斬艦
遅くなりましたが、『バハムート宇宙を行く ノアの歩み』を更新しました。
本当に更新が遅くなってしまい、申し訳ございません。
お待ちいただいている皆様には感謝しかありません。
少しずつにはなりますが、これからも更新していきますので、よろしくお願いいたします。
「ボガード、突撃形態へ移行」
テリーがそう告げると、マリーはバイクのギアをさらに一段上げるように、左足のペダルを押し込んだ。
疾走モードから、さらに踏み込むための突撃形態。
ボガードの各所に収納されていた姿勢制御スラスターがせり出し、巨体の輪郭を押し広げるように光を帯びていく。
「ハン! 突撃する。準備しておけ」
『任しときぃ!』
通信越しに元気な返事が返ってくると、テリーは一度だけ手を鳴らした。
「マリー。ぶっ飛ばせ」
「ええ、仏恥義理、見せてあげる」
マリーの表情が一変する。
穏やかな母の様相は消え、代わりに浮かんだのは、暴走族を思わせる鋭く獰猛な笑みだった。
彼女がアクセルを一気に捻ると、ボガードのスラスターが眩い輝きを放つ。次の瞬間、巨体は戦艦とは思えない速度で加速し、ノアたちが切り開いた戦場を一直線に突き進んでいった。
「戦艦の機動じゃない……!」
ノアは驚きながらも、すぐにボガードの前方へ入る。
武器スロットを切り替え、右手のムラマサをビームマシンガンへと変更する。両手に構えたビームマシンガンが火を噴き、ボガードの進路を塞ごうと接近するRFを、確実に撃ち落としていった。
「後ろががら空きだ!」
何機かのRFが背後からボガードを墜とそうと狙う。
だが、そのさらに後方から放たれた攻撃が、敵機を次々と撃ち抜いていく。背後に位置取ったヤマトが、大型量子ビームキャノンとリニアカノンを使い、狙いすました一撃で確実に落としていた。
『後ろががら空きじゃな』
シゲ爺は難なく狙撃をこなしながら、静かに前進し始める。
一方、ギールの乗るノワールは、ボガードの直援をノアに任せ、周辺に散っているRFの掃討へ回っていた。
無駄なく動き、確実に撃破する。向かってくる攻撃に対しては、避けられるものを確実に回避し、直撃の可能性がある攻撃には、ビームシールドと手の甲から伸びるビームセイバーで堅実に対応していく。
確実で、隙のない戦闘スタイル。
ノワールの戦い方は基本に忠実で、派手さこそない。だが、そこには一切の無駄がなく、ギルドマスターとして誰の手本にもなるような、堅実な戦いを展開していた。
そして、先を進むボガードの疾走は止まらない。
迫る砲撃を紙一重で回避し、姿勢制御スラスターをまるで生き物のように動かしながら、巨体は戦場を突き進んでいく。
その光景に、ゴダウは困惑を隠せなかった。
さらに、そのボガードを守るアルカノヴァのでたらめな性能。前方から接近しようとするRFはことごとく撃ち落とされ、進路を塞ごうとした機体は、まるで最初からそこに存在しなかったかのように排除されていく。
もはや、打つ手は失われつつあった。
「船長!」
「うるさい! こうなれば俺が出る! オンステージの準備をしろ!」
ゴダウが声を張り上げた、その瞬間だった。
さらに別の警報が、ブリッジに鳴り響く。
「どうした!」
「先ほど通り過ぎていったRFもどきが、戻ってきました!」
ゴダウの運命は、もう詰みかけていた。
一方、マイは戦場を一気に突っ切ったのち、即座に引き返して速度を上げていく。
『マイ。もうほとんど終わってるから、適当に砲台やカタパルトを潰しておけ』
「なんだよ! もう終わりかよ、親父!」
暴れ足りないとばかりに憤るマイに、テリーはニヤリと笑みを浮かべ、平然と頷く。
『おう、終わりだ。もう突撃形態に入ってる』
その報告で、マイは一気に冷静になった。
『マイ。もしかして邪魔する気?』
その時、マリーから冷たい声が届く。
それは、マリーが昔の本性――暴走族としての顔をさらしている証拠だった。マイはその意味を知っているからこそ、反射的に背筋を伸ばす。
「いや、止めないよ。うん。なら、最後の仕上げを手伝うよ」
母の機嫌を損ねまいと、マイはテリーの指示通り、背後から一気に海賊の旗艦へ迫る。
「母さんの邪魔すんな! このボケ茄子が!」
すれ違いざま、ショットキルの両手に握られたメガショットガンが火を噴いた。
重い一撃が旗艦の外装を抉り、スラスターを砕き、主砲の基部を吹き飛ばす。さらにテリーの指示通り、発艦カタパルトへ狙いをずらし、まとめて潰していった。
『マイ。いい子ね』
「うん。母さん、頑張って」
マイは通信が切れたのを確認してから、ほっと胸をなで下ろす。
(何とか怒られずに済みそう)
戦場より、母の怒りの方がよほど怖かった。
ボガードはノアの援護を受けながら、とうとう海賊の旗艦へと接近する。
しかも、真正面から突っ込んでくるボガードに対し、旗艦には回避する手段がなかった。
マイによってスラスターを破壊されている以上、巨体を動かすことすらできない。
マリーは、舌先で唇をわずかに湿らせた。
ギリギリの勝負。
互いの距離が急速に縮まり、衝突まで残りわずかとなる。
そして、その瞬間だった。
マリーは一気にハンドルを切る。
ボガードは旗艦へ激突する寸前で軌道を変え、その巨大な船体を滑り込ませるように旗艦の下へ潜り込んだ。
「あんた!」
マリーの声と同時に、テリーの声が艦内へ響き渡る。
「ハックミサイル! 射出!」
その号令と共に、ボガードから複数のミサイルが放たれた。
ミサイルは旗艦へと命中する。
しかし、爆発はしない。
ただ装甲へ深く突き刺さるだけ。
だが、それで十分だった。
目的は最初から破壊ではない。
「ハン! 一気に吸い上げろ!」
テリーの声をインカム越しに聞いたハンは、データ室の隅でニヤニヤと笑みを浮かべていた。
「了解や! ほないただきますわ」
ハンはホロディスプレイへ指を滑らせる。
ハックミサイルによって構築された侵入経路を利用し、旗艦内部の情報へアクセスする。
慣れた手つきでセキュリティを突破し、ジャイ・アン海賊団の保有データを次々と吸い上げていった。
その情報はデータ室の一角に設置された隔離端末へと流れ込んでいく。
念入りに隔離された専用領域。
外部ネットワークから切り離されたそこへ、海賊団の情報が次々と蓄積されていった。
「50%……80%……100%! OKや。もう用なしやで」
ハンは満足そうに頷きながら、ホロディスプレイを軽く弾いた。
ノアは、あり得ない光景に目を奪われていた。
戦艦へ真正面から突っ込んでいくボガード。
そして、衝突寸前で進路を変え、すれ違いざまにハックミサイルを撃ち込むその姿。
常識的に考えれば、必要のない危険な機動だった。
「今のって、必要なんですか?」
『不必要だけど、マリーはこういうの好きだからね。この程度の相手なら許してるよ』
ギールは苦笑しつつ、ノワールをアルカノヴァへ接近させる。
『さて、最後の仕上げだけど、いつもならシゲ爺が全弾叩き込んで終わらせるところだ』
『今回はノアに譲る。おぬしの実力を見たいからの』
ゆっくりと、ヤマトも近づいてくる。
全身を武器で覆ったRFは、味方であっても圧を感じさせる姿をしていた。その存在感に、ノアは思わず額に汗を浮かべる。
『いつものシゲ爺の花火でいいじゃねえか!』
そこへ、ショットキルも戻ってくる。
不満を隠さないマイの声が通信に乗るが、すぐにシゲ爺が穏やかに割って入った。
『マイ。ノアの、そしてアルカノヴァの実力を知りたいじゃろう。これはよい機会じゃ。どこまで出来るか、見ておくのも悪くない』
諭すようなその言葉に、マイは黙り込む。
そして、ふんと鼻を鳴らした。
『見せてみろ。そのLOシリーズが飾りじゃないってとこ!』
『ということだから、ノア。見せてくれ』
ノワールが、アルカノヴァの肩を軽く叩く。
「はい」
ノアは短く返事をし、静かに息を吐いた。
そして、武器スロットを切り替える。
(グラビティーバスターは、まだ修理中のマークが消えない。メガバスターライフルでもいいが、ここは――)
ノアは右手にムラマサを、左手にマサムネを呼び出す。
空間がわずかに揺らぎ、次の瞬間、アルカノヴァの両手にはビームマシンガンではなく、二振りの刀が確かに握られていた。
急に切り替わった武装に、マイとシゲ爺が驚きの声を漏らす。
『なんだよ、それ!』
『なるほどの。武器が必要ないとは、こういうことか』
「そういうことです」
ノアは静かに答えると、一気に加速した。
すでに戦闘能力を失った戦艦へ、アルカノヴァが迫る。
右手のムラマサ。
左手のマサムネ。
二振りの刃を交差させるように構え、ノアは真っ直ぐに敵艦を見据えた。
(絶対切断。スキルは想像力次第。斬るのは、戦艦。確実に断つ)
一つ、息を吸う。
これはゲームではない。
だからこそ、迷いではなく覚悟で刃を振るう。
「斬艦」
次の瞬間、二振りの刃が振り抜かれる。
ただ、それだけだった。
けれど、その一撃で戦艦はクロスに切り裂かれた。
まるで最初からそうであったかのように、巨大な艦体に切断線が走り、装甲も、隔壁も、内部構造も、音もなくずれていく。
そして、遅れて爆発が起きた。
ノアはその光を背に、静かに呟く。
「一刀両断」
『二刀だよね?』
ギールが静かに突っ込んだ。




