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WILD COLOR  作者: 凩
59/94

火達磨の戦い(中)

短めでごめんなさい。



 テッドは笑みを浮かべたまま、片手に握っていた魔剣を両手で握り直して担ぎ気味に構えた。

 そしてそのまま、まるで今にも飛び出さんばかりの前傾姿勢となる。


 それは明らかに刺突を目的とした突撃の構え――


 テッドは剣技然り、魔導然り、基本的にこういった超攻撃的な攻撃を好む――己が持ちうる最大火力で、相手を飲み込むように蹂躙使用とするのだ。


 その勢いには下手な小細工など通用せず、故にこそ攻撃を捌くのも容易ではなかった。


 俺はテッドがいつ飛び出してきても良いように、構えを解かぬまま、魔力を練り上げる準備を行う。


 練り上げるのはさっきとは異なる()属性の魔力――そして、今度は俺が先手を取るために間髪入れずそれを解き放った。



『――切り刻めッ!! ”風刃(ふうじん)”っ!!』



 放つのは、風属性の攻撃魔導――”エア・カッター”を改良した『日本語(ユニークスペル)』の魔導。


 魔導名(スペル)によって存在が確率し、強化された風魔導は独特のうなりを挙げながら目標へと疾駆する。

 『風刃』(それ)がそのままテッドに命中するのであれば、あれこれと小難しい事を考える必要もなくなるのだろうけれど――それは間違ってもあるはずのない事だった。


 ――何故ならば、俺が『風刃(ふうじん)』を放ったその直後、テッドもまた動き出しているのだから。


 俺の予想通り、テッドは前へ、俺へと向かって飛び出し、飛び出すと同時――彼もまた叫ぶように魔導名(スペル)を唱えた。



「――おおぉおっ!! 燃え上がれっ――”ブレイズ・ソード”っ!!」



 輝くは御馴染みの赤色――そしてその魔力は構える魔剣の、その特徴的な黒色の刀身へまとわりついたかと思った瞬間、一気に燃え上がった。


 その魔導は同じくテッドが使う秘技、『”紅炎切りプロミネンス・スラッシュ”』の熱量には遥に及ばないのだろうけれど、発動に溜めが必要にならない分初動は遥に早い。


 そしてテッドは担ぐように構えていた燃える剣を後方へと一時的に下げ――俺が放った『風刃(ふうじん)』に合わせる様に急激に足を止める。


 だが勢い自体を止めるつもりは毛頭ないらしく、寧ろその勢いをそのまま剣に乗せるように、一気に切り上げた。



「――うぉおおおおらぁっ!!」



 吠え挙げるテッド――生み出されるは熱風。


 俺の放った風の刃と、テッドの振るった炎の刃が交錯し――そのまま風は炎の刃に切り裂かれた。


 如何に鋭くとも、魔剣の芯を持つ炎の刃を相手にするのは分不相応だったと言うべきか――


 

 ――否、それどころか、テッドは振るった剣の勢いさえも利用するつもりらしい。



 燃える刀身を回しながら軽くステップを踏み、更なる勢いを載せて俺へと振るおうとしていた。


 迫りくるは横薙ぎの一閃。


 威力が十分に乗っている上に、燃えているという追加要素のあるその攻撃を、受け止めるなど愚策も良いところ。

 

 反らすにしても炎のせいで少なからずダメージを受ける恐れもある。

 よって俺の取るべき行動は回避(・ ・)の一点だけだった。


 だが、回避事態も手は限られる――この横薙ぎの攻撃を躱すだけならば後方に飛ぶのが一番簡単な避け方だった。


 しかしそれは、テッドにしてみれば美味しい状況に他ならない。

 テッドは、体を捻り回転の力(・ ・ ・ ・)を利用して攻撃を繰り出して来ている――つまりそのまま(・ ・ ・ ・ )もう一回り(・ ・ ・ ・ ・ )回転すれば(・ ・ ・ ・ ・)、遠心力によって更に勢いの乗った横薙ぎの追撃が可能だという事だ。


 ――過去に一度彼と手合わせした時にも、同じ攻撃で追いつめられて敗北したことがあった。


 だからこそ、今はその経験を糧にする――



 俺は炎の一閃を掻い潜る様にして、一歩前へと倒れ込むように踏み込んだ。


 瞬間、ちりりと後頭部の頭髪が焦げるような錯覚を覚えるも――如何やらそれは錯覚であるらしい。


 上手くやり過ごせたらしく痛みもなかった。



 そして俺は奇しくもテッドの懐に潜りこむ形となった。

 テッドの持つ片手直剣の間合いよりも更に短い超至近距離。

 

 そしてこの間合いは、ナイフ使いの俺には絶好の間合いだった。



 勝機(チャンス)とばかりに、俺はハンティングナイフの柄を右手で強く握り、ナックルガードで強化された拳をテッドの肝臓(レバー)目がけて叩き込んだ。



 響くは甲高い金属音、右拳に残るは鈍い感触。

 何かを殴ったのは間違いなかったが、俺が殴ったものは、狙い通りテッドの肝臓(レバー)という訳では無かった。


 俺のナックルはテッドの肝臓(レバー)に届く前に、彼の左腕についた小型盾(バックラー)によって止められていた。



「お返しだっ!! しゃあぁらぁっ!!」



 ――テッドの声。


 次の瞬間、右の頬に衝撃を感じた。

 頭がもげる様な錯覚を覚える――前傾に倒れるようにしてテッドの肝臓(レバー)打ちを狙っていた俺は、突然感じたその衝撃に耐える事も出来ず、二転三転と地面を転がった。


 世界が揺れる、口内に鉄の味が広がり不快感が込み上げる。

 うつ伏せの状態でようやく転がる勢いが止まったので、俺はゆっくりとした動作で両腕に散らかを入れて起き上がった。


 口内の不快感を吐き出してみれば、唾液には鮮烈な赤が多大に混じっていた。

 口の中を結構ザックリ切ってしまっているらしい。奥歯も心なしガタガタ揺れる様な感覚が有った。


 テッドの方を見ると、彼はまだ右拳を振りぬいた状態でいて――そんなテッドの状態を見て、俺は今更ながらテッドが何をしたのかを理解した。



「――まさか、剣を手放し(・ ・ ・ ・ ・ )て殴って(・ ・ ・ ・ )くるなんて(・ ・ ・ ・ ・)、ね……」



 テッドは徒手空拳の状態だった。

 見れば、テッドから其れなりに離れた場所に彼の魔剣が突き立っている。

 彼はきっと、俺に懐に潜られるがいなや、すぐさま武器を手放して俺の追撃に打って出たのだ。


 その思い切りの良さに感服する。


 普段大雑把で直情的ではあるが、戦闘に関するセンスはピカイチだった。



「――よしよし、やっぱりあの程度で終わるわきゃねえよな」 



 テッドは満足そうにしながら、ゆっくりと振りぬいた手を引いて拳を構える。 


 そしてそのまま動きを止めた――どうもこいつは、俺が立ち上がり戦う準備が出来るのを待とうとしているらしい。


 その気遣いはありがたいのだけれど、何故彼は動こうとしないのか少しだけ気になった。



「待っててくれるのは嬉しいけど、君は剣を拾わなくてもいいの?」



「――あー、何つーかさ。試合が始まってまだあんまり立ってねーけど、俺ちょっと思ったんだよ。なーんか何時もとちげぇなって。お前と戦うのは面白れぇんだけど何時もよりわくわくがよえーんだ。はじめは今日が武具大会だからだとおもったが、さっき咄嗟にお前を殴って分かったんだ、違うのは(・ ・ ・ ・ )これだった(・ ・ ・ ・ ・ )んだって(・ ・ ・ ・)



 テッドは、これと言いながら構えていた両手を一瞬だけ緩めて、俺へ向かってひらひら揺らして見せた。


 その手甲だけを付けた、空いた掌を――徒手空拳(・ ・ ・ ・)の掌を。


 テッドのその行動を目にして、俺は彼が言わんとしていることが何となく分かった。



「……そっか、言われてみれば、君と手合わせするときはだいたい何時も魔導メインの無手(・ ・)だったね。武器を使ってなんて早々ない」



「正直、お前に剣を向けるってのが調子狂うんだよ、だから、それなら無しでもいいかって思ってよ」



「…………」



 テッドの言葉を聞いて、俺は何とも言えない気持ちになった。

 正直彼の言い分は非常に共感できることだった。

 あれだけ攻撃魔導をぶつけ合い、その上武具で打ち合っておいてなんだが、それでも特に武具の方に関しては、言いようのないやりにくさがあった。


 だからこそ、あえて己が武具を放棄したテッドの行動に、呆れながらも共感してしまったのだ。


 ――分かっていた事だったけど、俺もテッドに負けず劣らず大馬鹿者だったらしい。


 俺は自分に対して溜息を吐き出しながら、ゆっくり立ち上がると、手に持ったナイフを腰の鞘に戻し――そして更に鞘を腰から外した。


 外した二振りのハンティングナイフは、突き立っているテッドの魔剣の方へと放る。


 投げたナイフが剣に当たったのか、微かな残響音が耳に届いた。



「お前も付き合う必要なんてねーんだぞ……」 



「――流石に今の状態じゃフェアじゃない。それに約束したしね、正々堂々、全力で君と戦うって」



 言いながら俺も両こぶしを持ち上げファイティングポーズを決める。


 ……まさか、魔導武具大会の準決勝で冒険者の相棒と素手喧嘩(ステゴロ)勝負をすることになるとは思わなかった。



「カッカッ!! いいねぇ分かってんなアルクス、さぁどっちがつえーか白黒つけんぞ!!」



 実に楽しそうにテッドが笑う。


 ――だが、こういうのも悪くないと思ってしまうあたり、俺も随分こいつに毒されているのかもしれない、なんてことを何となく思った。




何もなければ来週また更新します。



……何もなければ、ね。

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