相違
ついに三十話突破!
鈴音の自宅:居間にて。
「ここは……」
「おはよう、ここは私の家よ。……久しぶりだね」
起きてばっかりで頭がぼーっとしてる様子だった。
「具合はどう?」
「えっ……」
「道で倒れてたから……熱もあったんだよ。」
手で額に触れる。
「もう、下がってるみたいだね。朝御飯持ってくるからゆっくりしててね。」
「……」
目を泳がせて、この状況が理解できてないようで戸惑いを隠せない。何故……よいう言葉が頭を巡った。
人から助けてもらうなんて、家族以外初めての経験だった。理不尽な暴力を受けても、ほとんどの者は見て見ぬふり、知らないふり、関係ないふりだったのだ。
鈴音がお粥のようなものをお盆に乗せて持っていた。
「お粥だったら食べれるかな。遠慮せずどうぞ」
お粥は湯気が立ち人参が刻んで入っており、質素なものかったが食欲がそそられる。
「いっいただきす……」
「どうぞ」
若干震える手で箸を持ち、お粥を口に運んだ。口に広がる米の甘みが体に染み渡る。
「どう、美味しい?」
コクりと頷く。
鈴音は、ほっと一安心したように安堵をついた。
「貴方の名前、聞いていい?」
「佐武郎……」
「佐武郎くんね……私は鈴音。数年ぶりだね、佐武郎くん」
「えっ」
さっきも久しぶりっと言ってたことを思い出した。鈴音の顔をじっと見て思い出した。
「あの時のヤツ……」
「そうだよ。嫌なこと思い出させたかもしれないけど……」
「いや。あの時はありがとう。……また世話になったな。すまん」
「ううん、こちらが勝手にしたことだし気にしないで」
「親は何も言わなかったのか……こんな俺を助けること……」
鈴音は困ったような表情を見せた。
「正直に言うと、大賛成とはいかなかったけど一晩だけという条件で。でも、そんなこと言っても母上は理解ある人だから。看病も手伝ってくれたから」
「悪くは言わないよ。俺を泊めることでえっと……鈴音の母親の器の広さは伺えるよ」
「ありがとう」
「ご馳走さま、美味しかったよ。もう出るよ。迷惑をこれ以上かけるわけにはいかないし。この恩はいつか返すよ」
「そんな、大層なことしてないよ。途中まで送らせて」
両手を合わせられたので、承諾するしかなかった。
「ありがとう」
「母上……」
「その子はもう元気なの?」
「はい、母上」
裏口から、出ていこうとしたらタイミングよく母が二人に気づいた。
「そう、良かったわね。ちゃんと送り届けるのよ。そうしないと可愛そうじゃない。分かった鈴音?」
「はい、母上。しっかりと送り届けます。名前は佐武郎くんよ。母上」
「佐武郎くんね」
「……お世話になりました」
鈴音は佐武郎の拳を握り締めていることに気づかなかった。
「行こう、佐武郎くん」
「……」
(可哀想なんかじゃない……)
「じゃぁね、佐武郎くん。近いうちに会おうね」
「あぁ、世話になったな。だが、気にしないで聞きたいことがある」
少し、怒ったような口調に気づいた鈴音は恐る恐る訊ねた。
「何か……嫌なことでもあった」
「お前らは俺たち境遇を可哀想だと思っているのか……同情しているのか?」
可哀想……同情……鈴音が助けたいと思ったのは間違いなくこの感情。可哀想……助けたい……悲しい……同情。この感情が不快にさせたことなど鈴音は分からない。
「どうなんだ?」
「……」
しかし、うんと肯定したらいけないことは分かった。その沈黙は肯定の証だとは気づくことなく、
「そうか。一つ言っておくが、俺たちは可哀想なんかじゃない。生まれもったこの環境があんたらには可哀想だと映るだろうが、少なくとも俺は可哀想だと思ってはいない……それは貶してるもの同然だ。昨晩の恩は忘れない。もう、こんなことはしない方がいい。お前のためにもな」
「……」
鈴音は黙って俯くしかない。
気づかなかったのだから。彼らがそんな風に思っていたなんて知らなかった。知らず知らずに傷つけていた。
ーー罪悪感。
「ごめんなさい……」
誰もいない道に虚しく響いた。
ーー私がしようとしてるのは誰のため?
彼らのためもある。
でも、
ーー自己満足ではないか?
頬に一筋の涙が溢れ落ちた……。
「っ……」




