脳内戦隊ハルナンジャー
コメディーと称しましたがウケるとは思っていません、ホントです。許してください。
とある島国。その島国の辺鄙な山奥にある廃校跡に脳内戦隊ハルナンジャーのアジトはある。脳内戦隊ハルナンジャー……それは、脳内が常に春である戦闘集団である。ハルナンジャーは最近の戦闘モノ人気にあやかって、流れでなんとなく発足したが、あまりにも性癖がアレなため活躍させてもらえずに細く長く活動しながら過ごしているのである。彼女らの生活を知っている者は誰もいない。
*
「朝だぞおおおおおおおお起きやがれえええええええ!」
午前十時を回ったころ、そんな掛け声が響き渡る。そのロリ声の主はレッドのものだった。
「え、もう朝……? って、もう太陽昇ってんじゃないのよ。完全に寝坊ね」
最初に起きたのはバイオレット。冷静沈着な唯一のメンバーで、メンバーのテンションがギリギリ合法なのは彼女の功績である。
「十時って微妙だな。ブランチでいいか?」
髪をかきあげながらそう聞いたのは我が戦隊の食事係を勤めるブルーである。かきあげるその動作は非常に似合っておりかっこいいのだが、見慣れているメンバーたちは気にも留めない。ただし、初見の敵には効果覿面らしく、たまにそれだけで相手を降参させることも出来る、いわば総ウケである。また、ブルーは起きるとすぐにキッチンに立つ習慣があり、このように大寝坊したときもその習慣が反映されてしまっているのだろう、もうすでにキッチンにいる。
こうしてメンバーが起き出す中、起きてこないのが約二名。それに早くも気づいたレッドが布団の元へずかずかと歩み寄る。というか、いつもの光景なのである。バイオレットもブルーも、全く気にしていない。『どうせ』またレッドの声を聞かなかったことにして二度寝しているのだろう。
「ピンク! オレンジ! 何やってるのよ!」
地団太を踏み鳴らし、毎朝お決まりのセリフを吼えるレッド。すると、ピンクの目がパチリと、音を立てていてもおかしくないくらいにはっきりと開いた。最初から起きていた徴だろう。ピンクはふわりとほほえむと、ゆっくり起き上がった。
「……おはよう、今日はいい夢だった」
「もう、今頃起きたの!? もう十時よ! あたし達何時から起きてると思ってるの!」
「……さっきでしょうに」
身支度を済ませて帰ってきたバイオレットが呟く。ブルーが入れ違いに洗面所へと入っていった。
「ま、……まあいいわ、いいじゃない。あたし達の起きた時間なんて。さーてさてさてそんなことより、ピンクも早く用意しなさい! いつでも出動できるように!」
明らかに誤魔化しているのが分かる口ぶりで指を指して決め顔をして命令するレッドにピンクは、不満をぶつけた。
「オレンジだけ怒られていないのはどういう?」
「あ」
あまりにもオレンジがバカだから忘れていたわ。――そう呟いてからのレッドの動きはすばやかった。まずはオレンジの横たわっている近くの布団に全速力で駆けていき、その助走を生かして渾身の二段キックをかます。
「ぐぇ」
つぶれた蛙のような情けない声を出して、もそもそと起き上がろうとする同胞に、すばやく覆いかぶさる。レッドの得意技、上四方固めだ。レッドは柔道を習っていたことがあるらしい。見事なフォームである。なぜよりにもよって上四方固めなのかは、その場の誰もが疑問に思ったことである。
「っちょ、レッド!」
押さえつけられながら必死にもがくオレンジ。しかしオレンジがいくら暴れてもレッドは微動だにしなかった。
「起きて来ないアンタが悪いのよ! 何時だと思ってるの?」
「えーっと、十時二十五分、かなー」
「そういう問題じゃないのよ! わっとたいむいずいっとなうじゃないわ、わっとあーゆーどぅーいんぐなのよ! あたしは今何時かくらい分かってるわよ、そんなくらい!! オレンジはいちいちへりくつ言い過ぎなのよ!」
ここぞとばかりに日ごろの恨みを晴らさんとするレッドに、
「……いや、今は十時十五分だぜ。十分ほど誤差が……」
洗面所から帰ってきたブルーが腕時計を見て言いにくそうに訂正した。それを聞いたオレンジはにやりと笑った。オレンジがにやりと笑うのは、『今から面白いことが始まるぜ!』というワクワク感がマックスになったときなのである。バイオレットとブルーが諦めたようにため息をつくが、オレンジはそんなことを気にした様子も無い。レッドがひるんだすきに上四方固めを易々と覆すと、
「やーい時間分かってるんじゃなかったのかよー! 私間違ってんの分かったはずだよなーレッド! やーいやーい! そういう啖呵はちゃんと考えてから切れよー!」
大声で挑発する。その様子はもう、精神年齢が実年齢より幼い小学生のようだ。手はパタパタと絶え間なく動き、足は軽快にステップを踏む。ボックスステップ、ツーステップ、……要はひょこひょこと飛び跳ねているのである。寝起きとは思えない身のこなしだ。
「こっこの! バーカバーカ!」
「アホー」
「ばかばかばかー!」
「アホーアホー」
ついにレッドとオレンジのかなり低レベルな喧嘩が勃発する。身支度を終えた残り三人は、しばしその様子を眺めて笑ったあと、だるそうに止めに入る。
「はいはい、これは一方的にオレンジが悪いから。レッド、さっさと顔洗っておいで」
「はーい」
レッドがちまちまと小走りで居間を出る。バタン、と勢いよくドアが閉まった途端、諭すようだった三人の口調が急激に変化する。
「オレンジ!」
「はいっ!?」
びしっと指を指して叫ぶブルーにオレンジがびっくりして正座する。絶対ひざを強打したが、今はオレンジにそれを気にする余裕がないらしい。硬直しきっている。
「お前はほんっといつもいつも寝坊しやがって!」
と、ピンク。お前に言えたことではない、とは今ここに居る誰もが言えない。
「しかも起きてすぐの発言がジョークと来たか!」
そう言ったのはバイオレットである。
「ジョークじゃないし! 最初は『ぐぇ』だったし!」
硬直状態から覚め、慌てて言い訳するオレンジに、三人は一斉にジト目を向けた。
「そういう問題じゃないのよ」
「そうだよ、毎日毎日へりくつばっか!」
その後もオレンジへの弾圧はとまらない。そろそろオレンジの精神状態が保たない、というとき……。
「洗面所あいたよー! オレンジ、次!」
『おー! レッドおかえりー! 元気だったー!?』
「私の扱いひどくない!?」
レッドがまるで遠方から帰還したかのように諸手をあげて喜ぶ三人に、オレンジが悲痛な面持ちで叫ぶ。
『はいはい、いいからはよ行ってこい』
「ああああああああああああああああああ! もういいよもういいよ、もうみんななんて知らない!」
駆け出していったオレンジを冷たい目で見届けた後、四人は一転してはじけたように笑い出した。
「あはははは、笑いこらえるのしんどかったよー!」
「全く、オレンジは面白いよねー」
「だってすぐに騙されるし! バカだし!」
それぞれがいろいろなことを言いながら笑い上戸に陥る。しばし笑って、オレンジが居間に帰ってくるころにはレッド以外はもう普通の表情に戻っていた。オレンジは、その場の人に笑われていたことなど全く気づかない様子だった。レッド以外は。
「レッド、どうした」
すこし引き気味にたずねるオレンジに、レッドは、
「ふぁひゃひゃひゃひゃひゃ! なんでもないぜ! ふっはははははひぃぃーふあはははははは!」
おなかを抱えて笑い転げた。オレンジの頭上にはハテナマークが飛び交っている。助けを求めてブルーのほうを見るオレンジ。
「まあまあ、いいじゃないか。昼にしようぜ、手抜きだけどいいよな」
「あ! そうじゃんそうじゃん、お昼まだじゃん! てへ、オレンジぃお腹すいたー!」
「口調気持ち悪いわ!」
ブルーのフォローにより、レッドの言動から真実がばれることは回避された。それと、オレンジのお昼への執着心。
*
五人で古めかしいちゃぶ台を囲み、ブランチとして作られた梅干おにぎりを食べる。ちゃぶ台はオレンジが面白がって拾ってきたもので、『不要なので回収お願いします 安藤』という札が貼られっぱなしだ。しかしそんなことは気にしないのがハルナンジャーである。おかげで元々の調度品であった洋風のテーブルは代わりに廃品回収に出されてしまった。それにしても、畳でもないのにちゃぶ台を置くと、浮く。これはオレンジ以外の共通認識だったが、もともとの家具を捨ててしまったのだからしょうがない。たまに晩餐会を開くと、サイドテーブルが必要になるのだがしょうがないものはしょうがない。
「このあとどうする?」
早くも食べ終わったバイオレットが、自分の分や人の分の梅干の種をたくさん集めて並べて観察しながら聞いた。
「そうだなぁ、最近、敵という敵は全部主要なレンジャーが倒しちゃってて平和なんだよなぁ」
レッドが頭を掻く。残り四人も、深いため息をついた。これは、この五人の共通の深刻な悩みなのである。
「この間タイマンはろうと思って申し込んでみようとしたら、電話がつながらなかったんだ。おかけになった電話番号は現在使用されておりません、だって。戦闘の練習も出来ないね」
「いや、タイマンっていうか……私達五人だし……一対一にはならないんじゃないかな……」
「しかも電話って、もしかして他のレンジャーと知り合いなの、レッド?」
「知り合いではないけど、フリーダイヤル893893に電話すればいけると思ったんだ」
「何を根拠に!」
「てか893って、ネタが古くない?」
「しかもフリーダイヤルなのかよ!」
「すっごい社交的な喧嘩屋だなあ、おい!」
いたってまじめなレッドに、全員が全力で突っ込みを入れる。レッドは不服そうながらも自分の誤りを認めた。
「でも、練習はしたいなー。どこか練習試合してくれるところいないかなぁ」
「しかも練習試合って、試合というのか、戦闘は!」
――と、そのとき。
パリン、カシャン! という何かが割れる音と飛び散る音が部屋に反響した。とっさに構えをとる四人。そう、四人。四人だけ。ただ一人が冷静に座っているのに気づいたレッドが声を張り上げた。
「バイオレット! 誰かが侵入してくるわ!」
しかし、バイオレットは動じない。正座したまま、動きもしない。心配になったオレンジが屈んでそろそろと近づいてみると、その背中は震えていた。恐怖のあまり泣いているのか、それとも狂って笑っているのか、
「あの、バイオレット?」
ピンクが恐る恐る呼びかけると、急にバイオレットはふきだした。
「あっはははははっははははは!」
いつものバイオレットなら笑い上戸に陥ってもすぐに元に戻るのだが、何かがおかしい。四人は畏怖の念を抱いた。バイオレットは、壊れてしまったのだ。四人とも無意識のうちにバイオレットから距離をとる。はぁ、はぁ、と息も絶え絶えなバイオレットが、ゆっくりと振り返った。その顔は、満面の笑みだった。思わず顔が引きつる四人。手には何かを握っている。サラサラと落ちる様子から白い粉状のものだということだけが四人に伝わる。その瞬間、ブルーははっと何かに気づいたような顔をした。
「もし、かして、バイオレット、まさかの、まさかだけどね、貴女……薬、とかキメてたんじゃないでしょうね!?」
やっと搾り出したような声で聞く。語尾が少し裏返っていることから彼女の恐怖を測れるだろう。
「そうなのバイオレット!?」
「今ならまだ間に合うわよ! 早く自首しなさい!」
「自首したら罪は軽くなるわよ! その薬どこで買ったの!? もしどこか怪しい団体から買ったのなら警察に情報提供したほうがいいと思うわ!」
「そうよそうよ、私たちは一応ではあるけど平和を守るレンジャーなんだもん、もし悪いことをしてしまったなら償おうよ!」
ブルーの発言により勇気を出した残りの三人は、とにかく自首を勧めた。そこで、バイオレットがすっくと立ち上がる。そして、未だに屈んだままの四人に、上から冷たく言い放った。
「どうして自首なんてしなきゃいけないの? あなたたち、私を裏切るの?」
「バ、バイオレット!」
手にすがりついたレッドをあっさりと振り払い、バイオレットは口角を吊り上げて笑った。
「私はあなたたちを信じていたのに、ひどいわ」
「ち、違……」
涙目でレッドが弁解を試みようとすると、ピンクがさえぎるように言った。
「バイオレット、世の中にはやっていいことと悪いことがあるのよ。薬は、やっちゃいけないことなのよ。バイオレット、あなたはいい人だからわかってるはずよね? どうして分かってくれないの? ねぇ、自首しようよ。自分の犯してしまった罪、償おうよ。中毒性があるから薬は最初はなかなかやめられないかもしれないけど、私達応援するよ。ね? 体にも悪いし、もうこんなことやめよう? こんな馬鹿なこと、やめようよ。お願い、バイオレット。元の、冷静な参謀の、バイオレットに戻ってよ。お願いだよ、お願い……!」
いつのまにか、ピンクの目から涙がこぼれていた。もらい泣きで、みんなが泣き始める。抱き合ったり、うずくまったりしながら泣く彼女らをバイオレットは一瞥したあと、少し迷う表情を見せながら、ゆっくりと話し出した。もう彼女の顔から、笑みは消えていた。
「私、こんなことするつもりじゃなかったわ。けど、好奇心に負けてね……。みんなには本当に悪いと思っているわ。生ごみの処理が大変になるかしら」
まじめに聞いていた四人が一斉に驚愕する。まさか彼女は、死んで生ごみになるのも構わないという所存なのではないか。
「バイオレット! 死んじゃ嫌だよ!」
叫ぶオレンジを動作だけで制し、バイオレットはまた話しはじめる。
「みんな、実はね、私一度言っておきたいことがあるの。いいかしら?」
反射で、全員がうなずいていた。
「あのね、……さっきの割れる音は何だったのかしら」
「え?」
もっと深刻なことを言われるのだと思ったみんなが拍子抜けする。
「何って……」
「で、でも、確かに誰も侵入してきていないわ!」
レッドがきょろきょろと辺りを見回して叫ぶ。でも、とブルーが言う。
「どこかに潜伏しているかもしれないわ。手分けして探しましょう!」
「そうね、何かを割ったやつには素直に白状してもらって、すばやく自首してもらうわ!」
やる気が出て腕まくりをしたオレンジの手首をバイオレットがすかさずつかむ。
『オレンジ!』
人質にとられたオレンジを必死に助けようと、レッドが飛び出してきた。残りもそれに続く。
「みんな! 気をつけて、バイオレットは敵だわ!」
勇気を振り絞ったオレンジが叫ぶと、あら、とバイオレットは反撃した。
「どうして私、大量の梅干の種を一気に割っただけで自首しなきゃいけないの? 最近の世の中は物騒ね」
しばらく時が止まったかのようだった。不敵に笑うバイオレットと、唖然とするブルー、レッド、オレンジ、ピンク。ふらふらと床に手を突き、頭を抱え――
『って、えーーーーー!?』
数分の時間を要してようやく状況を理解した四人は、わーわーと口々に文句を言った。
「それだけならどうしてそんな小芝居やってたのよ!」
「え? みんなが素直に騙されるのが面白くて?」
満面の笑みどころではない笑みを浮かべて楽しそうにそう言うバイオレット。
「ひどい! ドSだコイツ!」
「ええ、そうね。それよりも梅干の種を一度にたくさん割ったことを賞賛してほしいわ。そうそう割れるものでもないわよ、あれ」
「そこまで考えてなかった! 騙されたことしか念頭に無かった!」
「まあともかく、よかったんじゃない? とっさに構えを取る練習が出来たんだし」
『そういう問題じゃないよーーーーーーー!』
「それに、楽しかったわよ? まさか種のかけらを麻薬と見間違うなんてね。しかも、生ごみとかのくだりでうすうす感づかせようと思ったのに、あなたたちの脳みそは都合のいいほうにしか動かないからとってもいい見世物だったわよ」
『いやああああああああああ!』
全員がさっきまでの自分の行動を思い出して転げまわる。特にピンクは、「どうしてあんな長セリフ言ったし!」と一番暴れてのたうちまわっていた。
「確かに一瞬、窓ガラスが割れたのかと思ったけど、あなたたちもっと周りを見たほうがいいわよ」
「はーい……」
妙にしゅんとした空気の中いつもとは違うランチタイムが終わり、ハルナンジャーはもとの堕落した生活に戻っていくのであった。
作者です!
もうすぐ文化祭です!それで、我が文芸部の部誌(文化祭号)に載せる原稿をちょっと早くうpしてみました。こんなアホなことしか書いてません。あと、最近恋愛モノに偏っていたのでたまには女ばっかりもいいかなと思ってこんなオチのあるようなないような妙な話を書いてしまいました。後悔はしていますが反省はしていませんwwww
女ばかりにするとこんな風に意味わからん文章が完成します。「少女たちがもし~」シリーズもそんな風になってしまうかもしれません。うぅー……まあいいか(諦
それでは次の作品でお目にかかれることを願って。
あと、今から学校行ってきます。今日から学校です。うぅ・・・