青春のリグレット
今日も偶然を装おい、待ち伏せ。
仕事帰りに、彼女が立ち読みする本屋。
彼女は僕の会社の受付孃。
僕はやり手上司の小間使役。
釣り合わないかもしれない。
でも、入社式の時から、
いや、夏の海水浴場で、僕の車でご一緒して以来、
恋をしてしまった。
毎日会っているのに、告白した事がない。
臆病だった。
だから、今夜こそ!
私服の彼女が店内に入って来た。
少女漫画の立ち読みを始めた。
一冊の半分を読み終えた頃を見計らい、
おもいっきり声をかけた。
「こんばんは。」
「あら?今帰り?」
「うん。何読んでるの?」
「コミックよ。」
せっかく声をかけたし、
お互い全く知らない同士ではない。
僕は彼女を、喫茶店に誘った。
キャンドルが、彼女の分厚いメガネに映っている。
コーヒーカップについた、彼女のルージュを見た時、
「あっ、あの~」
「何?」
「僕と付き合って下さい。」
言ってしまった。偽りのない言葉。
「友だちからならオーケーよ。それと、」
「それと、何?」
「社内で内緒にして欲しいの。」
「わかった。シークレット。」
「ヒミツね。」
彼女に誓った。
僕たちは、デートを重ねた。
彼女は必ず、ユーミンのカセットテープを持って来る。
二人で聴きながら、
小一時間位走った町外れの海までドライブ。
楽しいひとときだ。
だが、二人で街中を歩いた事はない。
会社の人に見られたくないから…。
でも、一度だけ街を歩いた時、
彼女は分厚いメガネを外していた。
シークレット・ラブ。
二人だけの秘密。
でも、守れなかった。
やり手の上司に、酒に酔った勢いで話していた。
何て話したのかさえ、僕自身も覚えていない。
だけど次の日、会社のトイレで違う上司から言われた事。
「あまりウチの会社の女史に手を出すでない。」
その週の、雨の日曜日。
彼女と待ち合わせ。
いつもと違い、無表情の彼女。
ユーミンのカセットテープを流し始めて、
助手席で黙り込んでいる。
「どうしたの?」
「何でも無いよ。」
表情が…違う。
いつもの海に到着した時、
彼女は、重い口を開けて言った。
「私、ずっと片思いの人が居るの。」
泣きながら、続ける。
「その人の事、忘れられないの。」
「あなたは優しい人なんだけど、もう会えない。」
最後に悪女を演じてまで、
僕の悪事を問い詰めなかった彼女。
最後まで、甘えていた僕。
次の日、いつものように元気よく、
受付孃の彼女に、挨拶した。
「おはようございます。」
元気が出ない傷心期間だったが、
せめてもの、罪滅ぼし。
彼女が僕の気持ちを一番理解してくれていた。
「おはようございます。」
笑顔の彼女は、僕よりオトナだった。




