42、強くならないと!
受け取った後じっとギルドカードを見つめていた私に、エクスが話しかけてくる。
「マリ、どうした?」
「……私、まだまだだなぁ、と思って」
喋るつもりはなかったけれど、口からポロポロとこぼれ落ちていく。
ジャックさんのところで訓練したから、魔法の使い方は分かっているつもりだった。けど、実戦は違うんだって思って。
「だって、最終的にはエクス頼りじゃない……この前の白いクマも足止めはできたけど、それだけだし。黒いライオンなんて何もできなかったし」
「白いクマがフロスト・グレイブで、黒いライオン? がブラック・ファングのことか」
魔獣を心の中の呼び名で話した上に、エクスが側で呟いている言葉も聞き取れない。私は役に立たなかったという事実を目の当たりにして、自分はどうあるべきか思案していた。
もっと発動時間を早くするべきだ。これは日々の訓練が大切なので、今まで同様に継続していけばいい。あ、もう少し量を増やすのはありだ。
後は魔獣に会っても動揺せずに落ち着いて行動できるか、だろうか。これに関しては、実戦で行っていく必要がある。実践と言えば……。
色々と考え込んでいると、遠くから副ギルド長の声が聞こえてくる。
「マリさん。よろしければ、簡単な魔法で良いので私に見せていただけませんか?」
「分かりました」
顔をあげた私は、水の玉を掌の上に出現させる。大きさは大体バスケットボールくらいか。
水が現れた瞬間、二人とも目を見張ってこちらを見ていた気がしたのだけれど……表情が元に戻っているので気のせいかもしれない。
副ギルド長に言われてその水を持っていた水筒の中へと入れておく。それが終わった後、彼は口を開いた。
「いやはや……無詠唱ですか。これは素晴らしい。発動時間だけを見るに、魔法使いの中でも上位層ではあると思いますね。私から一言お伝えできるのは……魔法を沢山使用して無駄に込める魔力を減らすと良いということくらいでしょうか? 沢山使用すればするほど、感覚を掴めると思いますよ」
「ありがとうございます」
上位層、と言われて私は恐縮するけれど……今のままでは宝の持ち腐れなのは分かりきっている。
魔法を沢山使って、より魔法を自分のものにしようと考えたところで、ギルド長も話しかけてきた。
「……まぁ、お嬢ちゃんに足りないのは実践だろう? なら隣のラクリスにあるダンジョンへ行くといいんじゃないか?」
その言葉に副ギルド長も無言で頷いている。
「あそこは特殊な空間なんだ。何度魔物を倒しても、いつの間にかどこからか現れる。実践にはもってこいの場所だ」
「エクスくんは一度行ったことがあるんでしたよね」
「ああ」
副ギルド長の言葉にエクスは同意する。
やっぱりエクスは頼りになるよね、と思う。そんな彼の隣に立てるように……私も強くなるために、ダンジョンへ行ってみたい……そんな気持ちがどんどん膨らんでいく。
そんな私の表情を見たからなのか、ギルド長は「お嬢ちゃんなら大丈夫だ」と言って私の背中をバシッと叩いた。
いきなりの衝撃に私は前につんのめる。幸い早く足を踏み出して、力を入れていたので倒れることはなかったが……危なかった。安堵から胸を撫で下ろすと、後ろでは二人がギルド長に詰め寄っている。
「あなたはバカですか? 魔法使いの女の子にあんな強さで叩いたら、痛いに決まっているでしょう?」
「ギルド長はもう少し力加減を覚えるべきだ」
二人の攻撃に狼狽えるギルド長。私に助けを求めるように視線を送ってくるのだが……それが子犬のように見えてしまう。悪気があったわけでは無いのだけれど、痛いのは困る。
「もう少し優しくしてくださると助かります」
私の言葉に申し訳なさそうに首を垂れるギルド長。うっすらとではあるけれど、副ギルド長や奥さんであるロミーさんとの力関係が分かったような気がした。
全てを終えて、ギルドからの帰り道。
エクスは考えにふけているようだ。普段であれば私と話しながら宿へと向かうのだけれど、今日はギルドを出た時からこのような状態だった。
真剣な表情で悩んでいるので、私から積極的に声をかけることができず……。
何度目だろうか。彼の顔を一瞥しようとした時、視線が絡み合う。そして、エクスが重い口を開いた。
「なぁ、本当にダンジョンへ行くのか?」
「え、うん。私は行きたいなと思っていたけど、どうして?」
「……いや、行きたいならいい」
少し渋い表情をしているエクス。私は彼の珍しい顔に首をひねる。
「え、本当に大丈夫なの?」
「ああ、大丈夫だ」
声色が硬いような気がするのだけれど……と、私が眉を下げてエクスの顔を覗き込んでいたからだろうか。彼はこちらを向いて微笑む。その表情もどことなく緊張した面持ちだったけれど、無理をしているようには見えない。一応様子見かな、そう思いながら私はエクスの隣を歩いた。
翌日。
エクスと私はロミーさんにダンジョンへと向かう話をする。彼女は私たちがいなくなることを寂しがってくれた。また会おう、そう約束して私たちは買い物へと出かける。
現在、白いクマの件と洞窟の件もあり、普段の依頼と比べ物にならないほどの褒賞を戴いたのだ。
実はギルド長から白いクマの報酬も出ると聞いた時、私は断固固辞したのだ。だって、私は足止めしかしていない。倒したのはエクスだったから。
けれど、ギルド長とエクスはそれを否定した。私が探索魔法で感知していなければ、二人の命はなかったかもしれない、と。そう言いくるめられ、渋々報酬を得た私は、白いクマの報酬を全てエクスに渡そうとした。だって、今までエクスのお金を借りていたんだもの。
満面の笑みでお金を渡そうとする私に、エクスは頭を抱えた。まさか、私がそう出てくるとは思わなかったらしい。
正直、お金の貸し借りは早いうちに精算したいのよね。
そう思っての行動だったが、エクスはそれを拒否……いや、正確に言うと、妥協案を出してきたの。それが、半分だけ受け取るというものだった。
「これから冒険者として必要なものが出てくる。そのために取っておくべきだ」
とエクスに言われたの。それもそうか、と思って納得した私だったけど、しれっと多めに渡しておく。まあ、エクスもこのことには気が付いているだろうけれど、受け取ってくれたの。
それもあって今、必要なものは自分で購入するだけの資金が手元にある。今回は馬車に乗らず、歩いてダンジョンのある街ラクリスに向かう予定だ。だから、途中で一泊することを考えて準備をしなければならない。
これもエクスの提案だ。
幼い頃、父がキャンプ場でテントを張って泊まったことはあるけれど……野宿なんてその時以来だ。ラクリスの街に向かう街道は、比較的安全な道なのだとか。まずはそこで練習も兼ねて野宿をしてみよう、という話なのだ。
それと、エクスが個人的に採取したい植物があるのだという。馬車に乗ってしまえばもちろん、採取することなど不可能だからだ。
無事に買い物も終え、私たちはポーラさんやロミーさんに挨拶をして回った。
ポーラさんは「頑張るんだよ」と応援してくれる。そしてロミーさんは――
「寂しくなるわねぇ……あ、エクスに愛想をつかしたら、またここに戻ってきて良いからね?」
満面の笑みで告げるロミーさん。それに私は答えた。
「もしエクスに見捨てられたら戻ってきますね」
「……見捨てることはない」
そっぽを向いて呟くエクス。そんな彼を見て、私とロミーさんは顔を突き合わせて笑い合った。
この話で第三章ラクロワ領ガルム編は完結とさせていただきます。
第四章に関しましては、もう少し書き溜めてから投稿させていただく予定です。
これからも引き続き、マリやエクスをよろしくお願いいたします(*´꒳`*)




