剣と楔が刻む戦線
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戦艦ボガードの左右船体に設けられた発艦区画が、低い駆動音と共に開いていく。装甲がスライドし、リニアカタパルトの軌道がむき出しになると、その先には、何も遮るもののない宇宙が広がっていた。
アルカノヴァのコクピットに座るノアの視界いっぱいに、漆黒の宙と無数の星々が流れ込んでくる。閉ざされた艦内から、戦場そのものへと切り替わる感覚に、自然と背筋が伸びた。
『主砲一番から六番、斉射準備。ミサイル発射管、第一から第十、即時発射――攻撃開始!』
テリーの宣言が、冷静かつ短く艦内に響く。
次の瞬間、戦艦ボガードの側面から放たれた青い光が、宇宙空間を大きく湾曲しながら走った。まるで軌道そのものを捻じ曲げるかのような量子ビームが先行し、その後を追うように、複数のミサイルが弧を描く。
数拍遅れて、閃光。敵艦の周囲で連鎖する爆発が、黒い宙域を一瞬だけ昼のように照らし出した。
『敵マーク一、マーク二、撃沈確認。カタパルト発艦開始!』
『マイ! ショットキル! 出るぞ!』
通信越しに響くテリーの声を合図に、発艦デッキの空気が一段階張り詰める。次の瞬間、ショットキルと名付けられた異形のRFが、明るく弾けるマイの言葉と共に、リニアカタパルトから解き放たれた。
バイク型の機体は一瞬で艦内の影を抜け、宇宙へと躍り出る。その姿は、まさに突撃という言葉そのものだった。
「ショットキルって……すごい名前のRFだな」
ノアは思わず呟きながら、飛び出していくショットキルの背を視界に捉えつつ、自身もリニアカタパルトへと機体を進める。
アルカノヴァが射出位置の中央へと引き寄せられ、確実に固定される。ホロディスプレイに浮かぶ警告色が、赤から緑へと切り替わった。
「アルカノヴァ。行きます!」
宣言と同時に、フットペダルを踏み込む。カタパルトが即座に反応し、アルカノヴァの機体が一気に加速する。艦内の構造物が、視界の端へと流れ去っていった。
射出。
宇宙へ躍り出た視界の先には、すでに破壊された敵戦艦の残骸が広がっている。砕け散った装甲と、漂う熱の痕。その間を縫うように、ショットキルが猛スピードで進路を取っていた。
『ノワール。出る』
『ヤマト。行くかの』
背後で、ギールのノワールとシゲ爺のヤマトが、相次いでリニアカタパルトから射出される。ノワールは即座に進路を調整し、アルカノヴァの援護位置へと滑り込んだ。
一方、ヤマトはボガードの正面に位置取ると、全火器を展開する。圧倒的な存在感で、戦場をその射程へと収めていった。
『ノア。後ろは気にせず、マイを追って進んで行ってくれ』
ノワールを操るギールからの通信を受け、ノアは静かに息を整え、正面を見据える。
すでにマイの操るショットキルは、敵陣へ深く侵入していた。その速度は異常とも言える域に達しており、敵RFは反応が追いつかない。
『ワンショット! ツーショット!』
通信から響くのは、楽しげですらあるマイの声。
ショットキルの前輪を覆う左右のフレームが展開し、機体は腕を持つ形へと移行する。その両手に握られた大きなメガショットガンが、正確に狙いを定めた。
逆関節スラスターが生き物のようにうねり、瞬時に敵RFの背後へ回り込むと一撃。さらに間を置かず、次の敵機の背後へと滑り込み、もう一撃。
わずかな時間で二機が墜とされ、ショットキルは勢いを殺すことなく、前進を続ける。
止めようとする敵機はビームを放つが、その軌道はマイの操縦と速度に追いつけない。やがてミサイルへ切り替えるも、周囲から襲い来るそれらは、機体上部に装着された自動レーザーポッドによって、次々と撃ち落とされていく。
ショットキルの進撃を止めることは、誰にも出来なかった。
ノアは、その混乱の隙を狙いすましたように突く。一気に距離を詰めながら、武器スロットを操作した。
右手にムラマサ。左手にビームマシンガン。
次の瞬間、アルカノヴァの両腕の周囲で、空間がわずかに歪んだ。揺らぎが収束すると同時に、そこには一振りの刀と、ビームマシンガンが確かに存在していた。それを視認した背後のギールが、思わず声を上げる。さらに、通信の向こうからは、シゲ爺やタイソンの驚きを含んだ声も漏れ聞こえてくる。
だがノアは、それらに応える余裕を持たない。視界の端で交わされる通信も、驚きの声も、意識の外へと押しやられていく。
混乱した戦場に、一本の剣が差し込まれた。
アルカノヴァが前へ出る。ビームマシンガンが放たれ、敵機の動きが一瞬だけ鈍る。その隙を、ノアは逃さない。
ムラマサの一刀。さらに間を置かず、もう一刀。
まるで抵抗する意味を持たないかのように、敵RFは切り分けられていく。装甲も、内部構造も、力任せに壊されるのではなく、正確に断たれ、瓦解していった。
その速度は、ショットキルと同等。だが、その動きはまったく異質だった。
加速に頼らない。無理な軌道も描かない。
アルカノヴァは、本当に人がそこにいるかのように動く。一歩踏み込み、身を捻り、間合いを詰める。その一つ一つが、舞うように滑らかで、無駄がない。
剣を振るうというよりも、剣そのものが戦場を歩いているかのようだった。
ムラマサが閃くたび、空間が断ち切られる。切られた敵機は、悲鳴を上げる暇すらなく、形を失っていく。
それは乱戦ではない。制圧でも、殲滅でもない。
一振りの剣が、戦場を真っ直ぐに叩き切っていく。ただそれだけの光景だった。
『援護の必要がないな、これ』
ギールが通信で、半ば愚痴のように零す。だがその声に、焦りはない。
それもそのはずだった。
マイが楔を打ち込んだ戦場を、ノアという剣が、瞬く間に割っていく。切り開くというよりも、最初からそこに線が引かれていたかのように、戦線そのものが二つに裂けていった。
おかげで、ギールの操るノワールは動きやすい。討ち漏らした敵機だけを拾い上げるように、ビームライフルとビームマシンガンで的確に落としていく。
無理に前へ出る必要もない。戦場はすでに、整理されていた。
一方で、シゲ爺もまた、やることが限られてくる。戦艦を、まるで的のように沈めていくしかない現状に、どこか愉快そうな笑いを零しながら、肯定する。
『うむ。儂らの出番がないの』
そう漏らした直後、腕に抱えた巨大なリニアカノンを構え、引き金を引く。放たれた一撃は正確無比で、次の瞬間には敵戦艦が沈黙していた。
『いやいや。大型のリニアカノンで狙撃するシゲ爺も、十分活躍してるよ』
ギールの返しは軽い。そのやり取りが示すように、戦場の勝敗はすでに決していた。
ノワールは一度だけ振り返り、戦艦ボガードを見る。短く、しかし明確な合図を送った。
『テリー、マリー。行動開始』
『了解!』
マリーが即座に応答する。次の瞬間、ボガードのスラスターが光量を増し、巨体が戦場へと突き進んでいく。
『ノア。ボガードが今から突っ込む。敵を近づけさせないように』
「了解です」
ノアは返答と同時に、武器スロットを切り替える。ムラマサからビームマシンガンへ。思考を挟む間もなく、身体が次の役割を理解していた。
そのまま進路を切り替え、アルカノヴァはボガードの前方へと滑り込む。主役は艦だ。ノアは、ただその進路を塞ぐ存在を排除するために動き出した。




