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WILD COLOR  作者: 凩
75/94

過去の清算(前)

更新が遅れて大変申し訳ありませんでした。

活動報告にも書かせていただきましたが、PC故障に伴う復旧作業に手間取っておりました。

ノート型のPCを使用していた為、故障したHDDの換装が面倒くさくて大変でした……


皆さん、PCのバックアップは小まめに取ることを強くお勧め致します。




 マルクス学園を後にした俺は、一人街中を歩いていた。

 歩くのは冒険者ギルドや商業区域の集中している東の大通りなものだから、結構な人が行き交っている。

 

 俺はそんな人ごみの中を歩きながら、旅をするのに必要なモノを思い浮かべてみた。


 まず第一に必要なのは食料だろう。

 基本的に魔王討伐の旅は、魔王がいるという暗黒大陸を最終目的地として移動していく事になる。

 移動は国が用意してくれるという馬車を用いるが、当然街から街の移動にはそれなりの時間を要するため、野宿をする機会も多いにあるだろう。

 となれば、必然持ってゆく食料は保存の効く物にしなければならない。

 

 まぁ、飲み水は魔導で何とでも出来るから、そこを多めに用意しなくてもいいのは楽なのかもしれない。


 同じ理由で火の心配もあまり必要ないと言えるだろう。

 俺も赤の素養を持っているし、そもそも旅に同行すると言い張っているテッドは火属性のエキスパートだ。

 それにステルラハルトさんだって、上位属性の雷を有しているのだから、着火については殆ど困る事は無いだろう。


 

 否、それでも元素鉱石くらいは持って行った方が良いのだろうか?



 元素鉱石は魔石の下位互換ともいえる鉱石で、地下資源として割と簡単に出土する物質である。

 それ自体が魔力を秘めており、強い衝撃を加えると簡易的な魔導を使うことが出来ると言うものだった。


 例えば火元素鉱石を地面に叩きつければ、それだけであっという間に焚火が発生するわけだ。


 この場合のメリットは、()の素養を持っていなくても、火が起こせるという事の他に、薪を必要としないという事だろう。

 

 あまり考えたくはないのだけれど、もしも不測の事態が起こって、いっちゃんが単独行動をしないといけなくなってしまったら、彼女には現状火をおこす術がない。

 若しくは俺たちの何れもが魔力切れとなってしまっても、同様に火が起こせなくなってしまう。


 備えあればなんとやら、思い浮かぶものくらいは買い付けておいた方が良いだろう。


 後は、せっかくラディウスさんに色々な魔導具を貰ったのだ。

 それを活かすために、細工用の材料も欲しいところだった。


 食料品店、雑貨屋、魔導具屋、武器屋、細工屋――考えれば考えるだけ、行かなくちゃいけない場所が増えて行く。


 まぁ、考えているだけでは何も終わらないし、とりあえずは一番近い雑貨屋(ストレイキャット)にでも行ってみよう。


 ――そんな事を考えながら、俺は自然と進路を変更させた。


 しかしながら何と言うか、人の行き交う往来で考え事をしながら歩いていた俺は、その時確かに注意力が散漫な状態だったと言えるだろう。


 前は確り見ていたつもりだったけれど、流石に右横下方から結構なスピードで迫り来ていたそれらに気が付くことは、俺には出来なかった。



「――うぐっ!?」



「「わふっ!!」」



 感じた衝撃は続け様に二つ――どちらも似た様な呻き声を上げて地面を転がった。

 痛む脇腹を片手で押さえながら衝撃の原因へと目を落とせば、大きな白と黒の毛玉が二つ石造りの地面の上に転がっていた。


 幸か不幸か――俺にとってみればぶつかられたのは少しだけ不運で、この毛玉達にとってはぶつかったのが俺だったのは少しだけの幸運。


 俺は慌てて起き上がろうとしている毛玉達と視線を合わせるために片膝を着いてしゃがんだ。



「ゴメンね、ちょっと考え事してて気が付かなかったよ。二人とも大丈夫? 怪我とかしてない?」



 可愛そうに、頭上に備える可愛い耳は揃って伏せてしまっている。

 恐らくまだぶつかってしまった相手が俺だと認識出来ていないのだろう。


 だが、そんな彼らは声をかけた相手が俺だと解るや否や、伏せていた耳をピンと立て、序に尻尾をブンブンと振りながら俺へと寄ってきた。



「「アルにーちゃんだっ!!」」



「こんにちは、ウルフィー君、リルちゃん、その様子を見ると大丈夫そうだね。よかった」



 二人の頭を撫でる――色見は殆ど正反対の二人だけれど、撫で心地だけはほとんど全くそっくりだった。


 黒い毛玉がウルフィー君、そして白い毛玉がリルちゃん、見てくれは中型位の犬なのだけれど、二足歩行する彼らは狼の獣人で、串焼き屋の屋台の亭主、獣人のウォルファスさんのお子さんたちだ。


 以前屋台の手伝いをした時に、お父さんの仕事についてきた彼らと顔を合わせたのが慣れ初めで、以降何度か合っているうちに仲良くなった。

 

 ウォルファスさんのお子さんにしては随分と人見知りみたいで、初めのうちは会えばすぐに物陰に引っこんでいたのが懐かしい。

 そんな毛玉ちゃんたちは、今ではこうして尻尾を振りながら俺へと近寄って来てくれるのだから嬉しい限りである。



「随分急いでたみたいだけど、何処かいくの?」



「今日はね、お父さんと一緒にお買い物なの!!」



「なあなあ聞いてよアルにーちゃん! とーちゃんってばかーちゃんに蹴っ飛ばされてたんだよ! 「休みなら家の仕事の一つでも手伝ったらどうなんだいっ」って」



「ウォルファスさん……」



 ……なんだか聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。

 意外と言うか何と言うか――見た目物凄く獰猛そうなウォルファスさんだけど、あの人って家では奥さんの尻に敷かれてるんだなぁ……


 否、どの世界においても母は強しという事なのだろうか?


 そんな事と一緒に、俺は前世のおっとりしているけれど怒ると怖い母さんと、陽気で優しい父さんの姿を不意に思い出した。

 そういえば前世の母さんも、よく父さんの事を上手く言いくるめてこき使っていたっけ。

 ――あの人たちは健やかに過ごしているだろうか?


 そんな事を考えていると、不意にしゃがんでいた俺と毛玉ちゃんたちを覆う程の大きな影が差す――



「すまねぇなにーちゃん、うちの悪ガキたちが迷惑かけた――って、なんだアル坊じゃねぇか」



 ――どうやら件の馴染みの獣人も現れたらしい。

 俺は改めて立ち上がり、灰色の其れと対峙する。

 俺も随分身体的には成長してきたと思っているけれど、それでも目の前のその人は見上げなければならない程の巨漢。


 眼光は相変わらず鋭く、ともすれば畏怖の感情を抱いてしまうかもれいないが、相反するように内情は非常に陽気で気さく。

 此方に牙を見せて二ィっと笑うその獰猛な顔は、見慣れてしまえば愛嬌さえ感じるのだから不思議だ。



「こんにちはウォルファスさん。休日だというのにお疲れ様です」



「おうっ、つーか久しぶりだな、偶には店手伝いに来いよっ! っと、お前さんもう最上の(アーク)騎士(ナイト)様なんだったな、こりゃおいそれと店番頼むわけにもいかねぇか」



「そんな寂しいこと言わないで下さいよ。今まで通りでいいですから」



「――そうは言ってもなぁ」



 言いながら鼻先をポリポリと引っ掻くウォルファスさん。

 人類の為勇者様と共に魔王と戦う騎士――確かに最上の(アーク)騎士(ナイト)の役割は言葉にしてみれば大業だろう。

 粗雑な態度なれど、そんな役割の俺に対し、彼は彼なりに誠意を示そうとしてくれているのだ。


 

「それなら僕は、敢えてお店を手伝いに行かせてもらいます。貴方に受けた大恩を返しきれたとはとても思いませんからね」



「おいおい大恩って、まさかあの金の事を言ってんのか? それこそ気にしなさんな、第一お前さんが自分から色まで付けて返しに来たじゃねぇか」



 ウォルファスさんの言うところの”あの金”とは、他でもない、彼が、彼らが俺の為に出してくれた学園の入学金の事だ。


 お金自体は実入りだけは良い冒険者稼業で稼ぐことは出来たし、最近思わぬ大金が入ってきたことによって、借りたお金の全てを返すことが出来た。


 当の出資者たちは寄付のつもりだったようで、返しに行ったらかなりビックリしていたのは記憶に新しい。


 ――閑話休題(それはともかく)



「お金を返してハイ終わり、という訳にはいきませんよ。あれが有ったから今の僕はこうして有る。最上の(アーク)騎士(ナイト)になれたのは他でもなく、ウォルファスさん達のおかげなんですから」



「――お前さんも頑固だな。全くロニキスさんそっくりだ」



「そりゃあ息子ですから、それで、どうします?」



 俺は敢えて主語を交えず、不敵に笑みを浮かべながらウォルファスさんへと問いかける。

 これ以上は何を言われても、あらゆる事をこじつけて、屁理屈をこねて言い負かすという意気込みを視線に込めて見つめ返した。


 そんな俺の態度に、ウォルファスさんは呆れたように大きく溜息をつき、頭を掻いた。



「勘弁してくれ、俺はお前さんみたく考える事は得意じゃねぇんだよ。――分かった分かった。降参だ。お前さんが本当に空いてる時でいいから、また店番手伝いに来てくれよ」



「はいっ、喜んで」



 気が付けば往来にも拘わらず、俺は自然と大きな声で返事をしていた。


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