-勇者の目覚め、火炎との会話-
お待たせして申し訳ありません。
短くて申し訳ありません。
九月は本当に忙しいのです。忙しく過ぎて体調まで悪くなってきてます。
書く時間が本当に取れないのです(´;ω;`)
もしかしたらこのお話は、のちに追記するかもしれません。
追記した場合はタイトルにも若干の変更が入ると思います。
拙い小説で申し訳ありません。
それでも読んでくださる読者様が、少しでも楽しんでいただけるのでしたら幸いです。
※2016/10/10追記しました。
※追記に伴ってサブタイトルも変更しました。
――ふと、目が覚めた。
普段あまり寝起きが良いとはいいがたい私なのだけれど、今回はどういう訳か本当にあっさりと目が覚めた。
目に飛び込んできたのは影の濃い、白い天井――
随分と低い位置にあるそれに疑問をふと疑問を感じたけれど、ぼうっとしながら眺めていれば、その理由は自ずと分かった。
天井じゃなくて、天蓋だった。
白いレースがふんだんに使われていて、酷く豪奢な天蓋――小さい頃に絵本で見たそれに少し憧れを抱いていたことを、寝ぼけた私の頭は不意に思い出した。
…………
………………
……………………
……――いやいや、そんな事を考えている場合じゃなかったっ!?
寝起きに見慣れぬものを見て、暫くの間思考が停止していたけれど――事の異常に、私の脳ミソは理解する。
私の普段使っているベッドは間違っても、そんな立派なものはついなんかいやしない――という事はこれは一体いかなることかっ!?
その事実に気が付いた私は、この時点でようやく言い知れぬ不安に駆られ、体にかけられたシーツを乱暴に払いのける。
何処とも分からない場所でいきなり目を覚まして、不安に思わない訳なんてない。
まさか誘拐にでも遭ってしまったのかなんてことまで考えて、上体を起こして、咄嗟に辺りを見渡してみる。
――見渡した部屋の中は、とてもきれいな内装をしていた。
大きな両開きの扉、丁寧な作りをしたアンティークのテーブル、その上には水差しと燭台があって優しい明りが灯っていた。
窓らしきものもあったけれど、今はきっちりと閉ざされていて、まるで、今度は誰も外には出さないと言っているかのようだった。
――激しい既視感に見舞われる。
馴染みのないはずのその部屋を、何故か私は知っているような気がした。
そして、私が横になっているベッドの傍らにいるその人物を目にして――可愛い目に涙まで浮かべるその娘の姿を目にして、私はようやく色々なことを思い出した。
「『――あぁっ!! 勇者様っ やっと、やっと目を覚まして下さったのですねっ!!』」
……――思えば、誘拐と言うのは強ち間違った表現ではなかった。
そういえば、私は確かにこの異なる世界に囚われの身だった。
閉じられた窓に言い知れぬ閉塞感を感じたのは、一度そこから抜け出したが故の事。
馴染みのない部屋に既視感を感じたのも、実に当たり前の事だった。
――此処は、呼び出された私に与えられたグランセル城の一室だった。
…………――――
「『もうっ、本当にっ、ほんとうにっ!! 心配したんですからね!! いきなりお城を抜け出されて、ハラハラしたかと思えば、今度は全く目をお覚ましになりませんでしたからっ』」
『……ううっ、ごめんなさいプリムラ、確かに考えなしだったね』
頬を膨らませて如何にも、”私、怒ってます”って雰囲気を醸し出しているプリムラ。
だけど、そんな彼女はまるで小動物みたいで、可愛いって感想しか出てこなくて、そのことも込めて、私は謝罪と共に頭を下げた。
――彼女から聞いた話、如何やら私は実に七日間もの間寝続けていたらしい。
……確かにここ最近全く眠ることが出来ていなかったけれど、まさかそれほどまでの長期間寝入っていたとは思わなかった。
それは偏に、あの奇跡みたいな再会で酷く安心してしまったから――
私が渇望していたあの人が、確かにあの時あの場所にいたから――
例え姿が知っているあの人と違っていても、年上だった人がいきなり年下になってしまっていても直ぐに分かった。
運命なんてものがあるとしたら、まさにあの再開は其れだと思った。
――でも、七日間だ。
流石にそれだけの間眠りについていたとなると、非常に疑わしくなってくる。
あの都合のよすぎる再開は、私の願望そのものだった。
だからこそあれが、私が寝ていた間に観た夢でしかなかったんじゃないかって……
『――ねぇプリムラ、私、貴方に頼み事をしたじゃない? あれなんだけど……』
「『えっと、すみません。総力を挙げて探してはいるのですが、流石に死者蘇生の秘術ともなるとまだ調べ切れていません。何せ資料が膨大過ぎて……』」
『あ、あることはあるんだ?』
「『ええ、昔話に出てくるような眉唾ものから、第一級の魔導書まで様々です。死者蘇生自体は有名な案件ですから――ですが成功例となるとどうにも……』」
……――改めて、ずいぶん悪い事をお願いしてしまったと思う。
私が彼女に投げかけているのは、正しくもって無理難題だった。
とは言え、あれだけの剣幕で頼み込んだ手前、『やっぱりいいです』とはとても言い出せなかった。
『――へ、へえ、そうなんだ……そ、それなら貴方の負担にならない程度で今後もよろしくね――あと、凄く言いにくいんだけど、もう一つ、お願いしたいことがあるんだ。いいかな?』
「『もう一つで、ございますか?』」
遠慮がちな私の態度に思うところがあったのか、プリムラは首を傾げながら私の言葉を繰り返した。
そんな彼女に私は頷きながら、言葉を続ける――
『うん、今頼んでいることより遥に簡単なことなんだけど、私があの城門の処で、その、だ、抱き着いてた男の子、左目に大きな傷があったあの黒髪の男の子って、何処にいるのか調べる事って出来ない?』
言い終わって、内心凄くドキドキしながらプリムラからの返事を待った。
これで、彼女から「何を言っているんですか? そのような殿方いませんでしたけど」なんて返事が返ってこようモノならば、あの再開は私の錯覚で、私は再び絶望するしかないだろう。
――私のお願いを聞いてキョトンとした顔をしているプリムラに、私のドキドキは一層加速する。
「『――えっと、あの男性を、ですか? どうしてそのようなことを?』」
『っ!? ――ほ、ほらっ私、あの子に抱き着いて眠っちゃったじゃない? 色々迷惑をかけちゃったから、改めてお礼とか言っておきなたいなーなんて思って……』
私は飛び上がって喜びそうになるのを必死で押さえながら、違和感しかない言い訳を行った。
とりあえずあの時の光景は、夢じゃなかった――という事は、あの男の子は間違いなく、朔兄という事になる。
一体なぜあの人がこの世界で生きているのか、それは全く分からないけれど、それでも私と彼の間に隔たる壁は、以前より遥に低くなったし、薄くなった。
例え、どこの誰とも分からなくとも、ただ一度だけ会っただけの人だったとしても、”死”と言う壁に比べたらそんなもの何でもない。
この壁だったら、超えられる。
だったら、どうあっても乗り越えて、突き破ってでも――あの人に再び会いに行くだけだ。
――そんな風に私は内心で息巻いていた。
だが、そんな私の心持を知らないプリムラは、右手の人差指をチョンと自分の顎に当て、軽く上を向く。
考えているというより、思い出しているかのようなその仕草に、若干の違和感を覚える。
――そして彼女は見事に、私の出鼻を挫いてきた。
「『――確かお名前はアルクス・ウェッジウッドさん、お歳は十六歳、グレーヴァ・マルクス魔導学士園の四回生で魔導科に所属していらっしゃったと思います。因みに成績は魔導科では主席、四回生全体では次席らしいです――』」
『……は? えっ?』
「『――学園での二つ名は”傷ついた白色”』ですが、恐らく今後その二つ名は都市全体で認識されることでしょう、あと、冒険者ギルドにも所属しているようでして、初任務の際に魔獣を――」
『ちょ、ちょっと待って、ちょっと待って!! お願いだから!! と言うか、なんでそんなに詳しいの!? なんでそんなことまで知ってるの!?』
「『それは知っていますよ、司会者さんがそのように説明していましたから』」
『司会者って何!?』
「『――そうでしたね、貴方様は今までお休みになられていたのでした。――今我が国では、勇者様の付き人、最上の騎士を選定する魔導武具大会が行われております。アルクスさんはその大会の参加者で、一番注目を集めている選手――つまり、貴方様の付き人候補の御一人という訳です。全く因果なものですね』」
『――――っ!?』
思わず息を飲んだ。
確かに、私はプリムラから勇者の役割を聞くと共に、最上の騎士なる存在についても聞いていた。
だが、だからと言って誰が思うだろうか、誰が予想するというのだろうか。
私の一番大好きな人が、死んでしまったあの人が――それになろうとしてくれているなんて。
――如何やら、私と朔兄との間に現在隔たっている壁は、私が考えていた以上に低いのかもしれないと思った。
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グラグラと視界が揺れる――
生暖かい店内の空気をこれ以上吸い続けるのがそろそろきつくなってきた為、仕切り直しも兼ねて俺は酒場から這い出る事にした。
対面に有る冒険者組合の其れとよく似たつくりの扉は、少しの力で簡単に開く事はよく知ってはいたが、酔いの回った出来の良くない俺の頭はそんな事なんてこれっぽっち
も覚えていなかったのか、つい力を込め過ぎてバランスを崩しそうになった。
酔っている時分じゃ踏みとどまる事さえ酷く難しかったが、大げさに体をフラフラさせただけで如何にか転ぶことはしなかった。
ふらついたせいもあって大通りの真ん中付近まで来てしまったらしいが、別に構いやしねぇだろうと勝手に判断する。
いくら今が武具大会の真っ最中で、屋台や出店があっちこっちに見当たると言っても、明かりが付いている処なんて片手で数えられるくらいしかねぇ。
――夜もだいぶ更けていた。
特別なことが無ければ、今の時分ならとっくに夢の中なのだろうが――今日は特別なんだから仕方がない。
今も酒場の中で騒いでる連中にとっちゃ、知っている奴が活躍してるんだから尚の事だ。
――けど、流石に二日連続で明日も試合のある俺たちを連れ込むのは違うんじゃねぇかなんて思っちまう。
はぁっ、と、柄にもなく相棒みたいに大きなため息を吐き出してみれば、自分でも酒臭いのが分かった。
――酒ってやつは、はっきり言うとあんまり好きじゃなかった。
エールは苦いし、特にワインなんかは酸っぱ苦くて本当に葡萄から作られてんのかって思う。
これだったら果物水を飲んだ方が十倍はマシってもんだ。
でも、酒を飲むってこと自体はそれほど嫌いじゃないから不思議だ。
飲めば陽気な気分になれるし、しかも飲み比べは相棒に勝てる数少ない物の一つなんだから。
まぁ、杯の半分もの飲まねぇうちにぶっ倒れちまう奴に負ける奴なんて、そもそもいやしねぇんだろうけど――
――そんなどうでもいい事を考えていたら、何もないのにバランスを崩しかけて、俺は慌てて足に力を入れた。
「……とと、やべぇなこりゃ。ホントに結構酔ってやがる」
自分の状態に少しだけ危機感を覚えた俺は、歩けば少しは酔いも覚めるだろうなんて考えて、目的地を決めることなく歩き出した。
――ふらふらふらふらと、あっちに大通りの道幅を最大限に活用して適当に歩く俺。
どれくらいそうやって歩いていたのか――気が付けば開けた場所に出ていた。
耳に届くのは微かな水音――如何やら俺は噴水広場に来ていたらしい。
――水音を聞いてたら酷く喉が渇いてきた気がして、俺はそのままの歩みで噴水に近づいた。
――近づいて――近づいて、そこでようやく噴水の淵の手すりに腰かけている奴がいる事に気が付いた。
「――テッド? なんだ、君も抜け出してきたのか」
相棒の声がした。
ま、そこにいたのはアルクスだったから、それは当然なんだけど。
「さっすがアルクス、ナイスな処にいた。なぁ頼むよ水出してくれ、喉が渇いて死にそうなんだよー」
「え、もしかして僕がいなかったら噴水の水を飲んでたりする?」
……アルクスの問いかけに俺ははっきりと首を横に振ることが出来なかった。
噴水の水は井戸のモノと同じらしいって話で、飲んでも別に構わねぇんだけど、さっきの俺だったらきっと頭から水に突っ込んで、浴びるようにして飲んでたと思う。
――見てくれ的には完全にアウト。
俺はとりあえず笑ってごまかすことにした。
そんな俺の姿に相棒は何時もの溜息を一つ吐き出して、眉間を揉み解す動作をする。
だけど次の瞬間には、青の光を煌めかせて、俺の目の前にこぶし大の水の塊を浮遊させてくれた。
「――カハハ、サンキュー!」
俺は其れに口を付けて一気に飲み干した。
あのボケた水妖精じゃねぇが、飲み干した水はやばい位に美味い気がした。
――生き返るとはまさにこのことだと思った。
一息ついて、さっきより確実に頭が冴えてきた俺は、そのまま相棒の腰かける横に移動して、背中から手すりに寄りかかり両肘を置いた。
「つーか、途中からいなくなったと思ったらこんなところに居やがったのか。お前も主役の一人だろうが」
「あはは、それについてはごめんごめん、ほら僕ってお酒弱いじゃん――だからああいう席はどうも居づらくて」
「だからって黙っていなくなるなよ! しわ寄せ全部こっちに来たぞ?」
文句を言ってやったら今度はアルクスの方から乾いた笑い声が聞こえてきた。
……こいつも笑ってごまかすらしい。
なんだかなぁと思いつつ――俺は何ともなしに空を見上げた。
空は何時もより遠く見えて、辛うじて星の明かりが見て取れるだけだった。
――暫しの沈黙。耳をすませば遠くから雑多な声が聞こえる。
そういえば、武具大会のせいもあって、最近コイツとあんまり話をしてない事を急に思い出した。
そして芋ずる式に、色々聞きたいことが有ったことも、思い出した。
「――アルクス、お前さぁ、何で……」
だけど、いざそれを問いかけてみようとすれば、上手い言葉が全然まとめられなかった。
俺は、こいつが必死な理由を聞きだしたかったのに、いざ本人を前にしてみれば、こいつが試合をあまりに必死に戦う姿が思い浮かんで、聞くことが出来なかった。
何となく、おいそれと軽く聞いて良い事じゃない気がした。
「――テッド?」
急に言葉を止めた俺を訝しんだのか、相棒が俺の名前を呼ぶ。
その声に、少しだけ俺は慌てた。
「っ、明日だな、俺たちの準決勝――」
「ああ、うん、そうだね。まさかテッドとなんて思ってなかったよ。こういう事もあるんだね」
「そりゃ俺のセリフだっつーの、まさかお前が武具大会に出場する何てどんな風の吹き回しだよ」
「…………」
返事は直ぐに帰ってこなかった。
言いよどむってことは、やっぱり明確な理由があるって事。
その理由を言わねぇってのは少しイラついたが、それでもとりあえず思っていることをいう事にした。
「なぁアルクス、何でお前がそこまで思い込んでるのかは、俺は聞かねぇ。だけどな、お前がもし万が一に俺に勝って、億に一で優勝して、最上の騎士になったら、お前の旅に、お前たちの旅に、俺も付いて行くからな? 置いて行こうなんて考えるなよ」
「っ、テッド!?」
「そんで、俺が優勝したら。俺の旅にお前もついて来いよ?」
「……君は」
「相棒なんだから当然だろう? だから明日は正々堂々全力で戦うぞ、わかったか?」
「――うん、わかったよ。いつも通り僕は全力で君と戦う」
……結局聞きたいことは聞けなかったが、とりあえずこの返答が聞けただけでも良しだろう。
こいつは分かりにくいが結構頑固で、筋は必ず通す奴だから。
「よしっ。じゃあ戻ろうぜ! 流石に主役が二人とも居なくちゃ気が付かれるだろ」
「うん、そうだね。――と言うかさっきの話、ああ言ったけど本当に全力を出してもいいの? なんだかんだ言って君との勝負は僕の勝ち越しじゃないか。それなのになんで君に勝つ確率が万に一つになる訳?」
「――ぐっ、な、なめんなっつぅの!! 今までの俺は本気を出してなかっただけだ。明日の俺は一味違うぜ!!」
「分かってないかもしれないけど、それはやらない人の常套句だからね」
「うっせ!!」
俺たちは互いに悪態をつきながら、酒場への道を並んで歩いて行った。
取りあえず、ちょっとずつ書ける時間が取れるようになってきましたが、現在中途半端な状態になってしまったため、追記分だけ投稿です。
多分来週には最新話投稿すると思いますので何卒よろしくです。




