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キャッツナイトファンタジー  作者: 鈴ノ木
第一章 灰猫族
6/12

灰猫族 0-5

 


 ビアララの話を聞いて、この場にいる全員が驚いた。

 

 「まさか、悪魔と契約を…!?」

 「そうよ、気が付けば私は住んでいた家にいた。そこにはセイラと、こと切れた医者がいたわ。恐らく契約の代償として悪魔が勝手に殺したんでしょうね、でもそれでもあいつ―――スルフとの結婚は免れなかった」

 「それでリンクス人の女性たちを次々と殺してった訳かい、望まれた幸せを持つ奴らが憎かった…そういう事か」

 「ええ、それに定期的に欲望を満たさないと契約者は悪魔に殺されるわ。あのペットたちは私の欲望をみたすために利用したのよ」

 

 ペット―――それは尻尾と耳を切られた女性のリンクス人たちのことだった。


 「やはりここで何人かのリンクス人の女性が犠牲になっていたのか…。どうにも手に負えないからリンクス王はレアンに助けを求めたって事か」

 「それだけ、被害がすごいということなんですね」

 「ああ。中には生き延びて助かったものがいるんだが、な」

 「ひどい…」

 「ひどい?ひどいのはそっちの方でしょう?私達の幸せを邪魔するお前達が酷いに決まっているじゃない!!出てきなさい、私のペット達!」


 ビアララが合図すると、何もないまわりの壁や床が突然砕け、そこから奴隷服を着たリンクス人の女性が数人出てきた。彼女らは恐らくビアララの被害にあったものたちだろう。しかし、我を失っているように感じた。

 

 「シェル!こいつら、魔術で操られてるぜ」

 「魔術で!?あの、どうすれば彼女たちは助けられますか」

 「術者が解くか死なない限り、操られたままです!」

 

 リンクス人の女性が爪を出し、襲い掛かってくる。仕方なく兵士たちはそれに対抗し始めた。ヤーグは「出来る限り殺すな」と命令し、ビアララの方へと迫る。彼女は何としても捕まえて、この国の裁判にかけなくてはならない。彼女の犯した罪は重い。セイラには悪いが恐らく、死刑は免れないだろう。


 「ビアララさん、今ならまだ間に合います!自首してください」

 「嫌に決まってるじゃない!彼は―――シュナルは私を綺麗だって言ってくれた…。そんな私の幸せを汚した奴らや、私より綺麗な毛並みを持つ女が憎くて憎くて仕方ないのよ!私の何が悪いの、私は何も悪くないわ、だって私には彼だけ、ワタシ、ヲ、キレイダッテ……」

 「!? ビアララ殿!?」

 「ウウウウウ…ッ」


 突然、ビアララが獣のようにうなり始めた。それと同時にビアララの身体に異変が起きた。体中に毛が生え、目は鋭くなり、背中から大きな羽が生え、さらに巨大化すると大きな紫色の化け猫の姿になった。


 「なっ…!?」

 「な、にこれ… ビアララさんが…」

 「悪魔化だ」

 「ファイアウォルフ!何よ、『悪魔化』って」

 「恐らくあのナカにいる悪魔が思ってたよりでかい欲望だと判断したんだろうよ。悪魔化は契約者が悪魔に身体を委ねる―――つまり依存しないと出来ねぇんだが、これは『その逆』だ。」

 「悪魔が…、ビアララ殿を取り込んだということですか?」

 「おっ、話が早ぇな坊主。そうなんだよ、悪魔が人間を気に入るっつー事ぁ、その人間の魂を自分の中に取り込むということ。残念だが、そのビアララだっけ?そのお嬢さんはもう、人間には戻れなくなっちまった」

 「そ、んな…!」

 「彼女がいなければ裁判が…!」

 「知ったこっちゃないね。ま、後味悪いし最後まで付き合ってやるよ。悪魔は殺せねーけどよ、悪魔祓いは出来る。これでも神獣だしな!」

 

 ファイアウォルフが化け猫になったビアララに向かって走り出すと、周りが緑色の光に包まれた。周りにいた全員が眩しくて目を塞ぐ。その刹那―――、悪魔の悲鳴がビアララの声と入り混じり響いた。


「 『 グガアアアアアアアっっっ!!!! 』 」


 その声はまるで泣いているかのように聞こえた――――…


                         **********


 午後五時――――リンクス国・ミケニヤのレルナージェの屋敷で、スルフ・レルナージェが逮捕された。ビアララ・レルナージェはすでに悪魔によって死亡が確認されたが、世間では自殺として知れることとなった。その翌日、スルフ・レルナージェの裁判が行われた。当然、判決は死刑。死刑執行は一週間後に行われるらしい。また、被害にあって屋敷にいた女性たちは国立の病院へ緊急搬送――――助からない者もいれば命に別状はない者もいた、とのことだった。



 ただ、ひとつ問題なのは――――…



 「セイラちゃん、これからどうするの?」

 「わかんない…」

 「そう、だよね…」

 「お父さんとお母さんはどこにいっちゃったの…?」

 「それは…」

 「シェルビーナ殿、城に行った方が最善かと」

 「城に?どうして?」

 「セイラは、彼女と当時王子だったシュナル王の間に出来た子供です」

 「!! 生きているんですか、シュナル王」

 「なぜそう思うのですか?」

 「いえ、そうなるとセイラちゃんは王の隠し子ということになるので、バレて処刑されたんじゃないかって…」

 「王によれば、金でなんとかしたと聞いています。いずれにせよ、彼女には本当の親の方へ返した方がいいでしょう」

 「―――そうですね」


 セイラはこの国の王女ということになる。突然行方不明だった王女の帰還―――しばらくこの国は大騒ぎになりそうだ。しかもその王女は今の国の王である、シュナル・リンクスの隠し子であることも知れたらどうなってしまうのだろうか。シェルビーナはそれを心配していた。何故なら先に寿命が来て、自分より早く死んでしまうからだ。だから自分と知り合った者は最期まで付き合いたいとシェルビーナは思っている。


 リンクス城に着くと、門番の兵に止められた。


 「何者だ」

 「灰猫族のシェルビーナ・レフと申します」

 「!!は、灰猫族様でしたか!大変失礼いたしました、そちらは?」

 「て、テッド王国騎士団長のヤーグだ。至急、シュナル王にお会いしたい」

 「はっ、中に入って城の使用人が客室までご案内しますのでお進みください」

 「あ、ああ…」

 「レフ殿、先ほどはとんだ失礼を…」

 「いえ、気にしないでください。灰猫族なんてめったに城なんて来ないでしょう?あとでお話でもいかがですか?」

 「いいんですか!夢だったんです、灰猫族のお話を聞くのを!」

 「では、また後で。面会がすんだらお茶でも」


 門番の兵との会話を終え、シェルビーナたちは使用人に客室に案内され、「こちらでお待ちください」と指示された。セイラは用意されたお菓子を食べ、ヤーグは一口紅茶を飲むと門をくぐって聞きたがっていた事を口にする。


 「あのシェルビーナ殿」

 「なんでしょう、騎士団長さん」

 「ヤーグで結構です、あの聞いてもよろしいですか」

 「はい?」

 「あの灰猫族って王族と関係しているんでしょうか?」

 「ああ、外国人は知らないんだっけ」

 「お姉ちゃんってえらい人なの?」

 「あ、コラ。お菓子食べながらしゃべらないの!うぅん、えらいっていうか私が元々えらい人の娘―――だったんだけどね。」

 「確かハイネスという村がありましたよね。灰猫族が暮らす村だと有名な」


 灰猫族のリンクス人が暮らす村―――ハイネス。シェルビーナはその村の村長の娘として育った。灰猫族はリンクス人の祖先・キャットシーの血を強く引く一族であり、そのせいか寿命が人より長いのだ。


 「そのハイネスに住んでいた灰猫族はリンクスでは戦闘民族とも呼ばれているです。セイラちゃんには難しいけど、簡単にいえば戦いに強い人たちの事かな」

 「戦う?お姉ちゃん、そういえば戦ってたよね」

 「うん、灰猫族は魔術が使える人も少なくはないの。リンクス人の祖先であるキャットシーっていう神獣の血を強く引いているから、寿命が長くて」

 「どれくらいですか?」

 「―――最近かかれた古書によれば…、よ、四百年くらい…?」

 「よんひゃく!?」

 「よんひゃくってどれくらい?」

 「ええっと…」

 「し、失礼ですがシェルビーナ殿は今何歳なのですかっ?」

 「本当に失礼ですね!?は、灰猫族は身体の成長がひどく遅いんですよ!それに今のは古書にかかれた平均寿命のことで、村に居た頃はそれを越える知り合いの人が居たんですけど何歳くらいだったかなあ~…」

 「シェルビーナ殿、はぐらかしてませんか」

 「はぐらかしてなんかないです!私はええと…ひ、百四十くらいだったかな…」

 「け、結構いってますね…」

 「やめてくださいよ!!人間でいえばバリバリ思春期のお嬢さんなんですから!」

 「お姉ちゃんってほんとはおばあちゃんだったの?」

 「――――――っっっ!!!!!」



 ぐさり、とシェルビーナに言葉の刃が突き刺さった。灰猫族の女性に『おばあちゃん』という単語は禁句タブーだ。この国の法律にも書かれるほどだ。まだ九つのセイラには国の法律などまだわからないだろうから仕方ないかもしれないが、シェルビーナの心のダメージには酷く傷を負い、効果は抜群だった。


 「そ、そうだよね、おばあちゃんだよね…、ははは…」


 

 

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