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「ど……っ?! んむっ……!」


 私が悲鳴のような声を上げると、エクスが私の口を抑える。

 それと同時に、馬車が止まった。「どうしました?」と訊ねてくる御者さんに笑みを見せて、気にしないように伝える。御者さんは不思議そうな表情で首を傾げたけれど、すぐに馬車を走らせた。

 私とエクスは胸を撫で下ろす。


「お嬢……あんな大声で叫んだら、怪しまれるに決まってるだろうが!」


 勿論、エクスは小声で喋っている。


「ごめん……! けど驚いたのよ。どうして彼女が毒を飲んだの? この世界ってお金があれば容易に毒が入手できる世界なの?!」


 なるべく御者さんに聞こえないようにコソコソと喋れば、エクスは左右に首を振る。


「お嬢様が商人から毒を入手する事は不可能だ。この家にはお嬢様のために商人は来ないからな」

「え、待ってよ。貴族って屋敷に呼びつけて装飾品とかドレスとか購入するんじゃないの?」


 異世界恋愛のジャンルを描いた小説や漫画も少しは読んだから知ってる。この世界も同じかと思ったのだけど……と首を傾げれば、エクスは肩をすくめた。


「他の家ではそうらしいが……お嬢様の家の方針で、服飾品は全て公爵が購入して屋敷に届けられていた。お嬢様が直接購入する事はできなかった。だからか分からないが……お嬢様が使用した毒は、屋敷内に生えていた野草を煎じたものを口にしたようだ」


 過保護な家だなぁ、と思っていたら、エクスの話に衝撃を受けた。


 ここが日本だったら分かるよ? その辺に生えている野草を食べたら実は毒があって……っていう話は聞いたことがある。

 でも、スタージアって貴族令嬢でしょ? 日本人みたいにそこら辺に生えている野草を食べるとか……あり得なくない? しかもそれが人体に毒だなんて……。


「ねぇ、彼女は何でそんな事を知っていたの? 庭師が教えたとか?」

「いや、それはない。お嬢様が採ってきた毒草は、庭師の管理外の山から持ち込まれたものだと判明した。ほら、覚えてるか? 後ろに山があった事を」


 言われてみれば、屋敷の遠くに山が見えた記憶はあるけど……あれ、見渡す限り山、山、山じゃなかったっけ……?


「え? 奥にあったあの山も含めて全てが公爵家の管理だったの?」

「確かそうだったはずだ。お嬢様が採ってきた毒草はあの山まで行かずとも採取できるモノらしいけどな。山周辺にしか生えない毒草らしく、庭師も見た事がないと言っていた」


 じゃあ、スタージアはわざわざ自分で毒草を探して、煎じて飲んだ……という事になる。


「そこまでして彼女には命を断ちたい理由があったの……?」


 その問いにエクスは無言を貫くだけだった。



「その謎も師匠のところに行けば分かるかもしれない」


 しばらくしてそうエクスが言うのを聞いて、私は一旦考えるのを止めた。スタージアの考えはスタージアにしか分からないけれど、もし彼女の想いを知る事ができたならば……私はその想いを胸にして生きていこうと思うのだ。

 私もエクスの言葉に頷く。


 すると、雰囲気が変わった事を察したのか、エクスが話を変えた。


「そういえば、お嬢はスタージア、って呼ばれた方がいいのか?」

「どういう事?」


 エクス曰く、スタージアという名前は珍しい。そのため元々の身分がバレてしまう可能性があると言われた。


「そんな事、考えた事なかった……」


 今更だけど、異世界恋愛系の小説をいくつか読んではいるが、抜けているところは色々ある事を思い知らされる。

 

「ちなみに銀髪も珍しいからな。貴族にしかいない色だ」

「あー、そっか。髪色でも判断される可能性があるんだ」

 

 王侯貴族の血に近いほど、ブロンドになる……みたいな小説もあったなぁ、と思い出しつつ、事前に『変装の魔法だ』と言って、髪と目の色を変えてくれたエクスには感謝だ。

 ちなみに私の銀髪は茶色に、青い目も茶色に変わっている。


「師匠のところへ行った後、どうするかによるな。もし師匠のところで一緒に暮らすのなら、お嬢様の名前でも別に問題ないとは思うけど」

「いやいや、流石にそんな厚かましい事はしないよ?!」


 今だって師匠さんの住まいに押しかけようとしているのだ。流石にそんな図々しい事はできないと、エクスの言葉を拒否する。

 じゃあ、改めてどうしたいか……と訊ねられた私。

 

 この世界は日本みたいに娯楽がない。自分で作り出す?

 いや、紙やペンを用意するにもお金はかかるし、私にそっちの才能は……ないと思う。読み専だったし。

 

「そうだなぁ、折角追い出されたんだから、この世界を旅してみたいな……」


 異世界召喚された人の定番中の定番かもしれないけど、色々な国を渡り歩くというのは面白そうだよね。そこまで考えて、私はハッと気が付く。


「でも流石に一人だと無理かなぁ……いや、定食屋とか酒屋とかで手伝いながら、お金を貯めていけばいける……?」

 

 魔物が出る世界だ。安全な街道を辿れば、もしかしたら旅ができるかもしれない。それにもし戦う必要があったとしても……魔力がなくても、戦う方法は他にあるのでは?

 ああ、夢は広がるね。私は色々な事を知るのが好きだったから、この世界を見てまわりたいというのは、一番性に合ってるかもしれない。

 

 だから気がつかなかったんだ。

 隣で渋い表情をしているエクスに。

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