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RAIN   Wizardry ‐Suffering of The Queen‐

作者: ボウモア

 ― プロローグ ―


 リルガミンの女王アイラスは、即位より一年、気の休まる時がなかった。

即位の日、リルガミンの街は南西より湧き出た黒い雲に覆われて、三日三晩嵐が吹き荒れた。

そして嵐が収まった時には、女王の双子の姉、ソークスが失踪していた。

街を上げての捜索にもかかわらず、何の手がかりも得られなかった。

さらにあろうことか、リルガミンの街を守護するニルダの杖の輝きが衰え始め、災いが次々に街に襲い掛かってきた。

その上、王宮付きの魔法使いであるタイロッサムが旧王宮の地下にある「ダバルプスの呪いの穴」に身を潜めて、魔物を召喚し始めたのであった。

 年若い女王は気丈にも苦難に対処していたが、師でもあるタイロッサムの背信行為に打ちのめされた。王宮の兵士達が迷宮に踏み込み、魔物の討伐にあたったが、長い平和に慣らされた彼らにとっては、それは重すぎる荷であった。

 リルガミンの街には、かつて幾多の試練を乗り越えた冒険者の子孫達が集まってきた。ある者は失踪した王女を捜し出すために、ある者は自身の名誉欲や金銭欲のために、またある者は血生臭い戦闘を求めて…


 ― 戦闘 ―


「せい!!」

 気合一閃、右八双の構えから打ち下ろしたカシナートの剣が、ガームの首筋に吸い込まれる。

一刹那の間を置いて、髪を濡らす鮮血と、驚愕の表情を凍りつかせたまま身体に永遠の別離をすることになった怪物の頭部とが、戦闘の集結を物語っていた。

軽く息を吸い込む。

吐く。

何でもない一連のその動作が、ひどく気だるくもどかしかった。

「リュウト」

自分を呼ぶ声に応じ、振り返る。

仲間がいた。

三年前、ギルガメッシュの酒場でパーティを組んで以来、苦楽を共にしてきた男達だった。

ヒューマンのリュウト・ライソン・ヴェン、ホビットのユラ、エルフのフライド、ノームのリドン。

たまたま相席となったテーブルで意気投合し、気がついたら迷宮で戦い続けてきた仲間達。

彼らはもう一匹の怪物、レスバーグを仕留めたようだ。

互いに視線を交わし合う。

生死を共にしてきた者同士、それで互の無事を分かり合った。

「行こうか」

ロードのライソンが、前方の扉の方に首を振り促す。

ああ、と返事を返しながらカシナートを鞘にしまう。

仲間達の後を追いながら、ふと髪が濡れているのを思い出した。

返り血のせいだけではない。

リルガミンの市街から、ダパルプスの呪いの穴に向かう途中、雨が降ったのだ。

冷たく刺すような雨だった。

恐らく女王アイラス陛下の胸の内を覆う暗々たる雲がそれを呼び寄せたのであろう。

リュウトは漠然としながら、若き女王の顔を心に浮かべていた。

雨は、このサムライの中にも降っていた。

それは困惑と悲哀という名の雲がもたらした雨であった。


 ― 勝利 ―


 二年前のその日、リュウトのパーティ ――ファイターのリュウトとライソン、シーフのユラ、プリーストのリドン、メイジのフライドとヴェン―― は、リルガミンに災厄をもたらした元凶である、とされていたダパルプスの呪いの穴の最新部で、王国の宮廷魔術師であり、現在背信の徒と化した大魔術師タイロッサム率いる怪物達と、最後の戦いを始めようとしていた。

目前にたたずむ老人タイロッサムを倒せば、リルガミンは昔日のように平和になるはずであった。

また、リュウト達はそう信じ、戦い続けてきた。

「貴方には死んでいただく」

ライソンがそう告げた。

老人はそれには応えず、呪文の詠唱を始めた。

「散開!!」

リュウトが短く叫ぶ。

戦い馴れた男達はそれに従い、各々の行動に移った。

フライドは爆炎の呪文を、ヴェンは凍嵐の呪文を詠唱し、リドンは負傷者の傷を癒すために完治の呪文を詠唱し始めた。

不敵な眼差しで間合いを詰めるハタモトに対し、ユラはクロスボウで狙いを定める。

妖しの魔人フラックの下に、抜刀しながらライソンが走る。

リュウトはカシナートの剣を鞘走らせながら、タイロッサムに向かう。

 ――― はちきれそうな緊張の糸を断ち切ったのは、魔人のブレスによる攻撃だった。

ほぼ同時に爆炎と凍嵐の呪文が、荒れ狂う破壊のメロディを奏で上げた。

「ティルトウェイト!!」

「ラダルト!!」

超高温と超低温の二つの異なる力の暴走は、クロスボウの矢を胸に埋めたハタモトと、体力の低いオクジョチュウの命を奪い、魔人の生命をも半減させた。

ブレスを弾き返し、なおかつ自分に傷を負わせた呪文攻撃にフラックは思わずひるんだ。

その瞬間、ライソンの剣が頸部にめり込む。

―― バカな、この私が人間ごときに。

頭部が胴体と離れていくのを感じながら、フラックは呟いた。

呟きながら、愚劣な人間に最後の一撃を与える。

その若者が、打撃を受けたところから石化していくのを目の端に留めながら、魔人フラックは息絶えた。

「ライソン!!」

石像と化した戦士の下へリドンは駆け寄り、完治の呪文を唱える。

「マディ」

ライソンは数秒後には生身の体へと復活していた。

虚ろな視線をリドンに向けながら、ライソンは尋ねた。

「終わったのか?」

リドンは言葉には出さず、奥に視線を向けた。

つられてライソンもそちらを見る。

そこには仲間の戦士が佇んでいた。

傍らには老人がくずおれているようだった。

「やったな」

ライソンの声が軽い。

ユラ・フライド・ヴェンの三人も顔をほころばせながら近付いてきた。

会心の笑みを浮かべながら。

「やった。が…」

リドンの重々しい言葉に、四人は戸惑いを感じた。

そして、再び奥に佇むリュウトに困惑の視線を向ける。

しかし、戦士は何を語るわけでもなく、老人の死体を、ただ、見下ろしていた。


 ― タイロッサム ―


 リュウトは駆け抜けながら、タイロッサムに抜き胴の一剣を浴びせた。

だが、予測していた魔法による反撃の一撃は来なかった。

それどころか、それ違いざまに合わせた視線の奥、老人の瞳にあったものは、自分を殺そうとしている者に対する殺意でも憤怒でもなく、何かを訴えようとしている悲哀と懇願の相であった。

老人の崩折れる音を背に聞きながら、思わずリュウトは死にゆく者の下へと走り寄った。

早計であったか、一瞬頭の中をその思いが貫く。

が、タイロッサムの傍らに膝まづくと、彼の上半身を抱き起こした。

「何か言うべきことがあるのか、御老?」

早口になりそうなのを意識的に抑えながら、リュウトは問いを発した。

「御老―――」

「頼みがある」

リュウトの言葉を虫の息の老人が止めた。

「お主達は強いな、我々を簡単に倒してしまうとは。しかし、よく聞くのだ若者よ。私を倒しても、リルガミンの災厄は一向に収まらん」

驚きの声を上げようとしたリュウトをタイロッサムがまた止める。

「聞くのだ。お主は知っているか、ソークス様のことを?」

喉まで上がった驚きを、ぐっと飲み込みながらリュウトは答えた。

「ああ、知っている。現国王であらせられる、アイラス女王陛下の失踪された姉君だろう?」

「そうだ、その通りだ。そのソークス様こそが、リルガミンに降り掛かる災厄の元凶であらせられるのだ」

今度こそ抑えきれぬ驚愕の表情を、リュウトはありありと浮かべた。

「バ、バカな―――」

「あの扉の向こうに」

死に瀕した老人が、若者を制し言う。

その指し示す方向には扉があった。

赤茶けた鉄の扉が。

「あの扉の向こうに、上の階に上がる階段がある。上の階には、異次元空間につながる転移の門があり、その異次元空間にある迷宮の最上階にソークス様はおられる。この世への呪いの言葉を吐きながら」

タイロッサムの言葉が急に途切れた。

激しく体が痙攣し、大量の血を吐き出した。

あの手応えからすると恐らく助かるまい。

リュウトはそう考え、プリーストであるリドンを呼ぼうとして立ち上がった。

その足を老人は細くしなびた指で掴んだ。

ギョっとして見下ろすリュウトに弱々しく、

「いいのだ。私はこのまま死のうと思っているから…。

私はソークス様とアイラス様を幼少の頃より、ずっと見守り続けてきた。お二人はたいそう仲が良く、早くから聡明の兆しが見られ、王者としての器の大きさもかいま見ることができた。そのまま時が経てば、先王ディーリヒトⅡ世陛下には男児がおらず、恐らくは姉君であるソークス様が王位を継ぐことが当然であろうと思われた。無論、アイラス様が国王となられてもその能力においては何の遜色もないであろう。だが、次代の国王にはやはり姉君であるソークス様がふさわしかった。

私はニルダの杖の下、リルガミンが平和の内に人生を終えられるであろう事に、疑問を持たなかった。幸福であった。先王が死去なされるまでは」

タイロッサムは、そこでまた語りを止めた。

激しい咳と共に、血の泡を吐き出す。

しかし、リュウトは微動だにせず、死にゆく老人の最後の言葉を聞き逃すまいとしていた。

いや、老人の気迫に押されて、動くことは叶わないようにさえ思われた。

「あろう事か…大臣を初めとする諸貴族・文武百官が、国王としてアイラス様を選出したのだ。姉君であるソークス様を差し置いて」

タイロッサムの言葉が途絶える。

死期が迫っているらしい。

「理由は分からぬ。しかし、先王が後継を決める前に急死なされたので、国王の選出は臣達により行わなければならなかった。私一人の反論では、いかようにする事も叶わなかった」

タイロッサムは、不意に視線を目前に立つ若い戦士から外した。

宙を彷徨うその視線は、どこか遠い場所を見ているようだった。

「即位式の前日、ソークス様はこの呪われし迷宮に身を隠しなされた。そして、あまつさえ異次元の彼方に行ってしまわれた。私は即位式の後、その事実に気付き、リルガミンの宝珠を伴ってソークス様の後を追った。しかし、ソークス様は私にすら会おうとはなされん。私は決意した。それならば王女の後を追う者を、全て始末しようと。ただ一人の味方を得る事すら叶わなかった、悲劇の王女をお守りしようと。

だがそれらは全て徒労に終わったようだ。私の配した怪物共は、私を、災厄の元凶である私を倒そうと迷宮に入り込んだ者共を始末した。一方で、逆にお主らのような強者をすら、同時に産むことになってしまった」

一息、タイロッサムはついた。

「頼む。若く、そして強い戦士よ。このリルガミンの宝珠を私に代わり、アイラス様に返してくれ」

タイロッサムはそう言うと、ローブの袂から、拳大の宝石を取り出し、リュウトの手に握らせた。

「頼む。賢明にして勇気を持つ者達よ。ソークス様のなされている事が、正しいとも、また間違っているとも私には言えん。言えぬ故、この状態を保とうとしていた。

―――アイラス様、お許し下され、この老いぼれのした事を。私は、ソークス様と同じ心を持つ一人の女性の事を忘れていたのだ。そのアイラス様が、そして地上に生きる人々が苦しみを受けているのならば、ソークス様の―――」

タイロッサムはそれ以上語ることができなかった。

彼の生命の灯は、すでに消えていた。

自分の行った事に、事の善悪はあれ信念を持って生きてきた、一人の男の死であった。

リュウトはどうすることもできなかった。

タイロッサムが語った、熱い思いに応える事もできなかった。

老人が、最後に言おうとして言えなかった言葉の意味もわからなかった。

何もできない。

リュウトは老人の亡骸の側に、ただ佇むだけであった。

困惑と悲哀の思いを、胸に秘めながら。


 ― 謁見 ―


 夕日が地平線の彼方に沈む頃、リルガミンの王城は慌ただしい活動を始めていた。女王アイラスによる緊急の謁見が行われたのである。

女王との直接の面会を望んだのは、六人の冒険者であり、背信の魔術師タイロッサムを討ち取った、と称する者達であった。

タイロッサム死す、この一報は一夜にしてリルガミンの全市民、及び全ての冒険者の知るところとなった。

市民は、ニルダの杖が輝きを取り戻すであろうことを予期し、幸福の時代の再来に狂喜乱舞の様を呈した。

冒険者達は、先を越されてことに対して、激しい憤りと落胆の相を表した。

それぞれが持つ夢を、掴む事が叶わなくなったからであった。

彼らは、次々と都を出立した。

果てる事のない、欲望を満たす為に。

また、一握りの者達は王都に残り、永住を営む事になった。

しかし、そんな彼ら全ての心の中には、生を永らえさせる事ができるということに対し、言い様のない安堵感を抱いていたのである。

全ては終わったかのように見えた。

驚愕と戦慄の事実は、余人の知るところではなかったのである。


 ― ギルガメッシュ ―


 喧騒と熱気が満たされたギルガメッシュの酒場に、リュウト達六人はいた。

謁見の後、リルガミンにおける称号と大枚の褒賞、そして新たなる試練が彼らには与えられていた。

周囲から浴びせられる奇異と憎悪の視線―――すでに彼らが魔術師を倒した者達であることは知られていた―――を感じながら、リュウトはビールを喉に流し込んだ。

一息ついたところで、ユラが疑問を皆に投げかけた。

「どうすりゃいいんだ?ソークス様の命を奪えばいいのか?」

声が大きくならないように気をつけながら、一気にまくし立てる。

その問いに対する答えは、先日、王城ですでに得ていた。

「諸悪の根源を討ち滅ぼすべし」

謁見の間において、リュウトが語る真実―――タイロッサムの言動に関する事ではあったが―――を一通り聞き終えた後に、女王が発した言葉であった。

ソークスを殺せ、と妹である女性が言ったのである。

それがもっともであろうと思いながら、すくなからず六人は衝撃を受けた。

しかし、その衝撃の源は、言葉の内容だけにあるのではなかった。

瞳である。

目前の玉座に座する、若く美しく聡明な女性の言葉には、一辺の躊躇も感じられなかった。

が、その紫水晶の輝きを持つ瞳には、ありありと悲哀の色が見て取れたのだ。

タイロッサムの背信の理由か、ソークスの身を思っての事なのか、いずれに端を発するのかはわからない。

あるいは、いや恐らくはその両方であるのだろう。

陛下は必ずしも姉君の死を望んではおられないのだ―――という事を理解すると、一行は女王に敬礼し、その場を後にした。

その時、リュウトは目の端に映った最高司祭レイナードが奇妙な眼差しで見ていることに気付いた。

あるいは自分の勘違いかもしれぬ、そう思ったリュウトは誰にも言わずにおいた。

そのレイナードの事を思い出しながら、ユラに問いかける。

「お前はどう考えてるんだ?」

ユラは応えず肩をすくめた。

普段は明るいホビット族のユラにしても、容易に返答はできないのであろう。

重苦しい沈黙がギルガメッシュの中の一つのテーブルを覆う。

「…やるしかないんじゃなかいか」

ライソンが沈黙を破る。

「俺達は考えなくていいんだ。ただ陛下の命令に従って、戦えばいいんだ。その為に転職だってしたんじゃないか、リュウト?」

ライソンの言葉通り、彼らはそれぞれに上級職と呼ばれる職業にクラスチェンジしていた。

リュウトはサムライに、ライソンはロードに、ユラはボルタック商店で販売していた盗賊の短刀を購入し、その特殊能力を用いてニンジャに、リドン・フライド・ヴェンの三人はビショップになっていた。

タイロッサムを倒した今、何故転職などするのかと、城の下級兵士や市民達はいぶかしがったが、転職の館の主人達―――それぞれ文武の官僚達―――は理由を知っていたので何ら疑問を抱かなかった。

―――より強い怪物共の跳梁する地に行かなければならないのだ、今までの力では到底目的を果たすことは叶わないだろう―――リュウトは城からの帰路で皆に語ったのであった。

目的が指すものについては語らなかったが。

皆、リーダーの意見には賛成の意を表し、翌日の夜にはそれぞれの転職を終えていた。

「そうだな」

ライソンにそう言ってから、ビールをもう一口流し込む。

喉が束の間潤される。

「―――そうだな」

談笑を始めた仲間達には聞こえぬように、そっと呟く。

目の高さまでジョッキを掲げる。

ガラスの向こうに、歪んで映る仲間達が見える。

しかし、その心には別の物が映っていた。

それは、明らかな敵意と狼狽の色を目に浮かべた最高司祭の顔であった。


 ― 不死者 ―


 束の間生じた過去の思い出を半ば振り払うように、剣の鞘を強く握る。

ここ二年での探索行により、目前の扉を抜けた所、大広間の中央に目指す人物ソークスがいることはまず間違いなかった。

そして、この扉の向こうにこれまでで最強の敵がいることも間違いないだろう。

ここは異次元迷宮の最上階なのだから。

リュウトはファイターの頃より愛用しているカシナートを頼りなげに見た。

これが通用するのだろうか。

強い思いがよぎる。

頭だけを後ろに向ける。

ヴェンとフライドの肩の向こうに、先刻戦ったばかりのガームの死体が見えた。

あれには効いた。

だが、他の仲間―――ライソンのエクスカリバー、ユラの手裏剣―――に比べると、明らかに武器としての質が違うことは否めない。

彼らの武器は、この異次元迷宮において手に入れた物だった。

自分のそれが、悪魔属やその他外皮の硬い怪物共に効きにくいのに対し、二人のそれは自分以上の効果を上げているように思われた。

いや、実際見て取れた。

ライソンとユラが仲間である以上、そんな事は何の意味も持たないように見える。

現に、リュウトを除く五人は全く意に介していないだろう。

だがリュウトは違った。

パーティのリーダーとして、また前衛の要として常に戦闘のなかで主導権を持っていなければならないと考えていた。

カシナートではそれが叶わない。

最終決戦を数刻後に控えながら、自らの非力を強く感じた。

あれがあれば。

―――サムライの、いやあらゆる武器の中で最高の威力を持つ、伝説のあれさえあれば…。

「行くぜ」

ユラの声にはっと我に返る。

すでにユラは扉を蹴り開ける体勢に入っていた。

ライソンもエクスカリバーを構えている。

リドン・フライド・ヴェンの面々も呪文の詠唱のために精神集中に入っていた。

意識を扉の方に向け、一旦しまったカシナートを引き抜く。

とりあえず今は―――頭の中にしがみついている未練を振りほどく。

「うりゃっ!!」

ユラが扉を蹴り開け、一斉に突入する。

しかしそこには何もなかった。

ただ広い空間が開けているだけだった。

ほんの数瞬は。

やがて闇の奥から、それは姿を現した。

美の結晶。

およそ似つかわしくない、それでいてこれ以上ないほど闇と溶け合うその姿。

バンパイアロードである。

それと彼の眷属達。

いずれも闇に生を受け、決して光の下に出ることは叶わない、呪われし者達。

不死者の一団が、六人の前に立ち塞がった。

「厄介な敵だぞ」

背後からかかるヴェンの声が硬い。

不死の王から目を離さず、リュウトは頷いた。

そう、目の前に佇む麗人は、まさしく不死の王であった。

様々な特殊能力、高い魔力、絶対の不死性。

殺しても蘇る―――それは人に非ざる者にのみ、可能な術であった。

妖艶な唇の端から覗く、二本の乱杭歯が魔性の光に映える。

「貴方たちはここから先へは進めませんし、もはや戻ることも叶いません」

王の声と同時に、下級の吸血鬼が四人、左右に散る。

「今宵からは我が眷属の一人として、永久に我らが主に共に仕えようではありませんか」

言葉の終と共に、血の色をした瞳が赤光を放つ。

どれほどの時を闇に生き、どれほどの人間をその禍々しい歯牙にかけてきたのか。

一人犠牲者を費やす度に、その瞳の色は濃くなっていったに違いない。

冒険者達の背筋は、見えない凍気に縛られた。

「ソークス様はその奥におられるのか?」

リュウトが腹の底から声を搾り出す。

一瞬の間を置き、バンパイアロードが応える。

「おられる。だが―――」

「散開!!」

麗人の言葉を遮り、リュウトが吼える。

同時に、リュウト・ライソン・ユラの三人はバンパイアロードに向かって走った。

リドン・フライド・ヴェンの三人は呪文の詠唱に入る。

彼らの敵は四人の吸血鬼であった。

「マダルト!!」

「マダルト!!」

「ラハリト!!」

大凍と猛炎の呪文が、亡者の身体を吹き抜ける。

瞬時に敵は一人だけになっていた。

不死の王だけに。

冷気と熱気を背に感じながら、リュウトは右八双からの一刀を袈裟懸けに放った。

殺った、確かな思いが走る。

だが、次の瞬間には戦慄のそれに変わっていた。

カシナートの刀身が、その半ばから真っ二つに折れたのだ。

バンパイアロードが左手の甲で受けたところから。

戦慄が、端正な唇の端に浮かんだ嘲笑を認めて恐怖に変わる。

やはり効かない―――

立ちすくむリュウトに、バンパイアロードの魔手が繰り出される。

だがその攻撃は届かなかった。

ライソンがエクスカリバーを王の右脇に突き刺し、ユラの手裏剣もまた、左胸に深く埋まっていたからであった。

「止めを!!」

ユラの眼がリュウトに向けられる。

リュウトの動きが一瞬遅れる。

その瞬間に、悪鬼の手刀が二人の喉に突き刺さった。

「下郎が」

怒りの声が響く。

声にならない叫びを上げ、二人の身体は痙攣を起こし、生命力そのものを吸い尽くされ床に崩折れた。

その身体には、すでに生者の温もりは感じられなかった。

「私の身体を傷つけるとは」

腹に残された二つの武器を繊細な腕で掴むと、一気に引き抜く。

武器に残った自らの血を舐める。

啜る。

それを見たリュウトの身体が凍りつく。

動けない。

死を覚悟する。

闇の主の眼がリュウトに移る。

赤い。

光を放つまでに赤い。

身体中の力が抜ける。

乾いた音を立て、折れたカシナートが床に落ちた。

―――リュウトの眼はすでに正気を保っていなかった。

バンパイアロードの眼に射すくめられ、陶酔の色さえ浮かべていた。

来い、主の開かぬ口がそう語る。

ゆっくりと近付いて行く。

仲間の血に彩られた手刀が、ゆっくりと喉元に伸びてくる。

バンパイアロードは愚かな人間を嘲笑いながら、爪をその首に突き立てた。

リュウトは眠りに落ちた。

爪をさらに深く埋める。

リュウトの身体が痙攣を起こし、麻痺する。

指の先端までを、犠牲者の体内に侵入させる。

リュウトの身体が毒に冒される。

あと少し…ククク。

軽い笑いが漏れる。

生命を吸い取ってやる。

腕に力を込める…。

だが、その腕はそれ以上は進むことはなかった。

下級吸血鬼を片付けた、リドン・フライド・ヴェンによる呪文攻撃が始まったからであった。

「ツザリク!!」

フライドの拳から衝撃破が飛ぶ。

わずかに顔を歪ませるバンパイアロード。

リュウトから離れると、忌々しい魔法使い共に襲いかかろうとした。

「ラダルト!!」

ヴェンが凍嵐の呪文を唱える。

マントで王は顔を覆った。

ダメージは、ない。

氷の嵐を乗り切ると、呪文を発していないノームへと向かう。

呪文を使う前に殺す為である。

―――恐らくどんな呪文であれ、私に傷を負わせることはできないであろうがな―――と、不死の王は思っていたが。

しかし、三人目の男、リドンは、王の予想よりも早く呪文の詠唱を終え、唱えた。

それは大凍でも凍嵐でも、ましてや爆炎でもなかった。

「ジルワン!!」

激しい痛みを感じながら、徐々に身体が溶けていくことを王は理解した。

不死者の生命を奪う呪文。

自分を倒した男達に呪詛の言葉を上げながら、彼は消滅した。


 ― 村正 ―


「マディ」

リドンが唱える。

リュウトは目を覚ました。

傷も全て塞がっていた。

周囲を見回す。

五人の仲間達がいた。

三年間、一緒に生きてきた仲間達が。

ライソンとユラの二人も、蘇生の呪文で蘇ったようだ。

「すまん」

二人に頭を下げる。

自分のせいで彼ら二人が命を落とすはめになったのだ。

何と罵られようと甘んじて受けよう、そう思っていた。

「よせよ」

ライソンが照れたように言う。

驚いてライソンを見る。

「そうだぜ。俺達が組んで三年、こんなのは幾度となくあったじゃねぇか。俺やライソンのヘマでお前が死んだ時、お前が俺達に何て言ったか覚えてないのか?『気にするな』お前はいつもそう言ってきたじゃねぇか。気にするなよ、リュウト」

ユラの言葉が胸に沁みる。

ありがたい。

リドン・フライド・ヴェンにも礼を言う。

お前達のおかげで助かった、と。

三人はそれぞれ笑って返した。

お互い様だ、と。

「さて、と」

ユラは辺りをキョロキョロと見回し始めた。

「?」

五人が不思議がる。

「いや、何、あれだよ。奴らが持ってきた宝物がその辺に落ちてるだろうな、と思ってさ」

ユラが笑いながら言い、ハハハ、と一人笑うと闇の中に姿を消した。

「現金な奴だ。ついさっきまで、生死を賭けた戦いをしていたというのに」

ヴェンの言葉に皆もつられて笑う。

だが、リュウトの笑いだけは硬かった。

少し離れた床にそっと目をやる。

そこには、カシナートが二つになって横たわっていた。

予備の武器はない。

最終決戦を目前にして、彼は武器を失っていた。

呪文による攻撃だけが、戦う術として残されていた。

だがせいぜい猛炎くらいだ。

自らの愚かしさを、リュウトは呪った。

「おーい、あったぞー」

闇の中からユラが戻ってきた。

その腕には長櫃が抱えられていた。

「どっこらせっと」

床の上に横たえる。

全員が、宝箱とユラの周囲に集まる。

「リドン、どうだ」

リドンにユラが尋ねる。

素早く呪文を唱え、リドンが答える。

「ふむ、悪魔の目玉のようだ。気を付けろ」

ユラが満足して頷く。

「俺の読みとピタリだ。皆、少し離れてくれ」

鍵穴を覗き込むと、細い針金をゆっくりと差し込む。

数回針金を動かす。

「よし」

勢いよくユラが蓋を開ける。

罠は作動しない。

「へっへー。どんなもんだい。ニンジャになったからって腕前は落ちてないぜー」

ユラが得意げに言う。

フライドが中を覗き込む。

その手が掴んだ物は、剣のような武器であった。

しばらくそれを眺めてからヴェンに渡す。

正体がわからなかったらしい。

数分後にはそれはリドンの元へと移っていた。

ヴェンにも識別は無理だったようだ。

リドンはかなり長い間、それを眺めていた。

頭の中に、城で見た書物の山が浮かんでは消える。

やがて、目の前のそれと同じ物が見つかった。

一人頷くと、それをリュウトに放り投げた。

「お前のだ、リュウト」

リドンが言う。

リュウトは驚いた。

彼はまだ、攻撃の手段を考えていたのだった。

武器が手に入った。

それは嬉しい誤算だった。

この際、使える物なら何でもいい。

例え、「真っ二つの剣」や「達人の刀」であろうとも。

「これは何だ?」

鞘を抜きながら尋ねる。

「村正」

リドンの返答に、一瞬時が止まった。

リドン以外の全員が、驚きの声を上げていた。

いや、リドン自身の胸も高鳴ったに違いない。

伝説の武器をその眼にしたのだから。

他でもないリュウトの胸は、張り裂けんばかりに鼓動を打っていた。

「村正…」

そっと呟く。

まるで重さが感じられない。

鞘を通して持った時には確かに一本の刀の重さがあったのに、こうして構えてみるとまるでその重さが感じられないのだ。

それだけではない。

全身から迸る力「気」が、刀身に集中し、その力が高まって行くような感じすらした。

いける、これならどんな敵にでも。

リュウトは確信すると、ムラマサを鞘にしまった。

皆を見回す。

ライソン・ユラ・リドン・フライド・ヴェン―――

「行こう。死と殺戮、破壊と虐殺の迷宮の主人の下へ。俺達は死ぬも生きるも―――」

そこまで言うと、右手を握ったまま皆に向けて突き出す。

一人、また一人と手を重ねる。

そこでまた皆を見回す。

笑みを浮かべて。

笑が意味するものは―――

「一緒だ!」

リーダーの一言に皆が応じる。

六人は闇の中へ歩を進めた。

見送る者は一人としていない。

ただ、カシナートの残骸のみが鈍い光を反射させ、彼らに別れを告げた。


 ― 死戦 ―


 迷宮の主人は、大広間の玉座に座っていた。

彼女を取り巻く空気は氷よりも冷たく、彼女の吐く息はそれ以上であった。

ソークス。

それが主の名であった。

不意に彼女の後方の空間に、青い火球が大小合わせて十個以上膨れ上がった。

それの中からそれぞれ巨人が現れる。

蒼鬼悪魔グレーターデーモンと羊頭悪魔レッサーデーモンの軍団であった。

グレーターデーモンの一匹が、要件を主に告げる。

”件の者達が不死王バンパイアロードを倒しました。間もなくここに到達するものと思われます”

「わかりました」

主はそう言うと、闇の奥を見やった。

「来たようですね」

主の言葉に、十数匹の悪魔達は身構えた。

人族の中で主―――召喚の書を手にした者―――を除けば、恐らく最強であるだろう者達。

あのバンパイアロードですら葬ったのだから。

やがて主の言葉通り、冒険者達が現れた。

聖剣エクスカリバーを手にした男、ロード・ライソン。

素早い身のこなしと高い戦闘力を持つ男、ニンジャ・ユラ。

豊富な知識と安定した回復力を持つ男、ビショップ・リドン。

爆炎の魔術を得意とする男、ビショップ・フライド。

冷静な判断力と氷の魔術を得意とする男、ビショップ・ヴェン。

そして高い統率力で五人の仲間を率いてここまで辿り着いた男、サムライ・リュウト。

まさに最強の六人が今、その姿をついに迷宮の主の前に見せたのであった。

「よく来ました、勇者達よ。貴方達の望みは、この私の命ですね」

ソークスが座したまま六人に尋ねる。

男達は答えない。

無言が何を意味するのか、ソークスには解った。。

「タイロッサムは、あの年老いた魔術師はどうしたのです?国に背いてこの迷宮への入口を守っていたはずですが」

その問にはリュウトが答えた。

「御老は逝かれました。自らの言動の理由と、真実を語った後に」

ソークスは一瞬目を伏せた。

その胸の奥に去来するものは何か。

タイロッサムの死に対する悲哀の雨か、それとも地上に吐き出す呪いの雨か。

ソークスは立ち上がった。

暗黒の玉座から。

本来座すべき至尊の玉座と対極に位置する闇のそれから。

「戦うしかないようですね」

ソークスの言葉と共に、背後の悪魔達が咆哮を上げる。

冒険者達はそれに対して身構えた。

その時、

「お待ち下さい、主よ」

十数匹の巨大な悪魔達の後方から、その声は聞こえた。

「アークデーモンですか」

振り向きもせず、ソークスが言う。

「いかにも」

答えながらそれは姿を現した。

巨大悪魔達は、全て膝を地につけ、それに服従の意を表した。

その男―――恐らく―――は全身を薄い炎に包まれていた。

呼吸を行う口からですら、その炎は認められた。

「最高位の悪魔、アークデーモン」

背後からかかったヴェンの声に、明らかな恐怖の色を認めてリュウトは驚いた。

あのバンパイアロードとの戦いにおいてすら、それは感じられなかったのに。

「強いのか?」

ライソンの声も心なしか震えが感じられた。

「文字通り、最強最悪の悪魔だ。有史以来、奴が倒されたという記録は、ない」

リドンが言う。

「何てこった…」

ユラですら恐怖に身を竦ませたようだ。

「どうする?」

フライドがリュウトに聞く。

その答えはいつも決まっていた。

そしてこれからも。

「ソークス様、私めにお任せ下さい」

アークデーモンが言う。

切り裂くような殺意を眼に秘めて。

「貴方は最下層の任にあたっていたはずですが」

「いかにも。ですが、妙な胸騒ぎを感じまして。参ってみればこの次第。どうか私にお任せあれ」

「―――よいでしょう」

主はアークデーモンに許可を与えると、玉座に戻った。

フフフ、と笑いながら冒険者達の前に悪魔の最たる者が進み出る。

「お初にお目にかかる。私のことは知っているようだから私については語るまい。また、お主達の事も語らずによい。この迷宮中を荒らし回っている者達については十分知っているつもりだし、そんな事は無駄だからだ。私の前では」

言葉の終と共に、炎に包まれた右手を上げる。

それが死戦の始まりの合図であった。

「散開!!」

リュウトの言葉と共に六人は散った。

リュウトはアークデーモンに対して間合いを詰める。

リドンは凍嵐、フライドは爆炎、そしてヴェンは敵の呪文を防ぐ為に大異変の呪文を詠唱し始めた。

ライソンとユラは呪文攻撃を受け、それでもなお生きている悪魔を始末する為に、周囲に注意を配る。

「マハマン!!」

大異変の呪文をヴェンが発する。

一時的に力を使い果たし、床に膝をつくヴェン。

荒い呼吸が口から漏れた。

呪文が行使された後、周囲のグレーターデーモン六匹からの大凍、レッサーデーモン八匹からの猛炎の呪文が浴びせられた。

愚かな人間は跡形もなく消滅するであろう―――悪魔達の予定ではそうなっていた。

実際には、悪魔達の呪文は全て打ち消されていた。

理由がわからず、恐慌状態に落ちいった悪魔達に、さらに追い討ちのような呪文攻撃が加えられた。

「ティルトウェイト!!」

「ラダルト!!」

超轟音が空間を支配した。

瞬時に全てのレッサーデーモンと四匹までのグレーターデーモンが原子の塵と化した。

呪文攻撃から生き残った二匹の手負いの蒼鬼悪魔に、ライソンとユラが襲いかかる。

「くらえっ!!」

漆黒の闇の中を、ライソンの身体が宙に舞う。

その一撃は悪魔の頭頂部に与えられた。

剣圧により半ば潰れ、半ば切り裂かれながらグレーターデーモンは命を失った。

ユラの狙いすました一撃は、グレーターデーモンの首筋に送り込まれた。

しかし、その攻撃は悪魔の表皮に傷をつけただけにとどまった。

しくじった―――巨大な悪魔から与えられた横殴りの一撃を受けながら、ユラは己の失敗を痛感した。

彼は一瞬で死の淵に追いやられ、その身体はゴムまりのように広間の片隅に飛ばされた。

「ユラ!!畜生がー!!」

ライソンの怒りの一撃が巨人の胴を薙ぐ。

そいつは二つになって死んだ。

「フフフ、中々やるが君の仲間は一人死んだようだぞ」

何でもない、そんな口調でアークデーモンは言った。

リュウトの噛み締めた歯が、怒りと悲しみの為に唇を裂いた。

「だが、お前の仲間は全滅したぞ」

リュウトの反論に、一瞬アークデーモンの顔が無表情に変わる。

しかし、すぐに元の表情に戻ると、嘲笑を始めた。

「フフフ、そうだな、その通りだ。時にサムライよ、お前の仲間のロードは先のバンパイアロードとの戦いで生命を吸収されただろう」

「それがどうした!」

「フフフ、慌てるな。他の三人もあまり丈夫ではないらしいな」

「それが一体―――」

「バカディ」

どうなのだ、その言葉は口には出せなかった。

後方で四人の倒れる音が次々に聞こえた。

冷水をかけられたように、身体中の血が引いていく。

僧侶系最高位の呪文バカディ―――抵抗しきれば全く影響を及ぼさないが、その効果が現れる時、対象は瞬時に死者と化す、という。

この呪文は、魔法に対する抵抗力が低い者―――生命力の低い者―――には、ほぼ確実に効く。

「き、貴様―――…」

あまりの怒りの為に、声にならない。

「フフフ、これでお前の仲間も全て死んだぞ。あのビショップが唱えたマハマンは、残念ながら私に効果を及ぼすことはできなかったようだ」

全く残念だ、そう言うとアークデーモンは笑い始めた。

笑いは止まらない。

広間に高い笑い声が木霊する。

「笑うな」

サムライが呟いた。

笑いは止まらない。

「笑うな」

それでも止まらない。

ゆっくりと刀を鞘から引き抜く。

「俺の仲間を」

ようやく笑いを収めたアークデーモンがリュウトに向き直る。

その顔には、嘲りと侮蔑の笑みが浮かんでいた。

私に傷を負わせれるものか。

「笑うんじゃねぇ!!」

向き直ったままの状態のアークデーモンの首に、一条の光が走る。

後方で刀が鞘に収まる音が、彼の耳には聞こえた。

刀の名は村正。

訪れるものは死の静寂。

世界創世の時代より、悠久の時を生きてきた最強の悪魔は、頭と胴を別々の方向に転がせながら、その時間に終止符を打った。

二つの笑みを凍りつかせたまま。

リュウトはソークスを見た。

何の思考も読み取ることのできない、氷の仮面をまとう美貌の王女。

「あなたが」

彼女の下へと詰め寄りながらリュウトは叫ぶ。

「あなたが望んだのはこんな戦いなのですか?こんな不毛な戦いなのですか!!」

今やリュウトは、手を伸ばせばソークスに届くであろうところまで来ていた。

が、それ以上は進めない。

リルガミンの女王アイラスと同じ美しい顔をした女性の放つ威厳がそれをなしていた。

その迫力は、アイラスを遥かに凌ぐだろうとリュウトには思われた。

ソークスは何も言わず、目前のサムライを見つめた。

―――どれほどの時がたっただろうか。

ついにソークスが口を開いた。

「貴方には全てを語りましょう、若きサムライよ。私が何故次代の女王とならず、妹であるアイラスがその座を継いだのか。何故私がこの呪われし空間で地上に災厄を投げかけたのか、その理由を」

迷宮の主は語り始めた。

リルガミンを襲う、真の脅威について。


 ― ソークス ―


「あれは父王ディーリヒトⅡ世陛下の容態が悪化した、嵐の夜のことでした。私は寝室で、父王の無事を神に祈っていました。その時、部屋の扉を誰かが叩きました。不審に思いながらも扉を開けると、そこに立っていたのは最高司祭レイナードでした」

リュウトは記憶の糸を辿った。

二年前の謁見の間の折、自分達を奇妙な目付きで見ていた初老の男。

「彼は火急の用事と申し、私に入室の許可を求めました。私はレイナードの慌てぶりから、父王のことがひどく気になりましたが、とりあえす彼が部屋に入ることを許可しました。彼の要件とは―――やはり恐れていた通り、父王の死の告知でした。父王の下へ行こうとする私を制すると、彼は言ったのです」

ソークスは一息つくと更に続けた。

「『ソークス王女。賢明なる貴方様がご存知の通り、我国は存亡の危機に立たされております。国王陛下の死、それに他国の不穏な動き。更にこれは先程分かった事なのですが、ニルダの杖の輝きが衰えてきたというのです。ニルダの杖は、このリルガミンを外敵より守護する神器。リルガミンが今あるのも、ニルダの杖のおかげであると言っても過言ではありますまい。杖に輝きがなくなれば、長い平和に熟寝をむさぼってきたリルガミンに、外敵に処する力などあろうはずがございませぬ。一夜にしてこの街は、死者と敵兵の闊歩する墓場と成り果てましょう』と」

ソークスは眼を閉じた。

「私とアイラスは双子故、あらゆる面において同じ場合が多くありました。外見は言うに及ばず、考え方や魔法の力、政治に関する見方などが挙げられるでしょう。そのような似た能力ばかりの中、決定的に違うものが一つありました。それは、タイロッサムの前に宮廷魔術師だった男、『見抜く者』の二つ名を持つブラインシェーンが予見した、個々の本質でした。アイラスは”慈愛”でしたが、私は”災禍”だったのです。この事は一部の者しか知らない事でした。その中にはレイナードの名もありました。

彼は、『王女様。ニルダの杖は数百年に一度その輝きを失い、その都度ニルダの巫女の手により、輝きを取り戻してまいりました。ここまで申せば、私の申したいことの全てを、賢明なるソークス様にはご理解頂けると存じますが』

レイナードの言いたい事は、私には分かりました。私にニルダの巫女になれ、と言うのです。ニルダの巫女は杖が輝きを失う時に必ず現れますが、その者は王家の血に連なるものでなければならないのです。そして、その本質がお受けにとって害をなすものでなければ。私は決意しました。父王亡き後、アイラスに国政の全てを任せ、私は杖の輝きの復興に全力を注ぐと。

『ニルダの杖に輝きを取り戻すためには、巫女はその国、すなわちリルガミンにおいて最も凶々しい場所で、その命が尽きるまで神に願いを捧げなければなりません。つまり、ダバルプスの呪いの穴の中で』

私はそれらを全て了承すると、嵐のうちに出立しました。見送る者はただ一人、レイナードだけでした。激しい風と雨に打ち付けられながらも、彼が泣いているのが私には見えました。

『貴方様だけに全てを背負わせてしまって―――でも、他にどうすることもできないのです。お許し下さい。この力無き愚僧を』

私は彼に何も言わず、ただ頷いて見せました。彼の言葉を真意として信じていたからです。―――愚かにも。

ダバルプスの呪いの穴の中、その最深部で願いを捧げ続けました。国の民の事を思い、妹のアイラスの事を思い…。

ところがその日の夜、私は無意識のうちに眠り込んでしまいました。そして夢を見たのです。父王の夢を。夢の中で父王は私に言うのです。

『最高司祭レイナードが、政教一致によるリルガミンの完全支配を目論んでいる』と。

私は目覚め、その夢のあまりの生々しさに―――去り際のレイナードの悲哀に満ちた顔を思いだし、半ば信じられずにいたのですが―――驚き、思い切って呪いの穴から飛び出しました。嵐の中、レイナードの館へ転移の呪文で侵入し、眠っていた彼を起こし問い詰めました。国を支配しようとしているのか、あの涙は嘘だったのか、と。

彼は答えました。狂気を含んだ眼で私を睨みながら、

『いかにも、私はこの国の支配を目論んでいる。神の代理人たる私が、それをして何が悪いのだ!!』

私には眼の前にいる男が、すでに癒せないほど権力への渇望という名の狂気に侵されていることが分かりました。

『今、貴方が仕える、いえ、かつて仕えていた、と言った方がいいのでしょうね、その父なる神のみもとに送ってあげましょう』

そう言って大炎の呪文を唱え始めた私を、彼は慌てて止めました。

『待て、待つのだソークス王女。私を殺せば、汝が妹たるアイラス王女の命はないぞ。私の手の者が常に王女の側にいるからな。それとニルダの杖の件だが、あれは本当の事なのだ。つまり、貴方は愛する妹君や国の衆々を救う為に、死なねばならないのだ。ククク、まあそう悲観するものでもないぞ。ニルダの杖の輝きが完全に戻った時―――貴方が死んだ時だが―――アイラスはワシの妻としてくれよう。殺すのが惜しいほどの美しさ故にな』

私にはどうする事もできませんでした。最高司祭の汚らわしさと己の無力を強く感じて。

『貴方はご自身と妹君の相違点を、本質のみと思っておられるようだがもう一つ違う点がある。貴方を早めに排除したのはそのせいだ。人を引き付ける―――人間が生まれた時から持っている―――魅力が強すぎるのだ、貴方は』

私は嵐の中を彷徨い歩き、ダバルプスの呪いの穴に戻りました。地下に向けて、一層、また一層と降りて行くうちに、レイナードを呪う気持ちが胸を張り裂かんばかりになっていきました。そして、再び最深部に戻ってきた時、出て行った時にはなかった一冊の本と、この迷宮の入り口が私を待っていたのです。誰が置いたのかわからないその本は、良かれ悪しかれ、私の感情を具現化する手伝いをしてくれるようでした。私はこの迷宮に入ってからも、ニルダに願いを捧げ続けてきました。地上に生きる者の為に。そして、それ以上に呪い続けました。地上に生きるあの男を。

これが災厄の原因の全てです」

ソークスは語り終わった。

終わると同時に、激しい虚脱感が彼女を襲う。

「どうやら、巫女としての使命が終わる時が来たようです。ニルダの杖は完全に輝きを取り戻すでしょう。しかし、私の呪いは私が死してもなお、レイナードの生ある限り地上に害を与え続けるのです。杖の力で外敵は防げても、リルガミンの民たる私の呪いを妨げることは、例えニルダの杖といえどできないのです―――」

そこまで言うと、静かにソークスは息を引き取った。

玉座に身体が深く沈んでいく。

光の女王の姉、闇の王女は、地上の為に、そして地上を呪う為にその若い生命を燃やし尽くした。

大輪の花が地に落ちたように、リュウトには思われた。

迷宮世界は常に闇に包まれているが、街を出た時間から考えて地上にも恐らく夜の帳が訪れているだろう。

濡れた髪もいつしか乾いていた。

死屍累々の闇の中、一陣の風が吹く。

髪が揺れる。

風を感じながら、今自分がなすべき事、なさねばならない事の全てを知った。

そしてタイロッサムが言おうとして、言えなかった事も理解した。

仲間達を見やる。

ユラの姿こそ見えないが、他の四人が死んでいることは簡単に見て取れた。

彼らは血だまりの中に眠っていた。

永遠の眠りに。

「!!」

リュウトが振り向く。

激しい気配を感じた為であった。

そこにはバンパイアロードが立っていた。

その両腕にはユラが抱えられていた。

身構えるリュウト。

しかし、激戦の再来を制したのは、以外にもバンパイアロードの方であった。

「待て、サムライよ。私にはお前と戦う気はない」

不死の王の言葉に、瞬間リュウトが驚く。

だが、すぐに村正を収め、了承の意を表す。

「―――どうやら我主は逝かれたようだな、自らの使命を全うされて。私は彼女に心底仕えていた。アークデーモン達は召喚の書に従っていただけのようだが」

麗人はアークデーモンの死体と、ソークスがその手に持つ書物―――あらゆる怪物共や封印されし異形の者共を意のままに操ることができる能力を持つ呪われた書物―――を見ながら言った。

「彼女の気高い精神は、この私ですら従わせるに至ったのだ。憎い…彼女をこんな目にあわせた地上の者共が」

真に憎悪を込め、その両目を閉じる。

その眼からは、一筋の赤い涙が流れた。

―――あろうはずのない涙が。

リュウトはしばしの間、ソークスの事を思い、胸を悲哀に痛めた。

哀しき宿命の星の下に生まれた、闇の美姫よ、さらば―――。

「頼みがある」

バンパイアロードに声をかける。

サムライの眼には、決意が炎となって渦巻いていた。

その心は、すでに銀の月に照らし出された夜の街にあった。


 - レイナード -


「大変です、レイナード様!!」

慌しい声が聞こえる。

最高司祭レイナードは、安らかな眠りを妨げられて幾分腹を立てながらも声に応じ、寝室の扉を開けた。

そこにいたのは高司祭バスペルであった。

「何事じゃ、この真夜中に」

レイナードの問いに、バスペルは恐縮しながらも答えた。

「実は一大事が起こりまして…。先程カント寺院に、あのリュウト殿のパーティのうち五名が死体となって運び込まれたのです…!」

歓喜の想いが最高司祭の心で踊る。

邪魔者が消えた。

しかし、五名?

あと一名はどうしたのか。

歓喜の相を表に出さぬように注意しながら、レイナードは再び問うた。

「それは国家にとっても一大事。私も復活の儀には馳せ参じなければなるまい。―――ところでバスペル、残りの一人はどうしているのじゃな?」

バスペルは答えた。

「はっ…。サムライのリュウト殿がどこにも見えないのです。恐らくは…消滅されたかと…」

寺院に走りだしながら、レイナードの顔には言いようのない笑みがこぼれていた。

一番の邪魔者はロストし、その仲間達も全滅。

―――フフフ、あとは五人をリュウトと同じ目にあわせるだけ。

明らかに顔中をほころばせながら、最高位の僧侶たる者は笑った。

消えゆく愚か者達の運命を。


 - カント寺院 -


 寺院の扉を荒々しく叩く。

すぐに扉が内側に開いた。

蘇生の間は、確か地下一階であったな、としばらく来ない寺院の構造をレイナードは頭に浮かべた。

馬鹿な下級僧侶共が奴らを蘇らせる前に、奴らを消滅させるよう言わなければ。

地下の蘇生の間の扉を荒々しく叩く。

寝台の上に、五つの死体。

布が掛けられている為外傷は見えない。

が、そんなものは見えずともよい。

見てしまうとしばらく肉料理を食う気が失せる。

僧侶とは思えないレイナードの考えであった。

「おい、貴様が治療にあたる術者か」

ただ一人寝台の脇に立つ男にレイナードが問う。

「ほぅ」

感嘆の声はレイナードの口から洩れた。

下級僧侶の顔は、これまで見た全ての美女よりも、あのソークスとアイラスよりも美しかった。

その双眸は深紅の輝きを放っていた。

「私がそうでございますが」

端正な唇が動き、答えが返ってくる。

その美貌に一瞬我を忘れていたレイナードだったが、すぐに自分を取り戻した。

「私が誰だかわかるな」

「最高司祭レイナード様と、存じておりますが」

「そのレイナードがお主に命ずる。この者達をロストさせよ」

沈黙の帳が下りる。

「…何と、仰せられましたか?」

「この者達は王家に害をなす者共。よって消滅を持ち、その罪の対価を支払わなければならんのだ!」

唾を飛ばしながらまくし立てる。

おかしい。

何かがおかしい。

静かすぎる。

この男の反応もそうなら、僧侶の数が少ないのもおかしい。

それに、とうに着いてもよはずのバスペルが未だ来ぬ。

妙だ―――レイナードがその思いを巡らせた時、僧侶が音もなく彼に近寄り、異様に長く伸びた爪を贅肉の塊のような首に突き刺した。

「!?」

レイナードには何が起きたのか分からなかった。

身体が麻痺している。

眼の前の美しい僧侶を見る。

深紅の瞳が赤光を放っていた。

その唇の端には二本の乱杭歯。

―――バンパイアか。

眼も動かぬ。

鼻も口も、指先の一本すら動かぬ。

汗だけが脂肪の上をたらたらと流れていく。

なぜこんなところに。

私に何の恨みがあるというのか。

レイナードの死の恐怖は、寝台の上、布の下で蠢く五つの人影を認めて増幅した。

布を押しのけ現れたのは、ライソン・ユラ・リドン・フライド・ヴェンの面々であった。

死んでいたはずじゃ―――その思いは部屋に入ってきたバスペルの姿を見て戦慄に変わった。

彼の忠実な下僕は、今や不死を得て二本の牙を口の端にのぞかせていた。

わ、私をどうする気だ―――しかし、言葉にはならない。

「ひでぇ野郎だ。俺達をロストさせようとは」

ユラが吐き捨てるように言う。

「こ奴が主を死に追いやった張本人なのだな」

先刻まで僧侶だった、美貌の男が呻く。

何ということだ、とりあえず弁解を、命乞いをせねば―――

だが、その願いは男達には届かない。

そしてさらに続く人影を見て、レイナードは自分がどういう状態にあるのかも忘れた。

アイラス様―――。

アイラスの背後にはリュウトが控えていた。

その左手は、レイナードが放ったニンジャ三名の首を掴んでいた。

リュウトがそれを動けぬレイナードに放り投げた。

彼の運命は子供にも理解できるほど、わかりきったものになった。

レイナードは、神に来世での幸福を願った。

しかし、その願いも届けられない。

地位を金で買い、主君たる者を裏切った男。

そのような者にかける情けは、神も持ち合わせていなかった。

「最高司祭レイナード。本日をもってあなたの任を解きます。それは永遠のものとなるでしょう。そしてこれは―――」

アイラスが語りながら、左手に持った短刀の鞘を払った。

「輪が最愛なる姉君と私の怒りです!!」

短刀が最高司祭の胸に深く埋もれた。

レイナードの生命は、活動を、やめた。


 - エピローグ -


「行ってしまわれるのですね」

アイラス女王の鈴の音のような軽やかな声が、リルガミンの街の近くの小高い丘の上を流れた。


―――あれから一週間が過ぎようとしていた。

ニルダの杖は、今や完全にその輝きを取り戻し、またソークスの呪いも、その効果の対象たる男を失い地上からその姿を消していた。

リルガミンは平穏の時代を迎えようとしていた。


バンパイアロードはあの後、すぐに迷宮に引き戻ると、ソークスの亡骸を丁重に地上に送り届けた。

彼の眼はソークスの双子の妹アイラスを見、何を思い何を感じたのか。

ソークスの亡骸と共に、一通の手紙が冒険者達の元へ送り届けられていた。

『我々は別の地へ移る。二度と相まみえることはないだろうが、それなりに達者で暮らせ。できればもうお前達とは戦いたくはないからな。では―――

―――追伸 召喚の書は私が始末する。二度と人の手により我らが操られることがないように』と。


全ての事が終わりを告げた後、リルガミンの全市民にも真実が告げられた。

彼らの全てが、悲劇の王女ソークスの為に自発的に三日の間喪に服し、彼女の生き様をその全ての心に焼き付けた。

生涯忘れることのない痛みとして。

ソークスの葬儀が手厚く施された後、六人の男達もまた、女王に別れを告げた。

彼らは東に赴くという―――。


「私は貴方達のことを、生涯忘れはしません」

女王のほほを銀の筋が伝う。

彼らの姿は、荒野の彼方に小さな点のように見える。

しかし彼らが残した想い出は、この国よりも大きく、彼女の心に生涯光を投げかけるであろう。


リュウト達は馬上にその姿を見せていた。

風が快く冷たい。

誰も一言も発しない。

なぜリルガミンに留まらないのか。

誰も理由を語らなかった。

ただ、もうこの街には自分達の居場所が無い、そう彼らは思っていた。

冒険者なのであった。

心の底から。

不意に先頭を行くリュウトの馬が歩みを止めた。

後続の五人もそれに倣う。

「どうした」

ユラが笑いかける。

リュウトが皆を振り返る。

その髪をひとしずくの天の涙が濡らす。

「雨が―――」

その後は言葉に出さない。

出さずに皆に笑いかける。

「行こう」

彼らは再び歩み始めた。

見果てぬ世界に向けて。

リュウトの髪を濡らしたのは、双子の女王の感謝の涙か、それとも永遠の別れを悲しむ悲哀の涙か。


―――雨は静かに、優しく彼らを包んだ。


いつかまた会える


END

拙著を読んで頂きありがとうございました。

機会があれば、また別の作品を書いてみたいと思います。

それでは、いつかまた会いましょう!

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