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ノアの戦場、集う狼たち

『バハムート宇宙を行く』の裏側でノアがどのように動いていたのかを描く外伝です。

不定期更新となりますが、よろしくお願いいたします。

 ゴダウは困惑を隠せなかった。


 この少し前。


 ギルドの情報ではこの国の軍は形骸化し、ハンターもさして強くないと聞かされている。だからこそ決めたのだ。稼ぎの薄いゲイツ帝国を離れ、裏ルートで得た断片的な情報を金に換え、フロティアン国で一旗揚げる──そのつもりでいた。


 だが、予想外の出会いが訪れる。たった一隻のハンター戦艦と遭遇したのだ。


 此方の艦は古び、継ぎはぎだらけの中型戦艦が七隻。そこに大型戦艦が一隻混じるという編成だ。戦闘機も機動兵器も中古や鹵獲品をかき集めたような有様で、質は決して高くない。


 だがそれを見た瞬間、ジャイ・アン海賊団のキャプテン、ゴダウ・タシケの胸に熱が灯った。エビルギルドの中でも中の下くらいの実力なら自負があって然るべきだ。ここで派手にやって見せれば、この国での地位は一気に上がるだろう。


 モニターの青白い光がブリッジの空気を冷たく塗り替える。配管の隙間から漏れる油の匂い、金属の疲れた鳴き。通信担当が振り返り、にやりと笑った。顔には対応が読め切っている自信が滲んでいる。


「相手は……おいおい、ハンターギルドのマスターじゃねえか。しかも一隻しか持ってないチーム『アドベンチャー』だと。挨拶代わりにはもってこいだ!」


 ゴダウは笑みを引きつらせながらも、無造作にマイクを掴んだ。ブリッジに響く彼の声は大袈裟な自信に満ち、狩りの期待を振りまく。


「野郎ども! 獲物だ! しかもギルドマスターだ! ここはジャイ・アン海賊団の華々しい見せ場だ。大いになぶり殺してやれ!」


 艦内に湧き上がる興奮。舵の前に立つ若いクルーの頰が赤く染まり、機械を叩く音がひとつ、またひとつと増えていく。


 だが、ゴダウの背後でふと、冷たい風が流れた気がしたのは気のせいだろうか。敵の正体が“マスター”であるという事実は、単なる獲物以上の意味を含んでいる。


 たった一隻で来る相手──その何かが、この先の花火を思いもよらぬ角度で変えてしまうかもしれないと、誰もまだ知らなかった。


「クソがっ!」


 戦艦『ボガード』のブリッジに、少女の罵声が響く。宙に浮かぶ環境の中で、器用にもヤンキー座りを決めたその少女は、ピンクのパイロットスーツを上半身だけ脱ぎ、腰に巻いていた。髪は宇宙でも乱れぬよう粗くまとめられたツインテール。ワックスで固められてはいたが、それでもどこか無造作で、反骨心が滲むようだった。


 その瞳――丸く愛らしい形をしていながらも、鋭い光を宿している。怒りに燃える視線を向ける先には、リーダーの姿。


 マイ・マグナム。年端もいかぬ少女のように見えて、その言葉遣いと存在感は大人顔負けだった。


「そうだ、話が違うな」


 低く響く声がブリッジ後方から応じる。二つ並ぶ操縦席のうち、高い位置にある後席。そこに座っていたのは、筋肉の鎧を纏ったような大男。丸坊主の頭に浮かぶ血管。その顔立ちは、もはや人間というよりもゴリラに近い。


 黒の宇宙服は鍛え上げられた肉体を包みきれず、筋肉の隆起が露わになっている。背中には暴れるゴリラが躍動するロゴ――テリー・マグナムの名を象徴するマークがデザインされていた。


 マイの父にして、戦場で名を馳せた屈強の男。その目はホロディスプレイに釘付けのまま、主砲の照準とミサイルのステータスを冷静にチェックし続ける。


 だがその声は野太く、そして怒りを噛み殺したように震えていた。


「二人とも責めないの。……まぁ、嘘つきなのは間違いないわね」


 場を和ませようとしたのか、それとも釘を刺したのか。前方の操縦席――最前列に設置されたバイクのハンドルのような操縦桿を握る女性が、穏やかに笑う。


 金髪を団子に結い上げたその女性は、どこかどこにでもいる母親のような雰囲気を纏っている。しかし――彼女の背中に描かれた般若の面と喧嘩上等、亞怒鞭血矢のデザインが静かな威圧を放っていた。


 マリー・マグナム。マイの母であり、テリーの妻。赤の宇宙服に包まれた身体は年齢を感じさせぬ曲線美を保っており、動くたびにそのシルエットが浮かび上がる。


「休みなはずなんやけどな~。あ~あ、メンテナンスつかれたわ~。休みをなくすってなんなん? ブラック過ぎへん?」


 ブリッジの床に座る別の女性が、大きくため息をついた。黒髪の一部を鮮やかな紫に染め、団子状に束ねたヘアスタイル。細い糸目はさらに線のように細まり、全身を包む宇宙作業服はどぎつい紫。背中には咆哮する豹と金の文字――『お金命』。


 ハン・カーマイン。腕利きの整備士であり、鋭い目を持つ女傑。


「皆、落ち着け。何もギールが悪いわけではない。この国のハゲのせいじゃ。そこを間違ったらいかんぞ」


 静かな一喝。空気が張り詰める。


 藍のパイロットスーツに身を包んだ白髪の老人がステッキを鳴らした。


 シゲル・トクガワ。誰もが敬意を込めて“シゲ爺”と呼ぶ人物。その声に、ブリッジ内の空気がわずかに落ち着きを取り戻す。


 そんな中、ようやく口を開いたのは、ブリッジの入り口から中心付近に歩み出す――このチーム『アドベンチャー』のリーダーを担う青年だった。


「ありがとう、シゲ爺」


 そう言いながら、青年は指を髪に滑らせ、金色の前髪を乱暴にかき上げる。その動作は、長く続く苦悩の痕跡を隠すかのようでもあった。鼻筋には薄く刻まれた傷。眉間には常に寄った皺が深く、その表情には“責任”という名の重さが刻まれている。


 銀と黒のパイロットスーツに身を包み、その背には鋭い牙を剥く狼の意匠。彼がただの指揮官ではなく、自らも戦場に立つ者であることを示していた。


 ギール・ゼーマース。リーダーでありながら仲間と同じだけ汗を流し、怒られ、苦悩し、ギルドマスターとして責任を背負う存在。


 彼は深く、長い溜息をつきながら、そっと隣の青年に視線を送った。


「……どう思う? 俺、頑張ってるよな……」


 弱さを見せるような、だがその裏にまだ立ち上がる覚悟を滲ませた声。


 声をかけられた青年は、ふと視線を逸らし、気まずそうに口元を歪めた。


「頑張ってますが……今は、その状況が悪いかと……」


 緑の短髪。無駄のない、洗練された身体。それはまるで余計なものを削ぎ落とした造形のようだった。整った顔立ちは理想的な配置で構成され、今はほんの少し困ったように曇っている。


 ノア・シンフォス。


 この場にいる誰よりもノアは知っていた。ギルドマスターとしての責任と、チームのリーダーとしての現場感覚――その狭間で、ギールがどれほど苦しんでいるかを。


 もちろん、自分も支えになりたい。けれど今回ばかりは、事が“身内の誰か”によって引き起こされた以上、軽々しく庇うこともできなかった。


 ……クロが、軍の艦隊を塵に変えたあの一撃から、すべては動き出していた。


(言えるわけないよ……クロさんがキレて、バハムートで艦隊を壊滅させて。それが原因で軍の戦力が一気に崩れて、今みたいな隙ができたなんて。しかも……クロさんが悪いわけじゃない。やってしまったのは軍の方だし)


 喉の奥に詰まった思いを誤魔化すように、ノアは無理やり別の話題を探した。


「ギールさん、ありがとうございます。パイロットスーツ……作ってくれて」


 礼の言葉に、ギールは気さくな笑みを返した。


「気にしなくていいよ」


 だがその直後、マイが宙をくるりと回りながら舌打ちと共に噛みついてくる。


「調子に乗んなよ! まだお前の実力、見たわけじゃねぇんだからな!」


 喧嘩腰ではあるが、身体ごと反転して手足をばたつかせる様は、もはや可愛げすらあった。


 その様子に、両親も揃って「そうそう」とでも言うように頷く。ギールは肩を竦めながら柔らかく返す。


「マイは、もう仲間だって言ったよね? それに、あまりにも酷かったらシゲルさんに報告するって言ったはずだよ」


「うっせ! 言ってみろ!」


 売り言葉に買い言葉。だが険悪さはない。慣れ合いのような空気に、ノアも乾いた笑いを漏らした。


 コツッ。


 ブリッジの床に、静かな音が響く。シゲルがステッキの先を軽く叩きつけ、渋く一言。


「少し落ち着くほうがいいの。それに……そろそろ目的のカモが見えるころじゃろ」


 目線だけで合図すると、テリーがホロディスプレイを操作する。広がる宙域図。その一部に黄色の輪郭が浮かび、情報が自動展開されていく。


「ノードスパイアが検知したのはこのあたり。カモは――ジャイ・アン海賊団。IDも一致した」


 複数の戦艦IDが重なり、詳細が画面上に流れていく。ノアはふと気になる点に目を止めた。


「そう言えばなんですが……」


 マイが何かを返そうとしたが、その前にギールが目だけで“ストップ”をかける。その眼光に押され、マイはむすっとした顔で口を閉じた。


「なぜこんな……キメラみたいな戦艦なんです?」


 ノアの素朴な疑問に、目を輝かせて反応したのはハンだった。


「おいおい坊ちゃん。マジで言っとるんか? ホンマにわからんか? ……ならしゃーないな、うちが説明したる」


 喋るチャンスとばかりに、ハンが床を蹴ってホログラムのそばへ浮かぶ。


「ええか? 新参の海賊やハンターが初めて戦艦を持つ時ってな、大体は中古やねん。その時点でどこか改造されとる」


 身振り手振りを交えて、ハンはまくしたてる。


「ギールも前に言うてたけど、戦艦は基本フレームにいろんなメーカーのパーツを組み合わせて組み上げる。それ自体は間違いやない。うちらもやってる」


 だが――と、言葉に強さがこもる。


「うちらはちゃんと整備資格持ってて、正規の塗装もメンテもやる。けど奴らは違う。略奪してええもん見つけたら、そのままくっつけるだけや。セオリーもなけりゃ安全基準もガン無視。だからこうなるんよ、キメラ艦や」


 ホログラムに映る継ぎはぎ戦艦を指差し、声を張る。


「見てみ。この部分。サイズ合ってへんのに無理くり装甲かぶせてるやろ? つぎはぎで、醜いったらないわ~。それとこの主砲の位置の悪さと、統一感のなさ。それにや……」


 ホロディスプレイを指差しながら、ハンは勢いそのままに語り続ける。ギールがそっと手で制した。


「ハン、その辺で。……続きはまた今度、じっくり頼むよ」


「ええやん、もうちょい話しても……」


 ぶつぶつと文句を零しながらも、ハンは渋々ホロディスプレイから離れ、ぺたんと床に腰を下ろす。


 ギールは苦笑を浮かべたまま、ノアに向き直った。


「――そういうこと。戦艦だけじゃなくて、戦闘機や機動兵器なんかも、こういうキメラ構造のが多いんだ。時間があるときに、ハンから詳しく聞いてみるといい」


 そう言うと、手をパンと軽く叩いて場を切り替える。


「じゃあ最終確認。ノアは接近戦、十分やれるってことでいいんだよね?」


「はい。一応、オールレンジ対応可能です」


 ノアの宣言に、すかさずハンが手を挙げる。


「その前にな。整備はうちが担当やからチェックもやってんけど――ノアのアルカノヴァな、あれ“整備フリー”って話やったやん? けどな、一応うちプロやで? それでも内部構造も武装も、まったく分からへんねん。ほんまに大丈夫なん? 武器の用意とか、ほんまに要らんの?」


「ああっ!? なんだそれ! ノア、てめぇふざけてんのか!」


 ハンの疑問に、マイが反射的に噛みつく。だがノアは返答に詰まっていた。


(……疑問はもっともなんだけど。神様に与えられた機体なんて言えるわけない。自己修復するし、武器も“スロット”に登録すればいつでも取り出せる……なんて)


 焦りと罪悪感を押し隠すように黙り込むノア。ギールが一歩前に出た。


「ハン。前にも説明したけど、あの機体にはシゲルさんの承認がある。ただ、全身がブラックボックスで解析不能……にもかかわらず、動作安定性は確保されている。だからこそ、ギルドも“安全基準は満たしている”として正式に承認してる」


 ギールの声は穏やかだが、淡い緊張を含んでいた。


「扱いとしては――この世界にいくつか存在が確認されてる“リユニック・ワンオフ機体”。通称、LOシリーズってやつ。それで説明したよね?」


「せやけどなぁ」


 ハンが肩をすくめながら不満を漏らす。


「“わからん”もんを“わからん”って言って何が悪いんや。オーガのお墨付きやろうが、あれ、見れば見るほど理屈が通らん。内部構造も信号系も……なんや、全部が別次元やんか」


「そうだ! それに、なんでノアにしか動かせねぇんだよ!」


 マイが声を荒らげたその瞬間、ギールの視線がピクリと動く。静かに、けれど鋭く空気が切り替わった。


「……動かそうとしたの?」


 低く鋭い一言に、全員の背筋が無意識に伸びる。浮遊姿勢のまま硬直したマイに、ギールがふわりと近づく。


 次の瞬間、宙に逆さまに浮かんでいたマイの顔を、ギールが両手でしっかりと掴んだ。視線を強制的に固定する。


「ロックしてあるって言ったし。コックピットは整備用に調整できるからハンには許可出してる。でも、動かせるのは整備モードのときだけだって……何度も説明したよね?」


 声は低く、だが怒気は隠されていなかった。


「それに、LOシリーズは規定上“指定のパイロット以外は起動できない”って決まってる。ギルドもシゲルさんも承知の上で俺に任せてる。……つまり、何かあったら責任を取るのは、俺なんだよ」


 ギールの穏やかな表情の裏に、明確な“怒り”の色が滲む。普段なら仲間たちの奔放なやり取りすら笑って受け流す彼が――今は違った。


 マイはその変化に、はっきりと気づいた。


「ご、ごめんなさい……」


 口をとがらせ、素直に謝る。こういうときは謝るのが一番――マイは自分の経験上、それをよく知っていた。


 ギールが手を離し、ゆっくりと後退すると、マイはふらふらとマリーの元へ避難するように漂う。


「どう? 赤くなってる?」


「赤いわね……」


 マリーは一拍置き、口元に笑みを浮かべながらも声のトーンを静かに落とす。


「マイちゃん。……家に帰ったら、わかってるな?」


(しまったぁぁぁぁ……!)


 顔を青ざめさせたマイは、視線を横に流して父に助けを求めた。


 だが――テリーは首を横に振り、目を閉じて“諦めろ”のジェスチャー。


(詰んだ……!)


 マイの顔から血の気が引いていく。


「ほっほっほ。たまには母親に怒らるのも、よい薬じゃろう」


 間を読んでシゲルが朗らかに笑い、杖で軽く床を鳴らして場を整える。


「さて、ギール坊。話の続きを頼もうかの」


 ギールは短く息を吐き、場を見渡す。緊張の糸が緩んだのを見てから、再びノアの方を振り向いた。


「脱線しちゃったけど、ノアは発艦したらとにかく暴れて、敵の数を減らしていって。ただし――背後の大型戦艦は残しておいて。データを抜いてから処理するから」


 ギールの声が、ブリッジに落ち着いた重みを落とす。ノアはその言葉を噛み締めるように頷いた。表情には緊張と決意が入り混じっている。額にかかる前髪がわずかに揺れ、喉の奥で呼吸が整えられた。


「わかりました」


 簡潔に、しかし芯のある声で返す。


「けっ」


 横から聞こえたマイの舌打ちは、わざとらしく軽い調子。だが怒気というよりはノアの緊張を崩すような感じでもある。その態度に誰も突っ込まず、ギールもただ軽く笑みを浮かべて続けた。


「シゲ爺、いつも通り、俺と一緒にみんなの援護を頼む」


「ええよ。若い世代を支えるのが儂の役目。存分にこき使うがよい」


 ステッキを軽く床に打ち、ジゲ爺は微笑を浮かべた。その笑みに、長年の経験と自信が滲んでいた。


「いつも済まない」


 ギールが頭を下げると、シゲルはうんうんと頷いて受け流す。だが――そのとき、ノアの視界に映ったのは、わずかに鋭く細められたシゲルの眼光だった。


(うわっ、今……すごい眼光だった。まるで何かを“見通す”みたいな……あれって、ただの援護じゃないよな。……名前からして、僕と同じ“転生者”なんだろうか……?)


 脳裏をかすめる疑念と畏怖。その答えを確かめる余裕もなく、ギールの声が再び響いた。


「マイ。君は……」


「いつも通り突貫して、かき乱せばいいんだろ」


 語尾を遮るように、マイがふてくされた声で言い放つ。頬を膨らませ、腕を組んでそっぽを向いた。


 ギールは肩をすくめて苦笑を返す。


「ああ、それでいい」


 そのまま、ギールの視線が操縦席の夫婦に移る。


「テリー、マリーは初手から当ててもいい。戦艦を削ったら“いつもの準備”に。接近する敵機があれば、マイとシゲ爺に連絡を」


「おう。マリー、行けるな?」


「ええ。テリー、いつものようにね」


 互いの声は穏やかで、戦闘を前にしてなお微笑み合う二人。


 だがノアは、その光景を見ながら内心で首を傾げていた。


(……失礼を承知で思うけど。どうやって結ばれたんだ、この二人……? 不思議なんだけど)


 テリーの筋肉と無骨さ、マリーの美しさと優雅さ――どこをどう繋げたら“夫婦”になるのか、想像もつかない。


「パイロットはデッキで各々の機体チェックを。ハン、最終確認と発艦後の“いつもの準備”を頼む」


「はいはい、りょーかい。さてさて腕が鳴るわ。今回は――全部ぶっこぬくん?」


 にやりと笑って、ハンがギールへ視線を投げる。紫の作業服がふわりと揺れ、背中の豹が今にも吠え出しそうだった。


「ああ、お願い。……わかってると思うけど」


 ギールが言いかけた瞬間、ハンが言葉を被せた。


「まかしとき。安全第一やろ?」


 そのまま立ち上がり、腕を回してバキバキと鳴らしながら何気ない口調で尋ねた。


「それはそうと、ホンマに“全部”でええの?」


 糸目がほんの一瞬、細く光ったように感じられた。ギールは少し考える素振りを見せ、申し訳なさそうに片手を挙げる。


「良いけど……ごめん、“余計な物以外、全部”で」


「なんや、けち臭い」


 ハンは肩をすくめて溜息をつくが、その顔はむしろ楽しげだった。


 ギールは手のひらを叩き、小さく掛け声をかけた。


「よし、動くよ。――儲け時だ」


 その一言を合図に、ブリッジ内の空気が一気に動き出す。足音が響き、浮遊感を纏ったクルーたちが次々に持ち場へ向かっていく。


 誰もが迷いなく動き出すその光景に、ノアはふと、胸の奥に湧き上がる熱を感じていた。

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