-新たな手掛かり-
例の流行り病の第三波もあって、ここ数か月だいぶ生活リズムが変わりました。
ようやく慣れてきた今日この頃、止まっていた投稿を再開できればと思っております。
再開が遅れて申し訳ありませんでした。
結局、坊主のことを冒険者組合から見送った俺は、しばらくの間建屋にとどまることにした。
やったことと言えば張り出されている依頼書の内容を確認してみたり、受付嬢(どうやら名前はイルミナというらしい)から迷わずの森の試練のことを聞いてみたり。
一応飲んだくれていたメンツにも軽く酒を奢りながら話を聞いてみたりもしたが、結局のところ得られた情報はそんなに多くなかった。
そんな中でもとりあえず、聞けた真新しい話は、とりあえず二つ。
―― 一つ目はこの二年間、一日一度、ほとんど毎日"迷わずの森"に赴いて試練に挑戦している冒険者がいるということ。
名前はクロラット、単独の冒険者で等級は準六等級。
聞くところによるとこいつは"迷わずの森"の地図制作を行っているらしい。
―― 二つ目はこの村の住人の中で、アルクス達が会いに行っている奴の他に、試練を達成しかけた奴がいるということ。
名前はレナード、この村の自警団の一人で主に門番をしているらしい。
こいつに関しては試練自体には失敗しているから、話を聞く意味があるのかは分からねーが、それでも相棒なら話に食いつくかもしれないと思って記憶の片隅に留めておいた。
冒険者の話の方が有用そうだが、受付嬢のねーちゃんから話を聞いたところ、俺が冒険者組合に顔を出すちょっと前に依頼を受注してギルドを出ていったらしい。
なんでも小鬼の討伐依頼を受けて出ていったって話だから、つまりもう村から離れていることだろう。
……こっちはタイミングが悪いとしか言いようがなかった。
まあ、この村には俺たちの泊っている宿屋以外には宿と呼べる建物はないらしいし、奴も"妖精の止まり木"を拠点にしているようだから、張っていればいつかは会うことが出来るだろう。
自警団員に関しては直ぐにでも話を聞けるかもしれないが、正直こっちに関しては俺一人で訪ねてもいい情報を引き出せる自信がなかった。
とりあえず、一人でごちゃごちゃ考えていても埒が明かないと思った俺は、宿屋方向に歩みを向けながら、ブラブラと村の中を歩き回ることにした。
立ち並んでいるのは殆どが民家だが、時々何らかの店らしい建物を目にする。
時間的には昼時に差し掛かろうかというところ――流石に腹が空いてきた俺は、情報収集と同時に何か食えるものを探した。
これがグランセルの商業区なら、食い物屋や屋台の類が直ぐにでも見つかっただろうが、この村ではそれがなかなか見つからない。
適当に探して見つけた雑貨屋に入って話を聞けば、どうやら冒険者や旅人へ門戸を開いている食事処はというと、冒険者組合内の食堂か"妖精の止まり木"位のものらしかった。
それならば仕方がないと、俺はその雑貨屋で宿屋までの繋ぎとして、青々とした拳大のマールムの果物数個と干し肉一袋分を購入して店を出た。
とりあえず歩きながら干し肉に噛り付く――強い塩気に馴染みのない癖のある香草の風味を感じるそれは、グランセルではあまり馴染みのないものに思えた。
だけど決して不味くはない――否、俺的には全然アタリだった。
干し肉の方を一欠片、二欠片とガシガシ齧っていると、当然喉が渇いてくる。
俺はその喉の渇きを潤すために、マールムの実の方にも噛り付いた。
瞬間、強烈な酸味が口の中に広がり、俺は思わず顔をしかめてしまう。
「――ぶぇっ! 生で食うには青すぎたか!?」
独り言ちながら、思わず吐き出そうかとも思ったが、少し我慢して口の中でモゴモゴとしてみれば、少しして口の中に甘味も交じっていることに気が付いた。
どうやらこのマールムの実は皮がひどく酸っぱいらしいが、実の方はそうでもないらしい。
その事実が分かったなら、ひと手間加えるだけのこと――
俺は道の端へと避けて、民家の壁へと背を預けてしゃがんだ。
一先ず干し肉の袋を腰に付けたバックパックへと押し込み、代わりにバックパックの中からナイフを取り出す。
マールムの実の方は別の袋に入れてもらっていたが、その袋はしゃがんだ先の地面に袋の口を開けた状態で置いた。
皮が酸っぱくて食えないなら剝けばいいだけのこと――俺は取り出したナイフを鞘から抜いて、マールムの実へとその刃を立てようとして――そして思わず手を止めた。
別にマールムの実に、そのナイフの刃が立たなかったというわけじゃない、俺が手を止めた理由は、他のモノに注意を引かれたからだった。
そいつは俺のちょうど目の前の民家の扉を、蹴破ったんじゃないかと錯覚させるほど強く開いて現れた。
体には、体のわりに大きすぎる皮鎧、頭には何故か鍋を被り、そして取り分け目を引く背中の直剣。
見たところごくごく普通の片手直剣だった――俺の持つ魔剣と長さだけなら一緒位の剣。
だが、十歳かそこらのそいつが背負うと、長剣や大剣の類にも見えるような気がした。
はっきり言って不釣り合い、明らかにそいつの身長と獲物が合っていないようにしか思えなかった。
傍から見れば笑いさえ誘いそうなその出で立ち――だけど、長めの前髪の隙間から覗く琥珀の輝きは、その見てくれと釣り合わぬほどの決意に満ちている様だった。
それを見て、俺は思った――危なっかしい事この上ないと。
だからだろうか――
「そこの勇敢そうな剣士殿、俺はあんまり細かい作業は得意じゃねえんだ。申し訳ないんだが、このマールムの実を俺の代わりに剝いちゃくれないか?」
俺の記憶が正しければ、そいつの名前は"ほら吹きのジャック"――先ほど冒険者組合で肩を並べたばかりの坊主。
――俺は思わず、そいつに対しそんな言葉を投げかけていた。
間が空いたこともあり、あんまり長く書けませんでした。
短くてすみません。
とりあえずの補足
マールムの実はりんごをイメージしてください。




