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キャッツナイトファンタジー  作者: 鈴ノ木
第一章 灰猫族
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灰猫族0-3


 「シェルの指を傷つけてまで呼ばれてんだ・・・、大人しくそのチビッ子を離しな、人間!!」


 ファイアウォルフが雄叫びを挙げる。それに少し怖気づいた執事の一人を見て、セイラを捕まえている執事が「怯むな」と懐にあったナイフを取り出し構える。

 「ひっ」

 「止まれ化け物!止まらなければ、この子の命は―――」

 「執事も住んでいる人も最悪ね、この屋敷は」

 「何っ」


 執事たちが気付いた時には遅く、後ろにまわっていたシェルビーナが執事たちに攻撃を仕掛けた。シェルビーナが持つ二刀流の剣は、執事たち全員を吹っ飛ばした。そこでセイラを捕まえたままの執事を見つけると、床に向かって落ちていく執事たちを踏み台に飛び、セイラを捕まえた執事からセイラを取り戻す。


 「お姉ちゃん・・・!」

 「もう大丈夫だからね、セイラちゃん」

 「ふぇっ・・・怖かったよおぉ…っ」

 「よしよし・・・」


 怖くて泣き出してしまったセイラをシェルビーナはまるで母親のように彼女を抱いて、頭を撫でてやった。後ろを振り向き、シェルビーナはファイアウォルフに執事たちを動けないようにしておくようにと命令すると、シェルビーナはセイラを連れて、テッド王国の騎士団長と名乗る青髪の男のヤーグの元へと向かった。


 「騎士団長さん!セイラちゃん、無事です」

 「ご苦労、旅人の者か?手助けをしてもらって、かたじけない」

 「いえ、私もです。貴方が来てくれなかったら、私はあいつの被害者になっていたかもしれません・・・。本当に来てくれて有難いですよ」

 「ふむ、その話はこの事が済んだら伺っても?」

 「勿論、構いませんよ。ですから、こんなただの国民に過ぎない者と戦うのは不本意でしょうけど、犯罪者のお片づけ、ご協力させてください」

 「ああ、むしろ歓迎するよ。魔術が使える方がいると大変心強い」

 「私が使えるのは召喚魔法だけではありませんよ」

 「では、お手並み拝見といこうか」

 「はい!」


 セイラを兵士の一人に預けると、シェルビーナは今度はビアララに向かって攻撃態勢をとった。ずっとその様子を見ていたビアララはニタニタと笑い出す。


 「素晴らしい連携ね、それは褒めてあげる。――――でも、一歩もこの私に近づけないあなた方に一体何が出来るっていうのかしら」

 「攻撃は出来なくとも、貴様の話は聞けるだろうな」

 「話しなさい、何故、こんなことをしたのか!セイラちゃんや他のリンクス人の女性が、なぜあなたの手によって苦しい思いをしなくちゃいけなかったのか!」


「―――いいわ、話してあげましょう。何故、私がこんな行動を起こしたのかを」


ビアララはまるで昔のことを思い出すかのように語り始めた。


 それは今から数十年前のことになる。一人の少女がこの世に生を受けた――――それが、ビアララである。しかしビアララは家族には歓迎されなかった。なぜならビアララは、実の母と母の愛人の間に出来た子供だったからなのである。その事実がビアララの父に知れ渡り、ビアララの母は家を追い出され、母の愛人であった男性は実の父によって毒殺された。たった一人、レルナージェ家に残されたビアララは父親からひどい暴力をふるわれるようになった。毎日、毎日、実の父親に姿を見られては殴られ、父親に呼ばれたかと思ってその場に向かえばまた殴られる。ビアララはその時、「自分は生まれてきてはいけない存在なのだ」と気付いて、自殺をしようと思い立った。玄関ホールで特別に取り寄せてもらった毒薬を水に溶かし、それを飲んで死のう―――そう思い、口にしようとしたその時だった。


 「ビアララ殿!何をしているのですか!」

 「っ…貴方は、誰・・・!?」

 「私はリンクス王国の第一王子、シュナルと申します。この屋敷の主人に用があって、ここへ参ったのです。そうしたら扉を叩いても返事がしないので、失礼ながら玄関から入ったら貴女が毒薬を飲もうとしているのを見て・・・」

 「…止めなくてもよかったのに・・・」

 「え?」

 「い、いえ何でもございません・・・、父―――いえ、ご主人様はただいま隣国にお出かけしております」

 「そうか、なら少しいいかな?」

 「え?」

 

 その時、シュナルが毒を溶かした水が入っているコップを叩き落した。コップは床に落ちガシャンと音を立てて割れ、液体が床に飛び散った。


 「あっ、な、何を…っ」

 「君の話を聞かせてもらおうか、王族の前で自殺をしようとするなんて余程のことがあったのだろう?」

 「っ、それは…」

 「命令だ、話せ。その顔や手足の包帯や痣もそれに関係しているんだろう?」

 「…わかりました」


 諦めたビアララは、何故自殺をしようと思い立ったのかを自分の出生から今に至るまで詳しく話した。その話を聞いたシュナルは眉間に皺を寄せ、考え込むようにビアララと話す。


 「愛人の子でも、みなこの国の国民だということは変わりはないというのに。何故、そんなことが出来るのだろうな」

 「きっと私は望まれなかった命なんですよ」

 「!」

 「だから、自殺をしようと思ったんです。別の男の血が流れていても、貴族である母の血も流れているというのに、父は私に目もくれず貴族の娘だということを認めてはくれなかったのです。だから―――死のうと思ったんです」

 「ビアララ殿、私は前から君を知っていたんだ」

 「え?」

 「前に君の屋敷に訪ねたときにとても綺麗な使用人がいて…、それが君だった。聞けば主人は、一度とまどって誤魔化すように『新人ですよ、田舎からきたらしいんだがあまり役に立たなくてな』・・・なんてごまかしていたけれど、私はそれが嘘だってことがわかったんだ。君は君の母であるシェーラ殿によく似ているから」

 「シュナル、様・・・」


 その時、ビアララの瞳から涙がこぼれた。嬉しかったのだ、「綺麗」なんて自分をそんな風に言ってくれる人なんて今までいなかったのだから。その日から、ビアララはシュナルに手紙を書くようになった。使用人と国の王子。身分が違いすぎて、独断で会うなんて出来るわけがない。ビアララはシュナルに憧れと尊敬と感謝の気持ちでいっぱいだった。彼の手紙だけで、他の使用人からの嫌がらせや父親からの暴力にも耐えられた。


 ――――その気持ちはやがて、いつしか「恋心」へと変わっていった。


 二人が会えるのは、シュナルがビアララのいる屋敷に用があるときだけだった。屋敷の主人であるビアララの父の面談が終わると、ビアララはこっそりと屋敷を抜け出して、シュナルから以前「また会えたら来てくれ」と指定されたいつもの場所へと向かうのだ。ビアララはこの時間が愛しくてたまらなかった。


 「シュナル様・・・」

 「ビアララ、二人の時は「様」は無しだと言っただろう?」

 「あ、ご、ごめんなさい・・・、でも貴方が王族だってことに変わりはないですし・・・」

 「身分なんて関係ない、私とお前は同じリンクス人なのだから」

 「―――はい」


 気持ちが恋心へと変わったのは、シュナルもだった。お互いが惹かれあっていたと知ったビアララは嬉しくて、シュナルに抱きついた。それから二人は近くの宿へと足を運んだ。ビアララは仕事に戻らなければ、父親にいつもより倍に怒られて殴られてしまうのではないかと心配だったが、その時はそんなことどうでもよかった。今は、目の前にいる愛しい人とずっとずっとこのままでいたいと思う気持ちの方が強かったのだ。一体、何度口付けを交わしただろう、一体何度、シュナルに会わずにはいられなくなっただろう。


 「そんな顔をするな」

 「・・・だって、私…」

 「安心しろ、手荒な真似はしないよ。―――なあ、ビアララ。もし君が、私のところに来てほしいと言ったら、来てくれるか?」

 「っ!それ、本気・・・で言ってる、の・・・?」

 「な、何故泣くんだ、もしかして嫌、だったか?」

 「ううん、その反対よ。嬉しい、こんな私に・・・」

 「『こんな』なんて言うな、綺麗だよビアララ」

 「シュナル・・・っ」

 「ははっ、泣き虫だな、お前は」


  一緒にいたい、この人と、ずっとずっと。そうだ、反対されても家を出て行こう、そうしたらきっとシュナルは自分を迎え入れて、一緒に暮らせる様になるかもしれない。

 

 しかし、幸せな時間もつかの間。ビアララの父親が「一応、お前は貴族の血が流れているからな」と見合い話をして、その相手と面会が終わったときのことだった。――――ビアララは急に激しい吐き気に襲われたのだ。まさかと思い、父には内緒で医師に診てもらったところ、ビアララの予感は的中していた。


 「―――お腹の中に、子供がいる・・・?」

 「ええ、どうなさいますか?こちらがレントゲン写真ですが、・・・・・・女の子かと」

 「そんな・・・、どうりで最近、体調がすぐれないと思ったら・・・。でもせっかく生まれた命を無駄にするわけには――――」

 「ビアララさん、もしよければご協力しましょうか」

 「え?」

 「最近、ご主人の体調がすぐれないときに私はいつもこの屋敷に出入りしております。いわば、このレルナージェ家専門の医師といってもいい。ご主人は、ビアララさんのことをあんまり思っていないようですし」

 「い、いいん・・・ですか?もしバレたら、貴方は・・・」

 「構いませんよ、『困ったらお互い様』とでもいうでしょう?そのお相手のところまで、お送りします」

 「あ、ありがとうございます・・・っ」


 専門の医師に連れられ、ビアララはいつもシュナルと待ち合わせしている橋のところまで向かった。まだシュナルは来ていないようだが、待っていればきっと来るだろうと信じて、ビアララは待っていた。数時間が立ち、シュナルがやってくるとビアララは自分に子供が出来たことを報告した。


 「本当なのか・・・?」

 「ええ、父には内緒でこっそり診てもらったら、出来ていたみたいなの」

 「・・・!そうか、そうか・・・、よかった・・・。ああ、でもどうしようか」

 「え、どうしようって・・・?」

 「子供が出来たとはいえ、国民と王族の間に出来た子供だ。例えていうなら、―――君のような」

 「っ・・・そう、そうよね・・・、私と同じ『望んではいけない命』・・・」

 「でも、」


 突然、シュナルがビアララを抱き寄せた。


 「この子には君と同じ思いをさせたくはない」

 「シュナル・・・」

 「逃げよう、ビアララ。この国から、どこか遠いところへ」

 


こういう恋の駆け落ちってステキですよね・・・。

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