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キャッツナイトファンタジー  作者: 鈴ノ木
第一章 灰猫族
11/12

灰猫族1-0

 「ああ、大体はな。神獣・キャットシーと、リンクス人の母であるアリアの間に出来た子供―――それがリンクス人…、だろう?」

 「レアン、よく知ってるな…、俺はあまり…」

 「その誕生については知っていますよ」


 そこへ、仕事を終えたシアンがノックもせず部屋に入ってきた。帰宅した客人たちの相手をしていたのだろうか、少し髪がクシャクシャに乱れ、少し疲れているように見えた。

 

 「シアン、お前どうしたんだそれ」

 「気にしなくていいよ、兄さん。全くここら辺に住む貴族の娘は、愚かですね。五月蝿くて堪らないんですけど」

  

 そう言いながらシアンはシェルビーナを睨んだ。それにシェルビーナは気付くも、自分はどうする事も出来ないし、なぜ自分を睨むのか意味がわからなかった。セイラかシュナル王に相談すれば何とかなるのではないだろうか。自分は貴族といった地位もないので、シェルビーナにはよくわからない。


 「話を戻しますけど、それに関して確か戦争が起こっていると歴史書に載っていました」

 「戦争…?」

 「ええ、そうです。今から300年ほど前に、キャットシー教派とアリア教派による宗教戦争が起こっています。その戦争には、実際に私の祖父が赴いていたので、話を聞いたことがあります」

 「すっげ…」


 あまりの壮大さにヤーグはポツリ、と言葉を零した。


 「当時、私は生まれていなかったので実際に戦場を見たことはありませんが、祖父が言うには…」



 ――――地獄。 

 


 「………」

 「辺りは火の海になったといわれています。当時、魔術を使うものがたくさん居ましたから。動物達は次々に焼け死に、目の前には仲間と敵の屍ばかりで足の踏み場が無かったほどです。それでも祖父は残った仲間達と共に戦い続け、勝利を勝ち取りました」

 「………そのキャットシー教が主流となっているのだとしたら、悪魔を信仰していることになるのかもしれない……とか?」


 ヤーグの言葉に、疑問を抱いたレアンは「どういうことだ」と問う。シェルビーナも一瞬、ヤーグに対し、怒りの感情を抱いた。灰猫族はキャットシーの血を強く残す一族であり、子孫とも言われているせいか、キャットシーを称えている種族であるシェルビーナにとって、その発言は侮辱に思えた。


 「ヤーグさん、その言葉は聞き捨てなりません。その発言は神の使いであるキャットシーに対して、侮辱と取られます」

 「いや、すまない。そういうつもりはないんです。 …しかし、シェルビーナ殿も見たでしょう?悪魔化したビアララ・レルナージェを」

 「……!」


 シェルビーナは思い出す。悪魔化した彼女の姿は、巨大な化け猫の姿だった。背中におぞましい羽が生え、瞳は赤く、牙は鋭く悪魔といってもおかしくはないほど恐ろしかった。


 


 その姿は、絵や書物に描かれているキャットシーにそっくり似ていた。


 

 (……どういう、……こと……?)


 悪魔があの化け猫の何かだったとするならば、ヤーグの悪魔を信仰しているのではないかという可能性は有り得るということになる。そうなれば、自分達が悪魔の血を強く引く子孫ということになってしまう。自分が悪魔の子―――そう考えると、なぜか口が震えてうまく話せない。


 「キャットシーが悪魔だって言うんですか…?その悪魔の子孫が私たち、リンクス人だと…?」

 「落ち着け、シェルビーナ。まだ決まった訳ではない、可能性があるだけだ」

 「そうですよ。その神の使いとやらが悪魔だという証拠もありません」


 ずっと腕を組んで黙っていたシアンが口を開いた。シアンはシェルビーナの座っているソファの近くに寄ると、懐から何か書かれた地図のようなものを出した。


 「これは…?」

 「テッド地方の地図です。旅をしているんでしょう?聞きましたよ、何でも八十年前に村を滅ぼした実の兄を探しているとかなんとか…。普通の人間だったら、もう死んでるか年老いた老人になってはいますが、貴女は灰猫族。僕らなんかよりもずっとずっと長く生きることが出来る」


 その言葉を聞いて、シェルビーナは旅をして出会った青年の事を思い出した。名前は聞くことが出来なかった。今から70年も前のことだった。確か、彼は確か国の王子で、国をいつか治めて実の父のような王様になるのだと演説するかのように語っていた。どこの国だったかは忘れてしまったが。

 まだ何も知らない箱入り娘だったシェルビーナは、ファイアウォルフにその国まで連れっていってもらっては彼が王様として君臨しているところをこっそりと見守っていた。それがバレた時、覗いていたのがシェルビーナだと知ると快く出迎えてくれたのを、今でも鮮明に覚えている。


 「…………長く生きていたって、同じ運命の仲間がいなければ死んだのと同じだ」

 「シェル、」

 「灰猫族はもう私と兄しか居ない。だから友達を作ったって皆、死んでいくんです。私を置いていって死んでしまうんです」


 彼が自分より早く死んでしまうことを、シェルビーナは最初からわかっていた。わかっていたはずなのに、どうしても彼の顔が見たくて仕方が無かった。彼がどんどん老けていくのを見るたびに、寿命が近づいてきているとわかるからだ。彼が不治の病にかかり、殆ど寝たきり状態になったと知るとシェルビーナはその国に留まって、つきっきりで看ていた。


 

 〝なあ、友よ。私がもし生まれ変わることが出来たら、また会いにきてくれないか…?〟


 


 それが、彼の最期の言葉だった。シェルビーナは彼に返事をすることすら出来なかった。返事をする前に彼は固く目を閉じて眠ってしまったのだ。涙なんてあの時にとっくに枯れてしまったと思っていたのに。ああ、嫌だ。自分だけが取り残されるなんて。

 

 

 「それならもういっそのこと―――」

 

  



  ―――――忘れてしまいたい。



 「………だから、あなたたちもきっと時間が経てば私を置いて逝ってしまうんでしょうね。もし、兄を探すことに協力して下さるのであれば、それに人生全てを捧げることになるんですよ?」


 無理に決まっている、とシェルビーナは思っていた。シェルビーナは良くても、他の種族の者たちには難しいことであった。人間の時間では、兄のキゲルが居なくなってから八十年もの年月が経過しているのだ。彼が普通の人間であったならば、もう老人になっているか、とっくに寿命がつきて亡くなっているかのどちらかだ。けれど、キゲルとシェルビーナは灰猫族であり、キャットシーの血を強く受け継ぐ者なのだ。だから、他の種族よりも、長生きをすることは昔からわかっていた。


 怖いのだ。巻き込みたくないのだ。人間にとって長時間を要する兄探しが、その者たちの呪いのような、義務のようなものになってしまうのではないかと。


 

 「…………いいさ、それでも」

 「…!」

 「レアン…?」



 口を開いたのはレアン王子だった。



 「それでお前の長い旅が、終わらせられるような近道になれるなら―――――俺は協力するぞ?」

 「っ……、正気…なんですか……?レアン王子、貴方はいずれテッド王国の頂点に立つお方なのかもしれないんですよ?そんな、つまらないことに時間を使わなくても……」


 「つまらなくなどない!!」


 レアン王子がシェルビーナの言葉を静止させた。まるで「それ以上は言わせない」とでも言っているかのようだった。レアン王子はシェルビーナに言い聞かせた。

 お前はなぜそんな大事な事をつまらないなどと言うのか。友人の家族を探すのがなぜつまらないのだ、旅をしながら人を探すなんて冷静に考えれば大変なことかもしれないが色んな場所を訪れることが出来るのだから楽しそうではないか。それに一生旅が出来るなんて羨ましい―――と。

 レアン王子にとっては幼い頃からずっと城の中にいる毎日で、外で遊べる平民の子供達がうらやましくて仕方がなかった。もしも自分が平民だったら、もし王族ではなかったらあの子供のように元気にはしゃいで笑いあって、町の中を走り回れただろうか。自分が幼い頃はよく羨ましがって脱出を図って、使用人のシグレに見つかっては叱られ、よく泣かされたものだ。

 王族は誰もが憧れるかもしれない。きれいな城、豪華なベッドや食事に洋服。ほしいものがあれば、召使などに頼めばすぐに取り寄せてもらってすぐに手に入れる事だって出来る。金だって十分に出来る。しかし、外に出たり、簡単に会いたい人と会えることすら出来ない。代わりににあるのはたくさんの民衆から寄せられる期待と、プレッシャーと執務仕事だけ。友達すら簡単に作る事だって出来ないのだ。


 だから、レアン王子はシェルビーナが羨ましかった。自分より長い寿命を持ち、色んなところを訪れ、友人を作ることが出来るのだから。そんなシェルビーナが、自分の兄を探すことをつまらない、というのだ。この事はレアンにとっては異論を唱えることだった。


 「シェルビーナ、お前は俺たちに出来た『初めての友達』でもある」

 「っ―――!」

 「お前の兄探しは絶対に手伝う。その事に自分の寿命を全て捧げることになったって構わない。お前はそれを恐れているんだろう?自分のことに他人の人生全てを巻き込んでしまうことを。そう心配することはない、王の仕事とその兄探しを両立して行えば、父上も文句は言えまい」

 

 レアン王子は誇らしげな顔をして、シェルビーナを見つめていた。その瞳に宿す覚悟と決意に、心を打たれ、安心したのだろうか――シェルビーナは一つの涙を流した。彼女にとってこんなにも強く、勇ましく、自分を助けようとしてくれる人間は初めてだったのだ。それを見た周りの人々は、シェルビーナの涙に驚いたものの、肩を叩いてくれたり、涙をぬぐうハンカチを差し出してくれた。


 

 夜も更けてきたので、解散になった一行はリンクス城に泊まることになった。シアンはすぐ客室部屋へ寝に行き、ヤーグはシュナル王の護衛があると言い出し、さっさと仕事へ戻っていってしまった。――廊下で、残っているのはシェルビーナとレアン王子のみ、ということになった。


 「すみません。ハンカチ、洗ってお返ししますね」

 「別に構わん。替えならいくらでも持っている。なんなら、もらってくれてもいいぞ」

 「い、いえ…!私のような旅人が貰っていいものでは…」

 「ははは、面白いなお前は。俺の友人となった今、お前と俺の身分の差などもう関係ない。普通に接してくれてもいいぞ」

 

 (この人…、どうしてそんなに積極的なんだろう…。シアンとはちょっと違うけれど、何ていうか王族って感じがしない)


 「ですが、貴女はテッド王国の王子でしょう?一般人である私が仮に普通に接したとして…、他の大臣たちや王族の者に怪しまれてしまいます。リンクスは確かに、灰猫族を敬い、称えております。しかし―――それはあくまで、リンクスだけのことです。他の国にとっては、ただのちっぽけな一族の生き残りなのですよ」

 「……なら、俺とお前、二人っきりの時なら構わないか?」

 「えっ」

 「それなら、他の奴らが怪しむことは無いだろ?」

 「それは、そう…かも、しれませんが……」


 なんてことを言い出すのだろう。彼は友達がはじめて出来たことに興奮しているのか、それとも灰猫族である自分と友好的な意味で親密な関係を築きたいのか…。どちらにせよ、王族の頼みを断ることはできない。シェルビーナはそれを了承することに決めた。


 「…では、お言葉に甘えて。 ―――ゴホンッ。 ……レアン王子、少し聞きたいことがあるのだけれど」

 「何だ?」

 「先ほどの式典で、ドレスに着替えているときに召使さん方から聞いた。レアン王子が女性をお茶会に誘ったのは滅多にない……って」

 「ああ、その事か。その噂、他の国の召使まで広まっているんだなあ…。一体誰が…」

 「それって、本当なの?」


 「…ああ。先ほども言ったが、お前が『初めての友達』なんだ。ヤーグは俺の護衛の兵であるんだが、雇い始めてまだ5年程度だ。出身がマッサーオで識字率が低いせいもあるのか、あいつは敬語が苦手でな。それに、身近な女性はシアンの方へ行ってしまうからな。―――何もかも全て、……お前が初めてということだ、シェル」


 「……それは、光栄です」


 

 シェルビーナはそれを聞いて、頬を赤く染めた。そして恥ずかしくなってそっぽを向いてしまった。シェルビーナも実は初めてだったのだ。旅を出てから異性の者とお茶会したり、パーティに出たり……。もっともシェルビーナはそういった類のものが行える身分ではないため、緊張と自分のマナーの未熟さの羞恥も含まれているのかもしれないが、その奥にほんの小さな「憧れ」を抱いていたのだ。



 「敬語になってるぞ」

 「っ、ごめんなさい、旅をしているときのクセで」

 「まあ、いいか。そろそろ夜も遅い。明日、テッドに出るのか?」

 「……ええ、すぐにでも。それと貴方のお父様に一度、謁見しても構わないかな。私は被害者の一人であるわけだし、それにヤーグさんと一緒に戦って、あいつが悪魔化したのを目撃しているわけだしね」

学校が始まるとほんと時間が取れないですね…。小説もゲームもやりたいし、勉強もしなくてはなりませんし。遊ぶ時間のスケジュールでも取りましょうかね?水曜はゲーム、金曜は小説、土曜は動画サイトを見る …とか…。

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