三羽目☆動物たちを捜せ!!
「うさ☆うさコンビネーション!!」の第三話です!
作中に出てくるピヨ先生は主人公たちと同じかそれより低い身長という設定です。「ちっこい先生可愛い!」と自己満足しながら書いてました(てへぺろ)。
それでは、ご覧ください!
三羽目☆動物たちを捜せ‼
「……ふう。いくら歌っても、稲葉真一くんにうつされてしまった音痴が治らないわ。明日からの授業、どうすればいいのかしら。せっかく子どものころからの夢だった教師になれて、これからたくさんの子どもたちに歌を教えようと思っていたのに。私が音痴になっちゃたら、どうしようもないじゃない」
優兎たちが逃げてしまった動物たちを捜して学校中を走り回っているころ、音楽教師の戸坂陽世子は音楽室で歌の練習をまだしていた。放課後になってから、ずっと歌っていたため、ノドがカラカラである。
「ああ~、アメがなめたいなぁ」
そうひとりごとを言いながら、そろそろ風が冷たくなってきたので窓をしめようとした時である。窓から小さな動物がひょっこり入ってきたのだ。
「あら? このオコジョちゃん、どうやってここまで来たのかしら? ここ、二階なのに」
歌が上手に歌えなくなってショックを受けていた陽世子は、元気のない声でそうつぶやき、しゃがみこんでオコジョに話しかけた。
「もしかして、私の音程はずれの歌が気にさわって、文句を言いに来たの? ごめんね。私、音楽の先生なのに……」
と、陽世子がしゃべっている途中で、
ひょい、ぱくっ、ごっくん!
オコジョの胸のあたりから虹色の輝きとともに出現したアメ玉が、陽世子の口の中に飛び込み、おどろいた彼女は思わず飲み込んでしまったのである。
「え? 私、いったい何を食べちゃったの?」
『さっき、アメが欲しいと言っていただろ? お望みどおり、アメをあげたんじゃないか』
「お、オコジョがしゃべった……⁉」
ビックリ仰天した陽世子は、とすん、と尻もちをつく。
その直後、ガチャッと教室のドアが開く音がした。音楽室に入って来たのは、強盗かと思うほど凶悪な人相の大男だった。
「戸坂先生‼ もうしわけないが、手をかしてくれませんか⁉ 飼育小屋の動物が逃げ出してしまったそうなのです‼」
「ひ、ひぃぃっ⁉」
おっかない顔をした長身の男が教室に入るなり怒鳴り声をあげたので、陽世子は縮み上がった。しかし、よく見ると、同じ教師の轟熊太郎だった。
「そんな強盗にでも襲われたような悲鳴をあげて、いったいどうしたのですか? 戸坂先生?」
「い、いえ。何でもありません……。そ、それより、しゃべるオコジョが教室に入って来て――あれ? いなくなっている?」
「戸坂先生、飼育小屋の動物たちが大変なのです! さあ、一緒に捜してください!」
陽世子の手をとって音楽室を飛び出した熊太郎は、「廊下を走ってはいけない」という規則を守るため、猛スピードの早歩きで、動物を捜索している子どもたちのもとへと急ぐのであった(※危険なので、良い子のみんなは早歩きもしないように!)。
事情がまったく分からない陽世子は、熊太郎に引きずられながら、グルグルと目を回して「い、いったい何なの~⁉」と叫ぶことしかできないのであった。
担任教師の熊太郎に助けを求めようと提案したのは優兎だった。学校で飼われている動物たちは、生徒たちみんなが大事に世話をしていた動物なのである。無理に自分たちで解決しようとして、もしも見つけ出すことができなければ、優兎たちだけでなく、学校のみんなが悲しい思いをすることになると考えたからだ。
かけつけた熊太郎は、さすが体育会系の先生なだけあって、優兎たちにテキパキと指示をあたえ、動物捜索の役割分担をした。
「遥さんと美兎さんは飼育小屋の周辺を捜しなさい。動物が戻って来るかも知れないから。優兎君と真一君は学校の北側を、戸坂先生と武蔵君は学校の南側を頼む。私は、動物が学校の外に出ていないか、校外を捜そう」
というわけで、各自バラバラになって動物たちを捜すことになった。
「武蔵、ごめんな。僕の妹といとこのために、ややこしいことに巻き込んじゃって」
飼育小屋の手伝いだけでなく、動物たちの捜索にまで付き合おうとしてくれる武蔵に対し、もうしわけないと思った優兎はそう言って謝った。しかし、武蔵はフッと笑い、
「一年前、お前は、友だちでも何でもなかったオレを助けてくれた。今のオレたちは親友じゃないか。他人行儀なことを言うなよ」
そう言って、陽世子とともに学校の南側にある校門へと向かうのだった。下校する生徒たちから動物の目撃情報を集めるためだった。ちなみに、熊太郎によってほとんど強引につれてこられた陽世子はまだ少しパニック状態のようで、
(生徒の音痴がうつっちゃったり、しゃべるオコジョに変なアメ玉を食べさせられたり、轟先生に校内を引きずり回されたり、今日の私、不幸すぎて泣けてくる~!)
と、心の中でぼやいているのであった。
優兎は、校舎の北側に向かいながら、例のオコジョのことを思い出していた。
(それにしても、あのオコジョはいったい何者なんだ? 動物と会話ができるようになるアメ玉を持っているだけでなく、目からビームまで出しちゃって……。怪しすぎる)
両親や学校の先生に相談したとしても、信じてもらえるかどうか。
(何も知らないふりして、オコジョのことも忘れたほうがいいのかも。動物の声が聞こえるというおかしな能力は身についてしまったけれど、別に死ぬわけでもないし。それに、あんな不思議な力を持ったオコジョに深く関わろうとしたら、とても危険な目にあう可能性が高いじゃないか。僕だけならいいけれど、遥までひどい目にあうのは……)
そんなことを優兎が黙り込んで真剣に考えていると、横で気がぬけるほど能天気な声がした。一緒に学校の北側で動物を捜すことになった真一である。
「あーあ。お腹が空いたなぁ」
給食室の前を通ったせいだろう。真一はそう言いながら、自分の腹を両手でさすった。絶妙なタイミングでグーッという腹の虫の音。優兎は「はぁ~」とため息をついた。
「お前は、本当、いつでもどんな時でも極楽トンボだよな。そこまでお気楽だと、うらやましくなってくるよ」
「え~⁉ ユウ兄ちゃん、ひどいなぁ。僕だって、心配事とか悩み事ぐらいあるよ~」
「へぇ、どんな?」
「給食で嫌いなピーマンが出たら、嫌だなぁとか」
「がくっ! ……あのなぁ、お前がアネゴにあんなひどいことを言ったせいで、こんなことになっているんだぞ? もう少し反省とかしたらどうなんだ?」
「僕、何かひどいことを言ったっけ?」
「アネゴの鳴き声が変だとか、音痴だとかさんざん言っただろう。いきなり言葉が通じるようになった人間の子どもにあれだけぼろくそ言われたら、ニワトリだって傷つくじゃないか」
「僕もめちゃくちゃ音痴だけれど、『君は音痴だね』とか他人に言われても、ぜんぜん気にしないけれどなぁ。だって、本当のことなんだから」
(ダメだ。まったく話がかみあわない。悪気がないだけに、よけいにタチが悪いんだよなぁ)
無邪気で素直すぎる真一の「本当のことなら何を言っても問題無し」理論に対して、それは正しくないような気がしながらも、真一に何と言い聞かせれば良いのか分からずに黙り込む優兎だった。
『人間の子よ。君には想像力が欠けている』
「え? ユウ兄ちゃん、今、何か言った?」
「いや、僕じゃない。この声は……今朝、公園で聞いたような気がする」
直感的にこれは動物の声だと思った優兎は、周囲を見回した。しかし、どこにも動物らしき影は見当たらない。(おかしいな?)と優兎が首をかしげた。
『こっちだよ、こっち。足元ばかり見ていないで、顔を上げな』
『とろいわねぇ~。こんな頼りなさそうな人間と協力しないといけないの~?』
また別の声が二つ。やんちゃそうな男の子の声と生意気そうな女の子の声。この声も公園で聞いたことがある。間違いない。あのウサギたちだ。ウサギたちの声は、学校への立ち入り防止用フェンスの方角から聞こえてきた。優兎はウサギの声に従い、フェンスを見上げた。すると――。
『ようっ! 朝はオイラを助けてくれようとして、ありがとうな。オイラの名前はシロっていうんだ!』
フェンスの上に、三羽のウサギ。真ん中に白いウサギ、その左に黒いウサギ、右に赤ずきんをかぶったウサギが優兎を見下ろしていた。そして、真ん中の白いウサギが右の短い前足をぶんぶんと振り、優兎に笑いかけたのであった(優兎には笑っているように見えた)。
(やっぱり、公園でオコジョと戦っていたウサギだ!)
ビックリした優兎は、ウサギたちに言葉をかけようと思いながらも、口をパクパクさせる
ばかりである。もたもたしているうちに、人呼んで「暴走車」の真一が暴走を始めた。
「うわぁ、すごい! ニワトリだけでなく、ウサギの言葉まで分かるようになっちゃった!」
大興奮の真一は、フェンスをぐらぐらと揺らし、「ねえ! ねえ! こっちに降りてきて、一緒にお話をしようよ! ねえってばー!」と、はしゃぎだした。あんなことをしたら、フェンスの上のウサギたちはバランスをくずして落っこちてしまうだろう。優兎が「こら、やめとけ」と止めようとしたが……。
『何すんのよ、このアホガキ‼』
ずきんのうさぎがフェンスから飛び降り、空中でクルクルと回転していきおいをつけ、後ろの両足で真一を吹っ飛ばしたのであった。
(う、ウサギが人間を蹴り飛ばした⁉)
直立してファイティングポーズをとるようなウサギが、ただのウサギのはずがないとは思っていた優兎だが、ここまで常識はずれなことをされると、もうマンガの世界だと頭が痛くなってきた。
ずきんのウサギに続き、白いウサギと黒いウサギもフェンスを軽々と降りた。そして、黒いウサギが落ち着いたおだやかな声でずきんのウサギをいさめる。
『うさずきん、小学生の子ども相手に無茶をしたらいけないぜ』
『はーい。クロ様』
「うさずきん」と呼ばれたウサギは、黒いウサギになついているらしく、意外と素直な返事をした。そんなうさずきんに対して、白いウサギが『やれやれ』とため息をつく。
『実の兄であるオイラのことは呼び捨てのくせして、何がクロ様だよ』
『だって、クロ様のほうがカッコイイもん』
『オイラの良さが分からんとは、かわいそうな妹め』
『分からないし、分かりたくもない』
『な、なにを~』
「あ、あの~。お取込み中、申しわけないのですが……」
何だか存在を忘れられているような気がした優兎は、恐るおそるウサギたちに声をかけた。すると、「クロ様」と呼ばれている黒いウサギが、
『君の名は、吾妻優兎だな。私の名前はクロ、そして、こっちのメスウサギはうさずきんという。以後、よろしく』
ちょこんと後ろ足で立ち上がり、優兎を見上げてそう言ったのである。優兎は「え⁉」と声を上げた。
「どうして、僕の名前を知っているんだ?」
『神様が教えてくれたのさ』
「???」
『まったく意味が分からないと言いたげな顔をしているな。いいだろう、一から説明をして……』
『待て、待て、クロ。今はそれどころじゃないだろ? 細かい話は、あの飼育小屋の動物たちを連れ戻してからにしよーぜ』
シロがそう言うと、クロは『それもそうだな』とうなずいた。
「どうして、飼育小屋の動物たちが逃げたことを知っているの~?」
うさずきんの蹴りでノックアウトしたはずの真一が、ケロリとした表情で立ち上がり、そうウサギたちにたずねた。鈍感で図太い性格のせいか、真一は周囲の人間がおどろくほどタフである。去年、おサルさんごっこをしていて木の上から落ち、右腕を骨折した時も悲鳴一つあげず、涙の一粒も流さなかった。一言、「僕、生まれて初めて骨折しちゃったよ! ビックリ!」と言っただけであった。
『ずっと見ていたのよ、あんたたちのアホなお笑い劇場を。小屋の中にいた動物たちをあんなにもあっさりと全部逃がしちゃうなんて、情けないわ~。まあ、だいたいはあんたのせいなんだけれど。稲葉遥の弟君』
うさずきんが小馬鹿にしながらそう答えると、真一は感心したように「ほへ~」と言った。
「お姉ちゃんの名前まで知ってるんだ。それも神様から教えてもらったの? すごいなぁ。……でも、どうして僕のせいなの? さっきユウ兄ちゃんにも同じようなことを言われたけれど、よく分かんないよ」
『はぁ⁉ 本気で分かってないんだ? マジでアホすぎるわ!』
『こら、こら、うさずきん。レディーが、アホ、アホと汚い言葉を使ったらダメだぞ』
『はーい。クロ様』
さっきまで真一をボロクソに罵っていたうさずきんは、クロにやんわりと注意されると、かわいこぶりっこをしておとなしくなった。ずいぶんとませたメスのウサギである。
黙ったうさずきんのかわりに、今度はクロが真一に説教を始めた。
『さっきも言ったけれど、君には想像力というものが欠けているね』
「どういう意味?」
『本当のことなら何を言っても大丈夫。君はそう考えているのだろう? 音痴な者には音痴、足の遅い者には足が遅い、泳ぎが苦手な者にはカナヅチだと指摘しても、本当のことだから言われた相手は傷つかないと』
「だって、僕も傷つかないよ? 音痴だし、足も遅いし、泳げないけれど、友達からそのことを指摘されたとしても、嫌だなぁ~とか思わないし」
『自分がそうだから、他の人も同じだという考えが、想像力がない証拠だ。どれだけ練習しても歌が上手く歌えなくてくやしい思いをしている子、走るのが遅いことを気にして毎日ランニングをしている子、みんなと一緒にプールで競争をしたいのにスイミングスクール通いをしても泳げなくて寂しい思いをしている子。そういった子たちに、音痴だね、足が遅いね、カナヅチだねと簡単に言えるほど、君はえらいのか? そんな努力を君はしているのか? 想像してみるんだな。自分の無責任な言葉の罪深さを』
「う、うえぇ……?」
可愛らしいウサギが、真一の頭では追いつかないような難しいセリフを次々と言ったため、真一は動揺して後ずさった。
『はぁ~。やれやれ、またクロの長い説教が始まった。それぐらいにしておけよ、クロ。時間が無いし』
シロが、くわ~と背をのばし、おっさんくさいあくびをしてそう言うと、クロは『しかし、もう少し人としての道を少年に教えなければ……』と、まだ話を続けようとした。
『人間っていうのは、学習能力が高い動物なんだぜ。ああ、やっちまった、大切な仲間を悲しませてしまったと後悔する時が来たら、こいつが勝手に学ぶだろうさ。というわけで、この話はおしまい! 飼育小屋の動物たちを助け出す作戦を開始するぞ! あのオコジョが変なイタズラをする前にな!』
「オコジョなら、もうとんでもないことをしてくれているよ。目からビームを出して、ニワトリのアネゴが小屋を突き破るパワーをあたえちゃってるんだもの」
優兎がそう言うと、シロは『チッ、チッ、チッ。あいつの恐ろしさは、あんなものじゃないぜ』と答えた。
『放置しておくと、もっととんでもないことをやらかすぞ』
「もっととんでもないことだって……? いったい何をするというんだ?」
『人間と動物を合体させちまうのさ』
「が、合体ぃ~⁉」
優兎と真一がウサギたちと右のようなやりとりをしているころ、武蔵は音楽教師の陽世子と協力して、校門で動物たちの目撃情報を集めていた。放課後の校門には、家に帰ろうとする生徒たちがわらわらとやって来るのだ。ここでなら、有力な目撃情報を得ることができるかも知れないと考え、武蔵が陽世子に提案したのである。しかし……。
「おい、そこのお前。聞きたいことがあるんだが……」
「ぼ、僕は何も知らないよ! さ、さよなら~!」
「……まだ何も言っていないのに」
目つきが悪い武蔵は転校当時から不良生徒というウワサがあり、それを真に受けている生徒たちは武蔵に話しかけられると、話をろくに聞かずに逃げていくのだった。これでは情報を集めることなどできない。
一方、陽世子のほうはというと、「ちっこくて可愛らしい先生」ということで生徒たちに人気があるおかげで、色々と生徒たちから目撃情報を聞き出すことができた。
「飼育小屋の動物たちが逃げちゃったの! みんな、知らない?」
「え? 見てませーん。あ、でも……運動場の鉄棒の近くで、ニワトリの鳴き声みたいなのが聞こえたような気が……」
「そっか! 情報ありがとう! 気をつけて帰ってね!」
「ばいばーい、ピヨ先生!」
「こら! 頭をなでるな! 私は先生なのよ⁉」
小学校の五年生、六年生ぐらいになると、男子の中には大人とあまり変わらない身長にまでグンと成長する生徒がクラスに一人か二人ぐらいはいるものだ。そういった背の高い男子たちが、中学生ぐらいの身長しかない陽世子の頭を面白がってなでるのだった。
「うわ~ん。生徒たちからお子様あつかいされているうえに、音痴な音楽教師なんて、情けないにもほどがあるわ~!」
「ピヨ先生、涙ふいてください」
武蔵にハンカチを差し出され、「ありがとう。……ぐすん」と言いながら陽世子はごしごしと涙をぬぐった。これでは本当にお子様みたいだと武蔵は思ったが、それを言ってしまえば余計に泣くだろうと考え、黙っていた。
「ピヨ先生。鉄棒のあたりを捜してみましょうか。もしかしたら、アネゴがいるかも知れない」
「そ、そうね、行ってみましょう! あ、ハンカチありがとうね。明日、洗って返すから」
武蔵と陽世子は、さっき手に入れた目撃情報に従い、運動場の東側、鉄棒が五台ならんでいる場所まで向かった。
「よっ! ほっ! はっ! とうっ! ……ああっ、ダメだぁ!」
武蔵と陽世子が鉄棒に行ってみると、一人の女の子が逆上がりの練習をしていた。
「犬飼じゃないか。意外だな。お前、運動は何でも得意なのかと思っていたのに」
武蔵が声をかけると、桜はぶら下がっていた鉄棒からひらりと飛び降り、
「ダーッて走ったり、ウォーッてボールを蹴ったり投げたりするのは得意なんだけれど、鉄棒はなかなかコツがつかめないんだよねぇ。狼森君、鉄棒できるのなら教えてよ」
と、ちょっとくやしそうに眉をしかめた。桜は遥や優兎の幼なじみなので、優兎の親友である武蔵に対して変な偏見を持たずに接してくれる数少ないクラスメイトだった。
「また今度な。今はそれどころじゃないんだ」
「何かあったの?」
「それがね。大変なの、犬飼さん」
陽世子は、桜に飼育小屋の動物たちが逃げ出したことを伝えた。
「ここらへんにアネゴちゃんがいるかも知れないっていう情報があったから、やって来たのだけれど……。犬飼さん、アネゴちゃんを見てない?」
「え? う~ん。鉄棒の練習に夢中になっていたから……。あれ? 狼森くん、頭の上に何か白いものが乗っかってるよ?」
背の高い武蔵とかなりの身長差がある桜が「えいっ」とジャンプして、武蔵の頭上にあったそれを取ると、なんと白い羽だった。
「これはおそらくニワトリの羽だわ!」
おどろいた陽世子が、小柄な体をぐいっと反らしながら上を見上げた。武蔵と桜もつられて空を仰ぐ。すると、また白い羽が、ひとひら、ふたひらと落ちてきたのである。
「ピヨ先生! あそこ!」
視力二・〇の桜が、真っ先にその白い鳥を見つけ、ムクノキの枝を指さした。
「あ! アネゴのやつ、あんなところにとまっていたのか! よし! オレにまかせろ!」
アネゴを捕獲するため、武蔵が木に登ろうと腕まくりをすると、陽世子が「ちょっと待って! あんなに高いのに、危ないわ!」と制止した。
このムクノキは、この土地に学校ができるよりも前、ずうっと、ずうっと大昔からここにあった老いた巨木である。言い伝えによると、えらいお坊さんが植えたらしい。てっぺんまで登ったら、相当な高さだ。万が一、木から落っこちたら大ケガをするかも知れない。
「大人の私が登るから、二人はここで見ていて?」
「ピヨ先生が……?」
武蔵と桜は困惑し、声をそろえてそう言った。まず、「大人の私が」というセリフに違和感がありまくりである。今ここにいる三人の中で、木登りが一番危なっかしそうなのはピヨ先生ではないか。
「ピヨ先生、無理しないでください。ピヨ先生はまだ小さいんだから」
「そうだよ、ピヨ先生! 木から落ちてケガでもしたら、お父さんとお母さんが心配するよ?」
「あんたたち、私が二十二歳だということを忘れているでしょ⁉」
ムキーッ! と怒った陽世子は、止めようとする武蔵と桜を押しのけ、ぴょんと木に飛びついた。そして、意外にも素早く、上へ、上へとよじ登って行く。それでも心配だった武蔵と桜は、落ちてきた陽世子をいつでもキャッチできるように、木の下で両腕を広げてスタンバイしていた。
(ふふん。小学生のころ、私は「木登りピヨコ」というあだ名だったのよ♪)
武蔵と桜の心配をよそに、陽世子は、あっという間にアネゴがとまっている枝までたどりつき、「ほ~ら、アネゴちゃん。こっちにおいで~。一緒に小屋まで戻りましょ~」と、しょぼくれた雰囲気のアネゴに呼びかけたのである。
そこで、大変なことが起きた。
『アタイは……音痴なんかじゃないわ』
「え⁉」
陽世子は、一瞬、ニワトリが言葉を話したような気がして、枝の上で硬直した。
(ま、まさかね。そんな……あはは。聞き間違いよね? ……でも、さっき遭遇したオコジョも言葉を話したし……?)
木の上というかなり危ない場所で混乱におちいった陽世子に追い打ちをかけるようにして、アネゴがまたしゃべった。というか、陽世子に話しかけてきた。
『あなた、たしか最近入ってきた音楽の先生よね? ねえ、教えて? アタイは音痴なの?』
「に、ニワトリに音痴とかあるのかしら……?」
わけが分からず、頭がパニック状態のまま、陽世子は口元をひくひくさせながらアネゴに聞き返した。
『アタイ、コーコケキョって鳴くの。でも、他のニワトリはそんなふうには鳴かないらしいのよ。これって、人間でいうところの音痴じゃない?』
「え? ええとぉ~。ど、どうなのかしら? よく分からないけれど……。第一、今は私も他人のことを言っていられないぐらい音痴だし……」
『音楽の先生なのに?』
「なのに、なのですよ……。ぐすん」
『それは大変ね……』
「あ、アネゴちゃんのほうこそ大変ね……」
突然言葉を話し始めたニワトリとなぜか心を通わせてしまった陽世子。その光景を下で見守っていた武蔵と桜が、さっきとは別の意味で心配をしていた。おもにピヨ先生の頭を。
あの虹色のアメ玉を食べていない武蔵と桜は、動物の言葉が分からない。だから、陽世子がニワトリに一方的に語りかけ、妄想の会話をしているように見えたのである。
『クケケ。君たちは音痴で似たもの同士なんだなぁ。だったら、すごくいいコンビになれるかもよ?』
ふいにイタズラっぽい少年の声がして、陽世子とアネゴは、おどろいた。なんと枝のはしっこに例のオコジョが知らぬ間にいたのである。
『あっ! さっきの小動物じゃない! 何なのよ、あんたは!』
アネゴが威嚇してコケー! と鳴くと、オコジョはクスクスと笑い、
『ねえ、君。君のコーコケキョっていう鳴きかたを聞いて、学校の人間たちが毎日笑っていたこと知ってた? それだけじゃない。飼育小屋の他の動物たちや通りすがりの鳥たちも、心の中で君の鳴き声をバカにしていたんだよ? クスクス』
『な、何ですって……⁉』
『そっちの先生もかわいそうだねぇ。ものすごい音痴だった小学生のころに、カッコよくて優しい音楽の先生と出会って、その人にあこがれて音痴を克服したんでしょ? そして、苦労して音楽教師になれたのに、まーた音痴に逆戻りなんて! カッコ悪い!』
「ううう……。どうしてオコジョが私の過去を知っているのよ~!」
『分かるさぁ。だって、オレ様は神だからね』
「か、神様……⁉」
オコジョのおどろくべき言葉に、陽世子はがくぜんとした。神様って、あの神様? このしゃべるオコジョが? 信じられない!
『ただし、邪神と呼ばれる神だけれどね――』
ピカ――‼
「きゃあー⁉」
『こ、コケー⁉』
大きなムクノキ全体をおおう広範囲の光がオコジョの体から発せられ、陽世子とアネゴはその光に飲み込まれてしまったのであった。
四羽目につづく☆
第三話も最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
次回のタイトルは「四羽目☆やんちゃウサギとコンビネーション!?」です。子どもとウサギが合体します(えっ?)。
というわけで、次回もどうぞご覧ください(ぺこり)。




