旧友との再会と厄介事の襲来
明けましておめでとうございます。
とりあえず、何とか宣言した範囲内に書くことが出来ました。
ただなんというか、今回はあんまり上手くかけなかったなぁなんて思ってみたり。
今回は設定を沢山考えなければいけなかったので、上手くかけなかったのは恐らくそのせいだと思います。
変なところがあったら教えていただけると嬉しいです。
今年もよろしくお願い致します。
「……――であるからして、我が国グランセルの第五代国王にして、マルクス学園の創設に携わったルキウス・トゥ・グランセリオン王の御意向を決して忘れぬよう、諸君ら新入生には高い意識と志を持って、四年という期間を過ごして貰いたいと思う、また本年は我が校が開校して四百五十年という節目の年でもあり、それ故に諸君らは諸外国より注目を集めるだろう、つまり、諸君らはグランセルの顔と言っても過言ではない、だからこそ、諸君らは努々――――」
広い講堂とは言え、その中には明らかに許容範囲を超える人数が入り込んでいた――その様は、”詰め込まれる”という表現が一番適しているのかもしれない。
マルクス学園の新入学生の人数は百五十人――入学した者は順調に学問を習得していけば、四回生で卒業となるため、学生だけで実に六百もの人が集まっていることになる。
そんな大人数が、揃いも揃って一人の演説を聞くこの光景は、俺には結構馴染みのある――無論”前の世界では”という、条件が付くが――光景だった。
現在、皆の前で演説をしているのは、禿げ上がった頭と、それに反するように立派に蓄えられた白色の髭を持つご高齢な男性で、如何やらこの学院の最高責任者であるらしい。
因みに彼の名前を俺はまだ知らない――それは彼が壇上に上がるなり、自身の説明をする前に、ちゃんと聞けば為に成る事が予想されるご高説を始めたからだった。
……如何やら世界が変わっても、こういった場の最高責任者の話は、変わらず長くなる傾向にあるようだ。
本人は俺たちの為を思ってこの話を熱弁してくれているのだろうけれど、生憎、俺たちの様なガキには、まだまだその崇高な想いは理解が難しい。
周りを密かに見渡せば、睡魔と言う名の誘惑に耐えられず、こっくりこっくりと船を漕いでいる者の姿がちらほらとみられる。
そんな様子に俺は思わず笑ってしまった。
――その様は、まさしく俺の良く知っている入学式だった。
グレーヴァ・マルクス魔導学士園の入学試験が行われて、早一月。
入学試験を受けたその後は、無事に合格できるのか不安で、正直な処生きた心地がしなかったものだが、如何やらマルクス学園の仕事はとても速いらしい。
試験を受けてから僅かに三日、たったそれだけの期間を開けて、ギルドに俺の試験合格通知が届いたときは、その呆気無さに思わず脱力しそうになったものだった。
だが、試験に合格したとなれば、脱力している暇などなかった。
普段通りギルドの依頼をこなしながら、俺の為にお金を出してくれた人たちへのあいさつ回りを行い、学園入学のための準備を進める――
文字通り目の回るような忙しさで、直近の数日間に関しては、既にどこで何をしていたのか、詳しく思い出せない程だった。
だが、そんな努力の甲斐合って、入学式を迎えられた事を思うと、なんだか凄く感慨深く思える。
それが原因だったのか、不意に涙腺が緩み、意味もなく泣きそうになってしまった。
俺は慌てて、真新しい制服の袖で涙を拭った。
入学式の最中、突然泣き出す奴なんて、変人以外の何物でもないのだから。
考え過ぎることも、思い込み過ぎるのも、それはすべて問題になる。
だからこそ、何をとは今は決めない。
……――四年間、頑張ろう。
「――それでは、長くなってしまったが、これで私からの挨拶は以上とする。――新入生の諸君、入学おめでとう」
半ば聞き流していた、学園最高責任者の話の締めとほぼ同時に、俺は学園入学への意気込みを新たにしたのだった。
――さて、入学式が恙なく終わり、俺たち新入生は講堂を後にする。
この後は何でも、今後の学園生活の予定が説明されるらしく、俺たちは各々の教室に行くことを学園の教師たちに指示されていた。
故に俺はその指示に従って、序に人波に沿って歩を進めている訳なのだけれど……
――俺は今、凄く孤独感を感じていた。
「……はぁ」
思わず溜息を零しながら、辺りを見回す。
当然のことながら、周りには同い年くらいの少年少女たちがいる。
だけど、そんな彼ら、彼女らは明らかに、あからさまに――俺から距離をとっていた。
俺を中心にして半径一メルトル、ぽっかりと空間が空いているのだ。
これぞまさにドーナツ化現象……解せぬ。
「……はぁ」
とりあえず、小さめにもう一回溜息を吐いておく。
まぁ、何故俺がこんな風にして、周りから距離を置かれているか、それは何となくだが予想が出来ていた。
考えられる原因は二つ。
まず一つ目は、俺の纏っているローブの色だろう。
マルクス学園には制服が存在する。
白い襟付きのシャツに暗色のトップス、そして同色のボトムスを身に着け(因みに女子はスカート)、ローブを羽織る。
それが、マルクス学園に通う生徒の出で立ちになるのだが、そんな制服にも明確な違いが一つだけ存在した。
それは今俺も身に纏っているローブ。
ローブには分かりやすく、五色の色が存在した。
その五色は、自分たちがどういった勉学を収めるかによって異なっている――分かりやすく言うと自分の専攻を表している訳だ。
赤色は騎士科――この専攻は主に武術に関することを集中的に習う。主に兵士や騎士を志す者たちが選択する。
青色は魔導科――名前の通り魔導を中心に習い、魔導士や聖職者を目指す者が選択する。
緑色は工業科――この科は鍛冶屋や細工師、調合師を志し、そういった技術を高めたいもが選択する。
橙色は商業科――この科は主に算術や語学といった勉学を中心に行う科で、商人を志す者が選択する。
この専攻は大体、入学試験を受けるときに希望を聞かれ、それぞれの専攻別で入学試験を受ける(因みに俺が受けたのは魔導科)。
マルクス学院に入学する者は大概、この四つの科に分類され、それぞれの勉学を習得していく訳だ。
だが、ごく少数に限り、上記四色に”分類されない”者たちがいた。
そういった者に与えられるローブの色は”白”――主に貴族の子供や、入学試験にて優秀であった者がその色を得られるのだという。
とまあ、そんな具合で色付きのローブを与えられる訳なのだが、何をとち狂ったのか、俺に与えられたローブの色は、見紛うことの出来ない”白”だった。
このローブを受け取った際は、白って汚れが目立つんだよなー、なんて呑気な感想しか思い浮かばなかったモノだが――今はあの時の能天気な俺をぶん殴りたい気分だった。
この色を与えられたということは、入学試験にて優秀だと判断されたということに他ならない。
筆記試験は王国史がボロボロだったから、考えられるのは実技試験の方なのだろうけれど、だとしたら、俺の使った魔導はそれほどまでにインパクトが大きかったのだろうか?
周りの様子を見てみれば、どうも彼らは同色の色を持つ者同士で群れている傾向が見られる。
まぁ、これからの学園生活の事を考えれば、同じ道を志す者たちと仲良くなるのはある意味当然の事なのかもしれない。
それなら、俺も同じ”白色”のローブの人物と群れれば良いという話になるのだろうが、同じ”白色”となると、数が圧倒的に少ないうえに、その大半が貴族となる。
しかもそんな貴族の者たちは、考えられるもう一つの理由によって全く近づいて来なかった。
その原因とは、俺の左目――かつて隻眼の灰色狼によって付けられた。左目に掛かる三本の大きな引っ掻き傷の痕。
そんな物々しい傷の後に嫌悪してか、貴族たちは全く俺に近づいてこないのだ。
否、この傷に嫌悪しているのは、貴族たちに限った話ではないのだろう。
十二歳の少年少女の中でこのような怪我を負っているような者など、皆無と言っていいのかもしれない。
白色を身にまとう傷モノ――そんな俺はこの空間の中では異色だった。
今もほら、俺と同じ白色を纏う少年が、俺の事を遠巻きに見てくる――
きっとあの少年の顔も、今に他の少年少女たちと同様に曇ることだろう――
「――あれ? お前ってもしかして?」
……ん? あれ? なんか、予想していた反応と違う。
と言うか、よく見るとその少年には見覚えがあるような、無い様な。
………………っあ。
「――もしかして、テッド?」
「――そう言うお前は、やっぱりアルクスか!」
嬉しそうにかの少年は、人波をかき分けて俺へと駆け寄ってきた。
ここ最近ではめっきり会うことはなくなってしまったけれど、間違いない。
彼は、小さいときによく街で遊んだ俺たちのガキ大将的存在――カムテッド少年だった。
「うわぁ、久しぶりだね。まさかこんな処で会うとは思わなかったよ。元気だった?」
「――そりゃお前こっちのセリフだよ、てか、どうしたんだよその眼ー、やたらかっけー傷つくっちまって」
「かっけーって、――まぁ、僕にも色々あったんだよ」
実のところ、テッドとこうして話をするのは数年ぶりだった。
ロニキス父さんが死んで、俺が多忙になってしまったというのもあるけれど、それ以上にテッドが俺たちの前に”姿を現さなくなった”ことが大きかった。
そんな彼と今このとき、この場所で再開した――それにはきっと深い理由があるのだろう。
そして、それは――彼が”白色”を付けていることに、きっと関係していると思う。
「ねぇテッド、今更こんなことを聞くもおかしな話だけど――君の名前をちゃんと聞かせてもらっても構わないかな?」
「……やっぱそこを聞いて来るよな――俺の名前はカムテッド・セラフィム・”カルブンクルス”だ」
「カルブンクルスってことは――まさか君は南方の火炎の?」
「ああ、息子だ」
南方の火炎、それはグランセルで最上位の権力を持つとされる貴族の通名。
文字通りグランセルの南方に居を構える”カルブンクルス家”――俺でも知っている大貴族だ。
彼がマルクス学園に来たことも、更には白色を身に着けていることも、これで理解できた。ついでに彼が俺たちの前に姿を現さなくなったことも――
まさかテッドが貴族だったなんて思ってみなかったけれど、でも、今の状況で知り合いと会えたのは歓迎すべきことだろう。
「――そっか、テッドは貴族だったんだ。でもまた会えて嬉しいよ。これから四年間よろしくね。っと、貴族ってことはテッドなんて呼び捨てにすると不味いよね。カムテッド様って呼んだ方が良いかな?」
そういって俺はテッドに握手を求めるようにして右手を差し出した。
そんな俺の様子に一瞬驚いた様子を見せるテッド――しかし彼はすぐさま破顔し、俺の右手を掴んできた。
「――カハハ、やっぱお前は面白れぇな。堅苦しいのは無しだ。テッドで構わねぇさ。さーて、学校なんてつまんえぇ処だって思ってたが、お前がいるんなら話は別だ。これから楽しくなりそうだ」
心底楽しそうに笑うその表情は、まさに火が灯った様だと思った。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
テッドと軽く話をしてみれば、如何やら彼も俺と同じく魔導科を受験したらしい。
――そんな訳で、同じ教室に向かう俺たち。
たどりついた教室では、既に大多数の生徒が集まっていた様で、部屋の中はほぼ一杯だった。
集まった人数は俺たちを入れて四十人弱――これは百五十人という新入生の数と、専攻が四つに分かれていることを考えれば納得できる人数だった。
――そんな魔導科生徒の中に紛れて待つこと約十分。
恐らく魔導科の教師であろう大人が一人、教室へ訪れたかと思うと、簡単に自己紹介を済ませ、魔導科の授業の説明をしてくれた。
授業の説明については、特に思う事は無かったのでとりあえず省略。
更に、授業には直接関係は無いが、俺とテッドの纏う白色についても簡単に説明してくれた。
曰く、”白色”という色は、所謂ところの特待生みたいなもので、実際受ける授業のカリキュラムは他の魔導科の生徒と何ら変わりは無いらしい。
ただし、俺に与えられた白色は、貴族であるテッドに与えられた白色と違って、成績が悪ければ他の成績優秀者に渡ってしまうものであるようだ。
別に他に渡ったら渡ったで、別に大きな問題は無いのだけれど、それはそれで何となく恰好が付かないので、出来るだけ成績を抜かれない様に頑張ろうと密かに思ったのは此処だけの話。
ついでに、その話をされたとき、数人の生徒にまるで得物でも狙うかのような視線を向けられて、若干ビビってしまったのはどうでも良い話だった。
そうして、そんな話をひとしきりしてくれた先生はと言うと、今日はこれで解散となる旨を皆に伝えると、俺たちを残して教室から退室してしまう。
その時点での時間は、昼まであと一時間有るか無いか位の微妙な時間帯。
別にそのまま帰ってしまっても良かったのだけれど、旧友との積もる話もあったので、とりあえず俺たちは昼まで教室に居座ることにした。
「――へぇ、それじゃあアルクスは、あれから冒険者になったのか――くぅーっ羨ましいなおい、しかも初任務で魔獣とガチるなんて、スゲーな」
「羨ましいって……僕にしてみればそれしか選べなかったからなぁ、それに魔獣と戦ったって言っても、殆ど相討ちみたいなモノだったからね。あれは本当に運が良かったとしか言いようがないよ」
「生き残っただけでも十分スゲーって、それだけの実力があれば、あの入学試験を突破できるのも納得だな」
「あの大岩を魔導で粉砕しろってやつでしょ? 確かにあれは厄介だったねぇ」
「厄介なんてもんじゃねぇよ、俺なんか時間いっぱい使って、ギリギリ割る事しか出来なかったぜ」
肩を竦めながら呆れたように言うテッド――その話し方から、彼も実技試験では随分苦労したらしい。
だが、そんな彼の物言いに、一つの疑問が浮かび上がる。
「あれ? あの試験って岩を粉砕しなくても大丈夫なの?」
「当たり前だろ、てかそもそも、あれを注文通り粉砕出来た奴なんてほとんどいなかったって話だぜ? 随分ハードな内容用意してくれたもんだよ、ラディウスさんも」
そんな話を聞いて、何故俺が白色を貰えたのかが何となく理解できた。
そもそもあの試験は、それ自体が無理難題だったようだ。
――そんな無理難題を平然と出題してくる試験官さんとは、いったい何者なのだろうかという疑問が、何故か不意に湧き上がってきた。
幸いテッドの口調から推測するに、彼が件の人物の事を少なからず知っているようなので、話題に挙げてみる事にしようと思う。
「――ねぇテッド、テッドはラディウス試験官の事知ってるみたいだけど、あの人ってそもそもどんな人なの?」
「あん? お前知らねぇのか? ラディウスさんは王国お抱えの魔導士の一人で、魔導研究の第一人者だぞ。普段はマルクス学園に籠って、小難しい研究ばっかりやってる人さ。――で、今年は人手が足りないとかで、試験官に組み込まれたらしい」
――まぁ、受験者としてはいい迷惑だけどな。なんて軽口をテッドは付け加える。
そうして、何故か悪い顔をしながら、テッドは耳うちする様に言ってきた。
「――正直な処、あの人にはかかわらない方が良いぞ。何でも研究って名目で怪しい人体実験もしてるって噂もある位なんだ、ま、所謂――変人ってやつさ」
テッドが含みを込めて、変人という言葉を言った瞬間だった。
一体誰が思うだろうか、まさか件の”話の人物”がいきなり現れるなんて、一体誰が考えるだろうか。
だが、彼が現れたことを考えると、如何やら今までの会話は、所謂ところの”ネタ振り”というやつだったらしい。
――そう、件の人物は突然現れた。
彼は、未だ大人数で賑わう教室の扉を勢い良く引き開けて、その姿を現した。
勢いよく開いた扉に教室にいた人の目が集まる――当然俺と、テッドもそれに習って顔を向けて――二人して固まった。
悪口とも取れる話の指し示す人物が目の前に、唐突に現れたらそうなったとしても別段おかしなことではなかった。
――テッドが変人と称した人物、試験官のラディウスさんが、戸の前で仁王立ちしていた。
「――失礼する、突然だがこの教室で入学試験の試験番号が十二番だった者、大人しく名乗りを挙げて私についてこい」
――凛とした声だった。彼の登場により静まり帰った教室に、その声は響き渡った。
俺の思考は、否、恐らく俺だけではなくその時教室にいた者全ての思考が、停止していたのだろう。
だが、その思考はいつまでも止まっている事は無く、やがて緩やかに動き出す。
同時に、俺の思考も緩やかに動き出す。
そうして俺は激しく後悔した。嫌な汗が背中を濡らすのが自覚できた。
どうして俺たちは直前にあのような会話をしてしまったのかと、深く後悔した。
――試験番号十二番、それは紛うことなく俺に与えられた番号だった。
「――うわっ、まさか入学早々変人に目を付けられる奴がいるなんて、気の毒な奴もいたもんだな」
……テッドとて、別に悪気があってそんな事を言ったわけではないのだろう。
だけど、そんな憐みの言葉が今は凄く憎らしい。
俺はせめてもの抵抗に、憎しみを込めてテッドを睨み付ける。
「な、なんだよいきなり、そんな怖い顔して」
「……はぁ」
……思えば今日は溜息ばかりついているなぁ、なんてどうでもいいことを考えながら、俺は今日した中では最も大きい溜息を吐き出した。
誤字、脱字あったら教えていただけると幸いです。




