不安だから
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病室にて。
ピコン……ピコン……と特有の音が小春の耳に届いた。
ゆっくりと目を開ける。焦点が合ったとき最初に見たのは
「おじさん……おばさん」
小春の正真正銘の“保護者”だ。おばさんは涙声を含んだ声で
「良かったわ……小春ちゃん痛いとこない? 辛いことない?」
「こらこら、そんなに質問したら小春が驚くだろう」
「そうね、ごめんね小春ちゃん」
40代らしい落ち着きを取り戻したおばさんは、暖かい笑顔で小春を見た。
「大丈夫です……心配かけてすみません」
起き上がろうとすると、「怪我してるからいいよ」とおじさんに止められた。
「お医者さん、呼んでくるからちょっと待っててね」
そう言って二人は病室から退出した。
白で統一された病室らしい……他の入院患者が見当たらないので個室だろう。
窓に目を向けると、腕を組んでこちらを見る漸がいた。窓越しに見える青空が似合っていた。
(絵になる……これだからイケメンはずるい)
「おはようございます」
「もう、昼過ぎたけどな」
とあきれた声で言った。
「漸さんは、あの二人には見えないんですね」
知らない男を女子中学生が眠っているのに病室にていれるわけないのだ。
「そうだな。小春と同じ境遇にいるやつ以外は見えないよ。」
「同じ境遇って……まさか、固有スキルとか言ってる時点で……うっ」
(どうなってしまったんだ……この世界は……?)
「今は気にするな」
(気にするのですが……嫌な予感しかしないのは気のせいではない)
「どれくらい寝てましたか?」
「三日くらい」
小春は三日昏睡状態だったのだ。まぁ、しょうがない。あんなことがあたったんだし……と自分で納得させた。
コンコンとノックして入ってきたのは三十代の女医だった。美人の類にはいる顔立ちだ。
「こんにちわ、宮倉さんの担当医の堤下よ。よろしくね」
なかなかフレンドリーに接されたのですこし戸惑いつつ、挨拶を返す。
「えっとね、怪我の状態は左太ももに刺さっていたガラスが骨にも到達していた以外は軽傷よ。」
(骨に……刺さる)
あのとき良く耐えたな……と思いながら堤下に耳を傾ける。
「完治は一ヶ月くらいね。7針塗ったけどその内目立たなくなるわ。」
カルテを見ながら、伝えられる。
「あっそれと事件のついて警察の方がお見えになるみたいなの。今日目覚めたばっかりだし、後日に回してもいいのだけど……どうする?」
(警察……バレてはいないはず)
そう思っていても心臓がバクバクと音を立てる。
「あっ、そんなにかしこまらなくてもいいのよ。事件の生存者に聞く簡単な事情聴取だしね。」
(堤下先生コミ力高い……)
「お言葉に甘えて……また今度に……」
「えぇ、わかったわ。そう伝えとくわね。それと……」
小春の目を見ながら
「フラッシュバックってわかるかな?」
「なっ何となく」
フラッシュバックとは、辛い経験等が不意に思いだしパニック状態に陥ることだ。「宮倉さんは、一階の爆発で奇跡的に展示物の甲冑が盾になったから、絶望的なあの状況で助かったんだけど、一瞬の記憶でも怖いのからね。カウンセリング受けたかったらいつでも言ってね」
(フラッシュバックとは関係ないが、人を殺してしまったことを脳内から抹消したい……)
「今のところは……大丈夫です……」
「そう、今日はゆっくり休んでね」
そう言って病室から出ていった。
「はぁ、時効っていつかな……自首した方がいいのかな……その勇気ないや」
「あの時は、一人も二人も関係ないとか言ってたくせにあの威勢はどこに言ったんだ?」
「うっ」
(たっ確かに言いました! なぜだ! 一人目は正当防衛として……考えたらきりないじゃないか)
「まぁ、そう病むな」
「誰だって病みますよ……」
漸は面白そうに小春を見ていた。
「もう一度寝て、忘れます」
「せいぜい頑張れ」
「完全に他人事じゃないですか……ってあっ私と漸さんは契約ということですが契約内容ってどうなってるんですか」
「簡潔に言ったら、死ぬまで契約が続けられたらそれでいい。血も貰ったし。騒がしい者を斬るという小春の願望も分かったし」
「なんだか、適当です。あとが怖いです。寿命を半分やれっとかないですよね」
「安心しろ、ない。深く考えるだけで損するぞ」
「同感です。寝るので今更でですけど出ていってくれます? 一応女なんで」
「あぁ、ハイハイ。おやすみ」
「……おやすみなさい」
ーーどうなるの?
不安を抱きつつ瞼を閉じた。
その日の夢では、博物館で初めての人を殺した光景を見た。
小春が思ってたより精神的ダメージが大きく、起きた時には冷や汗をかいていた。




