたが、あと1話で過去編終了です。

次回の次回から、小春の時代に戻ります!

感想や誤字脱字の報告を受け付けております。

気軽にお聞かせください。

たまに振り返り、最初の方は編集しました。まだあったらそちらの方もお願いします。

 これからもよろしくお願いいたします!



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