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WILD COLOR  作者: 凩
89/94

盲目の少女との語らい(前)

更新が遅れてしまい申し訳ありません。

世の中これだけ騒がれているのに、お仕事は忙しさは変わらず。


あと、何故が小説のテキストデータを開いても続きを書けませんでした。


本当に申し訳ないですm(__)m

 ――ノルン・クレイドンは数えでようやく十になる女の子だった。


 同年代の子供たちと比べても低めに思える身長に、肩口まで伸びる灰色かかった髪の毛。


 目が見えないというハンデキャップを背負った彼女は、その外観も相まってとても儚い印象を抱かせる女の子だった。


 そんな女の子が訳三年――七歳のころに、すでに精霊王様の祝福を受けていると言われたとして、いったい誰が信じられようか?


 しかしながら現状を鑑みるに、逆にその事実を信じざるを得なかった。


 

 何故、ノルンさんは日暮れ前から森で薬草の採取ができるのか?


 何故、両目を覆った状態で歩き回ることができるのか?


 

 それらの疑問を統括して考えると、結局のところ一つの推測に行きつくのだった。

 

 ――彼女には視界を覆う今の状態でも、周囲を確認する術を持っているということ。 


 ――と、そんなことをあれこれ考えているうちに、ふと、何かが通り過ぎるような感覚を覚えた。


 その奇妙な感覚に、思わず俺は店内を見渡してみるが、特にこれと言って不可解なものは見られない。


 おまけに、周囲を伺う(その)行動をしているのは俺一人だけであったため、いっちゃんとステルラハルトさんには逆に俺に向かって奇妙な視線を向けられてしまった。


 ……――ただの気のせい、だったのだろうか?



「――ようこそ、いらっしゃいです。えっと……お三方ですね。お求めのポーションはなんですか?」 



 文字通り見もしないで、ノルンさんは俺たちの人数を見事に言い当てて見せた。


 彼女が店内に入ってから俺たちはそれぞれ、まだ発言をしていないため、声で判別したわけでもなさそうだ。


 

「……よくわかりましたね。僕たちが三人組だってこと」



「えっと、すみません。少しだけ探らせて(・ ・ ・ ・)いただきました。お初のお客様で、男性がお一人に、女性がお二人、ですよね?」



 ノルンさんが確認するように俺たちに声をかけてきた。


 その声に俺の隣に佇むステルラハルトさんの体が少しだけ動いた気がした。


 ノルンさんの行っている何らかの周囲確認方法は、そこまで精度高い術でもないのだろうか?


 でも、俺たちが初見の客であることはわかっているらしい。

 

 この誤差はいったい何なのだろう。



「人数は正解だが、性別は少しだけハズレの様だ。男が二人で、女性が一人だよ。お嬢さん」

 


「あれ? そうなんですか、私はてっきり……でも確かに、少し高いけど男性の声――、すみません読み違えた(・ ・ ・ ・ ・)みたいです。……間違えたのなんて初めて」



「何をしたかは知らないが、そこまで確認できれば十分ではないかな? 失礼だが、見た限り――その、見えてはいないのだろう?」



 ステルラハルトさんが遠慮がちにそれを聞いた。


 身体に何らかの不具合がある――それを、それを持つ本人に直接確認するのは存外にやりにくいものだ。


 例えば――俺がグランセルでお世話になったオオカミの獣人で、串焼き屋の屋台の主人であるウォルファスさん。


 俺にとっては慣れた人で、親しみやすい人だけれど――彼のことをよく知らぬ人では、よっぽどでない限り、開口一番で引きずる足のことを聞くなんてできないだろう。


 だが、俺たちにとっては聞きにくい事であったとしても、ノルンさんにとっては問われ慣れた質問だったようだ。


 存在感のありすぎる眼帯のせいで表情は読み取りにくくありはしたが、俺たちの思いとは裏腹に、彼女は確かにクスリと笑った。



「――お気遣いありがとうございます。確かに見えてはいませんが――私にとって見えない状態(これ)は普通ですのでお気になさらず――お優しいのですね」



 このタイミングで何故「優しい」なんて単語が出てくるのか――

 

 俺たちは突然のノルンさんの態度の軟化に、思わず顔を見合わせた。


 

「私たちが優しいかどうかは分かりませんが、今日ここにお邪魔したのはノルンさんにお話を伺いたかったからです。これからお店の営業もあるのは承知していますが――どうか貴方のお話を聞かせてください」



薬剤(ポーション)屋が忙しいなんて、大事な時くらいしかありませんよ。少なくとも私がお店を手伝い始めてからほとんどありませんのでお気になさらず、でも、そうですね――」



 ノルンさんは顎に手を当てわざとらしく悩んだような動作をする。


 と思ったやさき、顎から手を放し、いいことを思いついたとばかり指を突き立てた。



「――お客様たちがお店の売り上げに貢献してくれるなら何も問題はありません。毎度ありがとうございます。お客様!」



 当初の儚い印象は何処へやら――ノルンさんは弾んだ声で随分と調子のいいことを言ってきた。


 そんな彼女の様子に俺たちは再び顔を見合わせる。


 だが、ノルンさんの申し出は正直渡りに船と呼べるものでもあった。


 只より高い物はない――なんの対価無しに、ノルンさんを長時間拘束するのは心苦しいものがあったからだ。


 苦笑を浮かべるいっちゃんと、肩をすくめているステルラハルトさんに目配せしてみても――どうやら問題ないらしい。



「それでは先に購入してしまいましょう――おすすめのポーションはありますか? 店員さん」



 口元を見ての判断だったけれど、俺のその言葉を聞いて、ノルンさんは出会って中で一番の笑みを浮かべて見せてくれた気がした。





■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■





 購入したポーションの瓶を紙袋に纏めてもらい、一先ずお店のカウンターに保管。


 その状態になってやっと、俺たち三人はノルンさんの先導を頼りにお店の奥へと案内されることとなった。


 先ほど大らかなおばあさんが消えていった店の奥――そこには長年にわたり使い込まれたのがわかる、年季の入ったリビングの様な空間があった。


 それなりの広さに思える部屋に、その部屋の割には小さめのテーブル。

 

 そしてそのテーブルの片隅には、先ほど店舗の方で会ったおばあさんが着いておりおり、背を丸めながらお茶らしいものを飲んでいた。



「おばあちゃん、ただいまっ」



「――はいよ、お帰りノルン。それとさっきの坊やたちも、入ってくるまでに随分と時間がかかったねぇ、お茶が冷めちまったよ」



 見ればテーブルの上にはおばあさんが手にしている者と同じようなカップが、俺たちの人数と同数用意してあった。



「お茶を用意してくれてたんだ、お客様たちが沢山ポーションを買ってくださったから、ちょっと時間がかかっちゃって――ごめんなさい」



「おやまぁそうなのかいあんたたち、それならちょうどいい、もっといい茶を用意しようかねぇ――ノルンよ、お客様の相手をしていなさいな、あたしゃ湯を沸き直してくるでねぇ」



「――あ、いえ、どうぞお構いなく」



「若いもんが遠慮をしなさるな、直ぐだから気にしなさるな」



 杖をついているにも関わらず、おばあさんは思いのほか軽やかな足取りでさらに奥の部屋へと消えてゆく。


 そうするとこの場は窓の外から微かな喧騒の音が聞こえる以外にない、とても穏やかな空間となった



「『ノルンちゃん、貴方、ご両親は?』」



「……私が物心つく前には、もう」



「『っ、ご、ごめんなさい』」



「――いいえ」



 気まずそうに誤るいっちゃんに、ノルンさんは別段気にした風もなく部屋の中を進んだ。


 先ほどポーションを購入した際に聞いたが、どうやら彼女は全盲と呼ばれる状態であるらしい。


 にもかかわらず彼女は手荷物薬草入りの籠を棚へと置くと、実にスムーズな足取りで小さなテーブルの片隅へと近づき、そばにあった椅子へと腰かけた。


 ――そこに不自由さは見られない。


 勝手知ったる我が家故、部屋の内装を把握しているが故と言われればそれまでなのだが、そういえば彼女は全盲という割に杖すら持ち合わせていないことを、少し疑問に思った。



「昔この村で疫病が流行ったと聞いています。掛かると七日間にわたり高熱にうなされる厄介な病だったとか……お父さんもお母さんも薬師でありましたから、治療に奔走してうつってしまったらしいです」

 


「……そう、だったんですか、立派な方たちだったんですね」



「――ええ、顔も全然覚えていませんけど、尊敬はしています。目は見えなくなっちゃいましたけど、私も助けてもらった一人ですから」



 思わず俺たちは息を呑み――この家の状況を大まかにだが理解した。


 なるほど、確かにそれなら奔走もするだろう――ほかならぬ愛娘を助けるためだったのだとしたら。


 ――俺は思わず両目を閉じて、顔も知らぬ彼女の両親に冥福を捧げた。



「……困りました。お兄さんたちとってもいい人みたいです。せっかくポーションをたくさん買っていただいたのに、これじゃあ何も話せません」



 本当に困ったような声で、唐突にノルンさんはそんなことを口にした。


 その声に俺は目を開ける――



「……僕たちがここに来た理由、分かってたんですね」



「――今まで何度も同じふうに私を訪ねてくる人がいました。初めてのお客様でおばあちゃんじゃなくて、私を訪ねて来る人は全部おんなじです」



「そうなのか――ちなみに一応確認したい。これは「妖精の止まり木」の娘さんから聞いたんだが、試練達成の条件を知ると試練を受ける資格を失うという話だが、それは本当なのかい?」



 ステルラハルトさんの質問に、ノルンさんはゆっくりと頷いて見せた。



「それじゃあ、君が試練を受けた時の状況の一部を教えてもらうのは?」



 今度は首を横に振るノルンさん。


 先ほど確かに、彼女は何も言えないと口にしていたが、正しく本当のことらしい。



「……試練に関するすべてのことに関して黙秘か、一部でも耳にすればそれが試練達成のヒントになってしまうということなのかな」



 ノルンさんの返答を聞き思案に入るステルラハルトさん。


 

「実は、いつもだったら試練の一部を話すくらいなら問題ないんですけど……」



「ん? それはどういうことだい。それだと私たちは例外のように聞こえるのだが」



「今朝、薬草を取りに森に入ったとき、精霊王様に言われたんです」



「えっ!? 精霊王様にお会いしたんですか!?」



 思わず話に割って入ってしまう俺――



「? 精霊王様にお会いすること自体はそんなに難しい事じゃないですよ? 私が森に入れば大体会いに来てくれますし。他の村人の人も村の中でたまに見かけるって言ってました」



「えぇ……?」



 ……――精霊王様?



「……そんなに気軽に会えるんですか?」



「あ、でも、冒険者の方とか、村の人以外の人の前にはあんまりおいでにならないみたいですよ。でも逆に村人のところにはたまにいらっしゃるみたいで、よくいたずらしたりしてるみたいです」



 ……――まるで気まぐれな猫みたいだ。


 思わず、精霊王様に抱いていた荘厳なイメージが崩れてしまいそうになった。



「そ、それで、精霊王様は、なんて?」



「えっと――今日私に会いに来る人がいるっておっしゃってて、その人がいい人そうだったら試練については何も話さないようにと、そうじゃなかったら好きにしなさいって」




 ――どうやら、すでに精霊王様によって釘を刺されていたらしい。


 俺はノルンさんの言葉を聞いて思わずこめかみを指先で軽く押下した。


幸いというか何というか、GWは家に引きこもるしかないみたいです。

できれば連休中にもう一話アップしたいなぁと考えております。

確約はできないですけど……

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