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幻視

※主人公は絵を描きますが作者は絵を描いたことがありません。

※作中で語られる作品は実在したりしなかったりします(あとがきに明記します)。

※若干ファンタジーに傾くかもしれません。

何か看過できない間違いなどありましたら是非ご指摘ください。

 その足取りに、僕は足を止めた。

軽やかでどこか危なっかしいそのステップ。

少女は大きな交差点の一角で舞っていた。

真っ白いワンピースを着て、真っ赤な帯を持って。

数分間、僕は目を奪われて一歩も動かなかった。

少女は軽やかに、と言うよりほとんど力なく一回転して、そのまま倒れた。

少女の体が倒れるその長い一瞬、僕は彼女と目が合ったと思った。

その顔はほとんど真剣な無表情だったが、喜びの色が見えたような気がした。

体には全く力が入っておらず、無抵抗に地面に引き寄せられて――消えた。


 僕の周りには人ごみと喧騒が帰ってきた。

少女も、帯も、ワンピースも、一切は消えて帰宅ラッシュになった。

僕はあの舞を何度も頭の中で繰り返しながら帰途についた。


 僕はよく幻覚を見る。

物心ついた頃から見ていたと思う。

それが幻視だと気づくのには時間がかかったし、他の人には見えないと気づくのにはもっと時間がかかった。

今ではほとんど考えもしないことだが、なぜ自分にだけそんなものが見えるのかは分からない。

両親も幻覚など見たことがない。

病気を疑われて病院に通ったこともあるが、状況は変わらなかった。


 僕は東京で、あるおばあさんの家に下宿していた。

親戚だが、どういう血縁関係なのかは知らない。

上田清子という名前で、周囲からはキヨさんと呼ばれていた。

僕もそれに習ってキヨさんと呼んでいた。

キヨさんの夫は亡くなっており、一人暮らしは寂しいからと言うので僕を住まわせてくれた。

階段の上り下りが億劫で二階を使わないというので、僕は二階全体を自由に使っていた。


 帰ると僕はすぐに部屋にこもった。

さっきの少女の姿を一刻も早く絵にしようと思った。

何度も頭の中で繰り返しているあの舞を何枚かのデッサンにし、構図を決めた。

キャンバスはF150号を使うことにした。

普段はほとんど使うことのない大きさだが、公募展に応募するときに使おうと買っておいたものだ。

このとき僕はほとんど確信を持っていた。

それまでも幻視を絵にしたことは何度もあったが、この絵がその中で最も良い絵になると信じていた。

お読みくださりありがとうございます。

書き始めたばかりなので更新はかなりゆっくりになると思いますが、お付き合いいただければ嬉しいです。

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