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キャッツナイトファンタジー  作者: 鈴ノ木
第一章 灰猫族
9/12

灰猫族0-8

 

 リンクス城の衣装着替え室。普段は、リンクス女王とこれからセイラが使うであろうその部屋に、一匹の灰猫の少女が部屋で逃げ回っていた。

 

 「捕まえたっ、いい加減にしてくださいまし、シェルビーナ様!」

 「いやああぁっ、無理ですよおぉぉっ!ただの一般人の私がド、ドレスなんて…っ」

 「何を仰いますやら、シェルビーナ様!貴女様は、セイラ王女をお救いになられた。それだけで貴女は、りっぱな称号を得るのにふさわしいお方なのですよ?」

ーーーーリンクス城からの称号。それは、この国の王族に関わる者として送られる証である。その種類は様々であり、過去に送られた称号の中で、在るものは『王の友人』の称号、在るものは『城を守る永遠の英雄』の称号……というものがあったようだ。

 今回の式典でシェルビーナに送られる称号は、セイラを助け、そして友人になってくれたことから、『王女の友人』の称号が送られるのだそうだ。

 

 しかし、式典どころか逃げ回るシェルビーナ。これでは話にならないと、彼女を捕まえた使用人が、腰に手を当ててもう一度彼女を説得する。その隣で、もう一人の眼鏡をつけた使用人も、うんうんと頷いていた。それを見たシェルビーナは諦めて着るしかないと悟ったのか、小さく「はい…」とがっくりとうな垂れながら返事をしたのだった。


 時を遡ること、三十分前。レアンに着替えて来い、と指示された直後のことである。


 「えええええっ、今から!?」

 「ああ、今からだ。―――もしかして、お前その身なりで授賞式に出るつもりか?」

 「その身なり、と言われましても私は旅をしている者…、服などこれしか持っておりません」

「…そういえば、お前は旅人だったな」

「困りましたね、これではシェルビーナ殿は式典に出られませんよ」

「じゃあセイラのお着替え室にいこうっ?いつか帰ってきて大きくなったら着せてあげたいってお父さんがずーーーーっと前から作ってあるドレスがたくさんあるんだよ!」


 ぐいっとシェルビーナの手をぐいぐいと引っ張るセイラ。とても笑顔で、目が輝いている。それを見てシェルビーナはひきつった笑顔をしながら「そ、そうなんだ」と言いながら断る理由を探した。

 別に式典が嫌というわけではない。しかし、なぜわざわざ着替えて出なければいけないのか、シェルビーナは疑問だった。着替えには時間がかかるだろうし、それにシェルビーナは、実は一度もドレスに袖を通したことがない。今日のパーティーだって、ドレスを着ているご婦人を見ていて、一体どうやってきているのだろうとか、服の仕組みはどうなっているのだろうかとか、重そうだから着たくないな、などと考えていた。


「で、いかがなさいます?シェルビーナ殿」

「え!あ…、わ、私…、実は今まで一度もドレスを着たことがなくて。ですから、慣れないものはちょっと…」

「えー!お姉ちゃん、セイラのドレス着てくれないの…?」

「うっ…」


 セイラにそう言われてしまうと、断りづらい。

 すると、レアン王子はふと、何か思いついたのか―――――口角が上がり、三日月のように細くなった。


「セイラ王女、あなたはシェルビーナに貴女のドレスを着てもらいたいのですか?」

「えっ?うん、そうだよ!お姉ちゃんにはね、たっくさんお礼がしたいの!だから…」

「そうですかそうですか。―――なら、いい方法がありますよ」

「れ、レアン王子…?」


 そう言ったレアン王子の言葉を聞いたセイラは、さらに目を輝かせ「本当!?教えて教えて!」とぴょんぴょんと跳ね始めた。


「レアン?何する気だ?」

「―――ふっふっふ、いいですかセイラ王女。貴女はこの国の王女なんですよ?ですから、何人かの使用人に命令を下すことはできるでしょ?」


 それを聞いたシェルビーナはどういう意味なのかを理解し、顔が真っ青になっていく。逆にセイラは「その手があった!」と言いたげな顔をした。そして嬉しそうに明るい声で、


「そこの使用人さん!」

「はっ、はい!何でございましょうか、セイラ王女」

「命令よ!シェルビーナ様をドレスに着替えさせるために、衣装室に連れてって!」

「はっ、はい!かしこまりました!」


「――――セッ…、セイラ王女~~~~~っっ!?」


 ―――と、叫びながらシェルビーナは、二人の女性の使用人に手を掴まれ、足をずるずると引きずられながら、パーティ会場から退室した。

 少し離れたところで、レアン王子の笑い声と「何やってんだよお前…」と溜息をつくヤーグの姿があった。



 



 


 ―――――そして、今に至る。


「まあまあ…、シェルビーナ様っ…、お似合いですわ~」

「そ、そうかな…」

「ええ、もちろん!きっとパーティ会場にいる人々も、驚かれることでしょう…。ああ、目に浮かびますわ~」

「……そう」


 使用人二人の褒め言葉に対し、シェルビーナは苦痛そうな声で返事をした。正直いって―――キツイ。ドレスの下にコルセットというものを着てみたのだが、キツイ。すごくキツイ。着た瞬間、腹の中のものが出そうになった。そしてその上にドレスを着るなんて、パーティに参加しているご婦人達はどれだけ細い身体をしているというのだろう。それで、ダンスを踊るなんてどうかしている。立っているだけでもすごく苦しいというのに。


 (こんなことなら村を出て、ドレスを着ていればよかった…!)


「うううう…っ、もういいですか…?脱ぎたい…」

「いーけーまーせーんー!これから式典ですから、それが終わるまで、シェルビーナ様のお洋服はこちらでお預かりします」

「そんなっ!?立っているだけで苦しいのに…!」

「そういえば、シェルビーナ様はドレスが初めてだと、セイラ様からお聞きになれれました」

「まあ、そうなの?ではまだ、時間がありますから歩いて慣れましょう?」

「…っ!!」


突然の事に頭がついていかなくなる。歩く練習だなんて、さらにお腹が絞められて死んでしまうのではないのだろうか……。シェルビーナは、一刻も早く式典を終わらせて、このドレスを脱ぎたいと思っていた。


「シェルビーナ様、そんな調子ではではレアン様もがっかりなされますわ」

「レ、レアン様…?」


(どうしてレアン様の名前が出てくるんだろう………)


「そう!レアン様。先程、一緒にお茶をしていたそうではありませんか。同期の使用人から、聞きましたよ?」

「あ、あれは、彼方からのお誘いで…」

「まあ、そうなの?羨ましいですわぁ~、噂によれば…、レアン様ってあまり女性とお話することなんてないそうですよ」

「えっ、嘘…」

「嘘じゃありませんわよ!」


もう一人の使用人が、元気な声で答えた。使用人服が真新しい。雇ったばかりの子なのだろう。


「アタシ、結構噂話が好きなのですけれどもね…、聞いたお話によるとあのレアン様、今まで女性をお茶に誘ったことなんて無いんですって」

「……!」


(お茶に、誘ったことがない……?)


「まあそうなの!?確かに、噂に定評のある貴女の話なら本当よね?」

「当たり前じゃない!アタシはリンクス一、噂に定評のある使用人!!噂ならお任せあれってね!」

「………」


お茶に誘った女性は今まで、誰一人として居なかった。ということは、自分が初めてお茶を誘った相手ということになるのだろうか。


(確かめてみよう、本当かどうか)


この式典が終わったら、レアン王子に会いに行こう。彼が帰る前に、さよならの挨拶をする時に聞けばいい。ただ、誘った理由は灰猫族である自分に興味を示したからだとは、わかっていはいるけれども。


 ――――コンコン。


 扉をノックする音が聞こえた。開いた扉の先には派手な格好をし、口ひげを生やした大臣が立っていた。


「失礼。シェルビーナ様、いらっしゃいますかな」

「はい、なんでしょう?」

「そろそろ式典が始まります。ご案内いたしますのでこちらへ。歩けますかな?」

「はっ、はい!」


 シェルビーナはその大臣と共に、先ほど居たパーティ会場へと戻っていった。式典がもうすぐ始まる。こういったこともシェルビーナは初めてで、レアン王子と初めてあった時のように緊張しはじめた。


「それでは皆様!」

「わ!?」

「まもなく式典が始まります!称号の受賞者に、暖かな拍手をどうぞよろしくお願いいたします!」


 舞台裏のカーテンの向こう側から、口ひげの大臣の大声がパーティ会場内に響いた。すると、ワーと盛り上がる歓声。それにプレッシャーがかかり、シェルビーナは「ううう…」とうなり始めた。この式典で転んだりなどしてしまえば、式典は台無しになってしまう。それどころかシェルビーナ自身が恥ずかしい思いをしてしまう。リンクスで食事をしたときのように、またヒソヒソと噂はされたくない。しかし、シェルビーナは世間知らずの箱入り娘。何もかもが初めての体験なのだ。


「どうしよう…」

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