45、余計なこと言っちゃった?!
引き続き料理を続けていた私は、お肉と野菜にある程度火を通してから水を入れる。そして、出汁になりそうなものと調味料を投入。しばらく煮込むと美味しそうな香りが漂ってきた。
初めてにしては上手くできてるかな、なんて自画自賛していると、隣の区画で野営をしていたガリオンさんがやってくる。
お玉を持ってスープをかき回す私と、それを見ているエクス。ガリオンさんはエクスの隣に座ると、私に話しかけてきた。
「先ほど少し様子を拝見しておりましたが、肉や野菜を切る包丁やまな板は用意されていないのでしょうか? もしかしてエクス殿の魔法ですか?」
そう言って視線を左右に動かすガリオンさん。周囲にはかまど以外の調理器具がないから、確かに魔法で切ったと勘違いされても仕方ないのかもしれない。
どこまでガリオンさんに話しても良いか判断のつかなかった私は、エクスに目配せをする。幸い、エクスは私の視線の意図を理解してくれたようだった。
「今回はガルムの街を出る前に、マリが野菜や肉を事前に切ってからこちらに持ってきました。以前ガリオンさんには話したと思いますが、私の鞄は師匠特製なので」
「事前に……野菜を……切って?」
思いも寄らない言葉だったのか、ガリオンさんはエクスの発言に目を見張る。
「はい。包丁やまな板を持ち歩くのも大変ですし、使用後の後片付けもしなくてはなりませんから。少しでも手間を少なくしようと思いまして、小分けにして保管しておきました」
私の説明に、ガリオンさんは納得してくれたようだ。
イメージとしては、スーパーに売っているカット野菜だ。母が揚げ物の時に、よく千切りキャベツのカット野菜袋を購入していたことから思いついた。
母も「意外と千切りって大変なのよねぇ」と言っていた理由が少しだけ分かる気がする。
「野菜やお肉を一口大に切ってしまうと、丸ごとの物よりも鮮度が早く落ちてしまうのですが……エクスの持つ鞄でしたら保存が可能なので、今回はそのようにしてみました。一番は野菜を乾燥させると量が減るのですが……」
ふと思い出したことを口にした。
そういえば乾燥野菜も日本で売っていたのを見たことがある。あれはスープに入れて煮込むと、水分を吸収して戻るのだ。便利だったけれど、やはり生野菜の方がもちろん美味しい。
そこまで話すと、ガリオンさんは何かを考え込み始める。しばらくしてスープが煮えたので、エクスに器を渡していると……。
目をキラキラと輝かせてたガリオンさんが、私に声を掛けてくる。その姿は、欲しかったおもちゃを与えられた子どものよう。
「ありがとうございます! あなたのお言葉で新製品が思い浮かびました!」
「えっ?」
何か言っただろうか……と思いエクスへ顔を向けると、彼は肩をすくめている。新商品の計画を立てるから、といきなり立ち上がり自分のテントへと向かっていくガリオンさんを見送った。
翌朝。
朝日が昇る頃に起きた私たちは、使用した場所を綺麗に片付けた。幸いテントもそこまで力が必要ではなかったので、私一人でも問題なくしまうことができる。
……もし力が足りないようであれば、身体強化の魔法を掛ければいいのだ。
ガリオンさんたちと共に街道を歩いていく。幾つか寄りたい群生地があるとのことなので、私たちも共にそこへと向かう。
歩き慣れているのか早足で歩いていくガリオンさんに、遅れることなくついてくるジノくん。街道に近い場所ばかりではあるが、何度も採取に来ているため周辺の地図は頭に入っているとのこと。
今回の採取場所で一番街道から遠かったのが、ガリオンさんと出会った場所のようだ。しかし、あの場所も比較的浅いところで、魔物が出ることもほぼないとされている。だからエクスもガリオンさんも、あの場所に狼がいたことに驚きを隠せないようだった。
そのため、私は探索魔法を周囲に張り巡らせておく。今のところ魔物はいないようだが、また二人が襲われることなどないようにしたいから。
そんな寄り道が多かったからだろうか。目的地であるラクリスの街に辿り着く頃には、既に太陽の光がオレンジ色に輝き始めていた。
今日の宿を探そうと私たちはガリオンさんと別れようとするが……彼はそんな私たちを引き留めた。
「エクス殿、マリ嬢。よろしければこの街にいるときは、我が商会が運営している宿に泊まりませんか? 助けていただきましたので、お安くいたします」
私たちは顔を見合わせる。エクス曰く、このラクリスの街はガルムの街にあるようなギルド直営の宿はないそうだ。寝泊まりするのであれば、宿を取る必要がある。
これは渡りに船ではないか……と私は思った。エクスもその提案をありがたく思っていたようだ。
「今から探すのも骨が折れるので、紹介してもらえると助かります」
エクスの言葉に嬉しそうに笑うガリオンさん。彼は後ろに控えていたジノに書いていたメモらしきものを渡すと、宿の者に渡すように告げた。
ジノは一度頷いた後、こちらに背を向けて走っていく。人が多い街道の隙間をスイスイと抜けていくジノは、あっという間に人混みに紛れていった。
「ジノに伝言を頼みましたので、よろしければ私とゆっくり向かいましょう」
私たちはこれ幸いにと、ガリオンさんのお言葉に甘え、彼の経営する宿へと向かっていった。




