それが裏側
江戸時代の町中にて。
鈴音は母と一緒に町へ出掛けていた。
相変わらず行き交う人々で賑わい、威勢のいい男性が呼び込みの声が聞こえた。しかし、突然静まり返った。その代わり聞こえたのは野太い男の声。
「そこのガキ、汚い面を見せるんじゃない!」
ぼふっという人が蹴られた鈍い音。
「っ!」
「うん? 何だ、何か言いたそうだな」
また、人が蹴られた鈍い音がした。
「母上……あれは一体」
隣にいた母の袖をぎゅっと掴み、思わず目をその光景から目を離す。
古びた浴衣を着ていて、鈴音と同じくらいの年の男の子が屈強な男、3人に囲まれ理不尽な暴力受けている。
腹を蹴られた男の子はお腹を押さえ苦しそうだ。
「……」
返答がない母を見上げる。
背がまだ低い鈴音が母を見上げても顔の表情が確認出来ない。
「母上?」
「あっごめんね、鈴音」
やっと顔を見せてくれた母に鈴音はもう一度聞いた。
「母上、どうしてあの男の子は苛められてるの? どうして誰も助けないの?」
母は複雑そうな、困った表情をした。
「鈴音……」
不安そうな母の声を聞いて聞いてはいけない気がした。
「母上、ごめんなさい」
「すっ鈴音はなにも悪くないの!」
母は慌てたように、そして僅かに目を伏せる。
「ただーー」
「ただ?」
母は鈴音に目の高さを合わせるためしゃがみこみ、鈴音の頭を優しく撫でる。
「大人の事情なのよ鈴音」
申し訳そうな震える声。
わかってちょうだいーーと言わんばかりに鈴音は撫でられる。
「おとなのじじょうって」
「貴女にはまだ早いわ……」
このままでは一生教えてくれる気がしなかった幼い鈴音。
「母上、教えて。鈴音は知りたい」
「鈴音……」
「ーー分かったわ、鈴音。だからそんな泣きそうな顔をしないで……ね?」
女神のような優しい母の声に自分の目元が熱くなってることに気づいた。
「ごめんなさい、母上」
「家に帰ったら教えてあげるから、帰りましょう」
「はい、母上」
3人男と暴力を受けていた男の子はもういなかった。
静まり返っていた町はすっかりいつもの賑わいが戻っている。
鈴音は胸のざわつきを感じながら差しのべられた母の手に素直に手を添えた。
鈴音の家:居間にて。
母は少し緊張した面持ちで鈴音に話しかける。その理由は、愛をもって育ててる親なら誰しも怖がる。
娘に嫌われるかもしれない恐怖。
「いい、鈴音」
「はい、母上」
母はごくりと息を飲んだ。
「この国には身分制度が在るのよ。公家、神官、僧侶という上流階級、人口の大半を占める百姓、名字や帯刀が持てる武士、私達みたいな町人。……あの男の子みたいなえた身分とひにん身分というもにがあるの。ここまで分かった?」
「分かってる、母上」
「鈴音、ここからは冷静に聞いてほしいの」
「冷静だよ」
「貴方はまだ幼いわ。きれいな心を持ってるし、正義感もきっと多いでしょう……だからこそ、覚悟をもって聞いてほしいのよ」
いつもの朗らかな雰囲気とは違うことに戸惑った。
「……大丈夫、母上。教えて」
「えた身分、ひにん身分は差別されてしまうのよ……なにも悪ないのに。」
悲しそうな声にかけてあげられるスッペクは持ち合わせていない鈴音は
「母上、大丈夫!」
「大丈夫よ」
「母上、どうして差別されるの? 悪くないのにそんなことされるの? おかしいよ」
「そうね、鈴音の言う通り。差別理由は昔からの流れと動物の死に携わる仕事をしてるというものなの。身分は一番低いわ」
「ーーおかしいよ」
鈴音は大きな声をあげる。
「鈴音……」
「おかしいよ、母上! 動物の死に携わる仕事、お仕事何だよ。なのに……」
母は鈴音を抱きしめ
「そうね、お仕事。皆分かってるわ。」
「じゃぁ、どうして」
「昔からの流れには強い圧力がない限り変わらないのよ。人というのはそういう生き物なの。でも、安心して。誰かがきっと変えてくれるわ」
「……誰か。母上」
鈴音は母の瞳をしっかりと捕らえ
「ーー鈴音が変える」
母は、大きく目を見開き涙を流す。
「鈴音! それは止めてちょうだい」
「どうして、母上。悪いことじゃない!」
「貴方がしょうとしてるのはとても素晴らしいわ……でも、そしたら私の鈴音がいなくなる」
「母上、鈴音は居なくなりません」
「貴方は、国を変えるっと言ってるの。それは、幕府を敵に回すの。」
「皆、悪いことは嫌いだから」
「鈴音、貴方の考えと皆の考えは違うときだってあるの。ーー貴方を失いたくないの」
そんな必死な声に鈴音は口を閉ざさずえなかった。
「ごめんね、鈴音。こんな母を許して」
抱きしめる力が強くなった。
「……」
「ーーごめんね」
涙を押し殺す母の姿がその夜に見た。
「母上」
「母上、ごめんなさい。泣かせてしまってごめんなさい」
時に同じく泣いた。
誰が一体悪い、その正体は目に見えない。
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