煙草
心臓が、痛いくらいに高鳴っていた。彼が、僕の隣に座ったからだ。
「君、煙草は?」
彼は並んで正面を向いた姿勢を変えないまま話し掛けてくれるから、顔を見ずに済む。だから僕は彼と難なく話せたし、火照る顔を見られることも無かった。
「いえ」
このような、冷静というか、簡潔な返事をするだけの僕に、おおよそ彼はそれなりの反応を見せた。
「健康第一だもんね」
でも、と。
「君、最近悩んでない?」
「え?」
あからさまな反応をしてしまったことを後悔する隙を与える間もなく、彼は言葉を続けた。
「別に、そういうの否定しないよ。俺なんて、煙草すら止められないんだから」
彼の言っていることが、直ぐに分かった。
だから僕は、その時彼の顔を見ることが出来た。
「好きです。はい、あなたが好きです」
そう言った僕を見て、彼も僅かに赤くなった。
初めて会った日を思い出した。