科学の片鱗
投稿が遅れて申し訳ありません。
九月は全く投稿できなかったわけですが、リアルが影響していた訳でございます。
取りあえず忙しい時期は乗り切りましたので、更新頻度はあげられると思います。
……もう少し短いスパンで投稿できるように頑張ります。
一日一字を記さば一年にして三百六十字を得、一日一時を怠らば、百歳の間に三万六千時を失う。
――ふと思い出して見たものの、これは一体誰が言った言葉だっただろう。
前世であったことは間違いないけれど、最早俺の記憶領域にはこれっぽっちも、その名言を残した人物や詳しい意味は残っていなかった。
それでもその言葉自体を覚えていたのは、字面から何となく分かる意味に少なからず思うところがあったからなのだろう。
どんな小さな事でも続けていけば大きな事に成り、続けて無ければ思った以上に大きなモノを失う。
多分それはそんな意味だったと思う。
――とは言えそんな事を思いつつも、俺がいっちゃんに課した魔力運用は決して小さな事ではないのだろう。
数日間とは言え、文字通り(俺が)血反吐を吐いて、魔力運用というそれ一点に注力して経験を積み重ねているのだ。
見る人から見れば苦行とも取れるかもしれない、そんな行い。
だけど、何度も何度も叩かれ、磨かれ――練磨し創造されたその技能は確かな礎となっていた。
昨日の時点で、いっちゃんの魔力運用の誤差率はプラスマイナス0.5パーセント程度まで精度を高めていた。
欲を言えば0.1パーセント程度の精密度があれば文句なしだけれど、今でも十分及第点だと思う。
否――そういえば現在のいっちゃんの魔力運用レベルは、俺の十歳くらいの時と同じくらいだったことをふと思い出す。
魔導に本格的に触れ始めたのが五歳の時分であったから、五年間の修練の果てに成果だった。
それと今のいっちゃんが同程度なのだから、果たしていっちゃんの成長度に驚愕すればよいのか、それとも俺の成長速度の遅さを嘆くべきか……
……深く思考すると落ち込んでしまいそうなので、俺はそこまでで思考することを切りやめた。
そういう訳で、いっちゃんへの魔力運用と、簡単な身体強化魔導及び属性魔導(いっちゃんへは光の属性)のレクチャーを終えた俺は、ひとまずもう一人の最上の騎士へバトンタッチ。
これより旅の出発までの十日間程度の期間、魔導運用のレクチャーから、戦闘訓練のレクチャーへシフトしてゆくとこと相成った。
そもそも、初めに魔力運用を身に付けたのは、いっちゃんが戦闘をする上で最低限身に付けておかねばならないことだったが故。
いっちゃんが使う主武装は聖剣である。
聖剣はオーソドックスな片手直剣だが――はっきり言おう、召喚直後のいっちゃんには俺と同じく、剣を使うだけの素養が全く足りていなかった。
剣を振り回すだけの筋力がまるで足りない、いっちゃんが火の妖精王より加護を受けた後ならばまだしもなのだが……
考えても見てほしい、普通の女子高生でしかない彼女が、いきなり二キロ近い重さの片手剣をブンブン振り回せる訳が無いのだ。
だからこそ、彼女に真っ先に必要になったのは、体を魔力で強化し、剣を振るえるようになることだった。
その最低条件がクリアできたために、武具を用いての戦闘訓練に切り替わったのである。
とは言え、ナイフならまだしも剣となれば俺が教えてあげられる事はほぼほぼなく、悲しいことながら武具の扱いに長けたステルラハルトさんに任せる事になった。
互いの負担を考え――魔導関連は俺が、武道関連はステルラハルトさんが教えるという分担。
そして、手の空いている者は主に旅の準備を進める手筈となっていた――まぁ、妥当な処だろう。
そんな訳もあって、本日俺は何時もより少しだけ遅く起床し、真っ先に城には赴かなかったわけだったが――旅支度をするではなく俺は自分の学び舎へと赴いていた。
目指す先は俺が結構な頻度で入り浸っている場所――ラディウスさんの魔導研究室。
あの魔導武具大会の決勝戦直後、部屋を訪れろと言われていたことを、今更ながらに思い出したからだった。
……――さて、ついに目的の部屋の前に到着してしまった訳だが、正直言うと戸を開くのが凄く気まずかった。
何せ部屋に来いと言われて実に二十日間以上もの時間が経過してしまっているのだ。
色々忙しかったというのもあるが、何より俺自身が忘れてしまっていたというのが気まずさに一層の拍車をかける。
部屋の扉の取っ手に手をかけ、何もせず下ろすという動作を繰り返すこと数度。
……――部屋の主が怒っていたらどうしよう。
「――とりあえず、そこに居られると私も部屋に入れん、さっさと中に入っていくれると嬉しいのだが」
――突然背後から投げかけられた言葉に、それはもう盛大に身をビクつかせる俺。
今日は帰ってまた明日にしようかなんて、そんな選択肢を思い浮かべていた矢先の出来事だったモノだからその驚きは一入。
間髪入れず振り向けば、俺と同じく驚いた顔をしたラディウスさんがそこにいた。
「――飛び跳ねるとは余程驚かせてしまったらしいな。これはすまない事をした。とりあえず中へ入ると言い」
……如何やら俺は気が付かないうちに飛び跳ねていたようだ。
思わず飛びのく俺の姿を笑いながら、俺があれだけ躊躇っていた扉の開閉を難なくこなし、入室してゆくラディウスさん。
その開けっ放しの扉をおずおずと観察しながら、俺も戸惑いつつ中へと入った。
どうやら俺は少しばかり長く戸惑っていたらしい――俺が部屋に入るとラディウスさんは既に机の椅子へと腰かけていた。
「さて、ようやく訪ねてくれたようだな、全く待ちわびたぞ」
「――っ、す、すみませんラディウスさん。ちょっと色々忙しくて!!」
「いや、いい、別に責めている訳では無い、お前が忙しいのは分かり切っていることだ、遅くなるのは正直想定内であったさ。こちらとしても好都合だ」
とりあえずは起こっている雰囲気を持たないラディウスさんに一安心する俺。
安心した序に、俺はもう少しラディウスさんとの距離を縮める。
「怒っていないのでした良かったです。所で早速なんですけれど、僕を呼んだ理由って何なのでしょうか?」
「なに、旅立つお前に私から選別をと思ってな――旅立つ前に訪れてもらえてよかった」
言いながらラディウスさんは机の引き出しから箱を取り出し、近付いた俺へと差し出してきた。
「そんなっ、悪いですよ」
「いや、是非受け取ってくれ、お前が魔導武具大会で使用した変幻自在の彩色魔導――その原理を聞いた時より考えていモノ、私の長年の成果だ、きっとお前の助けになると思う、さぁ、中を見てみろ」
割と強い口調で言われ、俺は思わず箱を受け取った。
言われるがまま箱を開けてみると、中に入っていたのは白色をした棒状の物体と、二つの透明な石だった。
石の方には付箋紙が張り付けてある。
「――試作品故まだ正式な名前はないが、まずは透明な石の方から――材質はクリスタル、私が造りだしたものだ、それ自体はある程度力量のある土属性魔導士ならば恐らく作ることが出来るが、もちろんそれだけでは終わらない、どちらでもいいから手に取って光に透かして見ると言い」
俺は言われるがまま、一つの結晶を取り出してみた。
透かして見れば、それが普通のモノでないことが直ぐに分かった。
前世で似たようなものを見たことがある――レーザー加工で石英の内部に建物やら物が刻印されているお土産物。
刻まれているのが見知らぬ文様であることを除けば、それと殆ど同じだった。
「クリスタルには面白い性質があってな、そのままでは無理だが、内部に少しばかり魔導文字を刻印してやると無色の魔力を蓄えるというものだ、その蓄積量はお前が持っているもので、お前がその身に宿している魔力と同程度だ」
「っ!! この大きさでですか!?」
手にしているのは、俺の拳よりも二回り程度の小ささの結晶だった――驚きの圧縮率である。
「貯められるのは色が着く前の無色の魔力だ、故に単純に魔力タンクとして使用できる。だが、それだけではないぞ、そこに二つクリスタルを入れたのにはもちろん意味がある」
言われてもう一つも手に取ってみる――透かして見れば、結晶の中の刻印が微妙に異なっているのが見て取れた。
つまり、それぞれの結晶で違う事象が生じる事を示していた。
「二つとも魔力を貯めこむという基本性能に変わりはないが、一つはチャージに断続的に二十の魔力を込め続ける必要があり、中の魔力を取り出すのに瞬間的に五十の魔力をクリスタルにぶつける必要がある物、こちらは貯めるにしろ使うにしろ、使用者が意識的に使うと言うアクションを起こさなければ使用できない、いわば能動的な魔力タンクと言えるだろう」
結晶の一つに確かに”能動”と掛かれている、これがそうなのだろう。
「そしてもう一つは、常に五程度の魔力を供給し続ける必要があり、その魔力の供給が止まるとため込んだ魔力を吐き出すという効果となっている、つまり使用者の意志に関係なく使用されるもの、所謂受動的な魔力タンクだ」
”能動”と”受動”、”アクティブ”と”パッシブ”――昔やったロールプレイングゲームでよく聞いた言葉。
だが、それ以上にラディウスさんの説明を聞いてスイッチ回路や論理否定回路を思い出した。
否、エネルギーをため込むというのだからバッテリーや、コンデンサ何かに該当するのか?
どちらにしろこの効果は、前世で勉強した電子回路の其れに酷似していた。
「驚くのはまだ早いぞ――お待ちかね、残されたその白色の固形物だが、それはカウロスの骨と数種類の鉱石を混ぜ合わせた結晶で、なんと人体と同じく属性魔力の効果を発現させる効力がある――仮名だがそのまま魔導発現物質と呼んでいるものだ」
「はぇ!? だって、魔導って人体を介さないと発動できないものじゃ?」
「それが出来るのだ――長年の研究成果だよ。そしてお前が提唱した色のついた魔力に属性が宿るという理論、組み合わせたら面白い事に成るとは思わないか?」
俺はラディウスさんの言葉を聞いて、言葉を失った。
魔力をため込む結晶に、人体以外で魔導を発動できる物質――後は人工的に魔力に色を付ける事さえできれば、人の身以外でも魔導が発動できるようになるという事。
そんなことが出来ればもはや魔導はオカルトの範疇ではなく”科学”の領分に足を突っ込む。
そのまんまの言い方だがつまりは”魔導科学”の誕生だ。
魔力タンク物質に、魔導発現物質――俺は今ブレイクスルーが起きようとしているのを目の当たりにしているのかもしれない。
「さあ遠慮なく持って行け――旅路にて大いに役立てろ。我が友アルクスならば十二分に効果を引き出せると確信しているぞ!! そして無事に戻ってこい、それらの使用感必ず聞かせてくれ」
紛れもない天才――エルフであり友達である魔導の求道者、ラディウス・グランクリューソス。
それはそんな彼からの心からの激励の言葉であり、気遣いの言葉だった。
私の趣味が多分に含まれています。
なんか申し訳ありませんでした。




