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四季恋(仮題)  作者: 腐敗犬
3/3

散る桜と返り咲く片恋ー春ー

春です。色々な意味で春です。






原本から加筆修正してるとは言え、今より書いた当初の方が文書力とかありそうなのが、また。

 サクラチル。

 別に受験に落ちたわけじゃないが、何処でどう道を間違えたのか、俺は職を失った。

 正確に言えば就職詐欺にあった、と言うべきだろうか。今にして思えば、無知な自分が恥ずかしく思える。


「はぁ…、まぁ出戻り出来る家があるだけマシなんだろうけど」


 肩を落とし溜め息をこぼしながら、満開な桜並木をトボトボと歩き続けた。



ーーー


 実に世間知らずで馬鹿馬鹿しい話ながら、大学一二年の時に遊び呆けた結果、大学三年にして卒業が危うい事態に陥っていた。

 そして、卒業する為の単位取得に躍起になって、就活を全くしていなかった。 だから、怪しいと分かっていても、大学の先輩だった人の紹介で『就活扶助社』とか言うテナントビルの一室を借りた小さな会社に就職させてもらう事になった。


 ちゃんと面接もあったし、自分以外にも面接を受けてる人間がいた、怪しいと疑いつつも自分以外にも就職希望の人間がいた事で油断があったのかもしれない。

 社員登録費の名目で十万ほど払ったのも、初任給で返ってくると言う話だったし、怪しいと思いつつも藁にもすがる思いだった。


 そして、いざ初出社と会社に行ってみるとテナント募集の貼り紙とガランとした室内。

 慌てて先輩の携帯に電話するも『現在使われておりません』とのメッセージ。

 先輩を信じきって教わった番号が嘘だと気付かなかった上に確認もしていなかった。

 あまりの事態にその場にへたりこんで笑うしかなかった。




それから親に電話して事情を話せば、

『地元に帰ってフリーターしながら就活しろ』

 と、強い口調で言われて情けなくも荷物を纏めて地元に帰る事に。


ーーー


「本当、俺のバカ…。紹介してくれた先輩だって、大して親しかったわけじゃなかったし。

 登録費とか、明らかにおかしいって気付くだろ、普通。」


嘆いても情けなくなるだけとは言え嘆かずにはいられず、桜はおろか周囲を見る余裕もなかった。


 知り合いに会おうものなら気まずい事この上ないだろうし、説明しないといけなくなりそうなのも嫌だった。

 だから一刻も早く実家に戻り、引きこもりたかった



「あの、これ落としましたよ。」


 背後から掛けられた声。

 優しげで柔らかな若い女性の声に、ついビクッとして立ち止まり、ぎこちなく恐る恐る振り返り、


「あ、ありがとう、ゴザイマス」

 と、ぎこちなく返す事しか出来なかった。


 それでも女性はニコリと微笑み、俺が落とした物…昔から使っていた定期入れを差し出してきた。


 俺はペコペコと頭を下げながら定期入れを受け取り、踵を返して立ち去った。

 失礼とは分かりつつも、今の俺にはそんな余裕など無かったから。


ーーー


 帰ったその日に両親からたっぷりと御説教をもらい、それが夜まで続いた。


翌日、精神的疲労で家を出るのも億劫だったが、家でゴロゴロしてるのも怒られるだけだと思い、履歴書を買いに外へと。



「桜…か。四年前の俺が今を見たら、何て思うだろうな。」

 桜の花を見上げて哀愁に浸りつつ、自嘲気味に笑ってみせた。


 別に自分の地元が嫌いって訳じゃない。

 ある種、都会に出れば一旗あげられる。そんな甘い考えととある事情から都会の大学へと進学し、ロクな成果を上げられず、こうしてノコノコ帰ってきた事がひどく滑稽に思えたのだ。


「まぁ、さすがにこんな昼間から高校時代の知り合いに会う事なんて……。」


「あ、こんにちわ。」


 自嘲にふけって独り言をブツブツ呟いていると、向こうからやって来る人物に挨拶された。しかもパッと見で俺と年が近い感じの


「あ、こ、こんにちわ」


 ぎこちなく挨拶を返し、落ち着きなく視線をさ迷わせ、我ながら不審者丸出しの態度を見せる自分に何故かどうしょうもない情けさがこみ上げてきた。


ーーー


「あのー」


「は、はい。な、何か?」


 挨拶以外に声を掛けられると思わず、ビクッとなりながら張り付いた笑みで返し、相手の視線に微妙に居心地の悪さを感じていた。


「えっと、覚えてないかな?高校三年の時に同じクラスだった。」


 相手……女性の言葉、セリフにあった『同じクラス』と言う言葉。

 一番会いたくない類いの相手に、ガクガクと震え始め、軽く会釈だけして、その場を立ち去ろうと思った。


「すみません、急いでるので……。」


 無愛想にそれだけ言うと、うつ向いた状態で女性の横をすり抜け、早足でコンビニへと向かった。


ーーー


 レジ袋を片手にコンビニを出ると、空を見上げて思わずハァーと溜め息がこぼれた


「まさか、高校の知り合いにあうなんてな。

 顔はよく見てなかったけど、なんか気まずい」 一人ブツブツと呟きながら、行きとは違った遠回りの道を重い足取りで歩き、家に帰ってもその日一日は陰鬱な気分だった。


ーーー


 かつてのクラスメートと遭遇してから数日。


 なんとかアルバイトも見つかり、その初日を無事終えた帰り道。


 満開だった桜も散り始め、月夜とあいまって幻想めいた風景を眺めて現実逃避にふけっていると


「ぁ」


「ぇ」


 かつてのクラスメートとおぼしき人物との遭遇により、一気に現実へと引き戻された。


 急いでいるフリをして通りすぎる事も出来たが、今度は相手の顔もしっかり見てしまっていた。


「ぁ…えっと。」 一瞬頭が真っ白になり、その場で立ち止まってしまい、何を言うべきかもわからなくなり、


「久し、ぶりだね。」


 ただ、そう言うだけに留まった。


ーーー


 出会ったのは、俺が高校時代に好きだった相手。


 当時は友達としては仲は良かった方で、高校一年の時から知り合い、あわよくば付き合える事を妄想していた頃もあった。


 しかし、高校二年の二月。彼女に恋愛相談を持ち掛けられ、淡い妄想は粉々に打ち砕かれ、何より彼女と当時三年の先輩との間を取り持つ事までやった。


 そして、これが実家から離れたかったとある事情である。何せ俺のピエロっぷりは殆どのクラスメートが知っている事だったから。


ーーー


「うん、久しぶり。」


 彼女がニッコリと笑う姿に、不意にドキリとした。

 高校の時よりずっと綺麗になった事もそうだし、何より彼女のその笑顔が惹かれ理由だったから。


「ぁー、えっと。その、綺麗になったから、一瞬誰だから分からなかったよ。」


 情けないくらいにしどろもどろになりながら、早く立ち去りたい気持ちと昔みたいに話をしたい気持ち、二つの気持ちに激しく揺れ動いていた。


「ふふ、お世辞でもありがとうね。」


「いやいや、本当にそうだって。」


 少し食い気味に返しながら故郷に戻ってから初めて笑顔になった気がした。


 だけど、彼女には既に彼氏がいる事も分かっている事で、ぶり返しそうな思いに再び蓋をする為、あえて


「そう言えば、先輩とはどう?仲を取り持った身としては少し気になってさ。」

 と、張り付いた笑みでそれを尋ねた



「ぁ、うん…」


 一瞬の事だった。

 それまで笑顔だったのが曇り、珍しく歯切れの悪い感じで


「先輩とはもう…」


 とだけ。


 それだけで察するに余るもので、恋心を持つ身としては嬉しいはずなのに彼女の曇った表情がすごく悲しく感じ、ドンヨリとした空気が流れた。


ーーー


「そっか…」


「あはは…ごめんね。折角、取り持ってくれたのに」

 あまりよくない空気を変える事も出来ず

 それでも空気を変えようと色々と頭をひねり


「まぁ、終わった事を気にしても仕方ない、さ。」


 と、終わった事をグダグダ気にする自分を棚にあげて気休めを口にする事しか出来ずにいた。



「それに、昔と同じとはいかないけど。何かあったらまた相談に乗るよ。

 それに俺も相談に乗って欲しい事とかあったりするし。

 だから、また今度会える、かな……って。」


 それが今の俺の精一杯の言葉となった。


ーーー


 ドンヨリとした空気を変える事もかなわず、彼女を家まで送り届けてから俺は自宅へと帰った。



収穫と言うべきか、道中でお互いの携帯番号とメールアドレスを交換し、その時は友人としての関係に戻れた気がした。


 今さら、昔の様な甘い幻想は抱いたりはしない。

 それでも、昔の気持ちを取り戻した気持ちになり、少し吹っ切れた様な気分で、


「これが、焼けボックリに火が付いた、て言うやつかな。」


 そう呟き、その日は静かに眠りについた。

実際に無さそうでありそうな、就活詐欺。




は、さておき。

何らかの理由で諦めた恋が、思わぬ再会で再び燃え上がるってシチュエーション。なかなかになかなかだと思います。




次は夏。これより長くなるか短くなるかは、未定です、はい。

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