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キャッツナイトファンタジー  作者: 鈴ノ木
第一章 灰猫族
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灰猫族0-4

 

 ビアララはその言葉を聞くと、迷うことなくシュナルと逃げることを決意した。リンクスからもっと遠いところへ行かなければ、見つかってしまう。しかも、シュナルはリンクスの王族の身であり、いつ城の者が自分達を探して見つけてくるかわからなかった。最悪の場合、殺されてしまう可能性だってある。ビアララだって例外ではない。ビアララは貴族であり、下手をすれば父に二度と外に出してもらえなくなるかもしれない。


 でも、それでも。


 「わかったわ、私も同じ気持ちよ」

 「…ありがとう、ビアララ」


 この人とずっと一緒に居たいのだ、いつまでもずっと。


                  ********


 二人が国から逃げて、二人はリンクスから西にある森の奥の空き家を見つけ、そこに住むことにした。そこに住んでしばらくたった時期、ビアララはお腹に宿していた子供を産んだ。医師の言っていた通り、その赤子は女の子だった。ビアララは安全に産めるかどうかとても心配だったが、協力してくれた例の医師にシュナルが連絡し、すぐに駆けつけてきてくれたためそのおかげで安産だった。その赤子は「セイラ」と名付けられた。


 「シュナル様、ご無事で何よりで」

 「ああ、まさかまた会えるとは思っていなかったよ、バーヴァ」

 「えっ、お知り合いなのですか?」

 「シュナル様がまだ幼い頃にちょっと知り合いましてね。いやぁ、しかし複雑なお気持ちですね」

 「何がだ?」

 「生まれちゃいましたね、王族のお子さん」

 

 医師――バーヴァの言葉を聞いて、二人は黙り込んでしまった。セイラは王族であるシュナルと貴族であるビアララの間に出来た子供だ。彼女に王族の血が流れていることは間違いはなかった。


 「関係ないさ、私は全てを捨てたんだ。王族の血など関係あるまい」

 「そうね、この子は貴族や王族なんて関係ない、私達の間に生まれた愛しい娘よ」


 そういってビアララはセイラを優しく抱きかかえた。その隣でシュナルもセイラの頭を優しく撫でる。その様子を見ていたバーヴァはまるで羨むかのように二人を見て「…そりゃ結構なことで、それでは私は失礼させていただきますよ」と二人の家を後にしたのだった。

 セイラはとても元気な女の子に成長した。毎日、シュナルに外で遊んでもらっては、ビアララに昔話を聞かせてほしいと毎晩お願いしたり。二人は彼女のそんなわがままに困りながらも、微笑ましくもあった。三人で一緒に寝る夜はとても幸せで毎日が輝いているように思えた。


 「ねえねえお母さん!」

 「なぁに、セイラ。どうかしたの?」

 「なんで私達はずっとずっと森に住んでいるの?町にはいかないの?」

 「っ―――セイラ、町は危ないところだから駄目よ」

 「なんでー?セイラ、町に行ってみたい!だってここは薄暗くて怖いし、お父さんだって狩りにいってあんまり遊んでくれないし」

 「お母さんだってたくさんセイラにお話聞かせてあげているでしょう?」

 「ううー、でも、でも~…」

 「いい?セイラ、町には絶対に行っちゃ駄目よ、お母さんと約束できる?」

 「…うん!」


 ビアララがセイラを町に行かせたくなかったのは、自分たちの所在がバレてしまうからだ。シュナルがある日、変装して町に行ったときに、その町で自分とビアララの手配書がまわっていることを知ったからだ。自分たちを探している――――いつか、ここの場所もバレてしまうかもしれない。だから二人は近いうちに引越しをしようかと考えていたのだ。


 「でもそう簡単にはいかないわよね、手配書がまわっているんじゃあ…」

 「そうだな、手配書があまりまわっていない場所に行こう。それだと、長い間、歩いてばかりになってしまうかもしれないが…」

 「私は構わないわ、貴方とセイラと暮らせるのなら」

 「…そうだな。そういえばセイラは?中にいないのか?」

 「セイラなら庭で遊んでいるわ、なんでも近くにウサギの巣があるみたいだからウサギと遊ぶのが楽しいみたいよ」

 「じゃあ、そのウサギを狩らないように気をつけないとな。『お父さんなんか大嫌い』なんて言われたら、さすがに落ち込むしな」

 「ふふふ、じゃあ今日も獲物が見つかるといいわね、いってらっしゃい」

 「ああ、行って来るよ」


 シュナルが外に出てセイラに「ちょっと狩りに行って来る」と報告すると、止めてあって馬を走らせ森の奥へと進んでいった。その姿を見届けたセイラは遊び相手のウサギと再び戯れ始めた。「ウサギさんにも家族がいるんだね、セイラたちと同じ!」―――なんてウサギに話しかけているセイラの様子をビアララは微笑ましい光景だなと笑っていた。



 ―――――異変が起きたのはその日の夕方だった。


 「お母さん、お父さん何処いっちゃったの…?」

 「そうね、おかしいわね…。もう夕方だっていうのに一体どうしたのかしら」


 昼食の食材となる動物を狩りにいったシュナルが夕方になっても帰って来ないのだ。森に迷うことはまずありえないし、町に行くこともありえない。ちょっとお昼の時間が過ぎたころにさすがに遅いと感じて、今回は大量に狩っているのだろうと信じたが、その期待は大きく外れた。「まさか、城の者に見つかって捕まってしまったのでは」という不安がビアララの頭をよぎる。「いや、そんなはずはないと否定してきっとすぐ帰ってくる」と自分に言い聞かせた。


 (そうだわ、セイラには私しか頼れる人がいないんだわ。私が不安がってちゃセイラもきっと不安がる)


 「お母さん、お父さん…帰ってこないの…?」

 「そんなことないわよ!きっとあの人、セイラを喜ばせるためにきっと張り切ってたくさんの動物さんを探しにいったのよ!」

 「ほんとっ?動物さん、いっぱい食べれるの?」

 「きっとそうよ、セイラは動物の中で何が好き?」

 「ウサギさん!」

 「セイラはウサギが好きなのね」

 「うん、とっても可愛いんだよ!あのね、あそこにウサギさんのお家があるんだよ!」

 「あらホント?お母さんにも教えてほしいな」

 「うーんとじゃあお母さんの好きな動物教えてくれたら、いいよ!」

 「私の好きな動物?そうねぇ、私は―――…」


 そこへ、二人のもとへ忍び寄る影がふたつ。


 「私は人間が好きですよ」

 「――――!!」

 「人間はとても知能が高いし、何よりリンクス人はケモノの匂いが濃いですから」

 「そん、な… 何故っ、貴方が此処に!!」


 そこには以前、ビアララを助けてくれた医師―――バーヴァと、かつてビアララが父に紹介された見合い相手のスルフが立っていた。


 「バーヴァさん…?どういう、ことですかこれは…?」

 「私はこの時をずっと待っていたんですよ」

 「えっ」

 「セイラが十分に成長すれば、そろそろ知らせるべきだと思っておりましたので」

 「そんな…っ、貴方、私に協力してくれるって仰ったではありませんか!だから私は貴方を信じてっ…」

 「―――それは逃げるときのことだけで、絶対に隠れ場所を言わないとは言っておりません」

 「がっっっ…!!」

 

 突然、バーヴァはビアララに近づき、鈍器で彼女を殴った。頭が揺れ、目を開けていられなくなったビアララはその場に倒れた。薄れていく意識のなか、セイラの泣き声が聞こえた。―――――ああ、早くあの子の涙を拭ってあげなくちゃ、母親である自分がしっかりしないといけないのに。


 「セイラがこんなに成長すれば、もう用済みです」

 「安心しなよビアララ、親父さんにももう知らせてあるさ。家に帰ったら早速、結婚式を挙げないとな」


 セイラに手を伸ばすも、身体がいうことを利いてくれない。ビアララはセイラの涙を拭うことも出来ないまま、意識を手放した。





 ――――真っ暗で何もない場所で、セイラは一人佇んでいた。ここは一体どこなのかもわからず、自分が此処に来た理由も何となく理解していた。もしかして、此処は天国か地獄か或いは境目か、またはその入り口なのかもしれない。そうなると自分は死んでしまったのだろうか。


 『―――違うな、ここは×××××。普通、一般人が迷い込むなどありえんが余程の欲望がない限り、訪れることは出来ぬ』

 「欲望?あなたは一体誰…?」

 『此処は×××××だ、そうとなれば住んでいるモノは―――ここまで言えば察しがつくだろう、リンクス人』

 「っ…昔、本で読んだことがあったけれど、まさか本当にいたなんて…」

 『なぁ、お前―――此処に来たってことは相当の欲望を抱えているな?』

 「ひゃっ!」


 暗闇で見えないナニカがビアララの頬を舐めた。


 『ほう、『憎しみ』か…面白い、こんなにドス黒い欲望は初めてだ』

 「貴方、何、訳のわからないことを言っているの…?」

 『なぁ、リンクス人。―――力が欲しくないか?憎いんだろ、自分の幸せを邪魔する奴らが』

 「っ…!!」

 『そんな穢れた一般人だとは思えない小汚い奴らに大事な男や娘を失いたくはないだろう?』

 「…う、そうよ…そうよ、あいつや父さんさえいなければこんな事には…っ」

 『ならば、力が欲しいか。お前の欲望を満たす我の力が』

 「力…」

 『そう、我の力があればお前は自由になれるぞ?』

 「私は、力が欲しい…、自由になりたい…、幸せになりたいっ…」

 『そうか』


 暗闇で見えないナニカがニヤリと笑った。するとそのナニカは気体になり、ビアララの身体の中へと進入していった。


 『――――契約成立だな』


ビアララは再び意識を手放した。





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