44、エクスって顔が広いのね
私たちが狼の背を見送った後。ふと後ろから声が掛かった。
「ありがとうございます。この恩は……おや、あなたはエクス殿では?」
その言葉に私たちは同時に振り返る。すると、目の前には両手を握りしめて粛々と頭を下げる……少しだけ小太りの男性と、こちらを伺いながらペコリと軽くお辞儀をする若そうな男性がいた。
私はエクスに顔を向けると、彼も小太りの男性のことを知っているのか「ああ」と声を上げた。
「ガリオンさん。久しぶりですね」
「エクス殿もご健勝な様子で」
再度丁寧に礼を執るガリオンさん。私は思わずエクスに訊ねていた。
「エクス、知り合い?」
「ああ、以前俺がラクリスにいた時、世話になった方だ」
エクスは懐かしそうな表情で話を続ける。
どうやら、スタージアの護衛として雇われる前、彼は自分の腕試しも兼ねてラクリスに訪れていたのだとか。その時、ダンジョンに入る際必要な道具などを、ガリオンさんの商会で調達していたらしい。
エクスの言葉にガリオンさんも同調する。
「ええ。しかもエクス殿は私がギルドへ出した依頼もこなしてくださいましてね。依頼品が非常に状態が良く、何度か指名依頼をさせていただきました」
「そこら辺は師匠から徹底的に仕込まれているからな」
ここでの再会を喜び合う二人。そんな時、後ろで男の子がガリオンさんの袖をクイっと引っ張った。
「ジノ、どうしました?」
この子はジノ、というらしい。外見からすると……スタージアよりひとつかふたつくらい歳下か。そんな彼は右手の人差し指を空へと向ける。それだけでガリオンさんは意味を理解したようだ。
「ああ、ありがとうございますジノ。そうですね、そろそろ陽が落ちますから、野営地に向かいましょうか。エクス殿たちもこの後は野営地へ向かわれるのでしょうか?」
「そうです」
「でしたら、護衛として一緒に行っていただけませんか? 報酬は後ほど払いますので……」
そう言って再度頭を下げてお願いされる。
私も同じ場所へと行くので、報酬はなくても良いんだけど……と思ったけれど、私は口を噤んで様子を窺う。私はガリオンさんと初対面だし、でしゃばるべきではないからね。
するとエクスもそう思ったらしい。
「いや、それくらいは良いですよ。俺たちも同じ場所に向かうので」
やっぱり同じことを思っていたんだな、とエクスを見ていた私だったが、その言葉を聞いた瞬間、ガリオンさんが目を思いっきり……これでもか、と言うほど見開いた。
「エクス殿! 自分の武力を安売りしてはいけませんぞ!」
歩きながらガリオンさんは力説する。冒険者たちの経験値や実力は、自身の財産である、と。その財産を安く……無料で明け渡すのは良くない、と。
私はその言葉に納得した。確かにエクスの今の実力は、彼の努力の賜物によって作られた物。それを簡単に使っていけないことも分かる。今だって野営地に行く道すがらであるが、もしかしたらここで魔物と出会うかもしれない。安全だ、と言われていても絶対はないのだから。先ほどのように。
エクスはガリオンさんを脅威から守っている、という役割を担っているのだから、それに対して対価を渡さなければならないと、ということか。
私は静かに探索魔法を周囲に掛ける。あと少しで野営地に辿り着くようだ。魔物の姿はこの周辺にはいない。
エクスもそのことを理解しているのか、ガリオンさんと楽しそうに話している。「旅は道連れ、世は情け」なんていうことわざが日本にはあったけれど、まさにこのことを言うんだな、なんて二人の横顔を見て私は思った。
野営地に着くと、既に準備を始めているグループがひとつあった。この街道は基本一日歩けば街にたどり着くので、あまり野営をする者たちはいないのだとか。
もうひとつのグループの人もガリオンさんの顔見知りだったらしく、彼の顔を見た人たちが挨拶に来ていた。
エクスと私は役割分担をすることにした。エクスにテントを建ててもらい、私はかまど作りだ。
かまど用の石は近くに落ちて……いや、整列して置いてあった。エクスに聞いてみると、ここで野営した人たちが次の人たちのために置いていった物らしい。
かまど用に使えそうな石を、そこから幾つか取る。そして鞄の中に入れていた石を取り出す。周囲を見回すと、ところどころ焦げている場所がある。以前野宿した人たちがここでかまどを作ったのだろう。
私はその場所に石を円陣に組んだ後、そこら辺に落ちている枝を回収した。
円の内部にまず枝や枯れ葉をいくつか置いておく。そして、その上にエクスから貰った薪を配置した。奥に一本の薪を寝かせておいてから、その上に三本ほど三角になるように置くやり方だ。
エクス曰く、これが一番火力の調整がしやすいとのこと。
私は生活魔法で使用できる火魔法で、薪の下にある枝や葉に火をつける。すると、火は少しずつ燃え上がり……幸い薪にも火が燃え移っていく。
そろそろかまどが安定してきたところで、エクスから声を掛けられた。
「こっちも終わったぞ」
「ありがとう、エクス」
空を見ると、そろそろ陽が落ちようとしていたところだ。夜になる前に設営が終わって良かった、と思いつつ、二人で料理を始めた。
パンはガルムの街で購入してきたものがあるので問題ない。折角のかまどなのでスープを作る。
野菜やお肉などは昨日ギルドの共有調理場を借りて切ってきた物だ。そう、ジャックさんが作ってくれた鞄だからできるのである。なにせ、この鞄は時間停止機能があるんだ。私、国宝級の物を持ちたくないな……って思っていたけど、この鞄だけは便利すぎて手放せないのよねぇ。
一応私の鞄の中にもカット済みの野菜が入っているけれど、今回はエクスの鞄から取り出した。時間停止機能がある鞄をまだ翡翠級である私が持ってるって気づかれたら、盗まれそうだし。
……と思ったけど、これ盗難防止機能もついているんだよねぇ……。
私はジャックさんからもらった鞄を見て、小さくため息をついた。




