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人の心

 中学校 教室前にて。


 ドクドクと不安と緊張で忙しく動く心臓に落ち着けと言い聞かせながらドアに手をかけて開いた。

 漸との契約で自分は変わったと信じて……。

 朝早く来たのでまだ数人しかいない。小春のせいか、それとも人数が少ないからなのか、その両方なのか静まり返っている。

 誰にも声を掛けられることなく10列あって五列めの一番後ろの席を目指す。そして気づいた。ある男子生徒の席に菊の花が備えられていることに。

「あっ」

 と思わず声を出した。席に鞄を置こうとしたとき

「宮倉、おはよう」

「おはようございます……小林さん」

 小春に声をかけたのは生徒会の書記……次期生徒会長候補の小林 (とおる)。すこし茶髪が入った黒髪にサッカー部なのに白い肌。黒渕眼鏡を掛けた知的かつイケメンの小林。

「一週間ぶりだな。脚大丈夫だったか? 面会行こうかと思って行ったけど面会謝絶だったから心配したよ」

 小春の股から膝に向かって巻かれた包帯に目が行く小林。その視線から隠すように一歩下がった小春。

「……大したこと無いそうです。運動は避けるように言われましたが……」

「そっか。あんまり無理すんなよ。5人も居なくなったのに宮倉まで居なくなったら寂しいからな」

「えっ」

 (5人も……)

 先程の菊の花が置いてあることで何となく察しはついたが5人は想定外で驚いたのだった。

 小林はばつの悪そうな顔をして

「聞いてなかったか?」

「えっあっうん」

「そっか。教えた方がいいか?」

 小春はコクりと頷いた。

「気分が悪くなったら言うんだぞ。ここのクラスは一人。一組に一人、三組に三人の生徒が死んだんだ。俺達は集合場所に集合時間通り、博物館の隣の駐車場に集まってたんだが、宮倉をむくめ男子生徒6人がいないことに気づいた瞬間爆発音が聞こえて……運悪く爆弾の近くに居たそうで即死だったそうだ……って大丈夫か?顔色悪いけど」

(館長に捕まってたから集合時間過ぎてるのに気づかなかった)

「……大丈夫です」

「そっか。宮倉は運が良かったな。あんまり気のするなよ」

「……はい」

 (運が良かった……本当に良かった。甲冑が盾になってなかったらその男子生徒と同じ運命を辿ることになってた。)

 席の座り、ひたすら下を向いていた。

 何を考えないように無心になるようそれだけを心がけた。少しでも考えたら罪悪感で押し潰されそうだ。どうして、助かったのが自分だったのかと。

 クラスメートが亡くなったことに気づいたとき“死んだ”それだけの認識しかなかった、同情の感情さえ抱かなかった自分への嫌悪感。自分は冷めてると気づいていた小春だったが改めて……いや自分は冷酷な人間だということに気づいた。

 (だから……私は……人を“殺せた”んだ。)

「あら、おはよう。宮倉さん。もう来ないかと思ったわ」

「城島さん…」

 顔をあげると、黒髪を巻いた女子とその城島の取り巻き四人の女子がいた。

「あんな絶望的な状況で生き残った子供で“唯一の生還者”と言われてどう?」

 小春は立ち上がる。別に何をしようという訳じゃない。ネットや雑誌でそんな風い言われているのも知ってる。

「どうしたの? 何か言いたそうね」

「……何も……ありません」

 どこにもやりようがない怒りが沸々となっているのを気づかない振りをする。思わず下唇を噛む。

「6人中5人も死んだのに生き残った危機回避能力教えてくれる?」

 城島が言いたいことは小春はわかった。“あんたも死ねば良かったのに……”それ以外何もないはずだ。後ろの取り巻きは知ってるのかクスクスと笑っている。

「あんたたち何やってんの? もしかしていじめてるとか?」

「違いますよ? ただ久しぶりに会ったクラスメートと話してるだけよ」

 友達と言わないところが流石だった。

「そう。さっさと席に着きなさい」

「分かったわ、学級委員長」

 そう言って大人しく席についた城島と取り巻きたち。

「あんたも何か言い返したら?」

 細い黒いフレームを掛けたらポニーテールの女子。

「唐木さん……悪いのは……きっと……ううん……全部私だから」

 ぎゅっと拳を握りしめる。

「そんなだから言われるのよ!」

「……本当にその通りだと思う。ありがとうございました」

「別にあんたを助けた訳じゃないのよ、城島のやつが気に入らなかっただけよ」

 決して唐木がツンデレではなく、好意を向けている相手が同じだということは暗黙の了解だ。

「どうしたんだ? 何かあったか?」

「透くん!?」

 途端に顔を赤面した唐木。その声の主は小林であるが心配そうに小春を見ている。先程まで席を外してたようで何があったかはわからないらしい。

「宮倉、顔色やっぱり悪いぞ。保健室に……」

「うん、そうですね。ちょっと席はずします。小林さん先生に言ってもらえますか?」

 小林の言葉を遮り、小春の声は微かに震えていた。

「それはいいけど……」

「よろしくお願いします……」

 そう言って素早く教室を出ていった。

「宮倉……?」

 おかしかった様子に疑問を浮かべながらも、小林は担任が入ってきたので席に座った。


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