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WILD COLOR  作者: 凩
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-ほら吹きジャックと輝く火炎-

長らく放置してしまい申し訳ありませんでした。

今更ながらに帰ってまいりました。

本当にすみませんでした。


 身の丈に合わぬ重武装をした状態で、尚且つ急ぎ模様――そんな状態で不意に声をかけられた坊主は、盛大につんのめった状態になっていた。

 

 これは転んだかと思ったが、坊主はとっさにドアの取っ手に手を伸ばし転倒を回避して見せる。

 


「――あっぶね、コケるかとおもったじゃねぇーか! なんだよお前!!」



「こりゃ悪かった。でもコケなかったんだから結果オーライだろ? それにそんなに焦って魔猪ってやつに向かっていたって怪我するだけだと思うぞ?」



 坊主が転ばなかったことに内心安堵しながら、俺は引き続き手元のマールムの実の皮を剥く。

 

 坊主を呼び止める口実にしたが、果物の皮むきぐらいはやろうと思えば出来る。


 この程度の作業、討伐した獣の解体作業に比べれば何でもないことだった。



「っ!? なんでお前が魔猪のこと知ってんだよ!? まさかお前も見たのかっ!?」



「いんや、見ちゃいない――坊主から聞いたんだよ、さっきイルミナって組合(ギルド)の受付嬢に話してただろ?」



「えっ!? お前あの時いたのかよ!?」



「いたよ、てか、坊主の直ぐ隣にいたんだけどな――まあ覚えてるわけねえか、あれだけ急いでたらな」

 


 話をしながら剥いていたマールムの実の皮がちょうど剥き終わった。

 

 話に注力していたせいか、皮を厚く剥きすぎたみたいで食べられる部分が結構減っちまったが、こいつは俺が買って俺が齧る為のものだ。


 アルクスあたりに見られたら、小言が飛び出しそうだなんて考えてなんとなく可笑しくなった。



「おいっ、何笑ってんだよ!! くそっ、期待して損したぜっ!! 馬鹿にすんなっ!!」



「おっと、わりぃわりぃ、ただの思い出し笑いだ。坊主のことを笑ったんじゃない」



「どうだかなっ、どうせお前もイルねーちゃんから俺のこと聞いたんだろ? そんで魔猪のことも嘘だと思ってんだろ!?」



「坊主のことをイルミナさんから聞いたのは確かだけどな、魔猪のことに関しては割とそうなんじゃないかと思ってるぜ? ついさっきまでは半信半疑だったけどな」



 小さくなったマールムの実に噛り付きながら俺はそういった。


 口の中にちょうどいい甘味が広がる――厚めに皮を剥いたのは実は正解だったのかもしれない。


 そうやって一息ついている俺に対して、重武装の坊主は拍子の抜けたような顔を向けていた。



「……な、なんだよ急に、お前何が言いたいんだよ?」



「坊主が”ほら吹き”って呼ばれてるのは聞いた、さっき言ってたことだけ聞いたら確かにそれにゃ納得だ、だけどな――」



 咀嚼していたマールムの実を飲み込んで、俺は坊主の方へと向き直った。


 改めて見直してみても妙ちくりんな格好だ――グランセルにも同じような格好して剣士の真似事をしていた奴がいたのを思い出す。


 いや、過去の俺もやっていたことだ、木の棒を聖剣に見立てて振り回していたっけか。


 だけどそれとは絶対的に違う点が一点だけ、確かにあった。



「マジ物の剣を背負って、それだけ思いつけたような顔して飛び出してきたんだ。あの飲んだくれ達の言葉を真に受けたとしか思えねぇ――お前、その魔猪ってやつに特攻しに行こうって腹積もりなんだろ?」



「――だってこうするしかないんだよ、畜生っ、俺が嘘なんてついてなけりゃ、なんだって俺は、畜生……」



「おいおい、こりゃ思ってた以上に重傷だな――、あー、まぁなんだ、そこまで必死こいてるのを見りゃ、坊主が嘘言ってないってことぐらいは分かるってもんだ」



 半べそ書きながら俯く坊主に対して、そんなことを言ってやる。

 

 冒険者組合(ギルド)聞きかじった話を改めて思い出し、そして考える。


 数舜考えてから、そして結論――坊主の話が本当にしろ、嘘にしろ、このまま放っておくのも流石に忍びない。


 正直なところ、この坊主が組合(ギルド)に駆け込んできた時から、何となく気にはなっていた。


 感ではあるけれど、俺たちが情報を集めてる試練についても、まったく無関係ではない気がする。


 とりあえずアルクス達にも話を聞いてもらって、どうするか決めようと、そんな風に俺は思った。



「坊主がそのまま魔猪とやらに突っ込んでいっても結果は分かり切ってる、お前もそれがわかってるから組合(ギルド)に駆け込んできたんだろ? とりあえず俺も冒険者だ、お前の話聞いてやるから、とりあえずついて来いよ、な?」



 嗚咽を漏らす坊主は、俺の言葉に特に何も返事を返すことはしなかったが、それでも小さくうなずいて見せた。


 俺は歩くのにさえ支障をきたしそうな坊主の片手直剣を預かりながら、同時に背中を押してやった。


 

 これでもし、この坊主のいうことが嘘だったとしたら、俺の見る目がなかったってだけの話。


 とりあえずその時は、都市(グランセル)で役者を目指すように進言してみようと、そんなどうでもいいことを考えながら、この村での宿屋(拠点)へと歩みを向けることにした。


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