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WILD COLOR  作者: 凩
88/94

――クレイドン薬剤店にて

毎回誤字報告をしてくださる方、誠にありがとうございます。

一応投稿前に確認しているつもりですが、またありましたら、申し訳ありませんが気軽に教えていただけると助かります。


来年もよろしくお願いいたします。


 テッドとフリーデルトさんと別れた俺たちは、予定通り祝福の試練を達成した人物がいるであろう場所へと向かった。


 あのおしゃべりな宿屋の店員さんから聞き出した場所はこのマグス村の最奥にして、迷わずの森の間際にある商業店であった。


 店の名前は「クレイドン薬剤(ポーション)店」というらしく、その名の通りポーション等の薬剤を調合、販売しているお店であるらしい。


 

 ――細かい場所までは聞いていなかった俺たちであったが、どうにかさほど迷うこともなく、目的の場所にたどり着くことができた。



 お店の前に立つ看板の文字は少しだけ掠れていて、随分と年季を感じる。


 肝心の建物の方にも森から伸びた蔦が壁に張り付いてた。


 そんな装いをしていても、屋根から突き出る煙突から黒煙が吐き出されている様子から、人の気配はしっかりと感じられた。


 店の入り口である扉には確りと「CLOSE」の文字が入った看板が吊るされているのは、早朝であるが故のことだろう。


 それでも中の住人は既に活動しているらしいし、入り口も鍵はかかっていないらしいので、失礼を承知で中に入ることにした。



 ――カランッという鐘の音が、扉が開くと同時に響く。



 それほど広くない店内には少しの商品棚と小さなカウンターを備えていて、少なくともその空間の中に人影は見えなかった。


 カウンターの奥には更に扉があって、半開きになっていた。


 

「――すまないねぇ、扉にも出ていたように、まだ開店前じゃて。急ぎの用かぇ?」



 ――そんな扉を通して声だけが聞こえた。


 どうやら声の主は、俺たちのことを来店を告げる鐘の音で気が付いたらしい。

 

 聞こえてきた声にも、先ほど目にしたこの店舗同様年季を感じる、厳しさのあまりない老婆のそれ。


 とりあえず俺は、邪険に扱われていなさそうことに安堵しながら、その声の主へと半開きの扉越しに返答を投げかけた。



「――朝早くに訪れてしまって申し訳ありません。重ねて開店前の忙しいところ申し訳ありませんが、ノルンさんとお話しできないでしょうか?」



 ノルンとは、宿屋の店員さんから聞き出した、件の祝福を受けた人物の名前である。


 俺はできるだけ丁寧に声の主に問うてみた――まぁこの問いかけの仕方で本当に丁寧になっているかと聞かれれば、少しだけ不安は残る。


 余計な心配なのかもれしないが前の世界(転生前)でもあまり使ったことのない言い回しであったのだから尚更だった。



「――おやおやノルンに用事かね? あの子ならもう少しで森から戻ると思うがのぅ」

 


 だが幸いなことに、そんな拙い俺のなんちゃって丁寧語に対して、半開きの向こうにいる声の主は特に気にした様子はなかった。


 ギシギシと床板がきしむ音と、カツンカツンと何かが床を打つ音が近づき、半開きの扉が僅かに音を立てながら開いた。


 ――少しだけ曲がった腰、手に持つのはそんな腰を支えるための杖、微笑みによって深く刻まれたように見える皺のある、穏やかそうな印象のおばあさんがそこにいた。


 

「おやおや思った通り、ここいらじゃ見ない子たちだねぇ」



「はい、この村には昨日からお世話になっています。少し森や精霊王様のことについて伺えたらと思いまして来たのですが……、ノルンさんは何故こんな朝から森に?」



「ほー、それはそれはこんな辺鄙なところによぉおいでなすって。見ての通りこの店は薬剤(ポーション)店じゃ、あの子には薬の材料を取りに行ってもらっているんじゃて」



「確かにあれだけ広大な森であれば薬草の類も豊富そうだが、あそこは普通の森ではないだろう? 二時間(ホーラ)前となれば完全に日も出ていない――ご婦人、流石に外敵のいない迷わずの森とはいえ、日の出前から森に入るのは危険なのではないか?」



 ステルラハルトさんが俺に代わっておばあさんに質問を投げかけた。


 迷わずの森は、入ったら必ず二時間(ホーラ)の間強制的に加護か祝福の試練を受けさせられる魔法の森である。


 ちなみに今は前の世界(前世)でいうところの朝八時位の時間帯――そうなると、もうすぐ戻るというおばあさんの言葉が正しければ、ノルンさんは朝の六時台に森に入った計算となる。


 いくら外敵のいない森とはいえ、流石に薄暗い状態で踏み込めば、何があるかわからない。


 だが、そんなステルラハルトさんの問いかけに対し、目の前のおばあさんは一瞬はてっ、と言わんばかりに首を傾けたかと思うと手のひらを打つ動作をした。



「お前さんたちは昨日この村に来たばかりだったねぇ、なら知らないのも無理ない――あの森は精霊様(・ ・ ・ )の祝福( ・ ・ ・)を授かった( ・ ・ ・ ・ ・)ものには( ・ ・ ・ ・)寛容( ・ ・)なんじゃよ。好きな時に出入りでき、危険な獣にも出くわさないのじゃ、薬師にはこの上ない場所じゃて」



 ここにきてさりげなく新たな情報が出てきた。

 

 まさか、風魔道の増強(ブースト)という効果の他にそのような特典要素があるとは知らなかった。


 ただ、この特典は正直このマグス村に住む者にしか利になる要素がないというのが、広まらない一因のような気がする。


 もし精霊王様の祝福をよそから訪れた冒険者が得た場合、外敵がいない――すなわち討伐依頼がない森というのは正直旨味が少ない。


 採取等の依頼もあるだろうが、精霊王様の祝福を求める冒険者とはすなわち、力を求める冒険者である。


 そんな冒険者であれば、祝福を得られた場合、危険のない森へなど下手をしたら二度と踏み込むこともないだろう。


 だが、その情報があるならばノルンさんが薬草を気軽にとりに行けることにも納得である。


 彼女にとってみれば本当にただの薬草採取でしかないのだ。



「……今までにも何度かノルンに会いに来た者がおったが、大体が冒険者の類じゃった。お主らは少し毛色が違いそうじゃな」

 


「いえ、多分そんなに変わりませんよ、僕たちもノルンさんにあわよくば助言をもらえればと思ってお邪魔しているだけですので」



「ほっほっほ、そこで助言(・ ・)を求めてくるのがもう違うのじゃよ、――どうやら孫は帰ってきたようじゃ、お主らなら問題もないじゃろう、話を聞くなら中に入るとええ」



 それだけ言うとおばあさんは踵を返し、カウンターの奥の扉へと再び姿を消した。

 

 ただ、先ほどは半開きだったその扉は、今度は完全に開かれている。


 おばあさんの言っていた()というのは、この先のおそらくは住居スペースのことなのだろう。



「……お客様、ですか?」



 今度は俺たちの後ろ――先ほど俺たちが入ってきた店の入り口側から控えめな声がした。


 なんともなしに揃って振り返る俺たち――そこにいたのは思いのほか背の低い女の子だった。


 腕には野草が入っているバスケット、フード付きの茶色い外套を身に着ける十歳を少し過ぎたくらいの女の子。


 特に変哲のなさそうに思えた女の子はしかし、一所がとにかく剣呑で俺たちは揃って直視した。



 ――彼女の両目は光通さぬ真っ黒な眼帯で覆われていた。



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