為す
鈴音の自宅前にて。
月夜が照らす町は静けさに飲み込まれていた。
桜咲くこの時期の夜の風は肌寒い。しかし、頭を冷やし、考えるには丁度よかった。
「……」
今日の昼、正確には昨日の昼の佐武郎の言葉を聞いて考えさせられた。
自分は自己満足のためにしているんじゃないか……その事を。だとしたら、とても失礼じゃないかと。
必死に生きている……そのことを否定している。彼らのプライドを傷つけていた。
どうして、気づかなかったのだろうか。そんなこと想像に余るじゃないか……と自分を責める鈴音。
そんなことしても変わらないことは分かりきっていたが。
善は必ず善を生むとは限らなかった。
青白く光る月はそれでもなお美しく輝いていた。
彼らを救いたい、その言葉に偽りはない。
救う……その言葉にある前の感情が問題なのだ。しかし必ず出てくるのは自己満足。
そんな身勝手な感情で彼らを振り回すことはいけないのだ。
刀が出来上がるまで約五ヶ月ほどだ。
今だったら止めることだってできる。充分間に合う。迷惑も最小限だ。
しかし、せっかくあんな頑固だった孝文が刀を作ると言ってくれた……期待に添えないことが申し訳が立たないが、振り回すだけで終わるのは阻止したいのだ。
そもそも、自分はそれだけの覚悟があったのか。
自分の命はまだしも他人の命まで背負えるそんな覚悟が……。
不甲斐ない自分に腹が立つ。
唇を噛み締める。
春風が髪をなびかせる。
「何してる?」
低く男の声が頭の上から降ってきた。
腰には刀があり、間違いなく武士だ。しかし、頭を結ってなかった。疑問に思ったが、こんな夜更けに人に会うなど思ってもなかったので驚く。しかし、冷静に答える。
「いえ、眠れなかったので、散歩でもしようかと。でも、肌寒く、風邪を引きそうなので家に戻ります。」
「そうだな。そうした方がいい。」
「では、失礼します」
ーー私の為すべきこと
まだ、それがなんなのか分からない。
どの道が正解かはまだ分かりそうになかった。
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