第1話 乙女と不思議体験
絶対零度、厳しい寒さを乗り越えた先にある、希望と喜び、そして光に満ちた楽園のような季節。
春――。
私の名前はクリス。
この春、私立エレメント学園に無事に成績上位で入学することができました!
私立エレメント学園は世界で唯一有毒人種の入学を認めている学校で、有毒人種は入学に際し試験は不要で誰でも入学できるんですが、有毒人種ではない一般の人はかなり難しい――偏差値の高い名門校の生徒が試験を受けて落ちるレベル――試験を受けることになるいわばエリート泣かせの学校です!
そんな学校に成績上位で入学できたのはこれは運というよりも、そもそもウミヘビとの面接の時点で多数の人が落ちてしまうそうで。
ウミヘビとの面接前にいた学生さんの半数以上が教師との面接の時にはいなかったという難関ぶり!
この学校では、ウミヘビと上手くやれるかというのが最低条件らしく、どうも落ちた人たちはウミヘビと何かあったみたいですね……、詳しい内容までは知りませんが。
そんな難関試験を突破した私ですが、実はここで問題発生してるんです!!
助けてください! Help me!!
「ここ……どこですか……」
早速敷地に入って迷子になってしまいました……。
そもそもこの学校、広すぎるんですよ!
昨日入寮を済ませましたが、寮から校舎まで15分以上かかる学校って何です!?
昨日は寮長である先輩から集団で案内されてたどり着きましたが……すっかり迷子です!
似たような景色、同じ道、それで迷子にならない筈はなく――みたいなフラグがその辺に散らばってるような!
こんな広い場所で一人迷子。
心細くなるのは仕方がないことで……。
不安で押しつぶされそうなのをどうにか堪え、歩き続ける。
ここから遠目には校舎の建物が見えているんです、どうにかこの鬱蒼と生い茂る木々を抜けて行けば辿り着ける……筈!
気を取り直して、遠目に見える校舎を目指し、歩いていくことに……。
「――Shining glory...
the light is in our hands.
I can't back down. 無情の夢……」
――と、再び歩き出そうとした私の耳に、微かな歌声が飛び込んできました!
聞こえるか聞こえないかくらいの本当に微かに聞こえる歌声は、場所も相俟って少し不気味です……。
が、ここまではっきり聞こえるので、きっとこれは人の声!
漸く巡り合えた人の声に期待と不安を混ぜながら、とりあえず歌声の場所まで行ってみることにします!
―― ――
―― ――
「わぁ……!」
声を辿っていくと開けた場所まで出てきて、目前には朝の陽ざしを受けてキラキラと輝く湖面が広がる湖畔までくることができました!
学校の敷地に大きな湖があるなんて……流石、世界有数の名門校!
敷地の規模も半端じゃありません!
緑と水色のコントラストが綺麗で、風に揺られる木々の音、鳥の鳴き声に心が癒されるかのよう……!
その自然の音に調和するかのような歌声がまた幻想的で、夢を見ているみたいです!
「there is no escape for you.まだ
夜明けの時を待つ
静かに 静かに……」
と、滅多に見られないような景色に感動していると、歌声は意外と近くから聞こえてきます。
視線を巡らせて辺りを探してみると、数メートル先に人の影が!
ひ、人です! 漸く会えました!
その人は、エレメント学園の制服である白を基調としたジャケットを着ているので、ここの生徒さんみたいです。
風に揺れる赤く透ける黒髪に、袖口から覗く手首は白くて細くて、華奢な印象。
何より、その歌声に聞き惚れてしまいます。
低い女の人のような歌声が心地よく響いて、まるで子守歌の様で……
「You can't look back,you can't do anything
深い宵闇の中……!?」
あ、歌っている人と目が合ってしまいました。
中性的な人――多分、女の人?は私と目が合うと、神秘的な赤褐色の瞳を目一杯開いてこちらを驚いた表情で見てきます。
そして、一瞬で消えたかと思うと、次の瞬間には目の前に……ってえぇ!?
どんな手品ですか!?
「えっ、えっ、えぇっ!?」
状況が訳が分からず口をパクパクさせながらも何か言葉を発そうとしますが、混乱して縺れる口は意味のある言葉を発してくれません!
しかし、私が何かを言う前に目の前の女性は心配そうな表情で私の様子を窺ってきます。
「すみません、この時間だから人がいないものと思って……。
貴女は見ない顔ですが、もしかして新入生ですかね。
うわ、マズったな、これ……」
表情から読み取りにくいですが、何やら慌てた様子。
人がいない間に歌の練習でもしていて、人に見られたから慌てているのでしょうか?
あんなに綺麗な歌声で何処に慌てる要素があるのか謎ですが、本人にしては死活問題の様子です。
「え……、っと、何処か気分が悪かったり、何処か痛かったりしませんか?」
「え?」
何でそんなことを訊くのでしょう?
質問の意味が分からず、私はただ、心配そうに目線を合わせてくる女性に首を傾げて見せる。
人の歌を聴いただけで気分が悪くなるなんて、それって何てジャパニーズアニメの青い猫型ロボットに出てくる某ジャイアニズム小学生?
「えっと……むしろ、綺麗な歌声でした……」
どうにか言葉を絞り出して伝えてみれば、彼女は何処かほっとしたような表情を浮かべている。
「異常はなさそうですが……、念の為、養護の先生に診てもらいましょう。
学園内の救護校舎へ送るので、僕の手をしっかり握っていてください」
「えっ!?」
言うが早いか、彼女は私の手を優しく取って――。
「いいですか、僕の手を絶対に離さないでください。
――冥門」
「わっ!?」
彼女が何事かを呟いた後、黒い光が溢れ、吃驚して目を瞑る。
時間にしてどのくらいでしょう、多分一秒も経たないくらいのほんの僅かな時間。
その次の瞬間には彼女の「着きましたよ」という声が聞こえて、私はゆっくりと目を開けました。
「――え?」
目の前には校舎があります。
さっきまで森の中にいたのに……。
ど、どういう状況なんですか、これ!?
瞬間移動でもしてしまったのでしょうか……転移装置もなく!?
そもそも、転移装置は人を運べない筈で……
状況に混乱していると、先ほどの彼女の優しい声が聞こえてきます。
「さぁ、こちらです。
フリッツ先生か癒月先生がいてくれたらいいのですが……」
そう言って、校内へエスコートしてくれる彼女。
建物の傍には赤地に白い十字が描かれた旗が高く掲げられ、風に煽られている様はまるで青空を泳いでいるみたい。
「ここは、救護校舎です」
「きゅ、救護……」
「怪我人が続出するような学校ですからね。
普通の学校では養護教諭は1人ですが、ここでは10人以上の養護教諭がいます。
何なら、一部の先生は養護教師の資格も持っていたりしますね」
彼女の説明に、私はとんでもない学校に入学したのだと悟ってしまいます。
そもそも、生徒にウミヘビがいる時点でとんでもない学校でした……。
建物内は、病院の様に綺麗な内装をしていて、学校というより“病院”と言われた方がしっくりきます。
その中の一つの教室の前にくると、彼女は「失礼します」と教室の戸を開け、中に入っていく。
その後に着いて入ると、先生が座る椅子やデスク、その隣にベッドがあって、室内はまるで、病院の診察室の様です。
その中で一人の淡い紫がかった銀髪を後ろで纏めた白衣を着た先生が棚を弄っていたみたいで、こちらに気付くと――むしろ、彼女の姿を見て喜んでるようにも見える?――にこやかな表情で声を掛けてきます。
「おや、暁斗君ではありませんか。
君からここに来るのは珍し……、そちらは?」
私に気付いた――多分、養護教諭の方でしょうか? 声が低いので男性ですね――彼は、途中で言葉を切ると、“暁斗君”と呼んだ……ん? “暁斗君”?
一部の人は女性にも“君”と付けて呼ぶことがあるにはありますが……それよりも名前の方です!
ジャパニーズアニメや漫画も手広く読む私には分かる、その名前。
その名前は女の人に付けるような名前ではなかった筈です!
「えっと……先ほど出会ってしまいまして――」
「男性だったんですか!?」
「……は?」
思わず叫んだ私の声の後に“暁斗君”と呼ばれた人の口から、今までよりもぐっと低い声が漏れ出る。
“彼女”だと思った人は“彼”でした。
彼の名前は、“美堂暁斗”というらしいです。
日本から来た方だと思いましたが、実はパラレルワールドにある“大和帝国”という国から来た生徒さんなのだとか。
次元の壁を越えてパラレルワールドに行き来できるって……考えたらそんな技術があるの、凄いですよね……。
クリス
天海二色先生の作品「毒素擬人化小説 《ウミヘビのスープ》 〜十の賢者と百の猛毒が、バイオハザード鎮圧を目指すSFファンタジー〜 ……これは治療薬に至るまでの、長い道のりを記した物語である(以降、《ウミヘビのスープ》)」に出てくる頑張り屋さんな女の子。
俺夢の推し。
俺夢が気に入り過ぎたのでこの小説の主人公になっていただきました。
これから、色々と巻き込まれて楽しい学園生活を送る予定です。
☆世界観
《ウミヘビのスープ》と俺夢の作品世界をごった煮にしたとんでもねぇ世界。
世界と世界は隣り合っていて、超技術で行き来できるようになっている。
なので、天海先生の作品世界に出てくる国も出てくれば、俺夢の作品世界に出てくる国も出てくる。
世界が広すぎるんよ。
大和帝国
パラレルワールドの日本。
特徴としては、黒髪を光に晒すと他の色が混じっていたりする。
(例:暁斗の赤く透ける黒髪など)
目の色は日本人と同じく黒や茶色だが、たまに赤褐色や光に当たると赤や青に見えることも。




