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「師匠、それは本当か?」
「うん。本当だよ」
エクスの言葉で我に返る私。スタージアは……ずっと私の側にいた?
「あの、何でか分かりますか?」
彼女に関しては分からない事だらけだ。何故自分から命を断とうとしたのか、どうして毒草の存在を知っていたのか……色々と聞いてみたい事ばかり。もしかしたらそれが判明するかもしれない、と一縷の望みが見えてきたと思ったのだが……。
「ごめんね、そこまでは分からないなぁ。私は魂を見る事ができるけれど、読み取る事はできないからね」
それはそっか、と思う。ジャックさんはテレパシーとか超能力が使えるわけじゃないもんね。魔法でそういう事もできるのかな? って思ったけれど、それってどっちかと言えば禁術系になりそうだし……そっち系は代償が必要だ、とかありそうじゃない?
スタージアの考えていた事が分かれば良かったんだけどな、と思う。ねえ、スタージア。何で貴女は死を選んだのって。
眉尻が下がる私。エクスも眉間に皺が寄っている。まるで時間が止まったように物音ひとつ聞こえない小屋の中で、ジャックさんの声が響く。
「ただね……スタージアくんの声を聞く方法なら、あるよ」
「えっ……?」
私とエクスはジャックさんの言葉に目を大きく開いた。
「そんな事、できるんですか……?」
ジャックさんは少し悲しそうな表情で頷いた。
「できるよ。すでにひまりさんの周りにいるスタージアくんの魂は、少しずつ摩耗しているね……このままにしておくと、消滅してしまう。魂が消滅すると、生まれ変わる事ができないんだ」
言葉が出なかった。
魂が消える? 生まれ変わることすらできない……?
「輪廻、転生ができない……?」
そんなの、あまりにも――悲しい事ではないか。
「輪廻転生……なるほど、良い言葉だね。そう、それができなくなる。だから彼女の魂は神の元へと送らないといけないんだ。私であれば、それができるし……その時にスタージアくんの心の叫びが聞こえるかもしれない」
「それならば、早くスタージアの魂を天へと送りましょう……!」
私は思わずテーブルを叩いて立ち上がっていた。座っていた椅子が勢いのために、音を立てて倒れる。
最初は私の行動に驚いていたジャックさんだったけれど、しばらくして意識を取り戻した後は目を伏せていた。
「……そうだね。明日の夜、彼女の魂を送れるよう、準備しておこう」
ジャックさんの沈んだ様子にエクスと私は顔を見合わせる。
もしかして、スタージアの知り合いだろうか、と訊ねてみるけれども、「知らない子だよ」と言われてしまった。エクスと二人で、スタージアの今の状態に悲しんでいるのでは、と結論を出したけれど……私の胸にはささくれのような棘が刺さったままだった。
その後食事を取ったり、小屋にあるお風呂へと入ったり……。色々とエクスやジャックさんとお喋りしたけれど、頭の片隅ではスタージアの事を考えてばかりだった。
もし彼女と話せたら、私は何を言ったら良いのかな?
もし彼女の叫びの理由が分からなかったら、私はどうする?
色々な想いが頭の中をぐるぐると回っていた。
就寝時間となり、私は一人小屋の外へ出ていた。眠れなかったためだ。
エクス曰く彼の力が強いこともあり、この辺りに魔物がやってくる事は稀なのだそう。ジャックさんの結界も四隅に植えられている木を利用して張られている事もあり、この中なら自由に動いて良いよと言われていた。
空を見上げる。
日本で住んでいた場所も比較的星空が見えていたけれど、そことは比べ物にならないくらい星が煌めいていた。
星を眺めていると、段々と心が落ち着いてきたような気がする――そんな時。
「おや、ここにいたんだね」
「ジャックさん」
扉から顔を覗かせたジャックさんがそこにいた。彼の手には、コップがふたつある。
「良かったら、飲むかい?」
「……ありがとうございます」
ありがたく口に含むと、それは牛乳だった。
驚いて訊ねてみたら、小屋から離れた場所に乳を出す魔物がいるんだとか。きっとジャックさんしかできないんだよね、これ。
何となくジャックさんの異次元さを感じながら、しばらく二人で星を見る。
もう少しで無くなりそうになった頃、ふとジャックさんが声を上げた。
「……さっきスタージアくんの魂が、摩耗しているって話は覚えているかい?」
「はい」
「さっきもう少しエクスに詳しく話を聞いたのだけれど……見た限り、彼女の魂の摩耗の仕方は、普通の魂のそれと違うんだ」
「そうなのですか?」
ジャックさん曰く、数週間で摩耗し始める事は異常なのだという。
「スタージアくんは『何かを守っていた』んだ。最初はそれが分からなかったけれど……君たちの話を聞いて、ひとつの仮説を立てる事ができたよ。きっと彼女は転生したひまりさんを守っていたと思うんだ」