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四季恋(仮題)  作者: 腐敗犬
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綺麗な月とススキー秋ー

秋と言えば月とススキ


我ながら安直と思う、うん。


あえて代名詞なのは、キャラクターの名前を考えるのが不得手だからです。一応、考えてはいますが。

 日も傾き、多くの人達が家路へと帰っていく夕暮れ時。

 微かに聞こえる街の雑音と風に揺れるススキの音を耳にしながら、僕はその場に立ち尽くしていた。



 遠い目をして夕焼け空を見つめる彼女から目を離せず、しかし声を掛ける事すら躊躇ってしまう様な雰囲気にのまれていた。


ーーー


 僕と彼女がこうして一緒にいる事となったのは、偶然な事であり、ほんの少し勇気を出してみた結果である。


 個人的な調べものの為に学校の図書室にこもっていたら帰るのがすっかり遅くなってしまい、鞄を取りに教室へと戻った時に彼女がそこにいた。


 遅くまで教室で何をしていたのかとか、どうして一人でいるのかとか、気になる事は沢山あった。

 けど、彼女と僕の関係は単なるクラスメート。しかも、男子にも女子にも人気のある彼女と少ないながら友達はいれど影の薄い平凡な僕。

 住む世界が違うのだと、下手に関わる事で彼女に余計な迷惑をかけるんじゃないかと思って近付く事すらしなかった相手。

 その相手と図らずとも二人きりな状況だった。


 嫌われるかもしれない、変に思われるかもしれない。それでも、降って湧いた様なこの機会に、せめて友達くらいになれれば良いなと思っていた。ダメだったなら二度と近付かなければ良い、そんな一種の開き直りもあった。


「良かったら一緒に帰らない?最近は暗くなるのも早くなったし、色々一人で帰るのも物騒だし。も、勿論、嫌ならいいんだけど。」


 自分の事ながら挙動不審過ぎて失敗したかな、と一瞬思った。

 彼女が静かに頷いてくれなければ、多分この場から逃げ出して帰ったに違いない。


ーーー


 帰り道の途中、お互い気まずいくらいに無言だった。少なくとも、僕は何を話したら良いのか分からず、頭の中ではパニックを起こしていた。


 だから、彼女が途中で寄りたいところがあると言った時は、もう少し一緒にいられる安心と、気をつかわせたんじゃないかと言う申し訳なさでいっぱいだった。





 そして、ついって行った先に見えたものは辺り一面に広がるススキ、そして赤と黒が混じった空の色だった。


 ほんのり冷たい風にススキと同調する様にほのかに髪を揺らし、遠い目をして空を見上げる彼女。


 絵画の様な一種の幻想的な光景に、躊躇わずに何か声をかけれる勇気は僕には無かった。


 好きな相手の幻想的な姿に改めて恋に落ちた。言葉にすると、そんな感じだった。


ーーー


 僕が彼女に見惚れてからどれくらいの時間が経ったかは分からないけど、辺りはすっかり暗くなり空に浮かぶ満月が僕らを照らしていた。

 彼女は空を見上げるのをやめると、僕の方へ振り返り


「ごめんなさい、こんな事に付き合わせちゃって」


「いいよ、別に。」


 申し訳なさそうに僕を見つめる彼女に、少しぶっきらぼうながらごく自然にそう返す事が出来た。


「本当にごめんなさい。もう大丈夫だから、帰ろ」

 何が大丈夫なのかは、僕には分からない。彼女がどうして空を見上げていたのかも。知りたいけど聞けないでいる。


ーーー



「ごめんなさい、家まで送ってもらって」

 どこか申し訳なさそうに謝ってばかりの彼女に、僕はニコリと笑い


「一応男だからね。これくらいは、普通だよ。」

 あくまでも僕、僕の家における普通だけど。僕のセリフに彼女はクスリと小さく笑ってくれた。


 そして、家へと入ろうと僕に背を向けた彼女の手を何故だか僕は掴んでしまった。どうしてそうしたのかは自分でも分からない。


 突然の事に彼女は振り向き、驚いた様子を見せ、僕は僕で自身の行動に少し固まってしまった。


 ほんの少しの間、互いに固まった状態が続いた。けど、僕は意を決した様に大きく息を吸ってから吐き出し


「僕じゃきみの役に立てないかもしれない。でも、何かあったら、僕はきみの力になりたいと思う。今はそれが言いたかっただけなんだ。えっと、引き留めてごめん。」


 息と一緒にモヤモヤとした胸の内を吐き出した。

 自分の顔に熱がこもっていくのを感じながら彼女の手を離し、恥ずかしさから駆け出す様に彼女の家から離れた。


ーーー


 その日、家に帰った僕はすぐに自分の部屋へと引きこもり、ベッドの中で溜め息をこぼした。

 気持ち悪いと思われたかもしれない。嫌われたかもしれない。何より、自分がどうしてあんな事をしたのか理解出来なかった。だけど、紛れも無く自分の本心を言えてスッキリしている部分もあり、



「こう言うのが、誰かに恋をするって事なのかな。」

 様々な感情が頭の中で渦巻きながら、思わずそんな言葉を口に出していた。

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