36、洞窟内にあったものは?
依頼を受けるように頼まれた私たちは、二つ返事で了承する。
ただ、エクスが「マリを休ませてからだ」と頑なに譲らなかった。私は明日でも大丈夫だったのだけれど、ギルド長からも休むよう伝えられたので、依頼は明後日受けることに決める。
翌日、起きたら既に太陽が高い位置に登っていた。
どうやら昼前まで寝ていたらしい。昨日は大丈夫かと思っていたけれど、実は身体が疲れていたんだなぁ、と思いながらギルドの食堂へと向かう。
食堂はまだ人が少なかったので、私は注文してからテーブルに座る。すると、「はい、おまちぃ!」という元気で明るい声と共に、私の注文した料理が目の前に置かれた。
「マリちゃん、朝来てなかったけど、大丈夫だったの?」
「大丈夫ですよ! 疲れていたみたいで、さっきまで寝てました」
私の身を案じてくれているロミーさんに、私は握り拳を見せる。そんな様子の私に安堵したのか、ロミーさんの表情に笑みが浮かぶ。けれど次の瞬間、彼女はいつになく真剣な表情と低めの声で話しかけてきた。
「聞いたよ? フロスト・グレイブとサシで戦ったんだって? エクスが居たから良かったものの……あなたはまだアンバー級よ?」
「……すみません」
ああ、色々な人に心配を掛けてしまったな、と反省する。
ロミーさんの前で縮こまっていると、見知った声が聞こえてきた。
「ロミーさん、そこまでにしてやってください。俺が強く言ったので」
「まあ、そうよね」
エクスの言葉に、ロミーさんも肩を上げる。
うん、あの後すごく怒られた。でも……何より……エクスに悲しそうな表情をさせてしまったのが、私の心に残っている。次からは絶対にやらない、と私は決めたのだ。
「無事で何よりね。今度はきちんとエクスにも報告してから向かうのよ?」
「はい」
「それより、旦那があなたたちに依頼をお願いしたようね? 疲れているところ申し訳ないわ」
私が『旦那』という言葉で目をまたたいている間に、エクスとロミーさんの話は続く。
「ずっと残っていた依頼らしいですし、魔獣の件がありましたから仕方ないですよ」
「一日しか休みをあげられなくて申し訳ないわ」
「いえ、ギルド長は急がなくて良い、と言ってくれましたから」
エクスの言葉の後、二人は私の方へと顔を向ける。
そして私は考え事で二人の会話を全く聞いておらず……やっと頭の中で点と点が繋がった話を二人に振った。
「つまり、ギルド長とロミーさんは夫婦なんでしょうか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
そんな会話をしつつ、その日はゆっくり休んだのだった。
翌日。
日の出前に起きた私は、食堂へと向かう。昨日、エクスと相談して朝食と昼食をお弁当で作ってもらうように依頼していたのだ。今回の依頼は指名依頼なので、依頼表を取らずにそのまま向かって良いとのことだった。私たちは食堂でお弁当を受け取ってから足早に向かう。
依頼表に書かれていた内容は、洞窟内の調査だった。
私が地図で指差した付近には、実は洞窟があるらしい。たまに魔物や魔獣の棲家になるので、数年に一度は調査の依頼を出している場所なのだという。前回調査依頼を出したのは、そろそろ一年経つだろうか、という頃らしく、その時は何も問題がなかったようだ。
ただ、数ヶ月前にアンバー級の冒険者がその洞窟へ、何かが入っていく姿を見たのだという。その時間は陽が落ちていて暗く、月の光で照らされた一瞬のことだったという。迷った挙句に偶然目撃したらしく、見間違えの可能性も否めない。
なので、緊急性の低い依頼として残っていたのだという。
行儀は悪いが、魔の山へ向かう道中でお弁当のサンドウィッチを食べながら向かう。幸い身体強化の魔法も使っていたので、日の出前に私たちはたどり着くことができた。
洞窟の前の茂みに隠れて、私は洞窟に向けて探索魔法を放つ。
洞窟は幸い複雑に入り組んではおらず、最奥まで一直線で行けそうだ。ところどころ空洞があるけれど、魔力の反応は全くない。
「エクス、洞窟内に魔力の反応はないわ」
私の言葉にエクスが頷く。
「なら、注意して洞窟に入るぞ。一応防御魔法を掛けてくれるか?」
「分かったわ」
私たちは周囲の確認をしながら、素早く洞窟へと入っていった。
真っ暗な洞窟内を私は灯りの魔法で周囲を照らしていく。岩肌が剥き出しになっており、どうやら自然にできた洞窟のようだ。二人で歩いていくと、左側にひとつ目の空洞があった。そこは単なる空洞のようだ。
さらに歩いていくと、ふたつ目は右側に空洞があった。そこを覗いてみると……。
「エクス、あれ」
「ああ」
私たちは目を疑った。
荷物を入れるために使われている木箱が、無造作にいくつか置かれているではないか。木箱は新品……ではないが、かと言って何年も放置されたようには見えない。
そもそも何年も放置されていたら、一年前の探索で報告が上がっているはずだろう。
「もしかして、誰かがここを利用していた?」
「その可能性は高い。一旦奥まで進んでみるぞ」
「分かった」
私たちは警戒しながら、洞窟の奥へと歩いていく。
息を潜めながら歩くが、誰かいる様子もなく……しばらくして私たちは洞窟の最奥と思われるところに辿り着いた。




