祝福の試練の場合
先週思いのほかやることがあって投稿遅れました。
本当に申し訳ありませんですm(__)m
休みが欲しい(´;ω;`)
とりあえず、俺たち四人は互いに手をつなぎ森へと向き直る――
少ない前情報では、この迷わずの森では強制的に単独行動を取らされるのだという。
故にこの手をつなぐという行動自体は、その情報の真偽が確かめられるという事位しか意味がないのだろう。
それでも無理やり理由をひねり出すとするならば、それぞれの不安を和らげるためと言うのが挙げられた。
右から順番にテッド、俺、いっちゃん、そしてステルラハルトさん。
俺が繋いだ手は、左右どちらも明確に分かるほどしっとりと湿っていた。
否、もしかしたらこの湿り気は俺から分泌されている物だったのかもしれない。
隠すつもりはないけれど、知られるのは若干恥ずかしい――かく言う俺も実は結構緊張しているのだ。
未知なるものに畏怖を抱く、それは常人ならば当たり前のこと。
いくらこれから踏み入れようとする場所が危険ではないと分かっていたとしても、その条件反射ともいえる感情の起伏を抑える事は、余程特別な訓練でも受けていなければ無理からぬことであるのだろう。
手を繋いでいる以上、少なくとも両隣にいる人物たちに緊張を隠すことは出来ないのだろうけれど、俺は出来る限り平常を装って声を絞り出す。
「――さて勇者様、出発前に気合の入る一言でも頂けますでしょうか?」
「『ぅえっ!? 何いきなり! あ、私そういうの苦手なんだけど!?』」
ハトが豆鉄砲喰らったような顔をして、俺の方を見るいっちゃん。
だが、あえて俺はそんな彼女に視線を合せなかった。
「まあまあ勇者様、良くも悪くも貴方様は私たちの中心人物です。なれば出発前の号令を発する事も今後増える事でしょう。予行練習だと思ってやってみてください」
いっちゃんを挟んだ向こう側からステルラハルトさんの落ち着いた声が聞こえる。
流石と言うべきか俺の虚勢などとは違い、彼の声からは緊張など感じ度れなかった。
微かに聞こえる深呼吸の音――
そして不意に彼女と繋いだ手の力が少しだけ強くなるのを実感した。
「『――初めに言っておきます。皆さん協力してくれてありがとう。それじゃあ、適度に一生懸命頑張りましょっか!!』」
――それは本当に久方ぶりに耳にした、彼女特有の口癖の一つ。
片意地張らずに、出来る限りベストを尽くす――そんな彼女の姿勢。
そしてその言葉を合図に、俺たちは森へと大きく一歩踏み出す。
踏み出すと同時、俺もいっちゃんの掌を少しだけ強く握り返した。
数瞬後には、強制的に離れてしまうことは分かっていたけれど、それでもそうせずにはいられなかった。
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体感時間はほんの一瞬――そして、その感覚はきっと間違ってはいないのだろう。
両手には少しだけ温もりが残っていたが、構うことなく握りこんだ。
あたりを見渡せば――なるほど確かに少ない前情報通りの光景が広がっていた。
生い茂る立派な木々と、葉の隙間から降り注ぐ木漏れ日の光。
足元には人一人が不自由なく通れる踏み固められた道があった。
後ろを確認してみれば、その道は木々の隙間を一本だけ通っている。
次いで前を改めてみてみれば大きな木を目印のようにして、その道は二つに分かれていた。
――とりあえず、暫くあっちこっちと視線を巡らせてみたが、他には目ぼしい情報特になし。
思わず腕を組んで思考を巡らす。
……――これは、どちらかに進めという事なのだろうか?
{――クススッ、うん、とりあえずその認識で構わないよ}
――それ声は、聞こえたと言うよりも、響いたと表現した方が正しい様な気がした。
甲高い、二次性徴前の子供のような良く響く声音。
迷わずの森に踏み込んでそうそうにかけられた第一声、この声の主はまず間違えなく――
「――風の精霊王様で、お間違え無いですよね?」
{クススッ――大正解! 如何にも僕は確かにそう呼ばれる存在だ‼ って、あれぇ? なんだがあんまり驚いている風じゃないねぇ? こんな風に話かけられたら、大体ビックリするんだけどなぁ}
「ご期待に沿えなくてすみません。知り合いの精霊が同じように話しかけてきたものですから、多少慣れているのです」
{クススッ――へぇ、精霊たちに知り合いがいるなんてそりゃまた珍しいねぇ}
そう、精霊王からかけられた声は、嘗て助けた水妖精のそれとまず間違えなく、同じ原理のモノだった。
所謂、精神感応というやつだ。
「それで風の精霊王様は何故僕にお声がけを?」
{クススッ――別に深い意味はないよ、ただ、この森に踏み込んだ知性ある生き物には決まり事を簡単に説明してあげているのさ、最初の一回に限りね、クススッ――僕って優しぃ}
何処までも無邪気に聞こえる甲高い声――俺は思わず警戒心を高くする。
{君に課す試練は実に単純明快だよ――君の目に映る何れかの道を進んで、進んで、進んで、進んで――この森のどこかにいる僕を見つける、たったのそれだけ!!}
一息に捲し立て立てるように響いてきた音、そして最後にクススッと特徴的な笑い声が届いてきた。
「……質問しても良いですか?」
{クススッ、物分かりが早いねぇ、面白いから一つだけ答えてあげるよっ! さぁさぁよくよく考えてっ! はい、じゅう、きゅー、はち、ななっ――}
「ッ!? そ、それじゃあ一つ、この試練でやってはいけないこと――えっと、禁止事項は何かあったりしますか?」
試練を乗り越えるにあたりもっと効果的な質問があったのかもしれないけれど、急に始まったカウントダウンのせいで考えが纏まらず、本当に咄嗟に俺はそんな質問を絞り出した。
{クススッ、なんだいなんだいその質問は? それなら聞かれなくても言うつもりだったよ? 制限と言う制限はなし、何をしても良いよ、君の出来る全てを使っていいよ? 出来るものならね}
最後の最後、何とも含みのある物言いに、俺は思わず首を傾げた。
しかし風の精霊王はそんな俺に関わらず、ただただ楽しそうに、愉快そうに声を響かせた。
{クススッ、楽しみだなぁ、楽しみだなぁ――君は僕のところまで来れるかなぁ? さぁさぁゲームスタートだ。力が欲しけりゃ此処までおいで?}
その言葉が最後だった。あの特徴的な響く声音は、もう俺の頭の中には響いてこなかった。
つかみどころのない声音、まるで子供の様な言動、正直今のやり取りにどんな真意が隠されているのか、正直全く分からない。
取りあえず何をしても良いという事なので、少しでも情報を集めようと思い立ち、俺は魔力を練り上げた。
用意するのは青色の魔力、思い浮かべるは空間把握用の御馴染みの術式――
『――霞の衣っ?!』
お決まりの魔導名を『日本語』で唱え、それを切っ掛けにして周囲に霞が展開――されなかった。
否、それ以前に青色の魔力を練り上げる事が出来なかった。
『おいおい、嘘だろっ!! 風刃っ! 颯爪っ!』
――緑の魔力もだめ。
『っ、飛炎っ、火達磨っ!!』
やはりと言うか、赤の魔力も練り上がらなかった。
魔導が使えない、その事実に愕然とする。
そして、俺は唐突に理解する――風の精霊王の最後に発した不可解な言い回しの真意を。
「出来るものならって、こういう事かよっ!?」
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…………
結局この日俺は、魔導の使えぬままたっぷり二時間、情報収集を兼ねて、制限時間いっぱい迷わずの森を迷い歩いたのだった。




