戦力把握
短くてすみません。
でも、今回のは書いておきたかったんです。
……正直なことを言うと、酷く疲れていた。
不眠不休で行った武具大会の準備、何十人規模で行われたバトルロイヤル方式の武具大会予選、そして三日連続の武具大会本戦――
過去にないほど酷使され、傷つけられて意味もなく体の関節が熱を持つ――回復魔導で強引に塞いだ傷口がジクジクと痛みを発している。
――俺の体はいい加減休みをよこせと悲鳴を上げているかの様だった。
体の休息の為にも、消費した魔力を補充するためにも、いち早く睡眠をとった方が良い事は分かっている。
だがそれでも、そのような状態を押してなお、未だ闘技場に留まっているのは、俺たちの試合の後に行われるある意味本命の試合を一目見る為だった。
片や前魔導武具大会王者、ファウエル・グラゴニス――身の丈以上の戦斧と、雷属性の魔導を自在に操る準一等級冒険者。
それに挑むのは前回大会準優勝者の若き天才、ステルラハルト・フォン・アルマース――複数の魔導属性と片手直剣を流麗に操る金髪碧眼の美丈夫だった。
――魔導武具大会準決勝にして、奇しくも前回の決勝カードが揃った一戦。
この豪華さと比べられては、俺とテッドの戦闘が前座と呼ばれても仕方がない――そんな組み合わせ。
そして、これは明日の決勝戦で戦う相手が決まる重要な一戦でもあった。
とは言え、闘技場の観客席上段から眺めるその試合で、どちらが有利かなど火を見るよりも明らか――
前回でこそ、ステルラハルトさんを抑えファウエル氏が優勝せしめて見せたが、それはステルラハルトさんが成長途中であったが故のこと。
当時の彼は僅か十四歳――魔力量に物を言わせた大出力魔導を主力にした彼の力は、荒事の慣れた冒険者のファウエル氏には僅かに届かず、紙一重で彼に敗れた。
……だが、そんな力関係は、如何やらこの二年間と言う期間によって容易く逆転してしまっているらしい。
――魔力量に物を言わせ大出力魔導は、明らかに研ぎ澄まされていた。
――それ以上に、合間に煌めく剣閃は見惚れるほどの完成度を誇っていた。
なまじファウエル氏の実力が高いばかりに、ステルラハルトさんの実力が際立ってしまうのだ。
だが、同時にありがたいとも思う――ファウエル氏の実力が高いだけに、ステルラハルトさんの完成度が良く見て取れるのだから。
これほど有意義な敵情視察など早々出来る事ではないだろう。
……事前の敵情視察を卑怯と言うことなかれ。
恐らく今準決勝の戦闘をしている二人も、俺とテッドの戦闘を見ているはずだろう。
これだけ大規模な武具大会で堂々と戦闘を繰り広げていながら、手の内を探るなと言う方が無理からぬことだ。
――観客席に座り、削り出した黒鉱石を手に握りって膝上に手製のノートを広げる。
最重要なのは魔導属性――情報だと彼は実に七種類もの魔導属性を持っているらしい。
それに、そのほかにも重要な情報は多数ある。
既に得られている前情報と、目の前の戦闘を照らし合わせて行く。
とりあえず情報過多な眼前の戦闘において、取捨選択をしながら必要な情報を、役立ちそうな情報を片っ端から書き留めて行く事にした。
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・一、【雷】属性――最もよく使用する上位の魔導属性であり、同時にロニキス父さんも所持していた属性。
単純に威力が高いというのもあるけれど、それ以上にこの魔導属性は攻撃速度が恐ろしく卂い――魔力発光色は黄色、要注意事項。
・二、【氷】属性――【雷】には劣るが使用頻度の高い上位の魔導属性、俺の本大会初戦の相手が使っていた属性。
青の魔導属性に比べると形状の自由度では劣るが、殺傷能力が高く、同時に凍らせることによる拘束力も高い――魔力発行色は水色、要注意事項。
・三、【空】属性――使用頻度はわりかし低め、上位属性四種の内最も希少性の高い属性。
空間を固定化する魔導属性らしいが詳細は不明、要考察必要――魔力発光色は紫色、確認次第要注意必要。
※以下は今大会では発動未確認だが、前情報より所持している可能性有り。
・四、【金】属性――上位の魔導属性を全て所持しているという情報より推測。
橙属性より堅牢、防御の際に使用する可能性あり――魔力発光色は茶色、要注意必要。
残り三種類については情報なし、上記四種以外の魔力発光確認次第、警戒必要。
etc
・主張武器――片手直剣
修練度高、近接戦闘注意必要。
・魔力量――平均の十倍
俺との対比では凡そ約三倍、持久戦は不利
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……――何だろうか、この『要注意必要』の文字の多さは。
注意点を書き出してみれば、あまりにも明確な戦力差が浮き彫りになってしまった。
自分で書き記していてなんだが、俺は明日こんな化物みたいな人と戦わなければならないのかと思うと酷く憂鬱になってきた。
「――精が出るな、我が友よ」
響く歓声の中、俺の耳は確かにその言葉を捉えていた。
聞き覚えのある声、反射的に声のする方へ顔を向けてみれば、思った通りの人がいた。
尖った耳、ハニーブロンドの長めの髪の毛、これでもか問う程整った妖精族特有の容姿。
「――ラディウスさん」
「この様な殺伐とした場所と言うのが残念でならないが、会えて嬉しいぞ。隣失礼する」
言ってラディウスさんは、俺の了承を待たずに空いていた隣の席に座ってきた。
まあ、拒否するつもりは全くなかったので、別に良いのだけれど……
「――アルクスよ、お前に聞きたい事は多々あるが、今はとりあえず二つだけ聞いておこう」
俺は眼下で現在進行形で行われているもう一つの準決勝戦から、目を離さなかった。
恐らく隣にいるラディウスさんも、俺と同じモノを見つめているのだろう。
――漠然とだが、そんな予感がした。
「一つ、アルマースの素質は間違いなく一級品だ。しかも磨き上げには余念もない――あの努力する天才に勝てる可能性はどれほどある?」
「…………厳しいです」
それが答えになっていないことは分かっていたけれど、俺は、その問いかけに、それしか答える事が出来なかった。
切り札と呼べるものは確かに用意している。
どれほど効果があるかどうかも分からない、それは余りに頼りない四枚のエース。
そして、それを考慮したうえでの返答が、今しがたの其れだった。
「……一つ、お前はあれの使用さえも考慮に入れてやしないだろうな?」
「…………」
図星を突かれて、今度は何も声を出すことが出来なかった。
だが、聡明な妖精種の友人にしてみれば返事以外の何物でもなかっただろう。
――まさに、無言の肯定。
そんな俺の態度に、ラディウスさんはハッキリと聞き取れるほどに、大きな大きなため息を吐いた。
「――本来ならば止めてやるのが友の役目なのだろう、だが私の好奇心があれの完成を見たいと叫んでいる。――すまんな、不甲斐ない友で。お前が明日を無事に乗り越えてくれることを切に願っているぞ、詳しい話はまた何れ必ず聞かせてくれ、ではな」
それだけ言うと、ラディウスさんは静かに立ち上がり、俺の横から立ち去って行った。
俺は、小さくなってゆく彼の背に向かってゆっくりと頭を下げた。
それは謝罪の為に――
それは感謝を表す為に――
【――決まったー!! 一昨年の雪辱ここに果たされりっ!! 勝者、ステルラハルト・フォン・アルマースッ!!!!】
――運命を決める決勝戦は、もう間もなく。
次回遂にステルラハルトと戦闘開始。
次回何卒よろしくお願い申し上げます<(_ _)>




