昔の記憶……想い
時は150年ほど遡り、江戸時代中……
古びた木造の建物の鍛冶屋にて。
キンキンっと金属を打ち鳴らす音が外まで聞こえる。
初老の気難しそうな顔をした男性が頭にタオルを巻き汗を垂らしている。
そんな鍛冶屋に一人の少女が訪れる。
「あの……すみません」
いかにも町娘といった浴衣に身を包んだ低学年少女が緊張した面持ちで鍛冶屋の引き戸を開け言ったが
「……」
聞こえていないようだ。
何しろ、作業部屋といった部屋は金属の音が大きく鳴っている。
少女の小さな声は聞こえない。
「あの……」
少女は、大きく射ぬ息を吸い
「すみません‼」
金属の音が止んだ。
「孝文さんにお願いしたいことが……」
孝文は刀から少女へ視線を動かした。
「子供に売るようなものはここにはない。練習用の物が欲しいなら他をあたれ」
「練習用の物ではなく、本刀をお願いしたいのです」
七歳とは思えないほど、しっかりとした口調だった。
孝文は、大きく息を吐き、立ち上がり少女近寄り目線を合わせる。
「では、小娘。問うが何するつもりだ?」
「鈴音は、皆を幸せにしたいんです!」
鈴音は拳を胸元へ持っていき、力強く言った。
孝文は、一切表情を変えず無表情。
「ほう? 小娘が何ができる」
「鈴音が強くなって弱い人を守るのです‼」
「……」
「孝文さんは、鍛冶屋としての腕もあると……そして刀に意思を宿らせることができるという噂を聞いて伺ったのです!」
鈴音は、期待を含んだ瞳で孝文をみる。
「何のことだ。誰がそんな噂したか知らんが俺はただの町外れの鍛冶屋。」
鈴音はホントなのですか……と聞いたがさっさと出ていけと言われ涙を浮かべた。
肩を落とし、鍛冶屋を出ていった。
「所詮、一時の感情だ」
と孝文は呟き、赤く光る金属を叩き出す。
「ただいま帰りました、母上」
「お帰り、鈴音」
和菓子屋を経営している鈴音の家。
黒髪を軽く結ったまだ若い母で忙しいくお客に茶を運んでいて、父は奥で団子を焼いていた。
鈴音はごく普通の家に生まれた。
「鈴音、どこ行ってたの?」
「近くを散歩してたの」
「そう、あれから塞ぎ混んでたから心配したわ」
「……ごめんなさい。もう大丈夫。」
「これからは出掛けるときは一言、言うのよ」
鈴音は頷き家になかに入る。
家から外を見ると行き来している人々をぼーっと見る。
家に、春風が入り込み鈴音の腰まで届く黒髪を揺らす。
「強くなりたい」
ポツリとこぼした鈴音の声は誰にも届かなかった。
七歳にしては強すぎたあの光景が鈴音の脳裏から離れない。




